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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」
12 ま
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マイクが音を拾わないように小さな声で
「三田殿、急な依頼を引き受けていただき非常に感謝しておる。時間もない中で、素敵なセットを組んでいただいた。かたじけない」と、長身のマネージャーから声をかけられて、私は、ううっと緊張する。近い、近いです。
目の前では既にジャニ西のインスタクリスマスライブが始まっている。賑やかなBGMに合わせて、メンバーたちがカメラに向かって挨拶をしている。メンバーの一人以外は皆、うちの店のパジャマを着てくださっていてとても嬉しい。
「あ、いえ、とんでも……あの、いやお役に立てて……ええ……ありがとうございます」
私の舌は固められてしまったように全然言葉が出てこない。別に初対面の人が苦手なわけではない。
実を言うとこのマネージャーがものすごいイケメンで私の好みどんぴしゃなのがいけない。声をかけられるたびに背筋がぴぃんとなる。
こんなに清潔感のあって、長髪が似合う男性なんて二次元にしか存在しないと思っていた。正直芸能人としてもやっていけるであろうその顔面と、丸太さえもへし折りそうな厚い胸板を見ているだけで頭がおかしくなりそうなのに、そばに近寄るとクラシカルでどこかミステリアスな香水の香りがするのだ。もう、どこを見ていいやら何を喋ればいいやら何もわからなくなってしまう。
「先に、Go-kuとGenjyoが買い物に行った時の接客もして下さったとのこと。なにかとご縁があるようだのう」
「いえ、当店をご利用いただき……あ、光栄で……す」
数日前に突然、店長から呼び出されたときは驚いたが、芸能人の動画配信のセットを当社商品を使って組んで欲しいとの話で、店内のクリスマスの装飾デザイン担当だった私におはちが回ってきたらしい。
さすがに配信セットを担当するのは初めてだが、新居やリフォーム後の部屋を丸ごとコーディネートしてほしいという時々ある依頼とさほど変わらないので引き受けた。
寸法を聞いてデザインを調整し、たくさんのアイテムを運び込んでその場で組み立てていく。照明や日差しの加減で色が違って見えたりするので現地でデザインやアイテムを変更することもしばしばある。
先程、ジャニ西のメンバーとも顔合わせした。そのうち二人が先日お店に来てくださった例のいちゃつきすぎるカップルだったことには驚いたが、やはり鹿川さんから聞いていた通り芸能人だったのだなと内心納得する。
交際を公表していないわりには買い物中いろいろダダ漏れすぎてましたけどその辺は大丈夫なのでしょうか、という心配も頭をよぎったが、にこやかに挨拶だけ済ませた。
挨拶の時にそれぞれ芸名を名乗った彼らだったが、私にはすぐに覚えられない。
目つきの悪い男性、短髪男性はすぐに私に気付いてくれ、短髪男性から「先だってはありがとうございました。またお店にも寄らせてくださいね」と丁寧にお礼を言われた。
後の二人は陰気な男性とチャンブタさん、というらしい。彼の自己紹介は押しが強くてさすがに名前を覚えられた。
「俺はchan-Buta」
派手なジャージを着た彼は言った。少し丸い身体つきだが、清潔感とチャラさを混ぜたような外見は見苦しくはない。
「ちゃん……ぶた?さん、ですか」
「そうそう。俺の名前ね、ぶたちゃん、かわいいだろ?覚えてね。いやあ、三田さんかわいいじゃん。しかも一人で派遣されてきたってことはデキる社員さんってことだろ?イイねイイね。俺好みだな。今夜の予定は?良かったら俺とクリスマスナイトデートしない?」
「いやぁ……。明日も仕事なんで」
「そっか、残念だなあ」
私の返答にチャンブタさんは案外とあっさり引き下がるが、その割に本当に残念な顔をしているので少し悪いことをした気さえする。
「また今度お店お邪魔するからよろしくね。三田さんが接客してね」
「あの、チャンブタさんだけジャージなのって、もしやパジャマのサイズ合わなかったですか。せっかくアバター作成されてサイズ選ばせて頂いたのに大変ご迷惑おかけしました」
私の謝罪にチャンブタさんは気さくに笑って答えた。
「違うって、君のせいじゃないんだ。体重聞かれるとつい少なめに言っちゃう俺の見栄っ張りのせいだよ」
ははは、と快活な笑い声につられてこちらも笑ってしまう。
「今度アプリにも見栄っ張りモード搭載できないか、相談しときますね」
「三田ちゃん、ナイスじゃん。じゃあね、今度会ったらデートしようね」
初めに話しかけられたときは女好きの面倒な人かと思ったが、引き際は心得ているし全体的には好感度の高い人だと私はチャンブタさんの印象について修正する。あの目つきの悪い男性よりも数段話しやすいし。
しかしまあ、なんと言っても今日の収穫は磁路マネージャーですけどね。
セットを組み終えた私はもう帰宅しても良いのだけど、配信を生で見て行ってはどうかとマネージャーに引き止められたら頷く他なかった。
そのマネージャーは、メンバーに指示を出したり、アイテムを運んだり、パソコンを眺めてコメントをチェックしたり、タイムスケジュールについてスタッフと打ち合わせたり、何人か分身でもしてますかというくらいあちらこちらに忙しく飛び回っていた。その合間に暇人の私にも話しかけてくれ、温かいコーヒーを渡してくれるのだから頭が下がる。顔と身体が良いのに、性格も良くて仕事もデキるなんて、もうどうしたらいいんだろう。恋人はいるのだろうか。
「三田殿、急な依頼を引き受けていただき非常に感謝しておる。時間もない中で、素敵なセットを組んでいただいた。かたじけない」と、長身のマネージャーから声をかけられて、私は、ううっと緊張する。近い、近いです。
目の前では既にジャニ西のインスタクリスマスライブが始まっている。賑やかなBGMに合わせて、メンバーたちがカメラに向かって挨拶をしている。メンバーの一人以外は皆、うちの店のパジャマを着てくださっていてとても嬉しい。
「あ、いえ、とんでも……あの、いやお役に立てて……ええ……ありがとうございます」
私の舌は固められてしまったように全然言葉が出てこない。別に初対面の人が苦手なわけではない。
実を言うとこのマネージャーがものすごいイケメンで私の好みどんぴしゃなのがいけない。声をかけられるたびに背筋がぴぃんとなる。
こんなに清潔感のあって、長髪が似合う男性なんて二次元にしか存在しないと思っていた。正直芸能人としてもやっていけるであろうその顔面と、丸太さえもへし折りそうな厚い胸板を見ているだけで頭がおかしくなりそうなのに、そばに近寄るとクラシカルでどこかミステリアスな香水の香りがするのだ。もう、どこを見ていいやら何を喋ればいいやら何もわからなくなってしまう。
「先に、Go-kuとGenjyoが買い物に行った時の接客もして下さったとのこと。なにかとご縁があるようだのう」
「いえ、当店をご利用いただき……あ、光栄で……す」
数日前に突然、店長から呼び出されたときは驚いたが、芸能人の動画配信のセットを当社商品を使って組んで欲しいとの話で、店内のクリスマスの装飾デザイン担当だった私におはちが回ってきたらしい。
さすがに配信セットを担当するのは初めてだが、新居やリフォーム後の部屋を丸ごとコーディネートしてほしいという時々ある依頼とさほど変わらないので引き受けた。
寸法を聞いてデザインを調整し、たくさんのアイテムを運び込んでその場で組み立てていく。照明や日差しの加減で色が違って見えたりするので現地でデザインやアイテムを変更することもしばしばある。
先程、ジャニ西のメンバーとも顔合わせした。そのうち二人が先日お店に来てくださった例のいちゃつきすぎるカップルだったことには驚いたが、やはり鹿川さんから聞いていた通り芸能人だったのだなと内心納得する。
交際を公表していないわりには買い物中いろいろダダ漏れすぎてましたけどその辺は大丈夫なのでしょうか、という心配も頭をよぎったが、にこやかに挨拶だけ済ませた。
挨拶の時にそれぞれ芸名を名乗った彼らだったが、私にはすぐに覚えられない。
目つきの悪い男性、短髪男性はすぐに私に気付いてくれ、短髪男性から「先だってはありがとうございました。またお店にも寄らせてくださいね」と丁寧にお礼を言われた。
後の二人は陰気な男性とチャンブタさん、というらしい。彼の自己紹介は押しが強くてさすがに名前を覚えられた。
「俺はchan-Buta」
派手なジャージを着た彼は言った。少し丸い身体つきだが、清潔感とチャラさを混ぜたような外見は見苦しくはない。
「ちゃん……ぶた?さん、ですか」
「そうそう。俺の名前ね、ぶたちゃん、かわいいだろ?覚えてね。いやあ、三田さんかわいいじゃん。しかも一人で派遣されてきたってことはデキる社員さんってことだろ?イイねイイね。俺好みだな。今夜の予定は?良かったら俺とクリスマスナイトデートしない?」
「いやぁ……。明日も仕事なんで」
「そっか、残念だなあ」
私の返答にチャンブタさんは案外とあっさり引き下がるが、その割に本当に残念な顔をしているので少し悪いことをした気さえする。
「また今度お店お邪魔するからよろしくね。三田さんが接客してね」
「あの、チャンブタさんだけジャージなのって、もしやパジャマのサイズ合わなかったですか。せっかくアバター作成されてサイズ選ばせて頂いたのに大変ご迷惑おかけしました」
私の謝罪にチャンブタさんは気さくに笑って答えた。
「違うって、君のせいじゃないんだ。体重聞かれるとつい少なめに言っちゃう俺の見栄っ張りのせいだよ」
ははは、と快活な笑い声につられてこちらも笑ってしまう。
「今度アプリにも見栄っ張りモード搭載できないか、相談しときますね」
「三田ちゃん、ナイスじゃん。じゃあね、今度会ったらデートしようね」
初めに話しかけられたときは女好きの面倒な人かと思ったが、引き際は心得ているし全体的には好感度の高い人だと私はチャンブタさんの印象について修正する。あの目つきの悪い男性よりも数段話しやすいし。
しかしまあ、なんと言っても今日の収穫は磁路マネージャーですけどね。
セットを組み終えた私はもう帰宅しても良いのだけど、配信を生で見て行ってはどうかとマネージャーに引き止められたら頷く他なかった。
そのマネージャーは、メンバーに指示を出したり、アイテムを運んだり、パソコンを眺めてコメントをチェックしたり、タイムスケジュールについてスタッフと打ち合わせたり、何人か分身でもしてますかというくらいあちらこちらに忙しく飛び回っていた。その合間に暇人の私にも話しかけてくれ、温かいコーヒーを渡してくれるのだから頭が下がる。顔と身体が良いのに、性格も良くて仕事もデキるなんて、もうどうしたらいいんだろう。恋人はいるのだろうか。
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