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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」 

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 リアタイを待ち構えるファン達の祈りが通じたものか、飛ぶように日は過ぎ、とうとうクリスマスイブ当日である。そわつく街の空気に唆されたように、日は早めに沈み夕闇が足元から迫ってくる。

 ジャニ西が所属する事務所シャカシャカの窓から見える空も一つ二つと星を数える間もないまま、漆黒に染められた。ビル群の灯りはいつものごとく煌々とついており、当然この事務所内も明るい光の中で賑やかなクリスマスパジャマパーティーが開始される。

 ジャージ姿の八戒以外のメンバーたちは用意されたパジャマに着替える。パジャマパーティーという名目なので髪先だけを整えて、薄めのメイクを施す。

 用意の済んだらしい悟空に玄奘が声を掛けた。

「悟空、その髪で出るのか」

 短髪なのでセットしてもしなくてもあまり印象が大きくは変わらない玄奘と違って、ほぼセットしていない悟空の髪はやや広がり、もっさりした印象を受ける。

「どこか、変ですか?」

「いや……その、髪をセットしてない悟空は、そのかわいいから……あまり人に見せたくない、と思って。あ、いやセットしている悟空がだめというわけではなくて、それはそれでカッコよくて。でもいつも家でリラックスしている時の髪型は……できれば私だけが知っていたいと、思ったのだが」

 珍しく玄奘の独占欲を見た悟空は、電光石火の勢いでワックスを取って二秒で髪を整えた。 

「セットしました」

「うん。ありがとう」

 玄奘が柔らかく笑ってくれたので、悟空にとってはもう何も問題はない。磁路は「まあ大聖殿の玄奘への執着については好きにさせておくほかなかろう」と匙を投げているので、今更文句も言われない。

 悟浄はほくほくとした顔で早々にパジャマに着替えてしまったあと、PCをいじっている。何も言わないがパジャマを気に入っているらしい。青いパジャマのボタンを留めながら、玄奘も隣に腰かける。 

「このパジャマ肌触り、いいだろう?」 

「先日帰宅してから調べてみたところ、このPetite féeというブランドは○○株式会社の傘下に入っており、フェアトレードにも着目していてROEやROAの値も悪くない。成長が期待できるゆえ、株式を購入した」

 オタク気質でネットストーカー体質でもある悟浄は、好きなもの、気になるものができればまず情報収集から始める。思いもしなかった方向からボールが返ってきた玄奘はあごを撫でた。

「株かあ……。悟浄はしっかりしておるなあ。私は経済のことはさっぱりだ。そんなに気に入ったならもっとこの店のパジャマを購入しては?」

「そうか、それもそうだ。盲点であった」 

「今度一緒に買いに行こうか」 

 玄奘に誘われ、思わず頷きかけた悟浄ではあったが、遠くからじとっと見つめる悟空の視線に気付いた。

「いや、一人で行くから心配無用だ」

 八戒と違って空気を読もうと心がける悟浄に対し、さすがに気がとがめたのか悟空は付け足した。

「三人で行ってやってもいいぞ」

 即座に聞きつけた八戒が悟浄の肩を掴んで話に割りこんでくる。 

「兄貴、そんなのずるいや。俺だけ置いてきぼりは嫌だよ。ちなみにその店、かわいい店員さんはいた?」

「安心しろ。オメーだけは連れてかねえ」



 
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