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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」 

5 う

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 うきうきした様子でパジャマ数着を手に持った短髪男性が試着室から出てくる。彼は私に購入を決めた商品を手渡すのも気がそぞろでいて既に目の前の商品に目を奪われている。

「さて、次は悟空の番だ。どれがいいかな」

 目つきの悪い男性を引っ張っていっては、短髪男性は次々に候補のパジャマを選んでいく。目つきの悪い男性は、少し口元を歪めているがそれが彼の照れ隠しであることは私にはわかっている。

 さっきまで短髪男性のためのパジャマを選んでいた時のきらきらした瞳を私は忘れてはいない。自分のパジャマを彼が選んでくれているのも嬉しいに違いないのだ。

 私は既に得心していた。二人は恋人同士なのだ。そうと分かれば接客の仕方にも気合が入る。

「もし良かったら、イベント用だけではなくて普段にお二人で一緒に着られるパジャマも選んでいかれませんか?色違いも豊富ですからお揃いにもできますし」

 気持ちだけ「お揃い」を強調してみる。

「お揃い……」

 目つきの悪い男性が繰り返した。よし、食いついた。

「お揃いのパジャマで二人きりで過ごす夜は、素敵だと思いますよ」

「そ、そう……かもしれないスね」

 目つきの悪い男性の目がうつろになっている。きっと頭の中では短髪の彼との素敵な夜の妄想が繰り広げられているに違いない。

 一方の短髪の男性は、浮き立ったように提案した。

「そうだ!これを機に悟空もパジャマを着て寝る習慣をつけるのはどうだろう?」

「あら、お客様、普段は何を着て寝ていらっしゃるんです?」

「私はパジャマを着ているのですが、悟空はいつもスウェットなのです。ウエストや袖口が締め付けられていては身体も休まらぬだろうと心配していたところでして」

 それを聞いた私は黙っていられない。寝巻の着心地の重要さについては何度も研修でも叩き込まれているのだ。

「それはいけません。ぜひ私どものパジャマで一度お休みになってみられたら、その快適さを実感していただけるはずですよ」 

「ですよね。私のパジャマもいくつか買うのだし、悟空の普段使いのものもいくつか見繕っていこう」

「ぜひそうされてください」

「ね?悟空、そうしよう」

 短髪男性と私が手を叩き合うように盛り上がり、目つきの悪い男性はじとっとした目を向けた。ますます目つきが悪く見える。ちょっと怖い。

「別に普段使ってるもので不自由ないですよ。おれ、ちょっと寝ればすぐ回復しますし」

「しかし……私は、悟空の身体が心配なのだ」

「年寄り扱いしてます?」

「してないよ」

 短髪男性はぷぅと軽く頬を膨らませた。目つきの悪い男性はその頬を片手でぷしゅっと潰したあと、くすっと微笑んだ。

 なんだ、いつもそんな風に笑っていればカッコよく見えなくもないのに、と私は思う。

「わかりました。イベント用とは別に、玄奘とお揃いのパジャマを一着買いましょう。それでいいですか?それに……」

 目つきの悪い男性はひそひそと短髪男性の耳元で囁いた。短髪男性は、かあぁと一気に耳まで赤くなる。

 何を言ったんだ。店内でこんなにいちゃつくカップルも珍しい。

 目つきの悪い男性は試着不要と言って、結局イベント用に落ち着いたカージナルレッドの地に爽やかな水玉模様がかすかに散ったものと、短髪男性と色違いのストライプ柄の二つを選んだ。

「悟空はやっぱり赤が似合うね」

「そうですかね」

「今日はお揃いのパジャマを着て寝よう」

「そんな……こと、人前で言うもんじゃないですよ」

 目つきの悪い男性は私をちらちらと横目で牽制しながら言う。さんざんいちゃついておいて今更ですけどね、と思いながら私はにこやかな外面の笑みで受け流す。

「何を心配する必要がある?恋人なら当然のことだろう?」

 短髪男性は目つきの悪い男性の手を取って指を絡め、そのままエスコートするように導いた。目つきの悪い男性は繋いでいない方の手で赤くなった顔を隠しながら付いていった。

「あなたはいつも……覚悟決まりすぎなんですよ」
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