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四月二十八日(木)夜 ふじいし司法書士事務所②
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暗闇に溶け込んだ黒服の白井が、忠志にソファに座るよう促した時、忠志の膝がテーブルに軽く当たった。
部屋の外から敬太の母親の声がする。
「何か音がしますね」
「そうなんですよ。この建物は下がコンビニで、上がオーナーの自宅になっています。どうしても夜になるとコンビニには若者が集まるし、上からは生活音が聞こえてきちゃうんですよね。気になるようでしたら音楽でもかけますが」
「いえ、大丈夫です」
向かいの応接のやり取りを聞きながら、異国顔の大男は忠志に向かって小さくセーフというジェスチャーをした。
テーブルには一台のノートパソコンが置かれている。
その液晶の明かりに照らされて、白井の青白い顔が浮かんでいる。
異国顔の男が忠志の隣に座ると、スマートホンの画面を見せてきた。
『この前はゲーセンで会ったよね?初めまして、オレは宇佐見☆チャパツくんの友達だよね?ヨロシク!君のスマートホンも音が鳴らないようにしてね』
忠志は二人の男の間で、ひたすら緊張した。言われるまま、スマートホンも音が鳴らないように設定した。
そこへ、向かいの応接からドアが開く音がした。しばらくすると、キッチンがあるのか食器の音もする。藤石が茶の用意をしているのだろう。
そして再び向かいの応接のドアが開閉する音が聞こえてきた。
隣の白井が忠志の腕を軽く叩き、パソコン画面に注目するよう促した。
そこには、チャットのやり取りが映し出されていた。
19:09 ウサ〉遅いなあ。ダッシュして損した!
19:09 シロ〉僕は間に合って良かった。電車止まってるし。
19:10 ウサ〉チビ書士め、オレに罠を仕掛けるとは。
19:10 シロ〉罠って?
19:10 ウサ〉アイツめ、金髪美女とのツーショット写真を送ってきたんだ。
19:11 シロ〉はあ。
19:10 ウサ〉一言、「お前も来る?」だぞ。そしたら全力で行くじゃん!
19:10 シロ〉罠だね、確かに。
〈ふじいしさんが入室しました〉
19:12 フジ〉お前ら、まだ来てないんだから、普通に会話して良いんだぞ。
19:12 ウサ〉コラ!あの美女は何なんだ!
19:12 フジ〉今日、住宅ローンの契約で知り合ったマンションの買主だよ。
19:13 ウサ〉どこのマンションだ!
19:13 フジ〉お前に教えるわけないだろうが。
19:14 シロ〉ところで、今日は何かの作戦なんですよね?
19:14 フジ〉いや、イチイチ説明するのが面倒だから。ライブにしただけ。
19:14 シロ〉基本的に僕は無関係のはずですが。
19:15 ウサ〉そういえば、麗華ちゃんと何があったか聞かせてよ。
19:15 フジ〉そうだ、その情報も今日は役立つかもしれないんだ。
19:15 ウサ〉あーっ!ヒロミ!アサトの顔が赤いぞ!
19:17 ウサ〉あ、やっと誰か来たね。
19:17 シロ〉この声は、忠志くんだ。
19:17 ウサ〉ああ、チャパツくんの友達か。金髪美女はどうしたんだ。
19:18 シロ〉また誰か来た。
19:19 ウサ〉アヤメちゃんだ。チャパツくんと血がつながっているとは思えない可憐さ。
19:21 ウサ〉しかし、チビ書士め。純情な少年まで利用してるぞ。
19:22 シロ〉可哀想に。忠志くんも意味がわからないだろうな。
どうやら、この二人はずっと潜伏して一連のやりとりを聞いていたようだ。
隣の宇佐見が何やらスマートホンを操作した。
19:35 ウサ〉では、少年Aも参加しまーす。もう招待済みなのかな。
19:35 シロ〉忠志くん、すみません。ここにアクセスして、コードを入力してくれますか。パスワードはこちらです。
白井がパソコンを操作すると、チャットサイトの画面が出てきた。指示に従いながらスマートホンを操作していく。操作自体は難しくないが、何よりも全てが唐突なので、忠志はことの状況を把握することが精一杯だった。
――えっと、パスワードはこれか。
入力すると同時に白井のノートパソコンの画面も点滅した。
〈にせまじめさんが入室しました〉
19:40 ニセ〉よろしくお願いします。
19:40 シロ〉設定したのは全部フジさんですから……すみません。
向かいの応接から藤石の声がした。
「ああ、そうだ。アヤ……」
その直後に咳払いが続く。
「聖川さん」
「何でしょう」
「お話の途中で、色々とインターネットで調べることがあるかもしれません。そばにノートパソコンを置いても良いですか」
「どうぞ」
外からはドアの開閉する音や何か引きずる音などが聞こえてきた。
どうやら藤石は、この二人と連携しながら敬太の母親に何かしようと考えているようだ。
向かいの応接からは一切の会話はなく、外界の車の走る音が聞こえてくるほど事務所内は静かだった。
この沈黙に押しつぶされそうになっていると、画面が点滅した。
19:47 フジ〉よしよし、何とか作戦は順調だな。
19:47 フジ〉おい偽マジメ。俺とチャパツのために力になると言ったよな。
忠志は確かにそんな内容のメールを送ったことを思いだし、思わず声を上げそうになった。即座に白井が静かにするよう制する。
19:48 ニセ〉敬太が関係あるんですか?ちゃんと説明してくださいよ。
19:48 フジ〉お前が遅刻するから悪い。とにかく、知っている情報を流せ。
19:48 ニセ〉よくわからないけど、わかりました。
19:49 シロ〉もう今さらですが、大丈夫なんですか?深刻な話になるかと。
19:49 フジ〉平気だろう。初めから偽マジメはアイツの家庭事情を知っている。
「ところで、聖川さん。寒くないですか」
チャット会話と同時に、藤石が客人に尋ねた。パソコン操作をしながらだというのに、何て器用なのだろう、忠志は思わず感心してしまった。
向かいの応接では会話が続いている。敬太の母が、大丈夫です、と答える声が聞こえた。
春とはいえ、夜は冷える。
忠志はクシャミをしないように気をつけた。
部屋の外から敬太の母親の声がする。
「何か音がしますね」
「そうなんですよ。この建物は下がコンビニで、上がオーナーの自宅になっています。どうしても夜になるとコンビニには若者が集まるし、上からは生活音が聞こえてきちゃうんですよね。気になるようでしたら音楽でもかけますが」
「いえ、大丈夫です」
向かいの応接のやり取りを聞きながら、異国顔の大男は忠志に向かって小さくセーフというジェスチャーをした。
テーブルには一台のノートパソコンが置かれている。
その液晶の明かりに照らされて、白井の青白い顔が浮かんでいる。
異国顔の男が忠志の隣に座ると、スマートホンの画面を見せてきた。
『この前はゲーセンで会ったよね?初めまして、オレは宇佐見☆チャパツくんの友達だよね?ヨロシク!君のスマートホンも音が鳴らないようにしてね』
忠志は二人の男の間で、ひたすら緊張した。言われるまま、スマートホンも音が鳴らないように設定した。
そこへ、向かいの応接からドアが開く音がした。しばらくすると、キッチンがあるのか食器の音もする。藤石が茶の用意をしているのだろう。
そして再び向かいの応接のドアが開閉する音が聞こえてきた。
隣の白井が忠志の腕を軽く叩き、パソコン画面に注目するよう促した。
そこには、チャットのやり取りが映し出されていた。
19:09 ウサ〉遅いなあ。ダッシュして損した!
19:09 シロ〉僕は間に合って良かった。電車止まってるし。
19:10 ウサ〉チビ書士め、オレに罠を仕掛けるとは。
19:10 シロ〉罠って?
19:10 ウサ〉アイツめ、金髪美女とのツーショット写真を送ってきたんだ。
19:11 シロ〉はあ。
19:10 ウサ〉一言、「お前も来る?」だぞ。そしたら全力で行くじゃん!
19:10 シロ〉罠だね、確かに。
〈ふじいしさんが入室しました〉
19:12 フジ〉お前ら、まだ来てないんだから、普通に会話して良いんだぞ。
19:12 ウサ〉コラ!あの美女は何なんだ!
19:12 フジ〉今日、住宅ローンの契約で知り合ったマンションの買主だよ。
19:13 ウサ〉どこのマンションだ!
19:13 フジ〉お前に教えるわけないだろうが。
19:14 シロ〉ところで、今日は何かの作戦なんですよね?
19:14 フジ〉いや、イチイチ説明するのが面倒だから。ライブにしただけ。
19:14 シロ〉基本的に僕は無関係のはずですが。
19:15 ウサ〉そういえば、麗華ちゃんと何があったか聞かせてよ。
19:15 フジ〉そうだ、その情報も今日は役立つかもしれないんだ。
19:15 ウサ〉あーっ!ヒロミ!アサトの顔が赤いぞ!
19:17 ウサ〉あ、やっと誰か来たね。
19:17 シロ〉この声は、忠志くんだ。
19:17 ウサ〉ああ、チャパツくんの友達か。金髪美女はどうしたんだ。
19:18 シロ〉また誰か来た。
19:19 ウサ〉アヤメちゃんだ。チャパツくんと血がつながっているとは思えない可憐さ。
19:21 ウサ〉しかし、チビ書士め。純情な少年まで利用してるぞ。
19:22 シロ〉可哀想に。忠志くんも意味がわからないだろうな。
どうやら、この二人はずっと潜伏して一連のやりとりを聞いていたようだ。
隣の宇佐見が何やらスマートホンを操作した。
19:35 ウサ〉では、少年Aも参加しまーす。もう招待済みなのかな。
19:35 シロ〉忠志くん、すみません。ここにアクセスして、コードを入力してくれますか。パスワードはこちらです。
白井がパソコンを操作すると、チャットサイトの画面が出てきた。指示に従いながらスマートホンを操作していく。操作自体は難しくないが、何よりも全てが唐突なので、忠志はことの状況を把握することが精一杯だった。
――えっと、パスワードはこれか。
入力すると同時に白井のノートパソコンの画面も点滅した。
〈にせまじめさんが入室しました〉
19:40 ニセ〉よろしくお願いします。
19:40 シロ〉設定したのは全部フジさんですから……すみません。
向かいの応接から藤石の声がした。
「ああ、そうだ。アヤ……」
その直後に咳払いが続く。
「聖川さん」
「何でしょう」
「お話の途中で、色々とインターネットで調べることがあるかもしれません。そばにノートパソコンを置いても良いですか」
「どうぞ」
外からはドアの開閉する音や何か引きずる音などが聞こえてきた。
どうやら藤石は、この二人と連携しながら敬太の母親に何かしようと考えているようだ。
向かいの応接からは一切の会話はなく、外界の車の走る音が聞こえてくるほど事務所内は静かだった。
この沈黙に押しつぶされそうになっていると、画面が点滅した。
19:47 フジ〉よしよし、何とか作戦は順調だな。
19:47 フジ〉おい偽マジメ。俺とチャパツのために力になると言ったよな。
忠志は確かにそんな内容のメールを送ったことを思いだし、思わず声を上げそうになった。即座に白井が静かにするよう制する。
19:48 ニセ〉敬太が関係あるんですか?ちゃんと説明してくださいよ。
19:48 フジ〉お前が遅刻するから悪い。とにかく、知っている情報を流せ。
19:48 ニセ〉よくわからないけど、わかりました。
19:49 シロ〉もう今さらですが、大丈夫なんですか?深刻な話になるかと。
19:49 フジ〉平気だろう。初めから偽マジメはアイツの家庭事情を知っている。
「ところで、聖川さん。寒くないですか」
チャット会話と同時に、藤石が客人に尋ねた。パソコン操作をしながらだというのに、何て器用なのだろう、忠志は思わず感心してしまった。
向かいの応接では会話が続いている。敬太の母が、大丈夫です、と答える声が聞こえた。
春とはいえ、夜は冷える。
忠志はクシャミをしないように気をつけた。
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