合法ブランクパワー 下記、悩める放課後に関する一切の件

ヒロヤ

文字の大きさ
48 / 49

四月二十八日(木)夜 ふじいし司法書士事務所②

しおりを挟む
 暗闇に溶け込んだ黒服の白井が、忠志にソファに座るよう促した時、忠志の膝がテーブルに軽く当たった。

 部屋の外から敬太の母親の声がする。

「何か音がしますね」
「そうなんですよ。この建物は下がコンビニで、上がオーナーの自宅になっています。どうしても夜になるとコンビニには若者が集まるし、上からは生活音が聞こえてきちゃうんですよね。気になるようでしたら音楽でもかけますが」
「いえ、大丈夫です」

 向かいの応接のやり取りを聞きながら、異国顔の大男は忠志に向かって小さくセーフというジェスチャーをした。

 テーブルには一台のノートパソコンが置かれている。

 その液晶の明かりに照らされて、白井の青白い顔が浮かんでいる。
 異国顔の男が忠志の隣に座ると、スマートホンの画面を見せてきた。

 『この前はゲーセンで会ったよね?初めまして、オレは宇佐見☆チャパツくんの友達だよね?ヨロシク!君のスマートホンも音が鳴らないようにしてね』

 忠志は二人の男の間で、ひたすら緊張した。言われるまま、スマートホンも音が鳴らないように設定した。

 そこへ、向かいの応接からドアが開く音がした。しばらくすると、キッチンがあるのか食器の音もする。藤石が茶の用意をしているのだろう。
 そして再び向かいの応接のドアが開閉する音が聞こえてきた。

 隣の白井が忠志の腕を軽く叩き、パソコン画面に注目するよう促した。

 そこには、チャットのやり取りが映し出されていた。


 19:09 ウサ〉遅いなあ。ダッシュして損した!
 19:09 シロ〉僕は間に合って良かった。電車止まってるし。
 19:10 ウサ〉チビ書士め、オレに罠を仕掛けるとは。
 19:10 シロ〉罠って?
 19:10 ウサ〉アイツめ、金髪美女とのツーショット写真を送ってきたんだ。
 19:11 シロ〉はあ。
 19:10 ウサ〉一言、「お前も来る?」だぞ。そしたら全力で行くじゃん!
 19:10 シロ〉罠だね、確かに。

 〈ふじいしさんが入室しました〉

 19:12 フジ〉お前ら、まだ来てないんだから、普通に会話して良いんだぞ。
 19:12 ウサ〉コラ!あの美女は何なんだ!
 19:12 フジ〉今日、住宅ローンの契約で知り合ったマンションの買主だよ。
 19:13 ウサ〉どこのマンションだ!
 19:13 フジ〉お前に教えるわけないだろうが。
 19:14 シロ〉ところで、今日は何かの作戦なんですよね?
 19:14 フジ〉いや、イチイチ説明するのが面倒だから。ライブにしただけ。
 19:14 シロ〉基本的に僕は無関係のはずですが。
 19:15 ウサ〉そういえば、麗華ちゃんと何があったか聞かせてよ。
 19:15 フジ〉そうだ、その情報も今日は役立つかもしれないんだ。
 19:15 ウサ〉あーっ!ヒロミ!アサトの顔が赤いぞ!

 19:17 ウサ〉あ、やっと誰か来たね。
 19:17 シロ〉この声は、忠志くんだ。
 19:17 ウサ〉ああ、チャパツくんの友達か。金髪美女はどうしたんだ。
 19:18 シロ〉また誰か来た。
 19:19 ウサ〉アヤメちゃんだ。チャパツくんと血がつながっているとは思えない可憐さ。
 19:21 ウサ〉しかし、チビ書士め。純情な少年まで利用してるぞ。
 19:22 シロ〉可哀想に。忠志くんも意味がわからないだろうな。

 どうやら、この二人はずっと潜伏して一連のやりとりを聞いていたようだ。
 
 隣の宇佐見が何やらスマートホンを操作した。

 19:35 ウサ〉では、少年Aも参加しまーす。もう招待済みなのかな。
 19:35 シロ〉忠志くん、すみません。ここにアクセスして、コードを入力してくれますか。パスワードはこちらです。

 白井がパソコンを操作すると、チャットサイトの画面が出てきた。指示に従いながらスマートホンを操作していく。操作自体は難しくないが、何よりも全てが唐突なので、忠志はことの状況を把握することが精一杯だった。

 ――えっと、パスワードはこれか。

 入力すると同時に白井のノートパソコンの画面も点滅した。

 〈にせまじめさんが入室しました〉

 19:40 ニセ〉よろしくお願いします。
 19:40 シロ〉設定したのは全部フジさんですから……すみません。

 向かいの応接から藤石の声がした。

「ああ、そうだ。アヤ……」

 その直後に咳払いが続く。

「聖川さん」
「何でしょう」
「お話の途中で、色々とインターネットで調べることがあるかもしれません。そばにノートパソコンを置いても良いですか」
「どうぞ」

 外からはドアの開閉する音や何か引きずる音などが聞こえてきた。
 どうやら藤石は、この二人と連携しながら敬太の母親に何かしようと考えているようだ。

 向かいの応接からは一切の会話はなく、外界の車の走る音が聞こえてくるほど事務所内は静かだった。

 この沈黙に押しつぶされそうになっていると、画面が点滅した。

 19:47 フジ〉よしよし、何とか作戦は順調だな。
 19:47 フジ〉おい偽マジメ。俺とチャパツのために力になると言ったよな。

 忠志は確かにそんな内容のメールを送ったことを思いだし、思わず声を上げそうになった。即座に白井が静かにするよう制する。

 19:48 ニセ〉敬太が関係あるんですか?ちゃんと説明してくださいよ。
 19:48 フジ〉お前が遅刻するから悪い。とにかく、知っている情報を流せ。
 19:48 ニセ〉よくわからないけど、わかりました。
 19:49 シロ〉もう今さらですが、大丈夫なんですか?深刻な話になるかと。
 19:49 フジ〉平気だろう。初めから偽マジメはアイツの家庭事情を知っている。

「ところで、聖川さん。寒くないですか」

 チャット会話と同時に、藤石が客人に尋ねた。パソコン操作をしながらだというのに、何て器用なのだろう、忠志は思わず感心してしまった。

 向かいの応接では会話が続いている。敬太の母が、大丈夫です、と答える声が聞こえた。

 春とはいえ、夜は冷える。

 忠志はクシャミをしないように気をつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

処理中です...