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「はい、ふじいし司法書士事務所でございます」

「……」

「もしもし?」

「藤石……先生はいらっしゃいますか」

「はい、私です」

「……聖川と申します」

「は……」

「……敬太の、母です」

「……あ、ああ。どうもこんにちは」

「ちょっとお話があります」

「……まあ、そうでしょうね」

「あなた、とんでもない人ね」

「よく言われます」

「私と、息子。接触したのはどちらが先なのかしら」

「接触?」

「息子の部屋の掃除をしていたら、机のマットにあなたの名刺が挟まっていました」

「あれ、そうか。あの時の帰りに車の中で渡したんだっけな」

「私があなたからお店で渡された名刺と、まったく同じものだわ」

「そうかそうか、いや失敗しちゃったなあ」

「いつ息子と会ったのですか」

「先週の金曜の夜です」

「どうやって、息子に取り入ったんです?」

「まあ、待ってください。あなたは、その日息子さんがどこにいたかご存知ですか?」

「……お友達の家に行くとしか聞いてませんが」

「実は、ゲームセンターで不良に絡まれていました。そこを、ほぼ俺が助けました」

「そ、そんなことが」

「あったんです。ご自宅に送ろうと思ったら拒まれました。なぜだと思いますか?」

「……」

「仕方ないから俺の家に泊めました。翌朝、駅まで送る時に今後も連絡を取りたいと言うので名刺を渡しました。それだけです」

「その後……私が、ホルンで働いてることを息子に話したりしたのかしら」

「はい?話してませんよ」

「嘘。私のことを敬太にバラすって脅迫するつもりでしょう」

「ちょっと待って。すごいことおっしゃいますね。その程度の脅迫で、まさかあなたは俺に金でもくれるんですか?ずいぶん、疑心暗鬼ですね」

「……」

「なるほど。すでにそういう思考回路なんだな。心配しなくて平気ですよ。何といいますかね。俺は、あなた方の家庭の事情には一ミリの興味もないんです。ただ、息子さんが家出して寝泊りに来るのはゴメンです。ホテルじゃないんでね」

「あなた……何を企んでいるの?」

「聖川さんにはご迷惑おかけしませんから大丈夫ですよ。それより、昨日は突然席を立ったりしてどうされました?具合が悪かったんですか?それとも、電話でもしに行ったのかな。いやあ、心配しましたよ」

「まさか、ずっと見ていたの?」

「はい。あまりに不自然でしたから」

「……」

「お客さん放置しちゃうとか、よほどでしょう?」

「……」

「でも、あの三田という男は放置プレイで良いと思いますよ。あまり関わらない方があなたのためだと思いますけどね」

「え?」

「あなたが、やれ脅迫だ何だと疑心暗鬼になっているのは、アイツのせいじゃないんですかね」

「……」

「もちろん、何の根拠もない勘ですけど。俺だったら付き合いたくないですね。たとえ仕事でも。あれは、色々と一癖ありそうだ」

「……」

「もしもし?」

「……」

「聖川さん?」

「……っ」

「泣いてしまうほどのことが……あるんですね」

「……」

「大丈夫ですか?」

「……がぃ」

「はい?」

「お願い……助けて」

「……」

「……私には、もう……」

「わかりました。明日の夜七時以降なら時間取れますよ。いかがですか?」

「……伺います」

「それと、聖川さん」

「はい」

「こちらに来る時にご準備いただきたいものがあります。メモ取れます?」
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