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四月二十五日(月)午後 車中

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「悪いねえ。わざわざ出てきてもらっちゃって」

 運転席の宇佐見が言った。

「いや、俺は誰であろうと仕事の紹介は甘んじて受けるからな。それにたまたま予定も空いてたし」

 そう答えながら助手席の藤石は書類のチェックをした。

 車は駅前の渋滞を抜けて、順調に走り始める。

「ところで、ウサはヒマなのか?」
「それなりに忙しいよ。もうリスカちゃんの家にも直接乗り込んで事情を確認してきたし。とりあえず、今のところ差押もないみたいだから大丈夫かな」
「乗り込んだ?この犯罪者め。なんで場所がわかったんだ」
「アサトが教えてくれたから」

 藤石は舌打ちをした。

「結局シロップは居場所を吐いたのか。お人よしにも程があるな」
「アサトはどっかの腹黒い書士と違って奉仕精神に満ち溢れているからねえ」

 車は閑静な住宅街に入って行った。

「それにしても、鹿端家に何しに行ったんだ?」
「リスカちゃんの様子を見に行って、ついでだからパパから仕事取って来た」
「仕事?」
「債務整理だよ。もしくは個人再生にするかどうか、考えているところ」

 藤石は助手席のシートを倒した。

「それでか。相変わらず無茶苦茶なやり方だな」
「単純にやっても楽しくないでしょ。それに女の子には笑って欲しいじゃん」

 車は急な坂道を登っていく。藤石がつぶやいた。

「リストカットしてるのか、その子」
「かなり盛大にやってるね。この前はライブで見たよ」
「は?」
「可哀想にねえ。あんな小さな胸に何をしまい込んでるんだか」

 宇佐見は一度車を止めると地図を確認した。

「ずいぶん遠いな。間に合うのか?」
「大丈夫。ここを左かな」

 車は再び走り出した。

 未だ住宅街ではあったが、しだいに緑も生い茂って来た。
 そのわき道で車は止まった。

「さて行こうか」

 宇佐見は車を降りると、伸びをした。
 藤石も宇佐見の後を追う。

 そしてすぐに異変に気づいた。

「ここは……何処だ?」

 不動産会社らしき建物など見当たらない。
 道には小さなパン屋とクリーニング屋が並び、その向かいには学校が見えた。

 葵中学校――。

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