君よ、土中の夢を詠え

ヒロヤ

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***着信***

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「……お待たせしました。ふじいし司法書士事務所です」

「もしもし、あの……藤石先生という方はいらっしゃいますか?」

「はい、私ですが」

「あ……えっと、はじめまして。突然のお電話すみません。私、大鳥京子と申します」

「大鳥、キョウコさん……?」

「大鳥ヒサ江の娘です。昨日、私の実家にいらっしゃったそうですね」

「……ああ、ヒサ江さんのお嬢様でしたか。こちらこそ、お忙しいところをお邪魔致しました」

「日曜日なのに、すみません。少し、白井さんと実家のことで……話をうかがってもよろしいですか?」

「あのですね、大鳥家も白井家も伊藤家も、私は無関係なんですよ。まあ、相続の手続きには噛んでますが、こちらについては職責上の守秘義務がありまして、詳しいことはお話できません」

「……白井さんは、亡くなったお母さんの遺志を継ぐために、色々と調べてらっしゃると聞いたのですが」

「それより、二秒前のこっちの話を聞いてました?」

「お願いします。先生、教えてください。伊藤フク……フクちゃんが病室でアサトさんって言ったのは本当ですか?」

「……確かに、おばあさんが名前を言ったのは本当ですけど、偶然ですよ」

「先生、もしかすると、それは偶然じゃないかもしれません。推測ですけど、実は近所にあるお墓に――」

「それもこれもどれも偶然ですよ」

「先生……お墓のこと、ご存知なんですね?」

「私だけじゃなく、白井本人も知っていますよ。この前の帰りに立ち寄っただけですが、まあ暗い顔していました。そのまま土ん中に戻っていきそうなくらい」

「お墓の麻人さんは、きっとフクちゃんの思い出の人なんですよ!今まで言葉すらまともに発したことがない人が、人の名前を……」

「素敵な空想だと思いますよ」

「茶化さないでください。それに、母から聞きました。白井……麻人さんが、何やら歌の書かれた紙を持ってきたとか」

「えぇ、そうですね」

「母はその歌を見たと言っているんですが、肝心なことに内容を覚えてないみたいです」

「まあ……短歌とはいえ、なかなか暗唱は難しいでしょうね」

「その歌の内容を先生はご存じないですか」

「残念ながら知りません。ただ、何か小さい用紙を大事そうに持ってましたっけね。遺品だから当然でしょうけど」

「遺品、ですか」

「白井の母親が遺したものです。ああ、俺も最初の言葉だけは見たかな。何だったか。確か【如月】とか書いてあったような」

「如月っ?」

「うおあ、ビックリしたあ」

「……」

「京子さん、どうしました?」

「いえ、ちょっと。でもこっちは偶然なのかしら」

「何です?さっきまで、偶然じゃないとか言っていた人が」

「すみません、先生。あの、白井麻人さんと会って話がしたいんですけど」

「ご自由にどうぞ?連絡先を教えておきましょうか」

「え?先生もご一緒じゃないのですか?」

「そこまで面倒見切れませんよ。そもそも用件が見えてこないんですけれどね」

「麻人さんが持っている歌は『如月』で始まる歌なんでしょう?」

「俺の記憶が確かなら」

「それは、おそらくフクちゃんが詠んだ歌で間違いありません」

「……根拠があるのですか」

「それを確かめるために、私も白井麻人さんの一筆箋が見てみたいんです」

「さっきから、あなたは一体何が知りたいんですか」

「私も混乱しておりまして、その、歌を見るまでは何とも」

「こっちの方こそ大混乱ですよ。まったく話が見えない。皆して歌がどうこうって何なんですか。だいたい俺は関係ないでしょう」

「麻人さんの代理人ではないですか」

「俺は相続手続きの代理人であって、謎解きの代理人じゃない」

「ごめんなさい……でも、お願いします。私も辛そうな母を助けたいと思ってまして」

「は?」

「七十近い母は、自分の大叔母……フクちゃんの介護をずっと昔から毎日やっています。私はちっとも結婚できないし、それがさらなる心配にもなって、ストレスでいつか倒れるんじゃないかって」

「だったら、あなたが結婚すれば問題の半分は片付くんじゃないですか」

「……普通、そこはそんなに突っ込まないでしょう?本当に親切な法律の先生なんですか」

「疑わしいなら、ご遠慮なく電話切って構いませんよ」

「そんな言い方」

「うちの電話回線は一つだけなんです。これで本来の仕事依頼を取り逃がしたら、あなたどういう責任を取ってもらえます?」

「……だったら、私が仕事を依頼します」

「へ」

「フクちゃんが死んだ後、相続の手続きを一切お任せします。伊藤の実家周辺には、フクちゃんの名義の土地が残ってるはずですから!」

「……ふうん、なかなか言いますねぇ」

「無理を言っているのはわかっています……でも」

「わかりましたよ。ただ、どうして偶然ってことじゃダメなんでしょうかね」

「どうしてって」

「子孫たちの、興味本位で暴かれる秘密――先祖はどう思うでしょうね」

「……」

「ま、俺は関係ないですけど。さて、日取りを決めましょうか」
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