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2章
精霊を探して②
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次の日、私は、何事もないように……この屋敷へ来たときと同じように、明るく笑って過ごした。
いつもの読書ではなく、リタに頼んでレシピ本を貸してもらい、その中から作りたいものをリストアップしながら、相談をする。
見たことがない料理や食材の名前が載っていたので、分からないものはもちろんすぐに誰かに聞いた。
フィオラさんに聞くと、今度作ってくれると言っていたので、私も楽しみにしています、と答える。
屋敷の人は皆、私が笑うとほっとしたように笑顔を漏らす。
仕事の手をわざわざ止めてまで答えてくれる。
「心配をかけて、ごめんなさい。」
「いえ、元気になってよかったです!」
リタにも朝謝ると、いつものように元気いっぱいな様子で笑ってくれた。
本当に心配をかけてしまったな……。
リオルさんが言うように、ここ数日は皆が私のことを心配してくれていたことがよく分かる。
だからこそ、私の姿が急に見えなくなった、きっとまた心配させてしまうだろう。
いっそのこと、誰かに話しておいた方が良い気がしてくる。
そう考えると、誰に話すか悩むところだ。
リタは、ないとして、フィオラさんにも言わない方がいいだろう。
となると、クラストさんか、リオルさん。
街へ行き、デットルさんき話すのでもいいかもしれない。
私は、じっと、考えてみる。
「はぁ……ダメだ。」
シーナは、1度息を吐いた。
頭の中でぐるぐると考えていると、また周りの音が聞こえなくなってしまいそうだ。
こめかみの辺りを手でゆっくりと揉む。
座っていた椅子にだらり、と力を抜いた全身を預けた。
これは、そんなに集中して考えるべきことではない。
本当に最近の私は、どうかしている……。
シーナはシンプルに考え、結果クラストさんに話した。
リオルさんは黙っていてくれないだろうし、デットルさんもどうだか分からない。どうしても頼み込めそうなのがクラストさんだったのだ。
クラストさんが一人の時に声をかけ、説明した。
とても驚かれたし、もちろん反対もされたが、私が頼み込むと、しぶしぶと言った様子で頷いてくれた。
ただし、黙っているのはリタやフィオラさんが私がいないことに気付くまでの間だ。
私は、もちろんそれでいいと、承諾する。
後は、明日も夜はとても冷えるだろうから、コートを用意しておく。しっかりと準備はして、備えるのだ。
そして、翌日。
午前中から私は、部屋に籠り、リタ達とは顔を合わせないようにしておいた。私が外に出ても気付かれないように、物音はなるべく立てず、少し頭が痛いので今日は寝ておくと言った。
食事も今日だけは廊下に置いておいてくれるように頼んだ。
結局リタがとても心配してしまったので、心が痛んだけれど……私は、夜まで部屋で過ごした。このままリタが気付かないでいてくれるといいと思いながら。
3の鐘はもう鳴り、今日は皆早く寝たのか、屋敷中がしーんとしている。
まるで、音がこの暗い夜の闇の中に吸い込まれてしまっているようだ。
かけてあったコートをそっと羽織り、足音を立てないように、部屋を出て玄関へ向かう。
明かりは、部屋にあった燭台を1つ持ってきた。
外に出れば、これは精霊達の明かりがあるので必要はなくなるが、廊下は暗いので必要だった。
階段を下りて、静かに玄関の扉を開けると思っていた通り、庭は輝いている。ふっ、と蝋燭の火を吹き消したシーナは扉を閉めて、その横に燭台を置いた。
そして、少し早足で門を抜けると、森へ駆けていった。
空が曇っているため、今日が本当に満月で、あの日なのかだんだん心配になってくる。
時間としては前回より少し遅いくらいだと思うけれど、とても暗いのでわからなくなってしまう。
今日いなかったら、どうしようか……。
本当に、もう会えなくなるのではないか。
そんなことも心の何処かで考えてしまう。
けれど、今は精霊の明かりを頼りに、ただ、歩き続けるだけだ。
木に積もった雪が、まだ、溶けることのない白い雪が、精霊の明かりを反射して輝く。これも、初めて見るこの場所の綺麗な景色だ。
はぁっ、と吐く息の白さや私が通った道にくっきりと残っている足跡。
なにも聞こえない、森。
ガサッと音が聞こえる度にびくりと身を震わせてしまう
少し走りながら、雪に足をとられながら、ずんずんと進んでいった。
やがてシーナは、一際明るい広場へ出る。
大きな切り株、人形をとった小さな精霊達。
そして、切り株の上には1つ人影が見えた。
「シフ……?シフなの?!」
シーナは声をかけながら、近付いていく。
返事は返ってこない。
寝ているのだろうか。
「人~?」
わらわらとシフの周りに集まっていた精霊達が途中で気付き私とシフの間に道を開けてくれる。
「シフ……」
切り株に寝ていたのはシフだった。
ただ、その顔色はまるで死人のように青白く、息をしてるのか不安に成る程静かだった。
シーナはそろそろとシフの手に触れる。
「冷たい……?でも、脈はある……」
どうやら、眠っているだけのようなのだが、それにしては体温が低く、揺すっても起きない。
何故か、脈は正常で、弱くもなかった。
コートも着ていないのに、何故だろうか?
「今ね~、回復中なんだよ!」
「回復?」
私が、動かないでいると、隣にいた精霊がそう、声をかけてくれた。
「うん!疲れちゃったから寝てるの。それだけだよ~」
「ちゃんと、目が覚める?」
「覚めるよ!寝たら起きないとダメでしょ~?」
のんびりとした精霊の話し方に何となく落ち着いたシーナはシフの横に腰を掛けた。
「どれくらいしたら、起きるか分かる?」
「う~ん、分かんない。」
「そう……」
「でもね、いつもはすぐ起きるよ?今回は長いよね~」
「うんうん」
シフが寝るのはいつものこと、それが精霊達の共通認識だ。
一体、シフは何者なのだろう。
本当に可笑しなことばかりだ。
子供のように寝顔はあどけない。
シーナははぁ、と溜め息を吐いた。
少しだけ待ってみよう……。
いつもの読書ではなく、リタに頼んでレシピ本を貸してもらい、その中から作りたいものをリストアップしながら、相談をする。
見たことがない料理や食材の名前が載っていたので、分からないものはもちろんすぐに誰かに聞いた。
フィオラさんに聞くと、今度作ってくれると言っていたので、私も楽しみにしています、と答える。
屋敷の人は皆、私が笑うとほっとしたように笑顔を漏らす。
仕事の手をわざわざ止めてまで答えてくれる。
「心配をかけて、ごめんなさい。」
「いえ、元気になってよかったです!」
リタにも朝謝ると、いつものように元気いっぱいな様子で笑ってくれた。
本当に心配をかけてしまったな……。
リオルさんが言うように、ここ数日は皆が私のことを心配してくれていたことがよく分かる。
だからこそ、私の姿が急に見えなくなった、きっとまた心配させてしまうだろう。
いっそのこと、誰かに話しておいた方が良い気がしてくる。
そう考えると、誰に話すか悩むところだ。
リタは、ないとして、フィオラさんにも言わない方がいいだろう。
となると、クラストさんか、リオルさん。
街へ行き、デットルさんき話すのでもいいかもしれない。
私は、じっと、考えてみる。
「はぁ……ダメだ。」
シーナは、1度息を吐いた。
頭の中でぐるぐると考えていると、また周りの音が聞こえなくなってしまいそうだ。
こめかみの辺りを手でゆっくりと揉む。
座っていた椅子にだらり、と力を抜いた全身を預けた。
これは、そんなに集中して考えるべきことではない。
本当に最近の私は、どうかしている……。
シーナはシンプルに考え、結果クラストさんに話した。
リオルさんは黙っていてくれないだろうし、デットルさんもどうだか分からない。どうしても頼み込めそうなのがクラストさんだったのだ。
クラストさんが一人の時に声をかけ、説明した。
とても驚かれたし、もちろん反対もされたが、私が頼み込むと、しぶしぶと言った様子で頷いてくれた。
ただし、黙っているのはリタやフィオラさんが私がいないことに気付くまでの間だ。
私は、もちろんそれでいいと、承諾する。
後は、明日も夜はとても冷えるだろうから、コートを用意しておく。しっかりと準備はして、備えるのだ。
そして、翌日。
午前中から私は、部屋に籠り、リタ達とは顔を合わせないようにしておいた。私が外に出ても気付かれないように、物音はなるべく立てず、少し頭が痛いので今日は寝ておくと言った。
食事も今日だけは廊下に置いておいてくれるように頼んだ。
結局リタがとても心配してしまったので、心が痛んだけれど……私は、夜まで部屋で過ごした。このままリタが気付かないでいてくれるといいと思いながら。
3の鐘はもう鳴り、今日は皆早く寝たのか、屋敷中がしーんとしている。
まるで、音がこの暗い夜の闇の中に吸い込まれてしまっているようだ。
かけてあったコートをそっと羽織り、足音を立てないように、部屋を出て玄関へ向かう。
明かりは、部屋にあった燭台を1つ持ってきた。
外に出れば、これは精霊達の明かりがあるので必要はなくなるが、廊下は暗いので必要だった。
階段を下りて、静かに玄関の扉を開けると思っていた通り、庭は輝いている。ふっ、と蝋燭の火を吹き消したシーナは扉を閉めて、その横に燭台を置いた。
そして、少し早足で門を抜けると、森へ駆けていった。
空が曇っているため、今日が本当に満月で、あの日なのかだんだん心配になってくる。
時間としては前回より少し遅いくらいだと思うけれど、とても暗いのでわからなくなってしまう。
今日いなかったら、どうしようか……。
本当に、もう会えなくなるのではないか。
そんなことも心の何処かで考えてしまう。
けれど、今は精霊の明かりを頼りに、ただ、歩き続けるだけだ。
木に積もった雪が、まだ、溶けることのない白い雪が、精霊の明かりを反射して輝く。これも、初めて見るこの場所の綺麗な景色だ。
はぁっ、と吐く息の白さや私が通った道にくっきりと残っている足跡。
なにも聞こえない、森。
ガサッと音が聞こえる度にびくりと身を震わせてしまう
少し走りながら、雪に足をとられながら、ずんずんと進んでいった。
やがてシーナは、一際明るい広場へ出る。
大きな切り株、人形をとった小さな精霊達。
そして、切り株の上には1つ人影が見えた。
「シフ……?シフなの?!」
シーナは声をかけながら、近付いていく。
返事は返ってこない。
寝ているのだろうか。
「人~?」
わらわらとシフの周りに集まっていた精霊達が途中で気付き私とシフの間に道を開けてくれる。
「シフ……」
切り株に寝ていたのはシフだった。
ただ、その顔色はまるで死人のように青白く、息をしてるのか不安に成る程静かだった。
シーナはそろそろとシフの手に触れる。
「冷たい……?でも、脈はある……」
どうやら、眠っているだけのようなのだが、それにしては体温が低く、揺すっても起きない。
何故か、脈は正常で、弱くもなかった。
コートも着ていないのに、何故だろうか?
「今ね~、回復中なんだよ!」
「回復?」
私が、動かないでいると、隣にいた精霊がそう、声をかけてくれた。
「うん!疲れちゃったから寝てるの。それだけだよ~」
「ちゃんと、目が覚める?」
「覚めるよ!寝たら起きないとダメでしょ~?」
のんびりとした精霊の話し方に何となく落ち着いたシーナはシフの横に腰を掛けた。
「どれくらいしたら、起きるか分かる?」
「う~ん、分かんない。」
「そう……」
「でもね、いつもはすぐ起きるよ?今回は長いよね~」
「うんうん」
シフが寝るのはいつものこと、それが精霊達の共通認識だ。
一体、シフは何者なのだろう。
本当に可笑しなことばかりだ。
子供のように寝顔はあどけない。
シーナははぁ、と溜め息を吐いた。
少しだけ待ってみよう……。
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