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2章
雪祭りの準備③
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そして、雪祭り3日目の朝。
シフとお祭りへ行く当日だ。
2日目の夜に雪が多く降り積もったため、雪祭りで行われる雪像作りなどで使う雪には何の問題も無さそうだ。
お祭りは滞りなく行われることだろう。
そして、今日の空はまだ、雪は降っていないが、もくもくと分厚い雲に覆われている。
寒さも一段と増し、もしかしたら、歩いている途中で雪が降るのではないだろうか。
そう考えながら、窓を見るとここからでも少しだけ、人が動き回っている様子が分かる。
昨日、少しお祭りを覗いてみたのだが、街の人々が活気付いていた。隣街へ行っていた人達も昨日帰ってきたらしく、何だか人が多く見えた。
それに、雪像や小さな子供達がやっていた雪合戦と言うのも、面白そうだったので、正直に話すと、今日はとても楽しみにしている。
今は、まだ、1鐘が鳴ってからあまり時が経っていないが私は既に着替えと朝食、その他もろもろの準備を終わらせ、部屋でシフを待っていた。
リタに、どう説明するか悩んでいたけれど、幸いにもリタは雪祭り裏方……つまり料理を手伝うことになっているらしく、鉢合わせする可能性は大分低い。
時間も、1の鐘から3の鐘の前までだそうだ。
もう、フィオラさんと共に行ってしまったので、その時間帯に行けば問題ないだろう。
クラストさんにはもう、お祭りへ行くと行ってきた。
「……うん、大丈夫。」
大丈夫なはずだ。
……私は今日、シフに聞くつもりでいる、全てを。
答えてくれないかもしれない。
はぐらかされてしまうかもしれない……。
けれど、やはり聞かなくてはいけないことだろう。
リタにも、真正面から紹介したいし、シフは私の名前も家も知っているのだから、私が聞いてもいいはずだ。
シーナは、1人うんうんと頷きながら、自分を納得させていた。
たぶん、緊張しているのだろう。
シーナは持っていくものを再度確認しながら、うろうろと部屋の中を歩き回った。
身内以外の誰かと外へ遊びに行くなんて、初めてなのだ。
心臓がドキドキしているのも、夜に眠れないのもそういうことだ。
シーナは、何となく心臓の辺りをぎゅっと握りしめた。
そして、はぁ、と溜め息を1つつき、椅子に座り込む。
一度気分を落ち着かさなければいけない。
冷たい空気ですーはーすーはーと深呼吸をすれば、身体中にそれが染み渡り、高揚していたものが少しだけ静まった。
コンコン……。
窓辺から、ノックの音だ。
折角落ち着きかけた気持ちが、一瞬で引き戻される。
深呼吸も今はまるで意味がない。
シーナはゆっくりと立ち上がり、窓をじっと見たまま近付いて行く。
健康に害を及ぼすのではないかと思うくらい高鳴る鼓動がやけにうるさい。
シーナは、勢いよく窓を開ける。
「おはよう!シーナ」
「おはよう……シフ!」
そこには思った通り、笑顔のシフが立っていた。
シーナは、すぐに庭へ降りていった。
「シーナ!今日は待っていてくれてありがとう。……ポンチョを着てみたんだね。とても似合っているよ」
「ありがとう、その……もし良かったらだけど、シフも着ていかない?」
シフは、お祭りの衣装であるポンチョではなく、普通のローブだつたので、シーナは屋敷にある何着かの中から貸そうと思う。
雪の結晶の刺繍だってシーナがやり終えたのだ。
刺繍をした内の大部分はフィオラさんが、シースグリースへと持っていったが、何着かはまだ、残っている。
「……いや、でも」
「大丈夫!屋敷にあるの、余っているものが。だから……」
シフは少し考え、そして、
「じゃあ、借りようかな……!」
少し笑いながらそう言ったシフに、シーナは少し待っていて!とポンチョを取りに走り出す。
「シーナ!ゆっくりで……ゆっくりでいいのに……」
シフが、後ろで何かを叫んだが、それは急いでいるシーナには聞き取れなかった。
ポンチョをまとめて置いてあるのは、私の部屋だ。
シーナは部屋まで走り、ポンチョを1着手に取り、もう一度庭へ走った。
「はい!これ……」
はあはあと息を乱して、シーナは両手でポンチョを差し出す。
「ありがとう。でも……ゆっくり良かったんだ。そんなに急がなくても……」
シフは苦笑しながら、ポンチョを受けとると、ローブを脱いだ。
寒そうなブラウス姿の上から、銀糸で雪の結晶が刺繍された真っ白なポンチョを被る。
シーナと同じものだ。
フードまですっぽりと被ったシフは、
「どうかな?」
「……とても似合ってると、思うわ!……ふぅ」
「それは、ありがとう……それよりも、大丈夫?」
「えぇ、呼吸はもう整ったから。平気よ」
「そうか……じゃあ、そろそろ行こうか?」
「……はい!」
シーナは空気に触れている耳が寒かったので、シフと同じようにフードを被った。
そして、歩き出したシフの後ろに続こうとすると、シフは振り返り、何故かシーナをじっと見た後、手を差し出した。
これを握れと言うことだろうか。
シーナは、軽く小首を傾げながら、手をさまよわせた。
けれど、すぐにその手はシフに捕まり、まるで割れ物でも持ったかのように優しく包まれる。
「道がぬかるんでいるんだ。だから、これで行こうか。」
ね?とでも言うように、にこりと笑ったシフに、シーナもゆっくりと頷く。
満足そうなシフはより笑みを深めると、そのまま前を向いてシースグリースへと歩を進め始めた。
「今日は、何処から行きたい?」
「えっと……そう、雪像が見たい、かな?」
「雪像か……いつも見事なものだよ、あれは。3日目だから、もう、完成してるね」
「うん」
「……じゃあ、最初はそれを見に行こう!」
二人で回る順番を話し合う。
始終とても和やかな雰囲気で、シーナにはとても居心地が良かった。
聞くのは、後ででもいいだろうか。
今はこの空気を壊したくないと、そう思ったシーナは一度目を閉じると、少しの間疑問を全部忘れることにした。
シフとお祭りへ行く当日だ。
2日目の夜に雪が多く降り積もったため、雪祭りで行われる雪像作りなどで使う雪には何の問題も無さそうだ。
お祭りは滞りなく行われることだろう。
そして、今日の空はまだ、雪は降っていないが、もくもくと分厚い雲に覆われている。
寒さも一段と増し、もしかしたら、歩いている途中で雪が降るのではないだろうか。
そう考えながら、窓を見るとここからでも少しだけ、人が動き回っている様子が分かる。
昨日、少しお祭りを覗いてみたのだが、街の人々が活気付いていた。隣街へ行っていた人達も昨日帰ってきたらしく、何だか人が多く見えた。
それに、雪像や小さな子供達がやっていた雪合戦と言うのも、面白そうだったので、正直に話すと、今日はとても楽しみにしている。
今は、まだ、1鐘が鳴ってからあまり時が経っていないが私は既に着替えと朝食、その他もろもろの準備を終わらせ、部屋でシフを待っていた。
リタに、どう説明するか悩んでいたけれど、幸いにもリタは雪祭り裏方……つまり料理を手伝うことになっているらしく、鉢合わせする可能性は大分低い。
時間も、1の鐘から3の鐘の前までだそうだ。
もう、フィオラさんと共に行ってしまったので、その時間帯に行けば問題ないだろう。
クラストさんにはもう、お祭りへ行くと行ってきた。
「……うん、大丈夫。」
大丈夫なはずだ。
……私は今日、シフに聞くつもりでいる、全てを。
答えてくれないかもしれない。
はぐらかされてしまうかもしれない……。
けれど、やはり聞かなくてはいけないことだろう。
リタにも、真正面から紹介したいし、シフは私の名前も家も知っているのだから、私が聞いてもいいはずだ。
シーナは、1人うんうんと頷きながら、自分を納得させていた。
たぶん、緊張しているのだろう。
シーナは持っていくものを再度確認しながら、うろうろと部屋の中を歩き回った。
身内以外の誰かと外へ遊びに行くなんて、初めてなのだ。
心臓がドキドキしているのも、夜に眠れないのもそういうことだ。
シーナは、何となく心臓の辺りをぎゅっと握りしめた。
そして、はぁ、と溜め息を1つつき、椅子に座り込む。
一度気分を落ち着かさなければいけない。
冷たい空気ですーはーすーはーと深呼吸をすれば、身体中にそれが染み渡り、高揚していたものが少しだけ静まった。
コンコン……。
窓辺から、ノックの音だ。
折角落ち着きかけた気持ちが、一瞬で引き戻される。
深呼吸も今はまるで意味がない。
シーナはゆっくりと立ち上がり、窓をじっと見たまま近付いて行く。
健康に害を及ぼすのではないかと思うくらい高鳴る鼓動がやけにうるさい。
シーナは、勢いよく窓を開ける。
「おはよう!シーナ」
「おはよう……シフ!」
そこには思った通り、笑顔のシフが立っていた。
シーナは、すぐに庭へ降りていった。
「シーナ!今日は待っていてくれてありがとう。……ポンチョを着てみたんだね。とても似合っているよ」
「ありがとう、その……もし良かったらだけど、シフも着ていかない?」
シフは、お祭りの衣装であるポンチョではなく、普通のローブだつたので、シーナは屋敷にある何着かの中から貸そうと思う。
雪の結晶の刺繍だってシーナがやり終えたのだ。
刺繍をした内の大部分はフィオラさんが、シースグリースへと持っていったが、何着かはまだ、残っている。
「……いや、でも」
「大丈夫!屋敷にあるの、余っているものが。だから……」
シフは少し考え、そして、
「じゃあ、借りようかな……!」
少し笑いながらそう言ったシフに、シーナは少し待っていて!とポンチョを取りに走り出す。
「シーナ!ゆっくりで……ゆっくりでいいのに……」
シフが、後ろで何かを叫んだが、それは急いでいるシーナには聞き取れなかった。
ポンチョをまとめて置いてあるのは、私の部屋だ。
シーナは部屋まで走り、ポンチョを1着手に取り、もう一度庭へ走った。
「はい!これ……」
はあはあと息を乱して、シーナは両手でポンチョを差し出す。
「ありがとう。でも……ゆっくり良かったんだ。そんなに急がなくても……」
シフは苦笑しながら、ポンチョを受けとると、ローブを脱いだ。
寒そうなブラウス姿の上から、銀糸で雪の結晶が刺繍された真っ白なポンチョを被る。
シーナと同じものだ。
フードまですっぽりと被ったシフは、
「どうかな?」
「……とても似合ってると、思うわ!……ふぅ」
「それは、ありがとう……それよりも、大丈夫?」
「えぇ、呼吸はもう整ったから。平気よ」
「そうか……じゃあ、そろそろ行こうか?」
「……はい!」
シーナは空気に触れている耳が寒かったので、シフと同じようにフードを被った。
そして、歩き出したシフの後ろに続こうとすると、シフは振り返り、何故かシーナをじっと見た後、手を差し出した。
これを握れと言うことだろうか。
シーナは、軽く小首を傾げながら、手をさまよわせた。
けれど、すぐにその手はシフに捕まり、まるで割れ物でも持ったかのように優しく包まれる。
「道がぬかるんでいるんだ。だから、これで行こうか。」
ね?とでも言うように、にこりと笑ったシフに、シーナもゆっくりと頷く。
満足そうなシフはより笑みを深めると、そのまま前を向いてシースグリースへと歩を進め始めた。
「今日は、何処から行きたい?」
「えっと……そう、雪像が見たい、かな?」
「雪像か……いつも見事なものだよ、あれは。3日目だから、もう、完成してるね」
「うん」
「……じゃあ、最初はそれを見に行こう!」
二人で回る順番を話し合う。
始終とても和やかな雰囲気で、シーナにはとても居心地が良かった。
聞くのは、後ででもいいだろうか。
今はこの空気を壊したくないと、そう思ったシーナは一度目を閉じると、少しの間疑問を全部忘れることにした。
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