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1章
精霊眼のもう1つの力
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それから数日。
シーナは毎日、散歩を日課にし始めていた。
息を吐くと白くなるほどに冷たく刺すような空気は、まだ冷え続けている。
デットルさんへの手紙は、結局シフの質問を書かずに春先に手伝いがあるか、と言うものと挨拶だけ送った。
あの日シフが来ていたのならまた、来るだろう。と考え直したからだ。
落ち着いて考えれば、それほど急がなくてもいいのだと。
私はずっとこの地にいるし、シフも初めてあったときにしばらくはここにいると呟いていた。
なので、私は待ってみようと思う。
シーナは庭を歩く。
精霊の数も大分増えてきたように見える。
こんな時期でも咲く花には、すごく違和感があるが、綺麗なことには変わりない。
霜柱をサクサクと踏みながら、門の外へ出る。
散歩コースとしては、街までは降りず森の浅い部分をうろうろするようなものだ。
これと言って決まったことがあるわけではない。その日その日の気分によって、だ。
今日は、特に意味もなく少し遠くまで歩いて、そして、屋敷まで戻った。
「お帰りなさい!シーナ様」
「お帰りなさい」
「ただいま……!リタ、リオルさん!」
「寒かったですよね~。暖炉のない部屋はもう氷室のように、キンキンに冷えきってますから、外なんて……あぁ、寒い!」
「ふふふっ、そこまで寒い訳じゃないわ」
「いーえ!寒いです!」
二人で寒い!寒くない!とふざけた言い合いをする。
楽しいな……!
それを笑顔で見ていたリオルさんが、口を挟む。
「シーナ様、温かい朝食の準備が出来ておりますよ」
「あ、そうでした!冷えてしまうといけないので、早く食べましょう?」
「そうね!」
朝食が用意されているいつもの部屋には、クラストさんとフィオラさんが座って待っていた。
3人も同様に座ると、熱いといってもいいほど温められた料理を、はふはふと食べる。スープは特に体の芯から暖まるような心地がした。
食べ終わるとその日も読み終わった本を持って書庫へ向かう。
これも最近では毎日のことだ。
初めて書庫から持ち帰った本は続編がとても長く、しかもそれは全部揃っているのだ。つい、読み耽ってしまうのも仕方ない。
シーナはルンルン、と跳ねてしまいそうな柔らかい表情で、書庫の鍵をあけた。
たたっと本棚に駆け寄り、手に持っていた本を元の場所に戻す。
そして、元々読もうと思っていた続編を一冊、新しく借りる本をもう一冊、最後には背表紙を見て題名が気になった本を一冊の計3冊を引き出した。
それらを胸に抱え、しっかりと書庫に鍵をかけたシーナは広間に向かう。
なぜ部屋には戻らないかと言うと、そこに暖炉がないからだ。
いや、正確に言えばあるにはあるのだが、そこまで炭を運ぶのはとても面倒だ。しかも、大分古い暖炉で、真っ白な使われた形跡がないものなので、汚したくないと言うのが本音だろう。
その点広間ならば、人が来てもすぐに対応ができ、皆が集まりやすい。と言うことで、広間にだけはずっと暖炉に火が灯っているのだ。
シーナはソファに腰を掛けると、一冊目の本を読み出した。
「シーナ様……」
名前を呼ばれて、シーナがはっと顔を上げると、目の前にはクラストさんが座っていた。そして、テーブルの植えには湯気が立ち上るティーセット。
カップは何個か置いてあった。
クラストさんが、その内の2つを手に取り、紅茶を注ぎながら言う。
「随分と熱心に読んでおられますな」
「はい、とても面白くて……」
「それはそれは、お気に召す本があって良かったです……それに、古代言語の勉強ですかな?」
「勉強と言うか……これは何となく分かるんです。あの、凄く不思議なんですけれど、普通の本と同じように理解出来ると言うか……。」
「そうなのですか!?古代言語が……」
「はい……」
古代言語は昔、本当に遥か昔にこの国で使われていた言語だ。学者の研究で読み方は分かっているが、発音の仕方が伝わっていない言語。ただ、私には何故か分かる。読めるのではなく、何となく伝えたい意味が分かるのだ。
古代言語の本を初めて見たのは、5、6歳頃だったと思うが、その時は、普通の言葉との違いさえも分からないほど、古代言語の意味は明確に伝わるものだった。
それも、古代言語の別名が、精霊言語、と言うからなのだろうか。
詳しい理由は分からないが、私はそう言うものだと割り切っている。
「ふむ……思い出してみれば、奥様も同じようなことを言っておられた気がします。……それも精霊眼に付随するものなのでしょうか?」
「そんな、気がします。」
こんな奇妙なことは、やはり精霊眼が原因だと思う。
精霊が見える。精霊言語が分かる。
うん、とても共通してるような気がする。
大した力ではないが、本を読むのにはとてもありがたい。
「そうですか。……シーナ様は本がお好きでいらっしゃるのですかな?」
「……はい。本はずっと読んだ来ましたから。」
「ふむふむ、なら、私の部屋にも何冊か、ありますので、今度お貸ししましょう。古代言語も少し嗜んでいるので、数冊ありますよ。」
「そうなんですか?!」
古代言語をわざわざ学ぶなんて珍しいと言える。
使う人も少なく、読めても意味のないものを勉強してもためにならないと言う人が多いのだ。
「確か、学び始めたのは奥様の影響でしたか。」
「へぇ~。そうですか。」
「はい……本を読むのは、常日頃からしていたのですが、奥様がお集めになった古代言語の本も読んでみたくなりまして。」
「分かる気がします……」
それから、クラストさんと本についての話をしばらくしていた。
クラストさんは時々お祖母様のことも話してくれたので、とても楽しい時間なった。
どうやら、お祖母様も本が好きで、花が好きで、と私とは大分共通点があるようだ。
話が一段落つく頃には、2の鐘がなった。
クラストさんが、珍しく慌てて仕事に向かっていたけれど、たまには話に夢中になるのも良いのではないだろうか。
昼食はいつもより、少しだけ遅い時間になった。
シーナは毎日、散歩を日課にし始めていた。
息を吐くと白くなるほどに冷たく刺すような空気は、まだ冷え続けている。
デットルさんへの手紙は、結局シフの質問を書かずに春先に手伝いがあるか、と言うものと挨拶だけ送った。
あの日シフが来ていたのならまた、来るだろう。と考え直したからだ。
落ち着いて考えれば、それほど急がなくてもいいのだと。
私はずっとこの地にいるし、シフも初めてあったときにしばらくはここにいると呟いていた。
なので、私は待ってみようと思う。
シーナは庭を歩く。
精霊の数も大分増えてきたように見える。
こんな時期でも咲く花には、すごく違和感があるが、綺麗なことには変わりない。
霜柱をサクサクと踏みながら、門の外へ出る。
散歩コースとしては、街までは降りず森の浅い部分をうろうろするようなものだ。
これと言って決まったことがあるわけではない。その日その日の気分によって、だ。
今日は、特に意味もなく少し遠くまで歩いて、そして、屋敷まで戻った。
「お帰りなさい!シーナ様」
「お帰りなさい」
「ただいま……!リタ、リオルさん!」
「寒かったですよね~。暖炉のない部屋はもう氷室のように、キンキンに冷えきってますから、外なんて……あぁ、寒い!」
「ふふふっ、そこまで寒い訳じゃないわ」
「いーえ!寒いです!」
二人で寒い!寒くない!とふざけた言い合いをする。
楽しいな……!
それを笑顔で見ていたリオルさんが、口を挟む。
「シーナ様、温かい朝食の準備が出来ておりますよ」
「あ、そうでした!冷えてしまうといけないので、早く食べましょう?」
「そうね!」
朝食が用意されているいつもの部屋には、クラストさんとフィオラさんが座って待っていた。
3人も同様に座ると、熱いといってもいいほど温められた料理を、はふはふと食べる。スープは特に体の芯から暖まるような心地がした。
食べ終わるとその日も読み終わった本を持って書庫へ向かう。
これも最近では毎日のことだ。
初めて書庫から持ち帰った本は続編がとても長く、しかもそれは全部揃っているのだ。つい、読み耽ってしまうのも仕方ない。
シーナはルンルン、と跳ねてしまいそうな柔らかい表情で、書庫の鍵をあけた。
たたっと本棚に駆け寄り、手に持っていた本を元の場所に戻す。
そして、元々読もうと思っていた続編を一冊、新しく借りる本をもう一冊、最後には背表紙を見て題名が気になった本を一冊の計3冊を引き出した。
それらを胸に抱え、しっかりと書庫に鍵をかけたシーナは広間に向かう。
なぜ部屋には戻らないかと言うと、そこに暖炉がないからだ。
いや、正確に言えばあるにはあるのだが、そこまで炭を運ぶのはとても面倒だ。しかも、大分古い暖炉で、真っ白な使われた形跡がないものなので、汚したくないと言うのが本音だろう。
その点広間ならば、人が来てもすぐに対応ができ、皆が集まりやすい。と言うことで、広間にだけはずっと暖炉に火が灯っているのだ。
シーナはソファに腰を掛けると、一冊目の本を読み出した。
「シーナ様……」
名前を呼ばれて、シーナがはっと顔を上げると、目の前にはクラストさんが座っていた。そして、テーブルの植えには湯気が立ち上るティーセット。
カップは何個か置いてあった。
クラストさんが、その内の2つを手に取り、紅茶を注ぎながら言う。
「随分と熱心に読んでおられますな」
「はい、とても面白くて……」
「それはそれは、お気に召す本があって良かったです……それに、古代言語の勉強ですかな?」
「勉強と言うか……これは何となく分かるんです。あの、凄く不思議なんですけれど、普通の本と同じように理解出来ると言うか……。」
「そうなのですか!?古代言語が……」
「はい……」
古代言語は昔、本当に遥か昔にこの国で使われていた言語だ。学者の研究で読み方は分かっているが、発音の仕方が伝わっていない言語。ただ、私には何故か分かる。読めるのではなく、何となく伝えたい意味が分かるのだ。
古代言語の本を初めて見たのは、5、6歳頃だったと思うが、その時は、普通の言葉との違いさえも分からないほど、古代言語の意味は明確に伝わるものだった。
それも、古代言語の別名が、精霊言語、と言うからなのだろうか。
詳しい理由は分からないが、私はそう言うものだと割り切っている。
「ふむ……思い出してみれば、奥様も同じようなことを言っておられた気がします。……それも精霊眼に付随するものなのでしょうか?」
「そんな、気がします。」
こんな奇妙なことは、やはり精霊眼が原因だと思う。
精霊が見える。精霊言語が分かる。
うん、とても共通してるような気がする。
大した力ではないが、本を読むのにはとてもありがたい。
「そうですか。……シーナ様は本がお好きでいらっしゃるのですかな?」
「……はい。本はずっと読んだ来ましたから。」
「ふむふむ、なら、私の部屋にも何冊か、ありますので、今度お貸ししましょう。古代言語も少し嗜んでいるので、数冊ありますよ。」
「そうなんですか?!」
古代言語をわざわざ学ぶなんて珍しいと言える。
使う人も少なく、読めても意味のないものを勉強してもためにならないと言う人が多いのだ。
「確か、学び始めたのは奥様の影響でしたか。」
「へぇ~。そうですか。」
「はい……本を読むのは、常日頃からしていたのですが、奥様がお集めになった古代言語の本も読んでみたくなりまして。」
「分かる気がします……」
それから、クラストさんと本についての話をしばらくしていた。
クラストさんは時々お祖母様のことも話してくれたので、とても楽しい時間なった。
どうやら、お祖母様も本が好きで、花が好きで、と私とは大分共通点があるようだ。
話が一段落つく頃には、2の鐘がなった。
クラストさんが、珍しく慌てて仕事に向かっていたけれど、たまには話に夢中になるのも良いのではないだろうか。
昼食はいつもより、少しだけ遅い時間になった。
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