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1章

町長宅にて②

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「では、何故、シーナ様はシースグリースへ来たんだ?」




「私は……父の再婚相手である義母、アーデルリース様に言われて来ました。父に言われて来た訳じゃないんです。」

シーナが質問に答えると、リタもこくこくと頷いて肯定する。
婚約破棄うんぬんは話さなくてもよいだろうと、思ったので、それは言わずに。

「?!……フェレシアーナ様は?」

フェレシアーナ、シーナの実母だ。
シーナは震えを我慢するように少し手に力を入れて、言いにくそうに話す。

「母は……亡くなりました。数年前に流行り病で……」
「……そうか。」
「……」

沈黙に落ちた中で、リタが声をあげる。

「でも、フェレシアーナ様が死んだなんて信じられません!!だって、そう聞かされる前日までは病なんて欠片も似合わない元気なお姿でしたし、亡くなったと言っているのは旦那様だけなんですよ?」
「リタ……」

私は、そう言うリタの肩を叩いて、ゆるゆると左右に首を降る。
とたんにしょぼんと肩を落としたリタ。

「父から、聞いていませんか?」
「あ、あぁ……」
「アークス様からはここ十数年連絡が来ておりません。一番後のは……そう、シーナ様がお生まれになったと言う話で……」

そこで、連絡は途切れている、とデットルさんが言葉を引き取った。


「あの、1つ思ったのですが、デットルさんは、何故、父のことを……?」



まず、それだ。
父について詳しいようだし、ハースカティナ家とどんな関係なのだろうか。

「……俺も、昔はこの地で領主に仕えるいち使用人だったんだよ。町長なんてなくてな、領主の役割が町長だったといってもいい。」
「?!……」
「はい、デットル様は、庭師でした。けれど、あの通り庭はもう手入れなどしなくてもあのままです。」
「本当はフィオラに様付けで呼ばれるのも落ち着かないんだがな……」
「そう、なんですか。」


知らなかった。
考えてみれば、あんなに広い屋敷だ。住む人が多ければ料理人やメイドも必要だろう。屋敷にいるのがナーバスの一家だけと言うのが不自然なのだ。

それに、とにかく、噛み合っていない話が多すぎる。


シーナは大きく溜息をついた。


ここに……ハース領に来てから聞く話は何もかもが耳に新しく、そして、大切なことで、驚くことだ。

ここまで知らないことがあったのか、と。

聞いても聞いても次から次へ、新しいことが入ってくる。
本当に頭が爆発してしまいそうだった。

シーナは悶々と考える。







そして、その横で、

「あの……シースグリースにすんでおられた頃の旦那様はどのような方だったのですか?」
「教えて下さい……。」

リタが、静かにそう聞いた。
それも、私達の認識の違いがある場所だ。
シーナもリタに便乗するように言葉を重ねる。
一瞬迷ったような顔をしたデットルさんとフィオラさんだったが、二人は話し始めてくれた。

「アークス様が幼い頃は、日々部屋に閉じ籠ってばかりだったな。たまに出てきたかと思えば怒鳴り散らす迷惑なガキだったよ。」
「けれど、それは奥様が原因なのです……」
「お祖母様ですか?」

私もリタも首を傾げる。

「二人は、奥方様について何を聞いたんだ?」

聞いたこと、と言えば、精霊眼の持ち主であること。庭の花に精霊魔法を掛け続けられるほどの力があって、骨董品が好きだったこと。くらいだろうか。デットルさんにそう伝えると、

「それは正しい。が、奥方様は、精霊眼で見る世界にちいとばかし、のめり込みすぎた。」
「……どう言うことですか?」
精霊しか見えなくなる・・・・・・・・・・・・。そんな状態だ。アークス様が10かそこらの時は1日の半分以上がそうだった。」

「つまりですね。アークス様が部屋をお出になられるのは、奥様が正常な時だけでした。そして、気を引くために必ず何かをするんです。」

「まあ、家庭環境はお世辞にも良かったと言えないな。でも、アーク様は俺たちの話なぞ聞きもしないし、そのまま育ったあいつはそれはそれは捻くれた奴になったわけだ。」
「人の話を聞かない、我儘で自分勝手な方だったんですが、突然屋敷を飛び出して王都に住み始めたのが、十七、八年ほど前ですかね。」
「あぁ、その頃には奥方様も旦那様も亡くなっていたから、領主の代わりに今町長を俺がやってるんだ。と、言っても、俺は出ていったときは、もう屋敷はいなかったからな。」
「私達が知っているアークス様はこのようなものです。」

時々相槌を打ちながら聞いていたリタと私は今のお父様とのあまりの違いに少し唖然とした。

お父様が我儘?自分勝手?
そんなことはない。
寧ろ、真逆だと言ってもいいほど、懸け離れている。
何故?まるで違う人のように感じる。

「あぁ!!?そう言えば、シーナ様ずっと立ちっ放しではないですか?」

またしてもリタが大きく声を上げる。
そして、あたふたと部屋の外で椅子をもらってくると、私の後ろにちょこんと置いた。

「そう、ね。……リタとフィオラさんも椅子をもらって来て。ずっと立っていてもしょうがないし、話はまだ続くわ。」
「はい……私も気づかなくて、申し訳ないです。」

フィオラさんもたった今気づいたようだ。
かく言う私もずっと立っていたことに気づいていなかったのだから、何を言えたものではない。

「今、人を呼ぶ」

チリンチリンとベルを鳴らして、来たメイドに椅子を頼んだ。
デットルさんはついでに、紅茶と茶菓子も頼んだようだ。

フィオラが失敗なんて、珍しくな。」
「はい、私としたことが、本当に……」

フィオラさんは本気で、やってしまった、と言う顔をしている。

「気にしないでください。とても大切な話だったのですから、気にならなくても当たり前ですよ。」
「はい……今後は気をつけますが、」

フィオラさんが少し落ち込んでいる。
そんなに珍しいことなのだろうか。

と、そうこう話している内に、この家の人達が椅子と、小さめのテーブルに紅茶のセットを出してくれた。
私達はそれをありがたく頂き、次はシーナ達が知る父の話を伝える番だ。
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