婚約破棄された星の娘に精霊王が恋をする

綺羅姫

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1章

町長宅にて①

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食べている間に、2の鐘がなり、昼食を食べに街へ帰って来ていた人々はそれぞれの仕事へと戻って行った。


パンを食べ終えたシーナ達も、町長さんの家へ向かうことにする。

向かう途中の道で、知っておかなくてはいけないこととして、フィオラさんに少し町長さんの話をきいてみた。

まず、町長さんの名前はデットルさん。
とても聡明な方らしく普段は街の役場で采配をふるっているようなのだが、現在は足腰を悪くし、家で休んでいるそうだ。




途中でお見舞いの品も挨拶の品もなしに来てしまったと、気づいたので、シーナ達は道行く間にあったお店で季節の果物を購入していった。






そして、いよいよ町長宅の前。
その家は、およそ街の中心に建っていた。
街全体と同じように白い壁に、他の家2つ分の大きさくらいだ。
屋根は赤く染まっている。

一つだけ看板があるとシフが教えてくれた役場が、家の目の前だったので、足や腰はそんなに悪いのだろうか、と考えつつもシーナはコンコン、とノブで扉を鳴らす。


はぁ~い、と中から間の抜けたような女性の声がした。
すぐに扉が開くと、

「何方ですか……?」

おっとりとした面持ちの美人。
一言で表すとそんな方だ。

淡いストロベリーブロンドはゆるっと結っていて、瞳は赤銅色。泣き黒子が色気をプラスしている。

女性は、私の顔を見て首を傾げた後、後ろにいるフィオラさんを見て、

「フィオラ!?」

何故かものすごく驚いていたような顔で、声を上げ、ピシリと固まってしまった。

「お久しぶりでございます、フランシスカ様」
「……お久しぶり、でございます、ですわ」

……大丈夫だろうか。

動き回るなどではないのだが、そう、心配になるくらいの混乱ぶりが見てとれた。

シーナもリタも何だか分からない。
この場で尋ねても良いものなのか、二人は目で会話をしながら悩んだのだが、結局答えは出ず、誰一人として動かないまま時がたった。






暫くして、フランシスカさんがはっとする。

「どうぞ中にお入りになって下さいませ。」
「はい……あの、こちらをお見舞いに……」

リタが、持っていた果物をおずおずといった感じに差し出す。

「まあ……ありがとうございます。父も喜びますわ」

どうやら、フランシスカさんは  さんの娘らしい。

「それは良かったです。」

フィオラさんが、一声かけるとまた固まりかけるフランシスカさんだったが、今回は何とかといった感じに、そのままはい、と返事をした。
そして、硬い動作で私達を先導しながら、歩いていく。

そろそろ屋敷に入ったのでいい頃合いだろうと、私はフィオラさんに聞いた。

「フィオラさん、フランシスカさんとは……?」
「あぁ、昔、教育係……つまりは家庭教師を務めていたのです。」

フランシスカさんが、ふと思い出すように、

「あの頃は毎日が、大変でした……」

と、呟いた。
フィオラさんは一体どんな教育をしたのだろう……。
聞きたいようで、聞けない。
私とリタはフィオラさんをじっと見る。

「フランシスカ様……今はもう家庭教師ではないのですから、怒りませんよ。」

ガチガチなフランシスカさんを見かねてフィオラさんが声をかける。

「はい……でも、フィオラにはフラン!と呼ばれなくては何だか落ち着かないです。」
「落ち着かなくてはいけませんよ。……貴女はもう立派な貴婦人になったのですから。」
「はい……!父の部屋は此方です。」

フィオラさんが、ふと微笑んでそう言った後のフランシスカさんは心なしか声音が柔らかくなっていた。

でも、本当にフィオラさんの教育が気になるな……。












そして、本命である町長……デットルさんの部屋の前。

「お父様、フランシスカです。お客様がいらしております。」
「……入れ」

その重厚な低い声に、少し緊張する。
シーナは、挨拶のための所作を頭の中から引っ張り出しながら、部屋に足を踏み入れる。

「……初めまして。私はシーナスティア・リード・ハースカティナと申します。先日からシースグリースに住まわせて頂いていますわ。」

優雅で流れるような動きを意識しながら、お辞儀をする。
そして、一呼吸分ほど間を置き、

「本日は挨拶に参りました。デットル様、どうぞ今後ともよろしくお願いいたしますわ。」
「私はシーナスティア様の侍女をしております。リタ・ルグレです。」
「フィオラ・ナーバスです。お久しぶりですね、デットル様。」

「あぁ……アークス様の娘。……それにフィオラ、か。……俺も大分年取ったな。……フランシスカ、少しでていろ」
「はい。」

デットルさんは、ベッドの上に座り、眼鏡をかけた状態で書類を見ているところだった。
白髪に深い青の瞳ながら、とても老人とは思えないほどがっしりとしている人だ。

「……もう知っていると思うが、俺は、この街の町長をしているデットルだ。シースグリースでは、街の景観維持を最近は特にやっている。主には農業をやっている街だ。住むんなら、邪魔はするなよ?」
「しません……!!寧ろ、私はここではやることがないようなので、何かあったらお手伝いしますよ。」
「私も、お手伝いします!!」
「……あぁ、そうか……それは、助かる」

私とリタが、勢いに任せて捲し立てると、デットルさんは気圧されたように、頷いた。

「シーナ様は、アークス様と違って、ひねくれていませんよ。」

ふふふっ、と笑いながらフィオラさんが言う。

「そうだな……いや、俺の悪い癖だ。すまなかったな、少し言い方がきつくなっていた。」
「いえ……大丈夫です。」
「アークス様が、あんなにひねくれちまったのも、ここじゃ、まぁ、仕方ないだろうしな。」





「あの……1つ聞きたいのですが、お父様はひねくれていたのですか?」






「はぁ?」

どうも、私の中のお父様と、デットルさんの中のお父様は違うようだ。
話が噛み合っていない。

「なぁ、あいつはひねくれてたよな?」
「はい、私もそう思って、シーナ様はアークス様の我が儘で追い出されたのだと……」

「いえ、違います。……違うわよね、リタ?」
「はい、違います!」










私達はお互い顔を見合わせた。









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