婚約破棄された星の娘に精霊王が恋をする

綺羅姫

文字の大きさ
上 下
17 / 34
1章

パン屋と子供達

しおりを挟む
3人が一番に向かったのは、先程話していたパン屋であった。

時間帯的にも、もうすぐお腹が空くだろうし、パン屋はシースグリースに一軒しかなく、いつも人が集まるのだそうだ。
道行く途中には、初日に比べたらやはり少ないがちらほらと精霊が飛んでいるのが見えた。

天気が良いので思ったよりも暖かい。



「シーナ様、目は隠さなくてもいいのですか……?」
「えぇ!……だって、これからこのハース領にはお世話になるのだから、ね?」
「……そうですね、」

リタは何処と無く心配そうにしているのを見ると、私も何だか不安になってしまいそうだ。
だが、そんな二人を見たフィオラさんが、にこにこと笑いながら、

「大丈夫です。シースグリースに住む人々は皆、気の良い方ですから。……それに、ここで長く暮らすもので精霊眼を異質視する人はいないと思います……。」
「そ、そうなんですか?!」
「はい、そのまま街を歩けば分かります。ほら……街ですよ!」








シーナ達3人は、人気の多い表通りを歩く。
フィオラさんは、多くの人に笑いながら挨拶をし、時には私達の紹介も混じえてくれた。

けれど、表通りだとやはり好奇の視線が全身にちくちくと刺さるようで幾ばくか居心地が悪い。
かといって、裏通りに入るわけにもいかないとので、私達はこのまま歩き続けた。







「ああー!!見てみて!アーシュ!お星様の目、お星様の目なのよーー!!」
「え?おほししゃま?」

突然少し甲高い大きな話し声が聞こえた。
まだ、小さな子供だ。

きゃーきゃーと騒ぎながら、シーナの足下に寄ってくる。
キラキラと瞳が輝いていてとても可愛らしい姉妹だ。

「お星様の目って……?」

リタが小首を傾げる。

「えっと……フィオラさん、後でリタにも話して頂いてもいいですか?」
「はい、もちろん構いませんよ」
「何の話ですか?」
「ハースカティナに伝わる伝承の話よ」

リタだけが仲間はずれのようで心苦しいので、後で説明してもらうことにした。

「しゅごいのー!!」
「ねぇー!」

フィオラさんは、優し気な笑みを浮かべて、子供達を見ているが、シーナは突然のことに少し慌てながら、周りを走り回る子供達の声を聞いていた。

伝承はシースグリースにも伝わっていることなのだろうか?
こんなに小さな子供達にまで……。

「この子達はメーラの子供なのですよ。上の子がカタルナ、妹の方がアーシュです。」
「カタルナです!!ルナって呼んで~なの!!」
「あーしゅ、れす!!」
「ふふふっ、可愛らしいですね、シーナ様!」
「えぇ……!!」

二人は、薄い茶色のくるん、とした髪に、少し濃い茶色の瞳だ。
お揃いのピンク色のワンピースには袖口などにフリルがついていてとても可愛い。

身長が私の腰くらいまでしかないので、お星様の目を見ようと背伸びをして、それでも足りないのかぴょこぴょこと跳び跳ねている。

子供、小さい子……シーナは王都では、小さな子供と触れ合う機会などなかったのでとても愛らしいその様子に大分驚いていた。

「何歳ですか~?」
「カタルナはね、七歳です!あ、アーシュは五歳なの!!」
「じゃあ、二人ともお母さんのお店まで、案内してくれるかな?」
「「うん!!」」

元気一杯なその姿に癒されつつ、私達はメーラさんが営むパン屋に向かう。












カランカラン。

「いらっしゃいませ~!」

店の扉を開くと、入店を知らせるベルがなる。
店の中は、焼いたパンのほんのり甘い香りが漂っていてて、お客さんも10数人いた。

視線が一斉にシーナの瞳へと向かったところで、シーナは話始める。

「……は、初めまして!暫くここに、この領で過ごすことになりました。シーナスティア・リード・ハースカティナです。以後よろしくお願いします!」

外から見たよりも店内は広く感じられる。
緊張はしたけれど、全部言えた。
一度、シーン、と音が消えたけれど、次第に、よろしくなーと声が大きくなっていき、ここでの挨拶は何事もなく終わった。

そして、次はパンだ。
パンは焼き上がったものから台に乗せられていく。
色々な形のパンが次々に並べられていき、店内にいる客がそれの周りに集まる。

「もうすぐ、木苺ソースのパンが焼けまーす!」

大きく、声が聞こえた。

「おかあしゃん!」
「木苺ソースのパンはとっても美味しいの!!」


ルナとアーシュがにこりと笑ってそう言うので、私とフィオラさんも並べられた商品を吟味しつつ、リタに木苺ソースのパンが来るのを待っていてもらった。

「ルナ達はお手伝いするんだよ!偉いー?」
「えへへー!!」
「とっても偉いですよ!」
「うん!じゃあ、またねっ!!」

二人は、人々の隙間を器用に縫って、店の奥へ入って行った。





そして、買うパンが全て手元に揃うと、私とリタはお会計をするための列に並んだ。フィオラさんには先に外で食べる場所を取っていてもらう。

手元にある紙に包まれたパンはほかほかと温かい。

「あ、この間のお婆さん!」
「買いに来てくれたのかい?」

お店の看板に着いて説明してくれた、あのお婆さんだ。
あの時よりも活気があって、楽しそうでお会計をするために奔走ううしている。

「はい、とても美味しそうですね」
「あぁ、メーラはパンを焼くのだけは上手いんだよ。それにしても、あなた星の瞳だったんだね。初めて見たけれど、とっても綺麗だね」
「あ、ありがとうございますっ……!」

……初めて・・・・
シフは……?
……いや、きっとシースグリースではなく、村の方にすんでいるのだろう。

「また、ご贔屓にしてくれれば嬉しいね。」
「また、来ますよ!」

また、カランカランとなるベルを後ろに、2人は手を振りながらお店を出た。



「リタさん、シーナ様、今日は天気も良いので、広場で食べましょう。終わったら、次は町長の家に……」
「はい、分かりました!」
「はい!!」
「では、広場へ行きましょうか。」









そして、広場でも同じように挨拶をし、3人は美味しくパンを頂いた。
木苺ソースのパンは、あまり高級品の砂糖があまり使われていないため、木苺その物の甘酸っぱさがとても美味しかった。

また、食べたいな、このパンは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

処理中です...