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1章
正体は貴女も知るもの
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リオルさんが優しい声音でそっと話しかけてくる。
「てっきり、シーナ様も知っているものだとおもっていたのですが……アサーク様から、聞かされていませんか?」
「お父様、から……?」
アサークと言うのは父の名だ。
父から聞いたこととなると、心当たりは全くない。
シーナは無言で首を横に振った。
「聞いて、ませんか……」
「ごめん、なさい……」
「何故貴女が謝るのですか?……シーナ様のせいではないのですから、お気になさらないで下さい。」
リオルさんは少し落胆したように、溜息をつくが、すぐに表情を引き締めた。
「なら、説明します……本来ならばシーナ様は知らなくてはいけないことですから。」
何の話だかは分からないが、リオルさんは真剣な表情で口を開いた。シーナはゴクリと息を飲む。
この時期に咲いている少し不思議な花。
その程度だと思っていたのは間違いだったと、これはとても大変なことなのだと、そう思うような雰囲気だった。
「長くなるやもしれないので、一先ず何処かに座りましょう」
私とリオルさんは、屋敷の中でソファのある適当な部屋に入り、向かい合わせで座った。
座ったはいいが、気まずい沈黙が続いている。
「まず……何処から話しましょうか」
リオルさんは腕を組み、踵を一定のリズムで刻んでいる。
少し緊張する雰囲気で、シーナはそっと冷えかけている両手を重ね合わせリオルさんを見た。
リオルさんが問う。
「シーナは奥様のことについて聞いたことはありますか?」
「いえ、ありません……お祖母様のことですよね?父は、家のことを話したがらなかったので……」
シーナは申し訳なく、そう言った。
リオルさんは、私が知らなくてはいけないことだと言うけれど、そんなに大切なことなら何故お父様は話してくれなかったのだろう。
お母様が亡くなってから、私と全く話さなくなったお父様。
私を避けるお父様……。
考えれば考えるだけ悲しくなってしまうので、シーナは意識をリオルさんの話に切り替えた。
「そうですか……。では、初めから話しましょうか。」
「お願い、します……!」
「まず、花の時を戻しているのは精霊魔法です……そして、それをかけたのは奥様。……奥様……メリア様は、『精霊眼』の持ち主でした」
「……!!?」
「驚きましたか?……もう1つ言うならば、その前の旦那様や、もっと前の奥方様も高確率で精霊を持って生まれてきています。」
そんなのは可笑しい。
精霊眼は遺伝しないものだ。
「あり得ない……。」
精霊眼に何のゆかりもない貴族からでも町人からでも本当に突然に生まれてくる存在だと本で読んだことがある。
一族に1人精霊眼を持つ者が生まれてくるのは、2度あればそれこそ奇跡のような確率だと……。
それなのに、目の前にいるリオルさんの目は至って真剣そのものでシーナには嘘を言っているように見えない。
本が間違っているのだとしたら、それも問題だが、あれは今まで生まれた精霊眼の持ち主の確かな記録だ。
「……ーナ……シ……様……シーナ様!!」
はっ、と意識を取り戻すような感覚で、シーナは自分が考え込んでいたことに気付く。目の前には立ち上がったリオルさんが、少し心配そうに目を覗き込んでいた。
「大丈夫、ですか?」
「はい……」
まだ少しボーッとしているようで、頭の中にある話が纏まらない。
「今日はここまでにしておきましょうか?」
「いえ……お願い、します」
私はすーはー、と深呼吸を二度ほどした後、顔を引き締めて、居ずまいを正す。
リオルさんは、ふっと息を吐いてでは、と話を続ける。
「精霊眼を持っていらっしゃったハースカティナの皆様は、ここで生まれ、ここで育ち、そして、ここで死んでいきました。」
リオルさんの説明を今度はしっかりと整理しながら聞いていく。
すると、すぐに分かったこともある。
まず、今はあまり知られていない精霊魔法は口頭でずっとこの地に伝わってきたのだろう。
少しの説明でいきなりな事が多く混乱していた頭も、少し落ち着いて考えればすぐに分かる。
そして、これは、本当に知らないことが多すぎるな、と改めてシーナは思った。
「花には《時の精霊魔法》と言うものがかけられているんだそうです。効果は、先ほども見た通り、時を戻すものです。普段は早朝に花開き、日が沈むと共に蕾になります。ただ、詳しくは分からないのですが、今日のように花が咲かない日もあるのです。」
「それは、花を摘み取ったらどうなるんですか?」
もし、咲いているときに摘み取ったら、それは……もう一度花が生まれるのか。それとも……。
「はい。それは、もう一度咲きます。そして、摘まれた花も消えることはありません。他の花と同じように、花は蕾に戻ります。けれど、水を与えなければ、やがて塵となって消えてしまうのです。」
基本的なものは普通の花と同じ。
ただ時が戻るだけ、か。
それは、大変なことではないだろうか?
例えば、それを花以外にかけたら……。
かけられるかどうかは分からないが、仮にそれが出来たら大問題だ。植物と違い動物には記憶があるので、時を戻した場合それも戻ってしまうのかもしれないが、戻らせずに肉体にだけ精霊魔法を……。
シーナは、何か恐ろしいものの中に足を踏み入れてしまったしまったような気がして、軽く身震いをした。
シーナは一度その考えを頭から振り払い、思い立ったもう1つの疑問もリオルさんに聞いて見た。
「何故……何故、ハースカティナでは精霊眼が受け継がれて来たんですか?」
「それは……ハースカティナ家が星の子であったからです」
星の子……星の娘?
リオルさんはさっきもその言葉を口にしていた。
それは何なのだろう?
「そのことは神話まで遡ることになりますが……?」
どうしますか?とリオルさんが問うた。
きっとこれが長くなる話なのだろう。
1番可笑しな部分だから。
もちろん、私は聞かせてくださいと答える。
「では……話しましょう」
「てっきり、シーナ様も知っているものだとおもっていたのですが……アサーク様から、聞かされていませんか?」
「お父様、から……?」
アサークと言うのは父の名だ。
父から聞いたこととなると、心当たりは全くない。
シーナは無言で首を横に振った。
「聞いて、ませんか……」
「ごめん、なさい……」
「何故貴女が謝るのですか?……シーナ様のせいではないのですから、お気になさらないで下さい。」
リオルさんは少し落胆したように、溜息をつくが、すぐに表情を引き締めた。
「なら、説明します……本来ならばシーナ様は知らなくてはいけないことですから。」
何の話だかは分からないが、リオルさんは真剣な表情で口を開いた。シーナはゴクリと息を飲む。
この時期に咲いている少し不思議な花。
その程度だと思っていたのは間違いだったと、これはとても大変なことなのだと、そう思うような雰囲気だった。
「長くなるやもしれないので、一先ず何処かに座りましょう」
私とリオルさんは、屋敷の中でソファのある適当な部屋に入り、向かい合わせで座った。
座ったはいいが、気まずい沈黙が続いている。
「まず……何処から話しましょうか」
リオルさんは腕を組み、踵を一定のリズムで刻んでいる。
少し緊張する雰囲気で、シーナはそっと冷えかけている両手を重ね合わせリオルさんを見た。
リオルさんが問う。
「シーナは奥様のことについて聞いたことはありますか?」
「いえ、ありません……お祖母様のことですよね?父は、家のことを話したがらなかったので……」
シーナは申し訳なく、そう言った。
リオルさんは、私が知らなくてはいけないことだと言うけれど、そんなに大切なことなら何故お父様は話してくれなかったのだろう。
お母様が亡くなってから、私と全く話さなくなったお父様。
私を避けるお父様……。
考えれば考えるだけ悲しくなってしまうので、シーナは意識をリオルさんの話に切り替えた。
「そうですか……。では、初めから話しましょうか。」
「お願い、します……!」
「まず、花の時を戻しているのは精霊魔法です……そして、それをかけたのは奥様。……奥様……メリア様は、『精霊眼』の持ち主でした」
「……!!?」
「驚きましたか?……もう1つ言うならば、その前の旦那様や、もっと前の奥方様も高確率で精霊を持って生まれてきています。」
そんなのは可笑しい。
精霊眼は遺伝しないものだ。
「あり得ない……。」
精霊眼に何のゆかりもない貴族からでも町人からでも本当に突然に生まれてくる存在だと本で読んだことがある。
一族に1人精霊眼を持つ者が生まれてくるのは、2度あればそれこそ奇跡のような確率だと……。
それなのに、目の前にいるリオルさんの目は至って真剣そのものでシーナには嘘を言っているように見えない。
本が間違っているのだとしたら、それも問題だが、あれは今まで生まれた精霊眼の持ち主の確かな記録だ。
「……ーナ……シ……様……シーナ様!!」
はっ、と意識を取り戻すような感覚で、シーナは自分が考え込んでいたことに気付く。目の前には立ち上がったリオルさんが、少し心配そうに目を覗き込んでいた。
「大丈夫、ですか?」
「はい……」
まだ少しボーッとしているようで、頭の中にある話が纏まらない。
「今日はここまでにしておきましょうか?」
「いえ……お願い、します」
私はすーはー、と深呼吸を二度ほどした後、顔を引き締めて、居ずまいを正す。
リオルさんは、ふっと息を吐いてでは、と話を続ける。
「精霊眼を持っていらっしゃったハースカティナの皆様は、ここで生まれ、ここで育ち、そして、ここで死んでいきました。」
リオルさんの説明を今度はしっかりと整理しながら聞いていく。
すると、すぐに分かったこともある。
まず、今はあまり知られていない精霊魔法は口頭でずっとこの地に伝わってきたのだろう。
少しの説明でいきなりな事が多く混乱していた頭も、少し落ち着いて考えればすぐに分かる。
そして、これは、本当に知らないことが多すぎるな、と改めてシーナは思った。
「花には《時の精霊魔法》と言うものがかけられているんだそうです。効果は、先ほども見た通り、時を戻すものです。普段は早朝に花開き、日が沈むと共に蕾になります。ただ、詳しくは分からないのですが、今日のように花が咲かない日もあるのです。」
「それは、花を摘み取ったらどうなるんですか?」
もし、咲いているときに摘み取ったら、それは……もう一度花が生まれるのか。それとも……。
「はい。それは、もう一度咲きます。そして、摘まれた花も消えることはありません。他の花と同じように、花は蕾に戻ります。けれど、水を与えなければ、やがて塵となって消えてしまうのです。」
基本的なものは普通の花と同じ。
ただ時が戻るだけ、か。
それは、大変なことではないだろうか?
例えば、それを花以外にかけたら……。
かけられるかどうかは分からないが、仮にそれが出来たら大問題だ。植物と違い動物には記憶があるので、時を戻した場合それも戻ってしまうのかもしれないが、戻らせずに肉体にだけ精霊魔法を……。
シーナは、何か恐ろしいものの中に足を踏み入れてしまったしまったような気がして、軽く身震いをした。
シーナは一度その考えを頭から振り払い、思い立ったもう1つの疑問もリオルさんに聞いて見た。
「何故……何故、ハースカティナでは精霊眼が受け継がれて来たんですか?」
「それは……ハースカティナ家が星の子であったからです」
星の子……星の娘?
リオルさんはさっきもその言葉を口にしていた。
それは何なのだろう?
「そのことは神話まで遡ることになりますが……?」
どうしますか?とリオルさんが問うた。
きっとこれが長くなる話なのだろう。
1番可笑しな部分だから。
もちろん、私は聞かせてくださいと答える。
「では……話しましょう」
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