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1章

ハースカティナに伝わる伝承

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それは、遥か昔。
まだ、世界が神々の掌の内で微睡んでいた時のことーーーーーーーーーー










草、木、花、生き物。
世界の全てが神々の箱庭あそびばとして美しい物で満ち溢れていた。

そして、数多に在わす神の中に、太陽の男神シャルトリーラ様、月の女神ルーナマリア様と言う夫婦神がいらっしゃった。
2神は他の神々より一層目を引く、美しい容姿を持っていた。

シャルトリーラ様は輝く黄金の髪に燃え盛る炎の瞳。
ルーナマリア様は月光の色である白銀の髪に水底の瞳。

全ての神は2神が夫婦となることを祝福し、大いに祝う。

天上の神の国も、地上の箱庭あそびばも光で湧きかえり、そこにあった全てのものは、その恩寵を存分に受けることになった。

神々が干渉しなくても、自ら生き続けるための『知恵』を身に付けたのだ。

植物は光から、動物は植物、他の動物から生命の力を移す方法だ。
それによって行き場を失った魂が彷徨わないように、神は魂の輪をお造りになる。

肉体から離れた魂は、空気に、水に溶け、一度無に還るのだ。
そして、また形となって現れた時。



つまり、《精霊》として姿を現した時。



それは創造神様が新たに作られた精霊界へ赴き、また、別の命としてこの世界に舞い戻る。
この繰り返しで世界は成り立ち始めた。

神々は地上に行くことはなくなり、「見守る」と言うことを楽しむようになっていく。




天上の国から箱庭を見ると、生物はそれぞれ新しいものを見つけ神々を驚かせ、楽しませ……その内、ヒトという生き物が、神々と同じように国を作っていった。

神々は、時にヒトを愛し、恩寵を与え、慈しみその生活を見ていた。








そして、時は移ろい、ある時シャルトリーラ様とルーナマリア様の間には玉のような娘子が生まれる。
母であるルーナマリア様のお髪を受け継ぎ、瞳は二神の色を混ぜた紫だった。



またも、祝福に包まれた世界は沸き、新たに作られたものも多くあった。



多大な愛情を注がれた娘の名は「ハースカティナ」。
彼女は星の女神となった。

ハースカティナは、二神の美貌をそのままにとても美しく、気立ての良い、それはそれは優しい女神になっていった。




しかし、ある時ハースカティナは地上に落ちてしまう。
帰り方も力の使い方も分からないハースカティナはしばらく地上をさまよい、そして、倒れ伏してしまった。

誰も、助けてくれない。

ヒトの国はとても苦しい戦争の最中だったのだ。
自分が苦しい中で、誰かを助けようと言うものはいなかった。






そして、もう一つ問題がある。
天上の国と地上の国では時の流れが違うのだ。


地上でハースカティナが一週間、二週間いようとも天上の国ではほんの1分にも満たない。
誰もハースカティナがいなくなったことに気付かなかった。


ハースカティナは神だ。死ぬことはない。

だが、ハースカティナとて家に、家族の元に帰りたいのだ。




ハースカティナは泣いた。
大粒の涙をポロポロと流して、帰りたいと泣いた。

ずっとずっと泣き続けて何日たった頃か、ふと頬に触れるものがあった。



大丈夫?、と……。




それはヒトの青年だった。
流れる涙をそっと拭う優しい手。心配そうに見つめる瞳。

地上で初めて受けた優しさだった。


ハースカティナはその手にすがり付くようにして、また泣く。

家に帰りたいのに帰れない……!
どうしたらいいか、分からない……!

みっともなく、青年に向かって叫んだ。



すると、青年はハースカティナに

「だったら、家に来るといい。」

と、言う。





それから、ハースカティナは、青年と共に暮らすことになる。
けして、楽な暮らしではなかったけれど、ハースカティナは青年のために懸命に働き……そして、いつの日か二人は恋をして、幸せに暮らした。

天上の国に帰りたいと思う気持ちはあったけれど、その悲しみを青年が埋めてくれた。






だが、青年は戦争に駆り出されることになる。
更に激化した戦争に行かなくてはいけなくなったのだ。

ハースカティナは止めたが、これは国の命令だ。
断る訳にはいかなかった青年は行ってしまう。



ハースカティナは再び嘆き悲しむ。

けれど……ハースカティナはそこで諦めなかった。



何か、何か私にも出来ることがあるはずだ。
彼を助けるために、私には使える力があるはずだ、と。



ハースカティナはその方法を見つけることだけに日々を費やし、やがて、その力を見つけた。

ハースカティナの力は、祝福……そして、精霊の力を借りることだった。すぐに、戦場へ向かい、精霊と共にを使い青年を助けたハースカティナ。



兵器などない。剣のみの時代だ。


戦争は見る間に終結した。




そこで、それを見ていた神々は気付く。
あれはハースカティナだ、と。

神々は天上の世界にいるはずのハースカティナを探すが、やはりいない。
そして、あれがハースカティナなのだと確信した神々は……ハースカティナに罰を下さなければならないことに悲しんだ。




ハースカティナはただ一つの箱庭の掟を破った。




シャルトリーラ様もルーナマリア様も言葉にならない嘆きを宛のない嘆きを、後悔をどうにも出来ず、涙を流した。

神の子供は多くない。
何千何万年かに一度生まれるものなので、説明することすら忘れていた。知っていればハースカティナはそんなことをしなかっただろうに……。




彼女は……ハースカティナは「創造神がお作りになったものを故意に壊した」のだ。




神々は、ハースカティナを捕らえに、地上へ向かう。
その表情は悲壮なまま。





突然に、創造神の元へ連れてこられたハースカティナは、訳が分かるはずもなく、周りの神々の言葉を聞き初めて知ったその事実に狼狽えた。

だが、ハースカティナは気丈にも創造神の御膳でこう言った。



「私は、ヒトと婚姻を結びました。今、私のお腹の中には子供がおります……!許しは乞いません……ですが、お願いです。この子を生ませて下さい」




神にとっても創造神は絶対だ。
起きてそのものを知らなくても自分が犯してしまったことを知ったハースカティナはそう願った。
それに、周りの神々も、シャルトリーラ様もルーナマリア様も願った。



創造神は暫し考え、そのままでは・・・・・・ならぬ……と。



その場で罰を下した。

創造神はハースカティナの神核を破壊し、名を奪い、地上に落とす。それは、創造神の与えた恩情であった。

名を失った。
女神でもなくなった。
地上では、5年が経っていた。

何もなくなった彼女は、その足を青年……レオと暮らした家へと向けた。
5年。5年だ。待っているはずもないだろう、と。

それでも、行く場所はそこにしかなかった。
思いの外近かったその場所へ何とか、辿り着いた彼女は……



抱き締められた。




彼だ。
彼女はが愛したレオは、戦争の戦果でその地の領主となり、その場所でずっと待っていてくれた。彼女が分かるように、平民だったレオの家名は「ハースカティナ」だった。



そして、二人は幸せな結婚をした。
大切な子供が産まれた。

自然豊かなその地で、女神だった彼女は、幸せに暮らした。











そして、その裏でシャルトリーラ様とルーナマリア様は密かに彼女へと祝福を渡した。



一つは、後に精霊眼と呼ばれる、精霊に力を貸してもらうための瞳を、彼女の魂のものとした。
これは、彼女の魂が何度無に還ろうとも、彼女の魂を継いだものが誰だかわかるように……。

もう一つは、二人の間に産まれた子に僅かな祝福を……。彼女の子に受け継がれるべきだったものを受け継がれやすくするためのものだった。





二神は娘を見守った。



娘の……娘と娘の愛したものを……二人の命が尽きた後もずっと見守った。

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