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1章

星の下で①

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「貴方は……何?」

その問いに少年とシーナはお互いの存在に気付き、目を合わせた。
そして、少年もシーナも、同時に目を見開いた。

「……君は見える人・・・・なんだ」

信じられないものを見たような顔で、階下の少年は言った。
でも、その気持ちはシーナも同じだ。
予想していたとはいえ、自分以外に初めて見たその瞳には、十二分に驚いている。

紫。
よく見ると、私よりも少し色が濃いのだろうか。

見つめ合う少年に、分かりきっていることだけど、シーナは問う。
さっきのように間違えないで、言葉選びは慎重に。

「貴方も、見えるの?」
「……うん。」

少年が頷く。
視線を合わせていると、絡め取られるような、心臓が捕まれたような落ち着かない不思議な心地になる。
私と同じ瞳。

お互い何も言わなかった。
でも、言いたいことは分かる。


……話したい。


シーナはそっと窓枠から手を離し、扉を開け放つと駆け出した。

後ろから、リタが、

「え、シーナ様!?何処へ!!?」

と言う声が聞こえたが、それに返事はしなかった。

ただ、走る。
一歩、また一歩と踏み出すごとに心臓は早鐘を打つようだった。

初めての見える人。
あの美しく幻想的な世界を共有できるかも知れない人。
期待で膨らむ胸をそっと抑えて……。

シーナは庭へ走った。











「やっと、見つけた。君だったんだ……僕の……」






庭にたどり着くと、その少年はまだ、精霊に囲まれていた。
はぁはぁ、と息を切らせ、膝に手を付く。
体力がほとんどないので少し動いただけでこの様だ。
顔を上げ、少年はそっと見る。

少年は、まるで人間ではないみたいに、整った容姿をしていた。
すっと通った鼻筋に、紫の光を称える切れ長な瞳。
後ろ姿よりもずっと大人びているように感じる。

周りにいるのは精霊だけど……少年自身が光っているようで、シーナには神々しい存在に見えた。

少年が微笑んだ。

「ねぇ……君の、名前は?」
「私は、シーナ、シーナスティア……」

その瞳をじっと見ると、少年も見返してくる。

瞳を見ている間だけは時が止まっているようで、息をしているのかどうかすら分からなくなりそうだった。

走ってきたせいなのか、そうじゃないのか。
ドキドキする心臓を服の上からぎゅっと押さえて……。

「貴方の……名前は?」
「僕?僕は……シフって呼んでよ。」
「シフ……さん?」
「ううん、さんはいらない。敬語もいらないよ」
「……分かった……、シフ……」
「うん……!シーナは、今日ここへ、この町へ来たの?」

シーナはこくん、と頷く。
そうすると、何を思ったのかシフが悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「じゃあ、いいものを見せてあげよう。シーナは丁度いい日に来たね。」
「え、あ、あの……」

ずんずんとシーナに近付いてきたシフは、その手を取ると、門を開け外に連れ出した。シフの周りにいた精霊達も彼についてくる。

どうして、屋敷の庭に?
その眼は?

聞きたいことは色々ある。

でも、それと同時に、勝手に屋敷を出てしまったことや、手を繋いでいることがぐちゃぐちゃに混ざって意味のある言葉にならないどころか、考えもまとまらなかった。

「大丈夫、すぐ近くだよ。」
「…………はぃ」









結果、私は大人しくシフに着いていくことにした。
悪意があるようには見えなかったし、優しそうな人に見えたからあまり怖いとは思えなかった。
身長は私より少し高いくらい。
笑顔で手を引くシフは、私と同じ……同じ瞳を持っていたから。

付いて行こうと思った。

シフは屋敷から道を外れて、木々の中を歩いていく。
少し凸凹した道も、支えながら進んだくれたので苦にはならなかった。


そうして、しばらく歩むとなにもない開けた丘に出た。

「ここだよ!」

シフは微笑みながら前の方を指差した。
ゆっくりと指の先を見ると……そこには、1つの大きな切り株とその周りに6つ小さな切り株があった。

大きな切り株はシーナとシフが大の字で寝てもまだ、余るくらいの大きさで、小さな切り株は椅子くらいの物だ。

そして、その開けた場所だけが、季節外れな青々とした芝生が生い茂っていた。

「すごい……」

そこだけが、違う世界にすら見える。
引かれて歩くだけだったのが、自然とその何処か不思議な場所に自ら進むようになる。

横でシフが笑っているようだけど、シーナの目はその世界に釘付けだった。

そして、木々を抜け、一歩踏み出すと、

「あなただれ~?」
「しらないひと~」
「クスクス……あたらしいひと~?」


騒めき。
小さな子供の声のような、囁く女性の声のような……。
嫌な雰囲気ではないのだけれど、姿が見えなかいせいか不安が足元に寄ってきた。

「これも、精霊だよ」
「ひゃっ!?」
「ごめん、驚かせた?」

集中していたからなのか、隣にシフが来ていることに気付かなかった。息がかかるほど耳の近くで急に話すものだから、思わず声が出てしまう。

シフは笑いながら、シーナを見ていた。

「高位の精霊になるほど、形のある姿になるんだ。そして、意思も持つようになってくる。」
「し、シフ……。」
「ん、何?」

「……あ、あんまり耳元で、話さないで」
「あははっ、ごめん。シーナが可愛い反応するからさ」
「うぅ……」

顔に熱が集中してくるのが分かる。
シフはシーナの耳にふっと息を息をかける。

「もうっ!!」
「あははははっ……やっぱり可愛い。」

もう辺りは暗いのでこの赤い顔もシフには見えていないといいのだけれど……。
シフはと繋いでいない左の手でそっと?茲を扇ぐ。

「かわいい?……かわいー!」
「おんなのこ、なの?」
「おんなのこ、つれてきたー!」

シフが言う高位の精霊が再びざわざわと声をあげる。


「出ておいで……シーナに姿を見せてやって」

シフが辺りに、そう、声をかけると暗かった切り株の所からちらほらと光が見え始めた。
いつも見ているものよりも大きく、その真ん中には精霊、というよりはお伽噺の妖精のような姿の小さな生き物がいる。

後ろの木々が透けて見えるほどの薄い羽根が2枚ずつ生えていて、身長は10㎝もないくらいだ。

皆様一様に白く輝く服を身に纏っている。
服の形、男女の姿形、金銀の髪の長さや色の濃さ、髪型はそれぞれで……。





くりっとした瞳は皆一様に、紫だった。



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