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1章
星の下で②
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「シフが、見せたいものは……。」
この子達?、と続けようとするが、それはシフに遮られる。
「いや、精霊じゃないよ。……僕が見せたいのは、これだよ。」
そう言うと、シフは上を向いた。
シーナも釣られるように上をみる。
息を飲むほど壮大で……言葉では、とても言い表せない。
「今日は満月だ。……これだけでも幻想的な光景だけど、もう少し見ていて……。」
手が届きそうなほど大きい満月。
その模様までくっきりと見えるほど、明るく輝いている。
美しい、そんな言葉では足りない。
もっと、もっと当てはまる言葉は……そう、「清らか」。
月に清らかなんて可笑しな感想だ。
でも、どう考えてもその言葉が当てはまる。
何にも汚されることはない、孤高の光。
太陽のように全てを焼き付けるような、そんな強いものではないけれど、懸命に輝こうとしている。
そして、そんな満月からは少し離れた位置から何千、何万と言う星が散らばっている。
近くにある星は満月の光で見えなくなっているがそれでも、数えられないほどの数。星は光を纏っている。
ほぅ、と息を吐きながら見とれる。
「ほら、こっちに来て。ずっとそのままで煎ると首を痛める。」
シフはシーナの手を引いて、大きな切り株に腰をかける。
シーナはその切り株に座るのを躊躇った。
「どうしたの?」
「えっと、この切り株は……なんだかすごいもののような気がしてしまって……。」
「切り株が?」
「……うん。こんなにたくさんの精霊に囲まれて、この切り株は何千年生きてたのかなって考えてしまうの。」
シーナは呟くようにそう言った。
「そっか……」
何故だか俯いたシフにシーナは、「やっぱり変な考えだろうか。切り株は切り株なのに、」と思う。
少しだけしょんぼりしながらシフに声をかける。
「……あの、シフ?」
「……ふふ……ははっあはははははっ!!!」
「え?シフ?どうしたの?」
シフは何故か思いきり笑いだした。
え?えっ?……どうしてよいか分からず、シーナは頭の上にはてなマークを浮かべる。
私、何か面白いこと言ったかな?
「笑ってるー」
「面白い?面白いー?」
精霊達も楽しそうに飛び回り始めた。
「そうだね、これは精霊たちにとって、とても大切な木だったんだ。だから今もここにはこんなにたくさんの高位精霊がいる。」
シフは切り株の断面に片方の手を滑らせた。
「触ってみて……」
まだ少し笑いながら、シーナの手も誘う。
「ふわぁぁ……。」
手触りはざらざらとした木そのもの。
だけど、普通の木と違うのはその温度だ。
人肌か、それより少し低いくらいの、この肌寒い秋にはぴったりの温度。
「うん。温かいんだ。」
「木が温かいなんて、不思議……何故?」
「精霊達のおかげだよ。この木はずっと精霊と共に育ってきた木だったから精霊の力が通りやすい。だから、皆が温めてくれたんだ。」
「精霊が?」
「うん、高位の精霊は力が使えるんだよ。シーナ、ほら」
せっかく精霊が温めてくれたのだから、とシフが自分の隣を満面の笑みで、ポンポンと叩く。シーナは精霊の顔とシフと切り株を交互に見回して……そして、ちょこんと浅くシフの隣に座った。
すると、
「うわぁ!?」
ぐいっと肩を押されて、気づいたら見えているのは夜空だ。
思わず声が出てしまったけれど、シフの行動はこれで止まらない。
「シフ!!靴は脱がさなくていいから!!」
「いやいやー、履いてたら寛げないから!」
シーナはジタバタと暴れるが、シフはそれを意にも介さず笑いながらシーナの靴を取ってしまう。
「仲いーのー」
「ねー……クスクス」
精霊は笑いながら見ているだけで、助けてくれる訳がない。
シフも口調からしてからかってる!!
「ちょ、本当に待っ……」
「待たないよー、ほら終わった!」
シーナの靴を切り株の横に揃えて置く。
「なっ!!」
「ほらほら、上向いて上!」
シフは自分の靴もささっと脱ぐと、隣に寝っ転がった。
「あと少しで見れられるものがあるんだ。だから、このままでいて……」
シーナとシフはそっと空を見上げた。
どれ程だろう、空を見上げていたのは。
まだ、1分しか経っていないようにも感じるし、もう1時間経ったのではないかと感じるような。
二人とも一言も話さずに、ただずっと月を……星を見る。
いつの間にか精霊の騒めき声も止んでいて、辺りはとても静かだった。
なんて言うのか……心地よい静寂だ。
緊張感があるものではなくて、お互いリラックスしているのが分かる。
突然。ゆらり、と空が揺らぐ。
蜃気楼のように、はっきりしない突然のことに、シーナは目を擦り瞬きを繰り返す。
「大丈夫、そのまま見ていて」
夜空は、そのまま揺れて、揺れて……穴が空いた。
いや、穴と言うか……光の束?
ううん、やっぱりこれは光の穴だと表現するのが正しい気がする。
二人の真上に現れた、直径5メートルほどの大きな光の穴は少しずつ広がってるように見える。
そよ風のように優しい風が吹いている。
もう夜なのでそれだけでも少し寒いけれど、この切り株のおかげでだいぶ温かく感じた。
これは何、と聞こうとしてシフの方を向きかけたその時、
「じかんだー!!」
「ばいばーい、またね~」
「かえろ~、おうち」
精霊が、一斉に飛び立った。その光へ向かって。
「これは、世界の境界。精霊界とこの世界を繋ぐ道なんだ」
「道?それじゃあ、精霊たちは自分の家に帰って行くのね……」
「そう、道だよ。満月の夜だけ……精霊は自分の世界に戻っていくんだ。」
その声の響きは何故か、少し悲し気だった。
シーナは強くなっていく光をずっと見ていた。
精霊が帰っていくのをずっと見ていた。
そして、月も、星も、私たちでさえ飲み込んで、連れ去ってしまいそうな勢いで広がっていく穴はやがて直視出来ないほど眩しくなっていく。
薄く目を開けて、最後まで見ていようとしたけれど、シーナはあまりの眩しさに目を閉じた。
この子達?、と続けようとするが、それはシフに遮られる。
「いや、精霊じゃないよ。……僕が見せたいのは、これだよ。」
そう言うと、シフは上を向いた。
シーナも釣られるように上をみる。
息を飲むほど壮大で……言葉では、とても言い表せない。
「今日は満月だ。……これだけでも幻想的な光景だけど、もう少し見ていて……。」
手が届きそうなほど大きい満月。
その模様までくっきりと見えるほど、明るく輝いている。
美しい、そんな言葉では足りない。
もっと、もっと当てはまる言葉は……そう、「清らか」。
月に清らかなんて可笑しな感想だ。
でも、どう考えてもその言葉が当てはまる。
何にも汚されることはない、孤高の光。
太陽のように全てを焼き付けるような、そんな強いものではないけれど、懸命に輝こうとしている。
そして、そんな満月からは少し離れた位置から何千、何万と言う星が散らばっている。
近くにある星は満月の光で見えなくなっているがそれでも、数えられないほどの数。星は光を纏っている。
ほぅ、と息を吐きながら見とれる。
「ほら、こっちに来て。ずっとそのままで煎ると首を痛める。」
シフはシーナの手を引いて、大きな切り株に腰をかける。
シーナはその切り株に座るのを躊躇った。
「どうしたの?」
「えっと、この切り株は……なんだかすごいもののような気がしてしまって……。」
「切り株が?」
「……うん。こんなにたくさんの精霊に囲まれて、この切り株は何千年生きてたのかなって考えてしまうの。」
シーナは呟くようにそう言った。
「そっか……」
何故だか俯いたシフにシーナは、「やっぱり変な考えだろうか。切り株は切り株なのに、」と思う。
少しだけしょんぼりしながらシフに声をかける。
「……あの、シフ?」
「……ふふ……ははっあはははははっ!!!」
「え?シフ?どうしたの?」
シフは何故か思いきり笑いだした。
え?えっ?……どうしてよいか分からず、シーナは頭の上にはてなマークを浮かべる。
私、何か面白いこと言ったかな?
「笑ってるー」
「面白い?面白いー?」
精霊達も楽しそうに飛び回り始めた。
「そうだね、これは精霊たちにとって、とても大切な木だったんだ。だから今もここにはこんなにたくさんの高位精霊がいる。」
シフは切り株の断面に片方の手を滑らせた。
「触ってみて……」
まだ少し笑いながら、シーナの手も誘う。
「ふわぁぁ……。」
手触りはざらざらとした木そのもの。
だけど、普通の木と違うのはその温度だ。
人肌か、それより少し低いくらいの、この肌寒い秋にはぴったりの温度。
「うん。温かいんだ。」
「木が温かいなんて、不思議……何故?」
「精霊達のおかげだよ。この木はずっと精霊と共に育ってきた木だったから精霊の力が通りやすい。だから、皆が温めてくれたんだ。」
「精霊が?」
「うん、高位の精霊は力が使えるんだよ。シーナ、ほら」
せっかく精霊が温めてくれたのだから、とシフが自分の隣を満面の笑みで、ポンポンと叩く。シーナは精霊の顔とシフと切り株を交互に見回して……そして、ちょこんと浅くシフの隣に座った。
すると、
「うわぁ!?」
ぐいっと肩を押されて、気づいたら見えているのは夜空だ。
思わず声が出てしまったけれど、シフの行動はこれで止まらない。
「シフ!!靴は脱がさなくていいから!!」
「いやいやー、履いてたら寛げないから!」
シーナはジタバタと暴れるが、シフはそれを意にも介さず笑いながらシーナの靴を取ってしまう。
「仲いーのー」
「ねー……クスクス」
精霊は笑いながら見ているだけで、助けてくれる訳がない。
シフも口調からしてからかってる!!
「ちょ、本当に待っ……」
「待たないよー、ほら終わった!」
シーナの靴を切り株の横に揃えて置く。
「なっ!!」
「ほらほら、上向いて上!」
シフは自分の靴もささっと脱ぐと、隣に寝っ転がった。
「あと少しで見れられるものがあるんだ。だから、このままでいて……」
シーナとシフはそっと空を見上げた。
どれ程だろう、空を見上げていたのは。
まだ、1分しか経っていないようにも感じるし、もう1時間経ったのではないかと感じるような。
二人とも一言も話さずに、ただずっと月を……星を見る。
いつの間にか精霊の騒めき声も止んでいて、辺りはとても静かだった。
なんて言うのか……心地よい静寂だ。
緊張感があるものではなくて、お互いリラックスしているのが分かる。
突然。ゆらり、と空が揺らぐ。
蜃気楼のように、はっきりしない突然のことに、シーナは目を擦り瞬きを繰り返す。
「大丈夫、そのまま見ていて」
夜空は、そのまま揺れて、揺れて……穴が空いた。
いや、穴と言うか……光の束?
ううん、やっぱりこれは光の穴だと表現するのが正しい気がする。
二人の真上に現れた、直径5メートルほどの大きな光の穴は少しずつ広がってるように見える。
そよ風のように優しい風が吹いている。
もう夜なのでそれだけでも少し寒いけれど、この切り株のおかげでだいぶ温かく感じた。
これは何、と聞こうとしてシフの方を向きかけたその時、
「じかんだー!!」
「ばいばーい、またね~」
「かえろ~、おうち」
精霊が、一斉に飛び立った。その光へ向かって。
「これは、世界の境界。精霊界とこの世界を繋ぐ道なんだ」
「道?それじゃあ、精霊たちは自分の家に帰って行くのね……」
「そう、道だよ。満月の夜だけ……精霊は自分の世界に戻っていくんだ。」
その声の響きは何故か、少し悲し気だった。
シーナは強くなっていく光をずっと見ていた。
精霊が帰っていくのをずっと見ていた。
そして、月も、星も、私たちでさえ飲み込んで、連れ去ってしまいそうな勢いで広がっていく穴はやがて直視出来ないほど眩しくなっていく。
薄く目を開けて、最後まで見ていようとしたけれど、シーナはあまりの眩しさに目を閉じた。
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