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 カイがギルド長の部屋へとたどり着く。
 そして、ゆっくり扉を開くと中から声が聞こえてくる。


「誰だ?」


 その声はギルド長のものでどうやら部屋は暗くしていたものの中にいたようだった。
 暗殺を警戒してのことか、それとも――。

 とにかくこのままジッとしているわけにも行かないのでカイの方も声をあげる。


「俺です……」


 その声を聞いてギルド長は驚きながらも安心した表情を見せる。


「なんだ、殺しの冒険者きみか……」
「あぁ、すこし聞きたいことがあってな。ただ、これはどういう状況なんだ?」
「ちょっとな、命を狙われそうな出来事があったから警戒しているだけだ。それよりも君の方こそ珍しいじゃないか。直接のやりとりはなしじゃなかったのか?」


 すこし疑っているのだろうか?

 カイはちょっと警戒しながら様子をうかがう。


「もちろん今でも直接のやりとりは避けたいんだがな。仕事柄あまり人と会うのはよくない」
「君ほどの実力があれば問題ないと思うんだがな。それよりも雑談しに来たわけじゃないんだろう? 本題に入ろうか」
「あぁ、まずは誘惑ハニートラップに依頼した件だな。これはあくまでも確認だが」
「それは私が依頼した。さすがに相手が正体不明となると君一人では少々大変じゃないかと思ってね」
「それはわかった。それじゃあ、次だが、同じ依頼を正義の味方と強欲にもしていないか?」


 カイは鋭い視線をギルド長に向ける。
 すると彼は降参したように両手を挙げる。


「まいったよ。君には誤魔化すこともできないみたいだな。それも間違いない。私が依頼したよ」
「なるほどな……」
「大丈夫だよ。君が既に動いていることは伝えてあるからね。」


 にっこり微笑むギルド長。
 普通ならこの笑みにだまされるのだろう。

 ただ、カイは依頼の内容を知っている。
 そこには間違いなくカイ自身のことは書かれていなかった。

 このギルド長……やはり食わせ物だな。
 
 もしこの場でそのことを追求したらどうしてその暗殺者達しか知らないことを知って言うのかと言ってくるのだろう。

 素直にその言葉通りに受け取るわけにはいかないな。

 一応釘だけは刺しておこう。


「まぁ、いくらそう書いてくれていても相手は暗殺者だからな。邪魔だと思ったら消そうとしてくるだろう。俺の方も十分警戒しておくよ」
「そうか、迷惑をかけるな……」
「それじゃあ俺は行くぞ……」


 それだけ伝えるとそのままギルド長の部屋を出ようとする。
 その瞬間に後ろから殺気を感じて体を横に躱す。

 すると今まで俺の体があった場所を一本の剣が通り過ぎていった。

 ただ、致命傷にはならない場所だ。
 つまり何か探るためにしたと考えるべきだろうな。

 当然ながら面白いものではない。
 カイはギルド長を睨みつける。


「あぁ、悪いね。もしかしたら君に化けた誰かかと思ってね。この攻撃を躱すと言うことは本人で間違いないようだね」
「……次やったら殺すぞ?」
「あはは……、注意しておくよ」


 笑い声を上げるギルド長。
 どうやら本気にはしていない様子だった。

 ただ、これだけ警戒している相手をやるのは少々骨が折れるな。
 少し様子を見て油断をしてくれるタイミングを探るしかなさそうだ。

 カイは部屋を出るとすぐ隣の部屋に入る。
 誰の部屋かはわからないが、ギルド長の様子を探るにはこれが一番に良いからな。
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