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間話 チート勇者の冒険記 セレティア編

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 ぼくらは迷宮走破後本来の目的であったセントの街にやってきた。さすがにチート能力を持っていても疲れた……早速宿屋を探すことにする。

「お兄さん、今ならうちの宿屋は3人で銀貨6枚だよ!」

「お兄さんお兄さん! 俺の宿屋なら銀貨5枚に負けてやるよ!」

「なに! ならばこちらは銀貨4枚と銅貨50枚だ!」

「こっちは銀貨4枚枚にしてやるぞ!」

 何故か向かい合うように宿屋があってそこの主人と思われる人らが僕らを巡って激しい値下げ合戦を繰り広げていた。しかし、ここの宿屋は少し割高なんだな。今までは1人銀貨1枚の宿屋だったのだけれど……

 僕らが呆然としながら激しい値下げ合戦を見ているとそこに人が集まってくる。そして値下げ合戦が段々殴る蹴るの喧嘩に発展していくと「やってやれ!」だの「そこでパンチだ!」だの周りの人がどんどんと煽るようになってくる。
 僕は近くのおじさんに「なんで誰も止めないのですか?」と尋ねると「これがここの名物だからね。これを見るためにわざわざここの宿に泊まってる人もいるんだよ。」ということらしい。当然僕らはこの喧嘩を見に来た訳ではないのでおじさんに「他の宿屋はないですか?」と聞いて新しい宿を紹介してもらった。そして僕らはこの場を後にしてそこの宿屋を目指した。
 ちなみにこの喧嘩は僕らが去った後も続いていたらしい。





 おじさんに紹介してもらった宿は普通の宿だった。1階は酒場を経営しているらしく朝晩はそこで食べてくれとのことだった。僕らは早速晩ご飯を食べているとここでも客同士の喧嘩が始まっていた。どうしてこの街はこうも喧嘩が多いのだろう?僕らには被害が及んでないからいいけど……

「こんばんは、可愛いお兄さん。こんな光景みるのは初めてかい?」

 僕らに声をかけてきたのは長い赤髪をした色っぽいお姉さんだった。そのお姉さんが妙に色っぽいのはどうやら着ている服のせいだろう。黒いマントを羽織っていたがその下は大胆に胸元を開けたワンピース。しかも下のスカート部分も膝上10㎝以上のミニスカートだ。
 ちょっと、イバルさん! 鼻の下伸びてますよ。ミュリはミュリでお姉さんと自分の胸を見比べてブツブツ言っている。確かにお姉さんは凄く大きい。でもミュリも結構大きいほうだよ。胸ない人に怒られるよ。

 そしてお姉さんは僕らが座っていた4人掛けテーブルの空いている椅子に腰掛ける。目は完全に僕の方に向いていた。なんか獲物を見つけた野獣の目みたいで嫌だな。

「ここの前寄った宿屋の前で一度見ました。ここってなんでこんなにも喧嘩が多いのですか?」

 僕の率直な疑問にお姉さんは少し悩み、そして答えてくれた。

「ここが少し前まで荒くれ者が多く住む街だったのが影響してるのかもね。あたしも詳しくは知らないのだけど……」

 どうやらお姉さんもこの街の人間ではないみたいだ。なので噂で聞いた程度しか知らないらしい。

 しかし、この人を見てると何故か日本にいた記憶が思い浮かぶ。僕にも姉さんがいたんだよな。
 姉さんは今時の大学生でこの人みたいに胸元の開いた服をよく着ていたっけな。それで僕が召喚される前は確か……

「痛っ!」

 何故か急に頭痛がし、頭を抑える。その僕の声にお姉さんやミュリ、イバルさんまでもが心配してくれるりその頭痛はすぐに引いたので大丈夫だろう。

「ごめんなさい。別になんともないので大丈夫です」

 僕はみんなに謝り、なんともないことをアピールした。しかし、僕は転移前は何をしていたのだろう?昔のことは覚えているのに転移直前のことが全然思い出せない……今も無理に思い出そうとしたら急に頭痛がした。あまり無理に考えない方がいいかもしれないな。
 気をとりなおしてお姉さんとの会話を再開する。そう言えば自己紹介すらしてなかったことを思い出し、僕らは自己紹介をした。そして、お姉さんの番になる。

「あたしはミナリナーゼ・イストバルス。ミナって呼んでくれ。一応魔術師をやってる。よく戦士に間違えられるけど、魔術師だぞ! わかったか?」

 ミナが有無を言わせない雰囲気なので、僕らは頷くしかなかった。そして、ミナは迷宮都市に向かっているらしい。そこそこ優秀な冒険者なら迷宮に入ったほうが稼ぎがよくなるのだ。そして迷宮都市なら幾つも迷宮があり、自分のタイプに合ったものが選べるかららしい。ただ、今はどうするか迷っているみたいだ。なんでか尋ねてみる。

「今は迷宮都市のセレティア王国とブラーク王国の戦争な始まったみたいなんだ。迷宮都市には行きたいけど戦争には巻き込まれたくないからさ。今はここで待ちぼうけなんだよ」

 戦争ってあの戦争だよな?人の命の奪い合いの……この世界でもよくあるものなのかミュリに尋ねた。すると「大国同士の戦争は私の知る限りではここ数十年は起こってないはずです」とのことみたいだ。魔王がいる世界なのだ。魔王と敵対する国同士が自分達で自分達の戦力を削ってどうするのだ! これはなんとか止めないとダメだな。そう決意するが、迷宮から出たばかりの僕らなのだ。なので今日1日はゆっくり休むべきだろう。ミュリとイバルさんには明日からセレティア王国に向かうとだけ伝えておく。賢い二人なら僕が何しに行くのか理解してくれるだろう。
 ただ誤算だったのはミナも一緒にくると言ったことだ。やっぱり迷宮都市には行きたいみたいだ。戦力になる人が増えるのは歓迎だ。戦争中の国に行くのだから……





 そして翌朝からセレティア王国に向かうこと2週間、僕らはセレティア王国に着く。途中の魔物とかは僕のチートで軽く倒していた。殆どの敵が一撃なので特に語ることもなかった。
 街の中に入ると早速王城に向かおうとする僕らだったが、その途中でものすごい音の爆発音が聞こえる。

「なっ、なんだ!」

 イバルさんが驚いて声をあげていた。他にも声はあげてないがミュリやミナも十分驚いていた。とりあえず何かあったのかもしれないので爆発の場所までは先に僕が先行する。場所がわかってるのなら僕が飛ばして行ったほうが速いからな。
 そして、ミュリ達は後からでいいから怪我をした人達の治療をしつつこちらに向かって欲しいと伝えておいた。その際にミュリから「気をつけてください」と言われ、少し気を引き締めて爆発のあったほうに向かう。

 建物の上からその位置を見下ろすと、そこにいたのは二刀流の男と拳で戦っている角の生えた男。魔族がこんなところにまで侵入していたのか? 魔族と相対していたのはこの国の人だろう。五大国家会議で見た覚えがある。攻撃自体は魔族の男が押されているように見えるが二刀流のほうも致命傷を与えられないのだろう。
 でも、その二人を囲むように兵士が配置された時、これで決まりかと思ったが、魔族の方はまだ何かを隠しているようだった。顔にはまだ余裕が見えていたからだ。そして案の定魔族の男は何か詠唱を開始する。多分先ほど爆発音からして爆発の魔術だろう。二刀流は周囲の兵士を離れさせると自分は突っ込んでいった。爆発の前にけりをつけるつもりだろうがあれじゃ間に合わない! 

 僕は光の衣を発動させ二刀流の人と魔族の間に割り込む。その瞬間周囲が爆発するが光の衣で防げるので、気にせずに魔族を斬りつける。あの二人には何が起こったのかわからなかっただろう。勝ったという表情をしながら魔族は消滅していった。すぐに消滅したのは魔石を砕くことに成功したからだ。
 僕が介入した事でなんとかこの場は納める事が出来た。二刀流の人も爆風に巻き込まれて飛ばされてはいたけど、直接爆発に巻き込まれた訳ではないのでかすり傷くらいで済んでいた。でも国にまで直接魔族がせめてきてるとなると急いで魔大陸まで向かわないといけないな。
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