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18話 魔大陸上陸

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 魔大陸までの航海の旅の途中、おれはマジリカ国王にもらった勇者の書を読もうと本を広げていたのだが、「お兄ちゃん、遊ぼう」とやってくるティナちゃんとミィに邪魔をされなかなか読むことが出来ないでいた。
 クルルとミリーナはクルルの絵について何やら語っていて仲良くなっていた。マジリカ王国で部屋が一緒になったのが良かったかもしれない。

 ともかく、昼間は邪魔が入ることが多いので夜に少し読み進めていた。日記の中身だがかなりの日にちがとんでいるので、まだ複数あると思われる。そして、どうやら勇者ユウキは邪神封印のために幾つかの国をミハエルと言う人物と一緒に回ったらしい。そして10ヶ国全ての国に所定の魔道具を配置し、特定の合成魔法を使い封印したらしい。
 日記の部分にはあまり役に立つことは書いてなかった。それともこの本も封印されているのだろうか? あとは最後のページに邪神のページがあった。

「邪神」この世界の破壊が目的の神。信仰している者に力を与える。倒す手段は見つかっていない。封印するには5つの魔法が使える必要がある。

 あと最後に走り書きで、もしかして俺たちの召喚をしているのはこの神では?と書いてあった。
 おれたちを召喚したのは邪神? まさかな。おれを召喚したのは間違いなくブラーク国王だったはずだ。

 ともかく今回の勇者の書はわからないことだらけだった。王達は別に邪神が復活したから倒してくれとも言ってないし、むしろおれなんか自由にしてくれだったからな。ここら辺も魔大陸に着いたら調べたほうがいいかもしれんな。





 船の上でようやく2週間がたち、おれたちは魔大陸に上陸する。ここから2日もあれば魔王国ガルディアに着くらしい。

 1時間も歩かないうちに早速魔物が現れる。色は変わってるがゴブリン3体だった。これなら楽勝だなと思っていたが、ミリーナはすごく警戒して拳を構えていたので、おれたちにかからないように周辺に重力魔法を使っておく。ゴブリンは見合ったまま動かないので、こちらから動こうかとティナちゃんが一歩動いた瞬間に重力魔法に捕らえられたゴブリンの姿があった。そこからティナちゃんがクリアカッターで一体ずつ刺していった。
 こいつらティナちゃんより速いのか?

「優、よくやったのじゃ。こいつらはブラックゴブリンと言ってここら辺に住んでいるゴブリンなのじゃがかなり動きが速くて妾でもなかなか捉えきれんのじゃ。ランクA相当らしいぞ。ところであと何回じゃ?」

 やっぱり重力魔法の使えるミリーナには気付かれてしまった。あとのみんなはポカンとしていたが……

「あと1回かな。しばらく魔力を使わなくて2回使えるかってとこだ」

 重力魔法は対抗手段は少ないが範囲を広げると大量の魔力を消費してしまう。おれの魔力で最大3回なのだ。アーノルドさんに使った位の範囲のなら少し多めに魔力を使うかなぐらいなのだが……

「あとの一回はとっておくのじゃ。しばらくは他の皆と切り抜けて見せるのじゃ。」

「でもあんな速いのが沢山いるんだよね?私たちは役に立つのかな?」

 いつもは強気なティナちゃんだが自分より速い相手、しかもゴブリン。が現れてから少し落ち込み気味だった。

「なに、ここら辺で1番速いのがあやつらじゃ。あれより少し遅い位ならここら辺で十分通用するのじゃ。」

 正直魔大陸の魔物の強さがわからないから魔法をはなったが結果的にいい方向に進んでくれたようだ。ミリーナがしっかりお姉さんになっているのにも驚きだが……




「ティナちゃん、一番奥の任せるよ」

「わかったよ、お兄ちゃん」

「ミィはクルルとおれの前に立ってくれ」

「任せて、優さん」

「クルルは雷の虎頼んだよ」

「はい、お兄さん」

 数分歩くと10数体の魔物と遭遇したので、魔力を回復させてるだけのおれは全体を見て指揮を執ることにした。今までとあまり変わらない気もするが……

「優、妾は? 妾は何をすれば良い?」

「ミリーナはクルルの魔術が当たったら片っ端からトドメを刺していって」

 おれがこうも指示を出せるのは相手が前に戦ったことのあるウルフリーダーだからだ。知らない敵ならこうはいかないだろうが……

 クルルの雷の虎が前のほうにいるウルフリーダーにあたり、倒すには至らないが麻痺させることには成功する。そして後ろの方にいるやつにはティナちゃんが雷神のダガーで一体ずつ麻痺させていく。そして痺れて動けなくなっているやつにはミリーナがトドメを刺していき、数が減ってきたときに1対のウルフリーダーが決死の覚悟だったのだろう。おれたちに向かって突撃してきたが、ミィに防がれ、怯んだところをミリーナに倒される。

 そして全てを倒し終わるとおれが火の魔術ですぐに燃やす。そうしておかないと死体を狙って別の魔物が現れるからだ。本当なら毛皮とかを剥いだり牙を抜いたりして素材や換金をしたいのだが、その作業中に魔物が現れる可能性を考えたらすぐに焼いたほうが明らかに危険が少ないので泣く泣く素材は諦めることにする。

 その後、オークとかスライムなんかが現れたがオークはゆっくりとした動きなのでティナちゃんが高速で斬りつけて麻痺させると簡単に倒せた。
 逆にスライムは大変だった。ミリーナに「あれはスライムなのじゃ」と聞くとこんな弱い魔物もいるんだと思い、ティナちゃんを先行させたがまず状態異常にならなかった。それと物理攻撃もほとんど効いてないみたいだった。魔術攻撃もスライムの色に合わせた攻撃、わしないと効果が半減してしまった。今回のスライムは赤色なので、水魔術がよく効くらしくクルルとティナちゃんで倒してもらった。スライム自体は動きが遅く攻撃もしてこないのでゆっくり考えてたが、完全にスライムに取り込まれてしまうと瞬間に溶かされてしまうので注意が必要らしいと後からミリーナに聞いた。相手は姫様なのでぐっと堪えたが思わず叩いてしまいそうになった。

 そして絶対叶わない飛竜とも1度相対し、そのときは重力魔法をかけ倒せるかと思ったがティナちゃんの雷神のダガーでは剣が刺さらず、そして重力魔法もものの数分で力で破ってしまっていた。思わずそのときに続けてもう一度重力魔法を掛け、みんなで全力疾走をして逃げていた。無茶な飛竜狩りをしようとしたせいでその日は重力魔法を使えず苦労したがいい経験にはなったと思う。

 そして2日が経ち、ようやく魔王国ガルディアにたどり着いたときにはみんな疲れ果ててはいたけど、どこか成長したいい表情になっていた。
 魔王国ガルディアでは門番は魔族がしているので、ミリーナに話を通してもらうしかないが流石姫様だけあって中に入るのはすんなりと通った。そして通るときに全身をジロジロ見られていた。

「じゃあまずはいつもどおり宿屋かな?」

 おれはそういい、場所をミリーナに尋ねる。

「この街に宿屋なんてないぞ。魔族は皆ここに住んでいるからじゃ。しかもどの種族にも疎まれている故よその者がくることもないからのぅ。今日は妾の城に泊まってもらうから安心するがいい」

 そういうとミリーナは街の奥に大きくそびえ立つ城に向かって歩き出した。



 ミリーナに連れられてやってきたお城はこの国のお城だった。ミリーナはこの国の姫様で間違いなかったのだ。お城の門番に話をつけたミリーナはおれたちを連れ中にはいる。
 一応ここって魔王城なんだよな。もっと物々しい雰囲気かと思ったが案外普通だ。これまで寄ったセレティア王国やマジリカ王国のお城と比べても何ら遜色もないほどの普通のお城だ。夜になると雷が落ちるとかかも……でも魔大陸に来てから1度も雷を見ていないからな。
 このお城を見る限りでは案外安全そうか? 一応常に警戒はしてるのだが、ミリーナの家ということでクルルの警戒が完全に薄れてしまってるのが怖いな。罠があると必ず引っかかる状態だ。ミィはおれを守るように前を歩いているし、ティナちゃんもいつでも雷神のダガーが抜ける状態なので他2人はおれと同じ気持ちらしい。
 そのままミリーナに連れてこられたのは王様の私室のようだった。
 あれっ、普通こういう魔王と相対するときは謁見の間じゃないのか? それにここまでに罠も一つもなかったし……案外魔王って普通のやつなのか?

「よくぞまいった、勇者よ。そなたには娘のミリーナを送り届けてもらい、感謝しておる。礼を言わせてくれ。」

 おれが勇者だと知りつつお礼まで言ってくる魔王。すごくシュールな絵だ。それに魔王といっても普通の大柄の男性にしか見えないぞ。

「貴方は本当に魔王様なのですか?」

「ああ、私が魔王ミハエル・ユラ・ガルディアスだ。魔王と名乗っているのは私だけだと思うのでそなたの言う魔王様と言うのも私で間違いないと思うぞ」

 どうやら本物らしい。ならおれたち勇者の敵なのだろうか?

「おいおい、そんな警戒しないでくれよ。私には戦闘の意思はないんだぞ。こちらから伝えたいことはミリーナから聞いているだろう?」

 いや、初耳なんだが……ミリーナのほうを見てみるとしまったという顔をしていたので伝え忘れていたのだろう。

「はぁ、我が娘ながら本当に不肖の娘で困る。まぁそれならこちらを警戒するのも分かる。ならば私の口から伝えさせていただこう」

 そういうと魔王は席に着く。おれたちも席に着くよう促してくる。おれたちも警戒心は解かないまま席に着く。

「ではまず私たち状況からなのだが私たち魔王国ガルディアは戦争を起こす気はない。それをまず伝えさせてもらおう。理由なのだが、我々魔族はそもそも種族の人数が少ないのだよ。個々の力は強いので多大な被害は与えることが出来るが最終的には滅ぼされるだろう。滅ぶのがわかっていて進むのは愚かとしか言えないだろう。次の理由だが、私は現在別のことに力を入れておりここから動けないのだ。その二つが主な理由だな。あとは個人的に人間が好きなのだよ。昔に共に旅をしたこともあるしな」

 理由としてはまぁ妥当なとこだと思うが、その別に力を入れてることを聞かないことには話は進みそうもないな。

「それで、二つ目の理由の別のこととは?」

「それが今回貴国らの国、本当なら全ての国に伝えたかったのだが……に頼みたかったことなのだよ。この世界にはかつて邪神がいた。それは知っているかな?」

 ティナちゃん達は完全に話に置いていかれているがおれは勇者の書により知っていた。

「ええ、とある筋から情報を得ています」

 ティナちゃん達、主にティナちゃんだが……おれを非難めいた目でみてくる。そんなこと言っても勇者の昔話で今は封印されているのだから説明なんていらないって思うよな。

「なら話が早い。200年ほど前からなのだが、その封印を解こうとしているもの達がいる。正体は全く掴めていないのだが……そのことでようやく最近になって情報を得ることが出来たのだ。その組織は今は人間達の大陸にいるらしい。そして個々が我が娘以上の使い手のもの達ばかりらしい。偵察に出した我が騎士達が命を懸けて得た情報がこれだけだった」

 魔王は凄く悔しそうだ。

「その封印と言いますと色々な国に配置されている魔道具のことですよね?どこの国かとかは分かるんですか?」

「魔道具の位置は人間の国だと五大大国と呼ばれる国の転移魔法陣の部屋から行ける空間に配置されておるのだ。そこには各々のしていされている魔法を展開したまま転移をすると行けるのだが……」

 この魔王、何故こんなに詳しいのだろうか? 余計に怪しくなった気がするな。

「私を疑いたくなる気持ちもわかるが、あれは私が勇者と旅をしていた時に設置したものだから位置はしっているのだよ。 」

 そういえば勇者の書に書いてあったミハエルって……魔王の名前もミハエルだったよな?

「魔王様、ちょっと見ていただきたいものがあるのですけど……」

 そう言っておれは勇者の書を出す。魔王がはっとしていたのでどうやら間違いないようだ。

「それはユウキの書いていた本だな。私には読めなかったが、自身の精霊を移し替えたり等をして厳重に保管していたからな。それなら私たちの問題などが詳しく載っているだろう。」

 やはり、ここに載っていたミハエルは魔王のことらしかった。かつての勇者が共に冒険した仲間の魔王……完全に警戒は解けないが少しは信頼しても良いかも知れないな。

「いえ、ここに載っていることはほとんど封印されていると思います。おれも最近になってこの書に封印が仕掛けてある事に気付きましたが、書の大きさの割に中身のページが少ないのですよ。なら、ないページは封印されていると見るべきでしょう。なので世界のこととかはほんの少ししか載ってません」

「そうか、勇者ユウキの書なら今の現状を打開してくれると思ったのだが……」

「そういえば、魔王様はここを離れられない理由はなんなのですか?」

 多分これがおれたちに話したかった1番の理由だろう。

「私はすでに壊されてしまった獣人国の2つの魔道具の変わりの役目をしているんだよ。ここがその二つの国のちょうど真ん中の位置で時間稼ぎくらいにはなってるからな。またそのせいで私は常時魔力を消費してるから魔術の類が全く使えないんだよ。でも壊された魔道具が私の使える魔法を使ったものでよかったよ」

 どうやら10カ所ある魔道具の内2カ所はすでに壊されているようだった。しかも魔王が代わりに抑えている。この状態で魔王を倒すと邪神復活が一気に近づくことになる。そして勇者召喚。確かに邪神が召喚してもおかしくないように思えるな。

「でもおかしくないですか? 私たちの国では獣人国はすでに滅ぼされているって言われてますよ」

 ティナちゃんが思わず口に挟むが、確かに街で獣人なんて全く見なかった。イスバルトだけだな。

「それはその二つの魔道具が邪神信仰者に破壊されたことによって一部邪神が復活しかかっていて、その邪神の力の影響で魔物達が強力になったからな。何も知らない人間が入ってこれないように常に魔王国軍に見張らせているから人1人入ってこれないだろう」

 わっはっはと笑う魔王だが何も知らない人が獣人国に行こうとしたら魔王国軍に止められた。いや、何も知らないのだから襲われたと思ったかも知れない。魔族に襲われたと言えば魔族の王を倒せとなるのも無理ないかも知れない。

「もしかして、セレティア王国周辺の魔物達の中にランクが高いものが混じるようになったのは……」

「邪神信仰者によって何処か一カ所破壊されているかも知れんな。早急に確認する必要があるだろう」

「ならすぐに王様に伝え調べさせてもらいます。」

 調べるのならすぐがいいだろう。今日にも出発したほうがいいかも知れない。

「ちょっと待ちたまえ。戻るのは我が国の転移魔法陣を使うといい。ならば出発は明日でも構わんだろう。それより君も勇者だったな。ならば魔法はどこまで使える?」

 今までも重要な話だったがこれはそれ以上に重要とでも言いたげな表情で聞いてくる。

「まだ重力魔法だけです。他の魔法も取得法はわかったのですが、まだまだ条件が満たせなくて……」

「ちょっと待て! 取得法がわかっているのか? 一体どうやって? そうか、さっきのユウキの本だな。言え!」

 思わず興奮した魔王におれは首を上下に揺らされる。わかりましたと言うとようやく解放されたので、勇者の本に載っていた魔法についてを魔王に全て伝えた。



 魔法取得法の全てを教え終わったあと、魔王が一言私の空間魔法の中に入るか?と聞いてくる。特に転移魔法の部分だ。魔法の中でもこれが1番厳しいだろう。転移魔法陣の書き上げることならここに魔法陣があるらしいので出来るだろう。しかし1人で発動するという部分だけがどうしても出来ない。そういうことなのだろう。自分で出来ないからおれに託そうとしているのかも……

「でもその魔法を使おうとしたら魔王様が担ってる2つの魔道具の代わりはどうするのですか? まさか止めてしまわないですよね」

 そういうとバツの悪そうな顔をする。やはり止めてでも空間魔法を取得させようとしたのか。

「魔道具なら作り直すことは出来ないのですか?」

「魔族はそこまで器用な種族じゃないからね。戦闘に特化してる分器用さは低いのだよ」

 そこでクルルが何か思いついたかのようにはっとする。

「あの……魔王様。その魔道具の作り方は分かりますか?」

 少しビクビクしながらクルルが質問すると魔王は作り方なら書かれた本があるという。何でも魔力を吸収する水晶に魔法を限界まで込めて作ればその封印の魔道具が出来るらしい。勇者ユウキは封印水晶と呼んでいたらしい。勇者ユウキも器用な方じゃなかったため説明するのに書いたものを魔王が預かっていたみたいだ。

「なら……私が作りましょうか? もちろんお兄さんがよろしければですが……」

 パッと魔王がおれのほうを向く。確かにクルルは器用さに特化してるので作るのに器用さがいるのならクルルが1番いいだろう。しかし、戦力は低下してしまうが……まぁどのみちいつか作って貰わないといけなかったかもしれないからな。先に作っといて貰うのもいいかもしれない。

「ならお願い出来るか、クルル」

「うん、頑張るよ。お兄さん」

 笑顔を見せながら両手を握りしめるクルル。今だけは凄く頼もしく見えるな。

「おれたちもセレティア国王に伝え終わり、調べ終わったら必ずまた迎えにくるから……」






 一晩たち、おれたちは魔王に案内してもらっていた。

「頼んだぞ、勇者。私の方も彼女と必ず封印水晶を完成して見せるからな」

「ああ、任せましたよ。魔王様。ではお願いします」

 クルルを除くおれたち3人は転移魔法陣の上にのると魔族の人たちが呪文を唱えてくれる。唱えているのはかつて俺が聞いたことのある呪文と全然違うのだが……
 唱え終わるとおれたちは白い光に包まれていく。そして次の瞬間には魔王やミリーナやクルルの姿は消えていた。





 お城に戻ったおれたちはまず国王に会えるように兵士の人に頼む。話は行き渡っていたのだろう、おれたちが国王に会いたいって言うとすぐに国王に聞きに行ってくれる。そして、国王もいつでも会えるようにしていたのかもしれない、すぐにでも会ってくれるそうだ。おれたちはいつもの国王の私室に案内される。

「久しぶりだね、優くん。無事姫様は送り届けられたかい?」

「はい、きちんと魔王国にお連れしました」

 いつもの軽い感じではなく何故かプレッシャーを感じる。

「ところで、優くんの仲間の1人姿が見えないんだけど……それとなんで優くんは転移して帰ってきたのかな?」

 やはりおれは疑われているのだろう。魔王に寝返ってしまったのではないかと……おれは魔王国であったことや魔大陸の周辺の様子などを包み隠さずに話した。国王も全ては信じられないようだが、とりあえず納得してくれた。
 しかし、この国の転移魔法陣は五大大国の会議と今おれが使った時以外は使用されたことがないらしい。常に兵士を2人配置してるから間違いないらしかった。なので周辺国にも連絡してもらうよう頼むとマジリカ王国とは親しくしているため何とかなるがブラーク王国とは最近になって関係が悪くなったので難しいかもしれないとのことだった。
 どうやらおれたちが旅立ってすぐにブラーク王の使いというものがやってきて、お金をさらに貸してくれとのことだったらしい。おれと交換になった金貨1,000枚の他にも貸しがかなりあるらしく、今までそれが返ってきたことはなかったので今回は断ったらしいが、それがブラーク王には頭にきたらしい。
 完全に八つ当たりだな。
 ともかくそういうわけだからブラーク王国以外の国にはすぐに連絡してもらうことになった。また何か進展があったら伝えてもらえることになった。そして今回の報酬として金貨10枚を渡してもらう。




 王様との話も終わり、おれたちはひさびさに戻ってきたのでステータスの確認をすることにし、クリスタル広場にやってきた。


名前:荒川 優
年齢:16
レベル: 26
HP : 9
MP : 529
攻撃 : 8
防御 : 8
知力 : 492
敏捷 : 8
命中 : 6
器用 : 9
称号 : ロリコン勇者
スキル: 風魔術レベル4、光魔術レベル4、火魔術レベル2、雷魔術レベル3、???魔術レベル?、重力魔法レベル3


名前:ティナ
年齢:10
レベル: 19
HP : 149
MP : 31+110
攻撃 : 34
防御 : 8
知力 : 18
敏捷 : 481
命中 : 30
器用 : 28
称号 : 精霊の使い手
スキル: 精霊魔法レベル1


名前:ミィ
年齢:15
レベル: 17
HP : 346
MP : 10
攻撃 : 13
防御 : 227
知力 : 18
敏捷 : 24
命中 : 11
器用 : 51
称号 : 優の奴隷


 信じられなくくらいに大幅にステータスが上がっていた。まぁ魔大陸では何度も強敵と戦ったし、マジリカ王国では騎士団長とも戦った。イリュナス村ではシルバーファングと戦い死にかけた。よく生き残ったな、おれたち。
 ティナちゃんも魔大陸で戦ったとき、最終的にはブラックゴブリンより速くなっていたので大幅に上がっているとは思ったがこのまま敏捷が上がり続けたら姿が見えなくなるんじゃないだろうか?
 ミィは馬車で移動中にティナちゃんのダガーとかを研いだりしていたので、器用さも結構上昇していた。魔大陸でも防御の機会は十数回しかなかったので、思ったよりHPと防御は上がっていなかった。






 宿屋に戻ってくるとイリナさんが驚きの表情をし、ティナちゃんに抱きついてくる。今までずっと一緒に過ごしていたのがいきなり2カ月近くも離れていたのだ。心配するなという方が無理だろう。しばらくはほっておこうとしたが、おれやミィも含めて再び抱きついてくる。なんだかんだでおれたちのことも心配してくれてたみたいだ。しばらくはこのままでいといてあげよう。そう思うのだった。

 そしてしばらくして気が済んだイリナさんから今まで使っていた部屋の鍵を受け取る。なんでもおれたちが、いつ帰ってきてもいいようにずっと開けていてくれたそうだった。おれはお金を払おうとしたが「いいよ、前の分がまだ残ってるんだから」と言って受け取ってもらえなかった。
 そして部屋に荷物を置き、夕食を頂くと思いの外疲れが溜まっているようで、すぐにベッドで眠ってしまうのだった。



 それからおれたちはしばらくは休暇とし、街の中でのんびりしていた。
 冒険者ギルドによるとミレイさんの受け付けが空いていたので話し相手になってもらう。

「お久しぶりです、ミレイさん。直接依頼人に依頼をされましてしばらく街を開けてましたが、また戻ってきましたので挨拶に来ました。これからもまたよろしくお願いします」

「優さん、無事で良かったです。凄く心配しましたよ。」

 思わず泣き顔になっているミレイさんに隣の受け付けの女の人が「この子、毎日の様に今日は優さんがこないとか優さんどうされたのだろうとかずっと心配してたんですよ」と説明してくれる。ミレイさんは顔を赤くしながら「もう、何言ってるんですか」と横の受け付けの女の人をポカポカ叩き「ただいつも毎日の様に来られてたのが急に来られなくて心配しただけなんですよ」と説明してくる。

 思えばミレイさんには色々と迷惑もかけてきた。できの悪い子程かわいいというものだろうが、そこまで心配されて悪い気はしないな。

「お兄ちゃん、顔がにやけてる」

 おっと気をつけないとな。というかティナちゃん、お尻つねったら痛いよ。じゃあそろそろ次に行こうかとティナちゃんとミィに言う。ミレイさんには「今日は挨拶に来ただけですのでそろそろ行きますね」と言い冒険者ギルドを後にする。と言っても向かうのは向かいにある鍛治屋だけどな。


「グリルさん、久しぶりに来ましたよ」

 鍛治屋の中には誰もいなかったのでまた奥の工房にでもいるのだろう。大声でグリルさんを呼び出す。

「なんだ、兄ちゃん達か。久しぶりだな。くたばっちまったかと思ったぞ」

 大声でそんなこと言ってるが顔はホッとしていた。なんだかんだでこの人面倒見がいいからな。心配してくれていたのだろう。

「グリルさん、しばらくは休暇でゆっくりしますのでまた鍛治を教えてもらえますか?」

 ミィがグリルさんに頼む。そういえばグリルさんに鍛治を教えてもらったと言ってたな。実家も鍛治屋だったと言ってたからミィは案外鍛治がやりたいのかも知れないな。

「どうするミィ。今日はあと奴隷商のとこに行って終わりにするつもりだし、なんだったらグリルさんに今日も鍛治習ってるかい?」

 おれはミィに提案すると「いいの」と言ってきたので「いいよ」というと凄く嬉しそうな顔で「ありがとう」といってくる。そしておれたちはそのままミィを鍛治屋に残して奴隷商のところに向かうことにする。





 ギニーユ奴隷商にやってきた。ここに寄った理由は前に専属になると言ったのに一月半も空けていたからだ。

「いらっしゃいませ、ギニーユ奴隷商にようこそ。本日はどういったご用でしょうか?」

 前受け付けにいた人と違うので前に専属の回復術師となると言った荒川優だがというと「少々お待ちください」と言って奥に入っていった受け付けの人。そしてしばらくしたら奥からおじさんがやってくる。

「そういえばこの前は専属の約束までしましたのに私の名前も伝えていませんでしたね。私はギニーユ奴隷商会会長のギニーユです。これからはギニーユに会いに来たと言っていただければ結構ですので……」

 名前を言ってなかったのは商会の名前と一緒だから言わなくても分かると思っていたのだろう。

「それで今日寄ったのは前約束してました部位欠損の奴隷が出たかと思いまして……」

「ええ、それで1度宿屋にうかがわしてもらったのですが依頼で旅に出られた後でしたので帰ってこられるのを待っていたとこなのです」

「じゃあ早速集めてくれるか?」

 そういうと既に集める手配をしていたのか奥の部屋に案内されたら部位欠損の奴隷が並んでいた。それぞれ片手、片手、片手と片足の3人の奴隷達だった。早速おれは回復魔術をかけ欠損部位を復活させる。奴隷達は驚いていたが奴隷商はもう慣れたものだった。前回大量に治したからな。お礼に約束通り金貨3枚を頂き、奴隷商をあとにする。




 前回と同じくらいの奴隷が集められていると思って半日くらいかかるかもと思っていたが、予定よりだいぶ早く終わってしまった。なのでティナちゃんと二人で街をぶらぶら歩いていた。こうして二人で歩いているとやはり兄弟にしか見られないだろうな。

「ティナちゃん、どこか行きたいとこあるかな」

「ならあそこに行きましょう」

 そう言って連れてこられたのはやはりいつもの酒場だった。まぁちょうど昼過ぎだしティナちゃんが食べたいのならと中に入る。食べるのはもちろんクリームパスタだった。運ばれてきた時のティナちゃんは決まって満面の笑みだ。相当好物なのだろう。前回は少し物足りなさそうにしていたので二人で3皿頼んだのだが、やはり食べ終わるころには名残惜しいのか寂しそうな顔をする。なので今回もティナちゃんに「また今度来よう」と約束する。

 その後はティナちゃんと色々なところを見て回った。服屋によってティナちゃんのコーディネートを見てたり、屋台でブルの串焼きを食べたり、道具や食料の調達をしたりする。日も落ちそうになってきたころにミィを迎えに行き、一緒に宿屋へ向かう。

 次の日はまたミィは鍛治をグリルさんに習い、その間におれたちは簡単なゴブリン討伐のクエストを受け、適度に倒していった。

 そんなこんなを繰り返すこと1ヶ月、ようやく城から連絡が入る。やはりブラーク王国以外の国では転移魔法陣のある部屋には誰も入っていないらしい。との報告を受け、1度お城に向かうことにする。

「どこかの転移魔法陣が知らない者に入られたとするとやっぱりあのブラーク王国が怪しいからな。あの国は何かといい加減で……」

 おれたちは王様と対面すると、王様はおれたちに愚痴を言ってくる。主にブラーク王国の愚痴だが……

「やっぱりブラーク王国とは連絡をとれなかったのですか?」

「ああ、やつめ協力して欲しければお金を貸せと言い出してきてな。思わずそれじゃあもういいと兵士に怒鳴ってしまったよ。あれはかわいそうなことをした……」

 この人を怒らしたら怖い。そう覚えておこう。今も怒りの部分が垣間見えてるが、それ以上に怖いとなると怒らせないようにするのがいいだろう。

「じゃあまたこちらの方から冒険者として調べられないか試してみましょうか?」

「そうしてもらえると助かる。ただあの国の中ではむやみやたらにお金や食料を出してはいけないよ。すぐに取られるから……」

「わかりました。気をつけさせてもらいます。それでおれは今からブラーク王国に向けて出発するけど、ティナちゃんとミィは?」

「もちろんついていくよ」
「当たり前です」

 二人ともから一緒についてくるという言葉を聞ける。

「では王様、本日に準備を行い明日には旅立ちたいと思います」

 色々と王様と話し合っていたとき、ドンドンと急に乱暴なノック音が聞こえ、兵士が大慌てで息を切らしながら部屋に入ってくる。

「国王様、大変です!!ブラーク王国が、ブラーク王国が我が国に宣戦布告をしてまいりました」
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