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17話 勇者の物語

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 なんとか魔術障壁で銀色のウルフリーダーの攻撃を防いでいたおれだが、魔術障壁を全力で張らないと突破されてしまいそうなくらいの威力がある。他のミィとクルルは何かの魔術の影響で完全に動けなくなっていた。唯一動けそうなのはティナちゃんくらいだが、それでもあのウルフリーダーには傷一つつけられないだろう。この押さえつけられる感じはどこかで……そうだ、あれはまだおれが地球にいたときに重力を体験したときだ。ならばこれは重力を操ってる?
 しかし、理由がわかったところでどうすることも出来ないだろう。なんとか諦めずに魔術障壁を張っているが気が抜けて諦めそうになる。そのときにおれたちの目の前にはミリーナが現れた。このタイミングで現れる。ミリーナのほうがよっぽど勇者じゃないか?

 そこからはミリーナのワンサイドゲームだった。ミリーナには重力の魔術が効かないのか平然とこの中を動いていた。そして、ウルフリーダーのスピードより早く動き、ウルフリーダーに向けて一発パンチをするとウルフリーダーは10mくらい飛ばされてから地面に落ちた。そしてそこからもう動かなかった。

「お主は本当に最弱何じゃのう」

 おれを助けてくれたミリーナは呆れ顏のままそう言ってくる。

「だから言っただろ。おれは最弱なんだよ」






 ウルフリーダーと思っていた魔物はシルバーファングと言う名の魔物らしかった。しかも重力を操作する能力は魔法に当たるみたいだ。ミリーナが倒してくれたのでおれたちは九死に一生を得た。何故あの重力の中を動けるのかと聞いたら正反対の重力をぶつけ、相殺しているらしかった。しかもこのシルバーファングクラスの魔物は魔王国付近にはうじゃうじゃといるらしい。行きたくなくなってきたな…。
 その後ミリーナは勝手にクエストを受けたことを謝ってきたが、おれたちが余計なことをせずにミリーナ一人なら楽に解決出来たところを見るとおれのほうが悪い気になってきたので、おれも謝り喧嘩両成敗ということで仲直りも出来た。
 村の人からは野菜と小麦をたっぷりともらったのでしばらく食べるものには困らないだろう。





 そして村を出てから1週間。依然として次の村は見えてこない。といっても村の前に国境の砦のほうが先に見えるだろうが……相変わらずクルルとミィは絵描きと鍛治に没頭している。ティナちゃんは荷台の上に登り景色を見つつ周辺警戒をしてくれている。
 おれは重力魔法の会得を目指し修行してるが未だにまともに使えない。こんなすぐに使えるようになるわけないが、あんな魔物が出るなら早急に覚える必要があったのだ。先生はミリーナがしてくれていたが、どうやらミリーナは感覚派で「そこでズーンって感じなのじゃ」とか「そこはもっとグゥーンって力を入れるのじゃ」とか重要な部分は擬音で説明してくるのでよくわからなかった。
 なのでおれは今は1人でひたすら練習だった。






 更に1週間が経過し、ティナちゃんが景色を見るのに飽きてきた頃ようやくおれは重力魔法の初歩の重力を掛けることに成功する。あとはもっと大きな重力を操れるようにするだけだ。
 そして更に1日が過ぎたらようやく国境の砦が見えてきた。
 そこでギルドカードを見せると「あなたが優様ですか。国王より話は伺っております」と言ってすぐに門を開けてくれた。
 なんでもう知ってるのだろうと兵士の人に聞いてみると念話の魔術を使える魔術師を至る所に配置しており、その通信網を使って連絡しあってるからだそうだ。まぁ何にしてもすんなり通れることはいいことだ。わざわざ王様から預かってる手紙も出す必要がなかったしな。







 国境を越え、マジリカ王国領にやってきた。ここから王国まではまだ1週間以上の距離があるらしいが……
 やはりそれまでは重力魔法の練習だ。そういえば何で重力はは魔法なんだろうとミリーナに聞いてみると「普段感じることができるものが魔術、感じられないものが魔法」らしい。
 シルバーファングが動きを封じる重力魔法を使ってきていたのでそちらの練習ばかりしていたが、反対に軽くなる魔法を掛ければ身軽に動けるのじゃないかと思い、自分に掛けてみる。すると自分の身体が軽くなってきて、何だか早く動けそうだなと思った瞬間に身体自体がプカプカ浮かび始めてしまう。動きも逆に遅くなってしまったようだ。
 あんまり浮かんでいると風に流されそうな気分になるので浮かぶのはほどほどで止めておく。

 そして前から少し気になってたのだが、重力魔法が少しキリがついてきたので、ミリーナに勇者の物語について聞いてみた。

「ミリーナ、勇者の物語についてなんだけど、おれは聞いたことないんだよ。出来れば教えてもらえないかな?」

「うむ、いいのじゃ。勇者なのじゃが、お主と同じように他所の世界の人物で召喚されてこの世界にやってきたと言われておる。どこの国に召喚されたかは記録に残ってないそうだ。その勇者じゃが他所の国に召喚された者より
能力が劣っていたそうじゃが、みるみるうちに力をつけていったそうじゃ。その力をつける旅の途中で色々な人の力になり、助力を得て仲間も増やしていったらしい。そして邪神と相対するときには世界最強の魔術師になっていたそうじゃ。その類稀なる魔力で邪神を封印し、この世界に平和をもたらしたらしいのじゃ」

 最初のほうはおれと同じような境遇だな。

「そして邪神を封印した後、この世界に様々な未知の道具を作り残したと言われておる。これが勇者ユウキの物語じゃ。細かい部分も言うと1日あっても足りないからな。色々と省かせてもらったのじゃ」

 勇者ユウキ……どこかで聞いたことあるなと思うがおれの知ってる勇者はこの歴代最弱と言われた勇者の書の勇者だけだしなと思い、その本を出すとそこに書いてある名前に注目した。久我優希……ユウキだよな。ひょっとしてこの久我優希が物語のユウキなのか?

「ちなみにそのユウキの正確な名前は分からないのか?」

「それは分からないみたいなのじゃ。ただ勇者の物語なら妾より父のほうが詳しいのじゃ。聞いてみると良い」

 そうだな。ただその前にもう一度、今度は詳しくこの本を読む必要があるかもしれないな。
 それに物語で勇者が倒してというか封印していたのは邪神で魔王ではないみたいだ。これはどういうことなんだろう?

 再び本を読み始めようとするが、この本は落書き帳なので全てが載っていると思えない。もしかして他所の国にも残っているかもしれない。これはマジリカ王国についたら聞いてみたほうがいいかもしれない。
 そんなことを思いながら再び本を読み始める。



 おれは再び勇者の書を読んでいた。最初の日記の部分は草刈りや魔術の勉強を始めたこと位しか載ってなかった。そして、魔術をある程度使えるようになり、ギルドランクがEになったという部分が日記の最後だった。ここまでは役に立たないだろうが、前はなかったと思うのだが、魔法の詳細ページが現れていた。おれが見落としていただけなのだろうか? とにかくここは役に立ちそうだ。早速読むことにする。


 魔法とは重力魔法、精霊魔法、空間魔法、転移魔法、時魔法の5つに分類される。この文が見えるということはそこそこの魔力を持っていてどれか一つの魔法を使えるようになったのだろう。そういう封印をかけておいたからな。さて、このページを読めた君にそれぞれの魔法の習得方法を記載しておく。

『重力魔法』
重力魔法を一度以上受けた上でその重力魔法を模範しようとする。
『精霊魔法』
精霊が宿っている道具を所持した上でその精霊と心を交わせる。
『空間魔法』
空間魔法で作成された空間の中に入り、出てくる。
『転移魔法』
転移の魔法陣をミスなく書き上げ、一人で魔法を発動できる。
『時魔法』
その他4つの魔法を入手すること。

 以上の方法で入手できると思われるが、本人の適正や能力がないと取得できないと思われる。ちなみにこの本にも精霊が宿っているので、まだ取得していない場合はなるべく手放さないことを勧める。
 空間魔法は出来れば魔法の箱が望ましいが、ない場合は別の空間魔法遣いに頼むとよい。
 転移魔法の魔法発動魔力は1000である。

 取得条件は以上であるが、魔法の詳細は取得出来た時に封印が解放されるようになっている。





 こんな親切なページが封印されていたとは……しかし、どれも厳しい条件だ。そこまでして取得する意味があるのだろうか?まぁ重力魔法のページがあるなら見てみるか。



『重力魔法』
重力を操作する魔法。重力を強くすると動きが鈍くなり、弱めると浮かんでくる。完全に無重力にすると慣れないものはまともに動けなくなる。ただし、相手本体にはダメージとしての影響はない。
 空間に設置することで相手の行動を鈍らせる罠として利用可能。
〈封印国家〉ブラーク王国、アリュース王国



 封印国家ってなんだ? まぁいいか。ともかく重力魔法は相手の妨害に使えると……まぁシルバーファングもそう使ってたしな。
 魔法のページはこれくらいしか書かれていなかった。まだまだこの本も封印されているのかもしれない。





 他にもステータスのページも具体的な能力の上げ方も載っていた。これもいつの間にか表示されていた。あとのページはそのままだったが…。とりあえず確認だけしておこう。



『ステータス』
このページはレベル10超えた時点で表示される。能力を平均的に上げ過ぎてしまった君へ。俺が実際に試した能力の上げ方と能力自体の説明をしようと思う。

『レベル』
能力値が40を超える毎に1上がっていく。つまり、能力の合計数値÷40をすれば現在のレベルが分かるようになっている。

『HP』
体力。これが高いと敵の攻撃を受けても死ににくくなる。主にランニング等や敵の攻撃をもらうことで上がっていく。

『MP』
魔力の総量。これが高いと威力の高い魔術が使いたい放題だ。魔術を多く使うと上がっていく。また一度に多く消費する魔法だと跳ね上がる場合がある。

『攻撃』
物理攻撃、つまり武器での攻撃で相手に与えられるダメージに影響。相手を叩きまくると上昇することを確認。

『防御』
体の丈夫さ。これが高いと相手の攻撃を踏ん張れるようになる。相手の攻撃を受けたり、耐えたりすると上昇。

『知力』
魔力の効率のよさに影響。実際の賢さに影響するかは不明。魔術を多く使うと上昇する。

『敏捷』
素早さ。これが高いと相手に一方的に攻撃できる。相手の攻撃をかわしたり、全力疾走で上昇。

『命中』
遠距離の武器や魔術の命中精度。的当てや通常魔術を当てた場合に能力上昇を確認。逆に範囲魔術をいくら当てても上昇は確認できなかった。

『器用』
器用さ。普段の生活や芸術活動、迷宮での地図の製作から罠のかかりやすさ、道の迷いやすさと言った面々に影響。罠を回避したり、芸術活動をしたりすると大幅に上昇。逆に普段の生活では上昇はするが上がりにくい。

『能力全般』
全ての能力に言えることだが、レベルが1上がると能力の伸びが悪くなる。





 だいたいは想像通りだが、器用さのところは早く教えて欲しかったかな。
 ただこの本はおれが一定のレベルに達すると封印が解放されていくみたいなのでこれからも頻繁に見ることにしよう。それに精霊魔法のためにも暫くは紐を上手く使い、背中に背負えるようにした。

 おれは本の書いてあった重力魔法の使い方を早速練習する。離れた空間に重力を仕掛ける感じで……
 掛かる人がいないとわからないので、実際におれがかかってみた。直接自分に掛けた時に比べると弱くなってる気がするが、十分に魔力を込めれば使い道はいくらでもあるだろう。



 早速練習してたおかげでだいぶ重力魔法を使いこなせるようになった。重力魔法で無重力空間を作りそこに火魔術を使うと火を青色の球状に変えることができた。また複数の罠を仕掛けたりすることも出来るようになった。
 あと精霊についてティナちゃんに聞いてみたが、いつも持ってたのにピンチになった時に急に声が聞こえたとのことだった。なので自分で自分の命が危ない状況を作ってみたが何も聞こえなかった。自分で作るのではダメなようだ。

 あと空間魔法だが魔法の袋に入れるかも試したが体の一部は入れることが出来たが全部は入れることが出来なかったので取得まではいかなかった。

「お兄ちゃん、街が見えてきたよ」

 おれが色々と試してるうちに1週間も過ぎていたようだ。セレティア王国並みの大きさの街が見えてくる。ここがマジリカ王国。早速門の所でギルドカードを見せ、身分を確認してもらうと同時にセレティア国王の手紙を見せ、マジリカ国王に謁見したい旨を伝える。また日が決まれば教えてもらえるらしいので、とりあえず今日は宿屋で休むことにする。

「いらっしゃいませ。宿屋羊の広場にようこそ。一泊朝夕付きで銀貨1枚銅貨50枚となりますが、ご利用は何名様でしょうか」

 おれたちは5人なので素直に5人と答える。

「では一泊銀貨7枚と銅貨50枚になります。宿泊日数は1日でよろしいでしょうか?」

「まだ何日いるかもわからないからとりあえず1日毎に更新していきます」

 そういうとおれは銀貨8枚支払い、お釣りで銅貨50枚もらう。部屋の数は3部屋でツインが2部屋とシングルが1部屋だ。当然おれがシングルだろうとその部屋に行こうとするとティナちゃん、ミィ、クルルの3人に止められてしまう。

「なんでお兄ちゃんがシングルの部屋に行こうとしてるの?ここはお姉さんが1人部屋じゃない?」

 どういう思考でそうなるんだ? あっ、そうか。一応ミリーナは姫様だからおれたちと寝るくらいなら1人の方がいいだろうという配慮か。

「ん、妾は2人部屋でも構わんぞ」

「あとはミィたち3人と優さんの4人でどういう組み合わせで寝るかですよね」

「妾は2人部屋でも……」

「僕クジ作りました。早速引いていって下さい」

「妾も仲間に……」

 なんかミリーナがかわいそうに見えてきたぞ。

「クルル、もう一つ1人部屋のクジも作ってくれ。ミリーナにも引いてもらう。ここまで一緒にきた仲間なのにミリーナだけ仲間外れは可哀想だ」

 一瞬笑顔になるミリーナだが、すぐにいつもの顔に戻り「まぁ、どうしてもというなら妾も引いてやっても良いぞ」と言っている。

「わかったよ。じゃあこれで5人分あるから順番に引いていって……」


 クジの結果、おれが1人部屋。ティナちゃんとミィ、クルルとミリーナという部屋分けとなった。ティナちゃんとミィは悔しそうにしていたけど、おれにとってはもっともいい結果だ。クルルとミリーナのペアが心配だがミリーナが嬉しそうに「よろしく頼むぞ」と困惑していたクルルに言い、握手をしていたので大丈夫だと信じたい。



 おれたちは一度部屋に荷物を置いてから食堂で待ち合わせることとなった。部屋の中にはいると意外と広い部屋にシングルベッド。それにソファも置いてあるのでおれたちのパーティなら3人で寝られそうだ。って何考えてるんだ。最近ずっと一緒に寝ることの方が多かったので感覚が麻痺してるのかもしれない。
 荷物も置き終わったので食堂に向かうともうすでにみんな揃っていた。

「おそいよ、お兄ちゃん」

 口に出したのはティナちゃんだけだったがみんなそう思っていたのだろう。おれは素直に謝り、早速食堂の中に入る。
 6人掛けテーブルの椅子に腰掛けると料理が来るのをまつ。ここではメニューは1種類しかないらしく、今日は焼き魚とご飯だ。この世界にもお米があるみたいだ。
 なかなか美味しかった。ここマジリカ王国では海がすぐ近くなのでフライやムニエルなど日によって違う魚料理が出てくるらしかった。

 さぁ食事も終わったから風呂にでも行くか。この宿には大浴場があるらしくいつでも入れるようになっている。どうやらみんなお風呂に行くらしく一緒に向かう。そして男と書かれた方におれが入っていくと……
 他のみんなも付いてきたので押し返して女側に入るように促した。みんな渋々といった感じだが女湯に入っていったのでおれは元の男湯に戻っていく。

 身体を洗い、湯船に浸かっていたら女湯の方から声が聞こえる。

「お姉さんって胸大きいですよね。触ってもいいですか?」

「うむ、構わぬぞ。触られても減るものでもないしのぅ」

「うわぁ、プニプニだぁ」

 考えるな、音を立てないように耳を澄まして……じゃなくてもう上がるか。ここにいたら色々とヤバい。





 おれが風呂から上がり、部屋で休んでいるとティナちゃんとミィがやってくる。

「お兄ちゃん、遊びに来たよ」

 本当はゆっくり休んでほしいんだけどな。

「じゃあ少しだけな」

「ありがとう。お兄ちゃん」

「それじゃあ何しますか?優さん」

 といってもこんな時間じゃあ出来ることもないので、結局おしゃべりをして完全に日が暮れてしまうと部屋に帰らせた。そしておれ一人になったところで布団に入り休むことにする。






 朝ゆっくり休んでいるとお城の兵士がやってきた。こっちから聞きに行くつもりだったのだが、わざわざ宿を探してくれたらしい。どうやら今日なら時間はとれるとのことで早速みんなと合流し、王城に向かう。
 おれたちだけじゃこんなすぐには会ってもらえなかっただろうが、今回はセレティア国王の手紙を持っていたので比較的早く案内されたのだろう。
 謁見の間に向かう途中にクリスタル広場がチラリと見えたが何とも言えない気持ちになる。


「よく来てくれた。勇者荒川優よ」

 謁見の間に入ると王様のほうから出迎えてくれる。

「マジリカ王、早速本題に入らせていただきたいのですが……」

 そういってセレティア国王から預かってきた手紙をマジリカ国王に渡す。早速マジリカ国王が手紙を読んでいる。

「ふむふむ、なるほど。お主らは魔王国を目指しているそうだな。我々も魔王国の現状は知りたいところなので船を出すことはやぶさかではないが……最弱の勇者であったそなたに行かせるのは不安でもある。そうだ。そなたがうちの騎士団長に一太刀でも与えることが出来たなら船を出してやろう。これでどうだ?」

 やはり、最初見たおれのステータスがネックとなってしまったみたいだ。魔王国は周辺の魔物も強力らしいからある程度の力がないと船自体が無駄になるからな。どのくらい力をつけたのか見ておきたいのだろう。

「ええ、それで構いませんよ。行われるのは決闘空間ですよね。でしたら構いません。それと王様、もしおれが勝てばこれと同じような本があるならいただけないでしょうか?」

 おれが王様に見せたのは前勇者の書だ。どちらにしてもこの本のことは尋ねようと思っていたのだ。なら勝負の賞品にしてもらおう。
それに決闘空間なら死ぬこともないから常に全力で戦えるからな。

「わかった。この本と似たような本なら確かに我が国にもある。勝負に勝つことが出来ればそなたに託そう」

 よし、話は決まった。

「では、決闘空間を段取りするから少し待っておれ」




 おれたちはマジリカ王国のギルド地下にやってきた。おれの相手となる騎士団長は5国会議のときに司会をしていた人だ。たしかアーノルド……まぁアーノルドさんでいいだろう。
 決闘空間に入ったおれとアーノルドさんはお互い見合っていた。アーノルドさんは剣と盾をしっかり構えているが、おれのほうは魔力を放出する準備をする。

「お互い準備はいいですね」

 アーノルドさんは頷く。おれのほうは周りを見渡すとティナちゃんやクルルは心配そうに見ていてくれる。ミィやミリーナはいつもどうりかな。おれは彼女らに笑いかけ、そして頷いた。

「では開始!!」

 開始の合図と同時におれの目の前にあらわれるアーノルドさん。おれの敏捷じゃとても反応できず、おれも試合開始に仕掛けた罠以外準備できなかった。ただその罠はおれのすぐ目の前に仕掛けた。範囲も最小で発動スピードを優先させた重力を強くする重力魔法だ。
 おれの初期の能力を知っているアーノルドさんは変な小細工はせずに真っ向から仕掛けてくると思っていたがその通りになったようだ。動けなくなったアーノルドさんの背後をとり、試合終了だった。
 この魔法、まだおれの魔力じゃ無理だが戦闘中常に全方位にかけることによって、おれの敏捷でも相手に追いつけるようになるだろう。その実験的なものとして試してみたが、騎士団長ほどの人でも動きを封じれるなら今後有効活用できそうだ。


「なるほど。さすが勇者様です。あのときとは見違えるほどの能力、お見それしました。ところで先程の魔術……いや魔法は?」

「はい、重力を操作しております」

「やはりな。この魔法は同系統の魔法を使えるものしか防げないからな。私じゃ太刀打ちできないわけだ」

 騎士団長もあっさり決められた割には珍しいものが見られたからかあっさり引き下がる。

「では王様、おれの願いも聞いてもらえますね」

 おれは振り返る際ティナちゃん達みんなの顔が見えるがホッとした表情だった。そして、王様に向かって頼んだ。

「わかった。そなたは十分に力を示したからな。我が国でも解読していたが、全く進んでいなかったから、そなたに託そう。ところであれはそなたには読めるのか?」

「はい、あれはおれの召喚前の国の言語です。勇者以外には読めないようになってます」

「やはりそうなのか。ならなおさらそなたが持つに相応しいな」

 王様も納得したのか、王宮におれたちを連れていき、前勇者の書を渡してくれる。

「船のほうも港に行けば乗れるように手配してあるのでな。何時でもいって構わんよ」

「ありがとうございます」


 早速おれたちは港のほうに向かい、船に乗ることにする。もう少しゆっくりしていきたい気もするが、早く姫様を送り届けないと魔王が何かしてきては怖いからな。
 早速出航してもらうと、ここから魔王国の大陸までは2週間ほどの距離だそうだ。ならこの間にゆっくりマジリカ国王にもらった勇者の書を読ましてもらおう。
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