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12話 迷宮ボス

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 昼食を終えたおれたちは鍛冶屋にやってくる。クルルの装備を買うためだ。早速中に入るとグリルさんにゴミを見るような目で見られる。

「おっきい嬢ちゃん、もし兄ちゃんに何かされたら言うんだぞ!」

「何もするわけないだろ! それよやクルルの装備を見てやってくれないか?少々特殊なんだ」

 ほうっと仕事の顔になるグリルさん。普段からこうならいいんだけど……

「クルルはやっぱり筆とかだよな。絵画魔術だもんな」

「はい、でも絵画魔術のセットは特殊なので結構な値段ですよ?」

「言っただろ。おれたちは冒険者だ。迷宮に入ったりもするし魔物と戦うこともある。なら、武器位はしっかりしたものを持っとくべきだよ」

「そうですね。じゃあそれをお願いします。でもここ鍛冶屋ですよね?」

「鍛冶屋だけど、どうかしたの?」

「普通こういうのって鍛冶屋には置いてないんですけど……」

「おじさんなら大丈夫だよ。こんな可愛い子からのお願いなら安くしてくれるし、明日には揃えてくれるよ」

「わかったよ。人使いが荒いぞ。でも絵画セットか。最高の筆はうちにあるのはこのサーベルタイガーの筆だな。あと絵の具はやさいし、画板もやすいな。あとは紙とそれらを入れる魔法の袋とあと嬢ちゃんも魔力供給の帽子はもう帽子被ってるな。じゃあこの魔力吸収の腕輪だな。全部合わせて金貨3枚だな」
 おれはクルルを心配させないように即金で払う。

「相変わらず兄ちゃんはお人好しだよな。こういうのはブツと交換で払うもんだ」

「おじさんなら信頼できるからな」

「ぬかせ。ちっともそんなふうに思ってないだろ」

「あとおじさん、地図を書く分の紙と羽ペンも別に頼む。確か銀貨10枚だな」

「ああ、そうだ。それも明日でいいのか?」

「頼む」



「最初は喧嘩してる風に見せてたけど、お兄ちゃんとグリルさんって結構仲良しなんだよ」

「そうみたいですね。ぼくもあんな風になれるかな」

「私たちもう仲良しでしょ?」
「ミィも仲良し」
「そうですね。ははっ、何心配してたんだろう、ぼく」





 ここ2日ほどステータスを見に行ってなかった。でも今日はクルルも入ったことだし、久しぶりにステータスを確認しに行く。


名前:荒川 優
年齢:16
レベル: 13
HP : 7
MP : 271
攻撃 : 8
防御 : 8
知力 : 213
敏捷 : 7
命中 : 5
器用 : 6
称号 : ロリコン勇者
スキル: 風魔術レベル4、光魔術レベル4、火魔術レベル2、雷魔術レベル3、???魔術レベル?


名前:ティナ
年齢:10
レベル: 8
HP : 65
MP : 25+110
攻撃 : 15
防御 : 8
知力 : 15
敏捷 : 153
命中 : 22
器用 : 22
称号 : 精霊の使い手
スキル: 精霊魔法レベル1


名前:ミィ
年齢:15
レベル: 6
HP : 138
MP : 10
攻撃 : 10
防御 : 61
知力 : 5
敏捷 : 12
命中 : 8
器用 : 10
称号 : 優の奴隷


名前:クルル
年齢:14
レベル: 7
HP : 9
MP : 84
攻撃 : 5
防御 : 5
知力 : 14
敏捷 : 8
命中 : 16
器用 : 170
称号 : 優の奴隷
スキル: 絵画魔術ユニーク




 おれに関しては今日やった回復魔術のおかげて大幅にステータスアップしていた。でもティナちゃんとミィはあまりあがってなかった。やはりゴブリン相手ではもう上がりにくくなってきてるのだろう。
 そしてクルルはおれたちと違いあまりこれなかっただろうからステータスの表が古かっただけだろう。

「ミィがレベル1番低い」

 ミィが少し悲しそうだが実質ミィが1番能力を上げ始めたのが遅いのでしょうがないことだ。







 次の日にクルルの装備だけ受け取ると早速迷宮に向かって行った。

 迷宮内でもクルルに地図を描いてもらい、しかも罠らしきものもクルルの指摘で回避する。
 おかけでなんにも心配することなくボス部屋にたどり着く。本来のEランク冒険者ならここまでは楽勝なのだが、おれたちは初日のことがあったのであまりに嬉しく涙が出てしまう。

 しかしボス部屋は1パーティずつしか入れないらしい。おれたちのほかにもう一組待っていたので待ってる間に色々聞いていた。なんでも5層のボスはゴブリンキングが単体で出るらしい。
 
 順番待ちをしながら食事をとることにしたおれたちはイリナさん特製サンドイッチを食べ順番が来るのを待つ。ゴブリンキング、おれたちの宿命の相手だ。何度も何度も殺されそうになり、復讐してきた相手だ。なので戦い方もよく分かってる。亜種じゃないならティナちゃんだけでもかてるかもしれない。
 おれは戦い方を頭の中で思い描いて待ってるとようやくおれたちの番になった。

 中にいたのは普通のゴブリンキングだった。作戦はおれが魔術を当てて、その隙にティナちゃんが斬りつける。ミィは攻撃が来た時の盾でクルルはお休みだ。
 絵画魔術は結構使いにくい魔術で絵の出来で魔術の威力が決まってしまうらしい。戦闘中の絵ならまともな攻撃力を持たないらしい。

 ある程度部屋にはいり、残り10メートルくらいのところでゴブリンキングが動きだす。早速おれが雷魔術を発動する。迷宮内では無詠唱だとパーティメンバーが驚くので魔術名だけ言っていた。

「スパーク」

 雷魔術の初歩の魔術だ。一つの雷が4本の帯に変わり別々の方向から襲ってくる。回避の難しい魔術だ。それに合わせてティナちゃんが駆けている。
 そして魔術が当たった瞬間ドカンという音と共にゴブリンキングが消し飛んだ。

「……」

 前にも何度かしたことがあるがボスクラスの相手がまさか一撃とは思わなかった。駆けていたティナちゃんも目が点になっている。当然だ。おれも何が起きたかわからない。とりあえず勝ったので次の階層に向かう。

「納得いかなーい!!」

 アタッカーであるティナちゃんは欲求不満で再びボスを希望してるがここだとまた先ほどの繰り返しになりそうなので、次の10階層のボスまで行くからそこで暴れてくれっと言っておく。






 それから10階層までもやはり敵なしだった。6〜10階層ではウルフがメインだったので、ミィは少し動きが硬かったが、ティナちゃんがことごとく一撃で倒して行った。その結果、おれは歩いているだけだった。

 10階層では待ってる人はいなかったのでそのまま入ると中にいたのは大きいウルフだった。ティナちゃん曰くウルフリーダーという名でランクD相当らしい。

 早速今度は範囲魔法のストームカッターを発動すると、かわしきれなかったウルフリーダーに少し傷をおわすことができたが、まだまだ健在だった。そしてそのまま突進してきたウルフリーダーをミィが盾ではじき返し、ティナちゃんが雷神のダガーで斬りつけていった。
 そしてウルフリーダーが少し後ずさったときにもう一度斬りつけ、さらに回避しようとしているウルフリーダーをもう一度斬る。そこでウルフリーダーの様子がおかしくなる。全身震えだし、全く身動きもしなくなった。どうやら状態異常の麻痺になったようだ。あとはティナちゃんが首を斬りつけて終わりだった。
 今回はちゃんと戦えたのでなかなかいい戦闘だった。今後はこの階層位主流にしたらいいかもしれない。
 あっ、そういえばクルルだが後ろのほうでみんなの応援をしていただけだった。クルルの戦闘法も考えないといけないな。

 そして10階層までたどり着いたので今日はもうお終いにし、宿に帰ることにする。かなり長いこといた気がするが迷宮から出た時はまだ日が傾き始めたくらいだった。



 おれは宿屋に戻ってきた後に絵画魔術の有効活用方法を考えていた。魔術自体は相当強いので問題がないが問題は発動にかかる時間だ。流石に1時間くらいかかるようでは使い物にならない。かといって時間を短縮すると今度は魔術が弱くなってしまう。考えても答えが出なさそうだ。明日ギルドに行った時にミレイさんに相談しよう。流石に今日は疲れたのでもう休もう。
 どうしても頑なに2部屋とれないので、今この部屋のベッドには4人で寝ていることになる。流石にこれはキツキツになってくる。
 でも寝苦しいかというと案外そうでもない。ただ目が覚めた時にすぐそばに女の子の寝顔があると思うと……





 みんなの目が覚めてからみんなに重大発表をする。今までずっと働きづめだったので今日一日は休暇にしてゆっくり休んでもらおうとする。
 みんな驚きの表情をする。特に奴隷の二人組みだ。普通で考えれば奴隷に休暇などないだろう。死ぬまで働き続けるものらしいからどうすごしていいかわからないらしい。自分の好きな事をしたらいいよといい、それぞれに銀貨10枚ずつ渡す。

「「こんな大金受け取れません」」

 奴隷二人組みはそういうが無理にでももたす。

「使わなかったら貯金にでもするといいよ」

 そういうと、大事そうに銀貨を握りしめていた。

 さておれも今日はのんびりするか。宿の前で皆と別れ、おれはまず冒険者ギルドにやって来た。扉を開け中に入るといつもより早い時間のせいかどの受け付けも忙しそうにしている。別におれは急いでるわけではないので4人掛けテーブルの椅子に腰掛け、のんびりと受け付け業をこなしてるギルド職員の人を見てみる。おっ、あの人は回転が速いな。逆に奥の人はゆっくりだな。

「なぁ兄ちゃん。聞こえているか?」

 んっ、おれのことか? 声のする方に振り向くと知らない赤髪短髪の男がいた。いやおれに声をかけるくらいだ。よく思い出せ!う〜ん。

「初対面だからって無視するなよ」

 やっぱり知らない人でした。男はいい年して半泣きになってるぞ。

「まさかおれが呼ばれてるとは思わなかったんでな。でお前は誰だ?」

「俺は剛剣のイスバルトだ。お前はアラカ•ワユウで合ってるな?」

 なんか発音が全然違ったぞ。それに間あけるとこも違うのだが……

「それは人違いだな。おれは荒川優だ。それでゴウケンノさんは何か用か?」

「誰だよ、ゴウケンノさんって。おれはイスバルトだ。剛剣のは称号だよ。お前にもあるだろ」

 おれの称号はロリコン勇者か? 人に名乗りたくないな。

「それでおれに何のようだ? これでも忙しいんだぞ」

「どこがだよ! さっきまで受付眺めてただけじゃねーか」

「ちっ」

「舌打ちかよ。何でそこまで話すのが嫌なんだ」

「面倒いじゃん。お前以外の相手なら喜んでするんだけどな」

「しかも俺限定かよ」

 まるでコントをしてるようだった。この男、イスバルトだったか。のりがいいな。

「で何のようだ!? おれに用があるんだろ」

 イスバルトは疲れたような顔をしていた。

「ああ、そうだ。おれの訓練の相手を探していてな。受け付けの人に聞いたらちょうどお前が暇そうにしてると聞いてな。訓練場の決闘空間も借りておいたから訓練しようぜ」

「嫌だ!」

 おれは即答で拒否してやる。

「何でだよ。暇なんだろ」

「せっかくの休みなんだ。そんな命の取り合いなんかしたくない。おれは弱いんだ」

「なんだ、お前。決闘空間を知らないのか。この中ではいくら戦っても怪我すらしない訓練には持ってこいの空間なんだ」

 へぇ、そんな便利な空間があるんだな。じゃあ試したい魔術があるから実験台になってもらうのもいいかもしれない。

「それじゃあ行くか。どのくらい時間とってるんだ?」

「1時間だな。十分だろ?」

「いや、そんなに魔力持つかな?」

 でも試したい魔術が全て出来そうだな。

「今更弱腰かよ。まぁ手加減してやるから存分にかかってこい」

 やってきたのは地下の訓練所の一角だった。しかし、ここには結界のようなものが張られている。これが傷すらつけさせないというものの正体だろうな。時空魔術の一種か?

 おれたちはその中に入ると10メートルくらい離れたところでお互い見合った。

「それじゃあ始めるぞ」

「いつでもいいぞ」

 魔力の準備は万端だ。

「じゃあ始め」

 イスバルト、お前が言うのかよと言いたかったが、あいつも向かってくるので魔術を発動する。使うのは風と光の合成魔術だ。

「バニシングカッター」

 ただでさえ見にくい風属性の横向きのウインドカッターの特大サイズを光属性で光の屈折を利用して完全に見えなくする。当然、イスバルトも見えてないのでそのまま突っ込んできて真っ二つになる。

「とりあえず、一回戦終了だな」

 時間にして数十秒。まだまだやれるな。

「じゃあ次をしようか」

「まっ、待て。今のなんだ」

 一回戦終了の合図で元に戻ったイスバルトだが、疑問に答える義理はない。

「じゃあ二回戦開始」

 性懲りもなく突っ込んでくるイスバルト。いや、少しフェイントを織り交ぜたりしてるので、成長してるのか?ともかく、おれは次は火と光を合成してみる。どこまで消えるのか実験台になってもらおう。

 二回戦の結果もおれの勝ちだ。目の前に丸焦げのイスバルトがいた。

 そして、3回戦、4回戦とどんどん強力な魔術にしていったが、イスバルトは毎回毎回バカ正直に突っ込んでくる。いや、魔術を斬ろうと剣を振るっている。あの剣にも魔力が込められているので、完全に消滅することは出来なくても少しだけ霧散させることなら出来るだろう。当たればだけど…。結構イスバルトは1回だけ斬ることに成功していたが、そのときはまた別の竜巻の魔術を使い、遥か上空に飛ばしてやった。





 それからしばらくは光魔術の合成でどこまで消えるかためしていたのだが、光魔術を強めに合成したらどんな魔術でも消えることがわかった。次は雷の実験かな。と思ったときに1時間たったようだった。動かないイスバルトを蹴り転がして結界の外に出す。

「お前弱いな。ランクいくつなんだ?」

 いつの間にか復活してるイスバルトに聞く。

「これでもランクEなんだぞ。お前の魔術が変わりすぎてるだけだろ。ユニークか?」

「そんなチート持ってないさ。やり方は秘密だ」

「そうだよな。誰でも切り札の一つも持っているよな。俺も頑張らないとな。ところでお前レベルはいくつなんだ?これはギルドカードにも載ってるしいいだろ。ちなみにおれは14だ」

 そう言ってギルドカードを見せてくるイスバルト。

「おれは13だ」

「お前の方が下かよ。でも、今日は無理言って悪かったな」

「いや、お前の相手ならこれからも喜んでするさ」

「ユウ……ありがとな。またこれからもよろしく頼む」

「ああ、こっちこそまた魔術の実験台としてよろしく頼むぞ」

「ああ、って実験台かよ。つまり今日のも実験かよ。お前は変わった奴だな」

「お前もな」

 おれは黙って熱い握手を交わそうとしていたイスバルトの手を火の魔術で熱くした手で握りしめる。周りから見てると完全に握手だが、イスバルトはたまらなく手を払いのける。

「お前性格悪いな」

「お前に対してはな」

 そう言って手の火傷を治してやる。なんだかんだ突っかかって来られたけど、こういうやり取りは新鮮だった。

「じゃあまたな」

「ああ」
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