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組合でのお約束
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カウンターまでたどり着くと私達を笑っていた声がピタッと止む。
よく見るとカウンターのお姉さんが怖い目をしていた。
うぅ……、なんだかここにいる人たちより怖い……。
私はキュッとマークくんの裾を掴む。
「ご、ごめんね。こんな所にどうかしたのかな?」
お姉さんの怖い顔が急に笑顔に戻る。
ただ、さっきの怖い顔を見たせいか笑顔も怖い気がする。
「そ、そんなに怯えないで! ごめんね。私が悪かったから。もう、あなたたちのせいですよ! 罰として今度から報酬額を1割減にします!」
「そんなー。ミリ―さん、横暴ですよ」
ギロっと男の人たちをにらみかけるカウンターのお姉さん。
「ご、ごめんね。脅かすつもりじゃなかったの。もう怖くないからね」
お姉さんは必死に怖くないアピールをしてくる。
「だ、大丈夫みたいだぞ」
「うん、わかったよ」
私はお姉さんの前に立つ。
「あ、あの……。私……錬金で……。その……お店……あのあの……」
先ほど怖かったこともあり、すごく緊張してあまり自分でも何を話しているのかよくわからなかった。
でも、お姉さんはうんうんと笑顔で私が話すのを聞いてくれている。
あれっ、このお姉さんいい人? さっきすごく怖かったのに今は何だか落ち着きを取り戻してきていた。
「うん、わかった。お店をするから商業組合に届け出を出しに来たんだね。じゃあこの紙に署名してくれる?」
「は、はい……」
私は渡された紙に文字を書いていく。
辿々しい手つきなのはあまり文字を書く機会がないせいだ。
「これでいいですか?」
私は書き終わった紙をお姉さんに渡す。
「うん。バッチリよ。それじゃあ説明するね。といっても商業組合はそこの怖ーいお兄さん達に説明したのとは違ってあまり言うことはないんだけどね」
「怖ーいって誰のことだ!!」
「あんた達よ!」
お姉さんは私とテーブルに座っている人たちとで態度が違うようだった。
私は今のままの態度でいてもらえるように頑張ろうとひっそりと握り拳を作っていた。
「こほんっ。それじゃあ、再開するね。まず知っといてもらいたいこと。それは年に1回税金が掛かるということね。収入の1割。これをキッチリ報告できるように帳簿をつけておいてね。出ないと怖ーいおじさん達をけしかけることになるからね」
お姉さんはテーブルの人たちを指さす。
「誰が怖い人だ!」
と言う声がまた上がっていた。
これはお約束なのだろうか?
なれてきた私は乾いた笑みを浮かべるくらいになっていた。
「お、強くなってきたね。それじゃあ再開するよ。あとは……他所へ旅立つときとか護衛が欲しいときとかはここに来てくれたら紹介するね。値段の交渉はそちらで任せるけど。ここまででわからないことある?」
私は首を横に振る。
「それなら大丈夫ね。あと、これ商業の許可証になるからお店の前に駆けておいてね。描く絵は任せるから」
お姉さんはそう言うと看板を手渡してきた。
お店の看板って商業の許可証だったんだ……。
◇
「さっきは脅してすまなかったな」
さっき私の前に立ちふさがってきたおじさんが謝ってくる。
「い、いえ。気にしないでください」
「そうはいくか。一応決まりだから新人には脅しをかけているんだが、やっぱり嬢ちゃん達みたいな子供相手には心苦しかったんだ」
き、きまり!? えっ、じゃあさっき脅されていたのってわざとなの?
「おい、わざとって本当なのか?」
マークくんがおじさんを睨み付ける。その目つきがいつもの数倍鋭く、声色は冷たさすら感じられた。
「おい、言え! 本当にわざとなのか!」
「あ、ああ。それがここの決まりだからな。それにこの決まりを作ったのはあんたの親だぜ」
もしかしてルクスフォード様が?
ど、どうして?
私は頭の中がこんがらがってくる。
「なんでも、昔魔物討伐に乗り出す無茶な若者が大量に出たらしい。それでやむを得ない措置として見たことのない新人には脅しをかけることになったんだ。依頼を出す場所は別の所だし、ここには許可をもらうか素材を売りに来る奴しかいないからな」
あっ、そういえば魔物討伐の報酬もここで受け取るってマークくんが言ってたな。
「だから俺たちも好きでしてるわけじゃないんだ。それでもむやみに命を落とす奴が減るならと心を鬼にしてやってるんだ」
「嘘つけ! お前楽しんでやってるだろ!」
周りから冷やかしの声が入るのはこれだけ人がいたら仕方ないことなのだろう。
私は理由がわかった後はずっと苦笑いを続けていた。
「本当に悪かったな。お詫びに好きなものを食っていけ」
おじさんはそう言うと色々な料理を出してきた。
「いいの?」
「ああ、気にせずに食ってくれ」
「それじゃあ遠慮なく」
私はまず手前にあったお肉に手を伸ばす。
それを齧り付こうとしたときにちびどらが私のお肉をとっていった。
そして、美味しそうにカジカジと囓る。
「そういえばさっきから側を飛んでいたけどこいつはなんだ?」
「この子は……ちびどらです。ただの空飛ぶトカゲ」
「おいらはトカゲじゃないやい!」
「しゃ、喋った!?」
ちびどらが喋ったことで店内はしーんと静かになる。
私は完全に固まってしまい、マークくんはやれやれといった感じに首を振っていた。
何もわかっていないちびどらは1人キョロキョロと周りを見ていた。
よく見るとカウンターのお姉さんが怖い目をしていた。
うぅ……、なんだかここにいる人たちより怖い……。
私はキュッとマークくんの裾を掴む。
「ご、ごめんね。こんな所にどうかしたのかな?」
お姉さんの怖い顔が急に笑顔に戻る。
ただ、さっきの怖い顔を見たせいか笑顔も怖い気がする。
「そ、そんなに怯えないで! ごめんね。私が悪かったから。もう、あなたたちのせいですよ! 罰として今度から報酬額を1割減にします!」
「そんなー。ミリ―さん、横暴ですよ」
ギロっと男の人たちをにらみかけるカウンターのお姉さん。
「ご、ごめんね。脅かすつもりじゃなかったの。もう怖くないからね」
お姉さんは必死に怖くないアピールをしてくる。
「だ、大丈夫みたいだぞ」
「うん、わかったよ」
私はお姉さんの前に立つ。
「あ、あの……。私……錬金で……。その……お店……あのあの……」
先ほど怖かったこともあり、すごく緊張してあまり自分でも何を話しているのかよくわからなかった。
でも、お姉さんはうんうんと笑顔で私が話すのを聞いてくれている。
あれっ、このお姉さんいい人? さっきすごく怖かったのに今は何だか落ち着きを取り戻してきていた。
「うん、わかった。お店をするから商業組合に届け出を出しに来たんだね。じゃあこの紙に署名してくれる?」
「は、はい……」
私は渡された紙に文字を書いていく。
辿々しい手つきなのはあまり文字を書く機会がないせいだ。
「これでいいですか?」
私は書き終わった紙をお姉さんに渡す。
「うん。バッチリよ。それじゃあ説明するね。といっても商業組合はそこの怖ーいお兄さん達に説明したのとは違ってあまり言うことはないんだけどね」
「怖ーいって誰のことだ!!」
「あんた達よ!」
お姉さんは私とテーブルに座っている人たちとで態度が違うようだった。
私は今のままの態度でいてもらえるように頑張ろうとひっそりと握り拳を作っていた。
「こほんっ。それじゃあ、再開するね。まず知っといてもらいたいこと。それは年に1回税金が掛かるということね。収入の1割。これをキッチリ報告できるように帳簿をつけておいてね。出ないと怖ーいおじさん達をけしかけることになるからね」
お姉さんはテーブルの人たちを指さす。
「誰が怖い人だ!」
と言う声がまた上がっていた。
これはお約束なのだろうか?
なれてきた私は乾いた笑みを浮かべるくらいになっていた。
「お、強くなってきたね。それじゃあ再開するよ。あとは……他所へ旅立つときとか護衛が欲しいときとかはここに来てくれたら紹介するね。値段の交渉はそちらで任せるけど。ここまででわからないことある?」
私は首を横に振る。
「それなら大丈夫ね。あと、これ商業の許可証になるからお店の前に駆けておいてね。描く絵は任せるから」
お姉さんはそう言うと看板を手渡してきた。
お店の看板って商業の許可証だったんだ……。
◇
「さっきは脅してすまなかったな」
さっき私の前に立ちふさがってきたおじさんが謝ってくる。
「い、いえ。気にしないでください」
「そうはいくか。一応決まりだから新人には脅しをかけているんだが、やっぱり嬢ちゃん達みたいな子供相手には心苦しかったんだ」
き、きまり!? えっ、じゃあさっき脅されていたのってわざとなの?
「おい、わざとって本当なのか?」
マークくんがおじさんを睨み付ける。その目つきがいつもの数倍鋭く、声色は冷たさすら感じられた。
「おい、言え! 本当にわざとなのか!」
「あ、ああ。それがここの決まりだからな。それにこの決まりを作ったのはあんたの親だぜ」
もしかしてルクスフォード様が?
ど、どうして?
私は頭の中がこんがらがってくる。
「なんでも、昔魔物討伐に乗り出す無茶な若者が大量に出たらしい。それでやむを得ない措置として見たことのない新人には脅しをかけることになったんだ。依頼を出す場所は別の所だし、ここには許可をもらうか素材を売りに来る奴しかいないからな」
あっ、そういえば魔物討伐の報酬もここで受け取るってマークくんが言ってたな。
「だから俺たちも好きでしてるわけじゃないんだ。それでもむやみに命を落とす奴が減るならと心を鬼にしてやってるんだ」
「嘘つけ! お前楽しんでやってるだろ!」
周りから冷やかしの声が入るのはこれだけ人がいたら仕方ないことなのだろう。
私は理由がわかった後はずっと苦笑いを続けていた。
「本当に悪かったな。お詫びに好きなものを食っていけ」
おじさんはそう言うと色々な料理を出してきた。
「いいの?」
「ああ、気にせずに食ってくれ」
「それじゃあ遠慮なく」
私はまず手前にあったお肉に手を伸ばす。
それを齧り付こうとしたときにちびどらが私のお肉をとっていった。
そして、美味しそうにカジカジと囓る。
「そういえばさっきから側を飛んでいたけどこいつはなんだ?」
「この子は……ちびどらです。ただの空飛ぶトカゲ」
「おいらはトカゲじゃないやい!」
「しゃ、喋った!?」
ちびどらが喋ったことで店内はしーんと静かになる。
私は完全に固まってしまい、マークくんはやれやれといった感じに首を振っていた。
何もわかっていないちびどらは1人キョロキョロと周りを見ていた。
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