上 下
54 / 108
3章:異世界と日本との二重生活の始まり

54:キルギスサイド

しおりを挟む
 初めて会った時は、落ち人という事と、元の世界に帰るのだというから気にしていなかったが…露店でおいしそうに食べる顔は本当にこの世界の味が気に入っているのだとわかってうれしくなった。
 はぐれないようにするといって手をつないだが、照れているのか恥ずかしいのか、ほんのり頬を染めている表情に、かわいいと思ってしまったが…元の世界に帰るのだと自制した。

 元の世界に戻ってしまってからあの露店に行くと、この料理は食べてなかったなとか、これを食べたらおいしそうに食べてくれるのだろうかとか、色々考えてしまう。

 松田から、あの世界の中でも物凄く安全な国なのだという事も聞いていたが、次第に心配になってきた。安全性はもちろんだが、病気にかかることはあるそうだし…医学はこの世界よりもいいと聞いたがそれでも心配になる。
 心配するだけ無駄だとわかっている。世界を隔てているのだし、落ち人がこちらに来る事は可能だが、私は行くことができないのだ。何かあっても助けてやれることはない。だから、しつこく松田に手紙で聞いていたのだが、いつも元気だという答えしか返ってこないから、もっと心配になってしまう。


 結果、ユカを両親がこの世界へと再召喚するという暴挙に出たことでつながりを作られてしまった。両親は、ユカの能力を本当の意味で知らないのだから、仕方ない事なのかもしれないが…両親にしっかり釘を刺した。松田や機関の者にも能力の事は言えないが、しっかりとユカを悪用する様な事が無い様にと伝えた。

 ユカがまた来る日を松田から聞いて…いや、ユカがこの世界へと再召喚されて日本へと戻ってから、ユカにこの世界を気に入って貰えるように、いろいろと考える。観光地でもいいし、おいしい料理でもいいし…それに、もともとキャンプをしようと山に行ったらこの世界へと落ちて来たそうだから、一緒に山に行くのもいい。だから情報を集めた。スーザンにも女性という立場から意見も聞いた。

「なんでキルギスさんのデートコースを私が考えなきゃいけないんですか」
「…デートコースではない。どうせならユカにこの世界を気に入って貰いたいだろ」
「それはそうですけど」

 ぶつぶつと、絶対デートだ…と言っているのが聞こえるが無視だ無視。


 そうして少しぶりに来たユカだが、元気な様で安心した。来てすぐに松田となにやら確認しているが、長方形の薄い物を操作して問題が起きたようだが…後で松田に確認しなければ。
 と、考えた所でスーザンが戻ったが…なにやらぎょっとした顔をしている。ああ、松田の結界かと理解して解除するように言うが、知っていたとしても普通真っ黒なモノがあったら驚くぞ。

 今後の教育に関して文化、礼儀、マナーを簡単にと説明した所で松田がギルドへ行くという。そんなに不安そうな顔をしなくても、機関内だし私がしっかり守るから問題ないのにと少し嫉妬してしまった。

 スーザンが愚痴っぽい事を言い始め思わず同意したものの、話始めると止まらなくなることがある。そうなった場合、この世界に悪感情を持たれてしまうかもと思って急遽、昼食にしようとしたが…そのまま聞いてくれてよかった。
 慎重でもあるが、素直でもある、そんなユカがいいなと本当に思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...