キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ

文字の大きさ
上 下
3 / 108
1章:癒しを求めたはずが

3

しおりを挟む
「もう大丈夫そうだな」

 なんだかんだで…その男性はそれほどかからずに戻って来た。座り込んだ私だったけど、慌てて立ち上がる。

「はい、ありがとうございました」
「とりあえずこっち。あっちは山の奥に行く事になるから、ああいった魔物が出て来る」

 お礼を言うと、ここから離れたほうがいいと言って、さっさと歩いて行ってしまうその人だけど…顔の彫深くてかっこいい。目の色も水色…いや、緑っぽい?ぱっと見だけだから良く分からなかったけど。

「もう少し行った所に休める場所があるから、いろいろ気になるだろうけどついて来て欲しい」

 ちらりと振り返ってそう言われるけど、こんなどこなのか分からない場所で一人でどうにかなるなんて楽観視してないわよ。さっきのクマがまたでないとは言い切れないだろうし。
 それにキャンプ道具があるとはいえ…あのキャンプ場は水道とか、薪とかもちゃんと整備されてる場所だったから、持ってないもの。
 だからわかったと言って、おとなしくついて行く。

 一応は、本格的なキャンプをしたことがあるっていう人から話を聞いてたからね。薪って、乾燥してないと煤ばっかりで火がなかなか出ないとか。だから薪がないからと枝を取ったり拾っても燃えない場合があって困ると言ってた。水だって、余分に用意しろとかね。その人は最悪を想定して、簡易なものだけど浄水器を持ってるって言って見せてくれた。
 いくら慣れたと言っても、そこまで自分で出来る訳じゃないから…助けてくれるなら助けて貰った方がいい。

 どれ位歩いたのか。川があって、ぽっかりと開いた所に出た。

「ちゃんとした詰所もあるんだが、そこまではもう少しかかる。そこに座っててくれ。酒ならあるんだが…茶を用意しよう」
「あ、いえ、飲み物ならありますので」

 リュックを下ろそうとして…あれ?と、思う。かなりの重さがあったはずなんだけど、重さを感じない。敗れて中身がない、とかじゃないよね。
 あ、夢だから軽いのか。と、そう思い至り、ひとまずリュック脇に入れていたペットボトルを取り出す。その人も飲むかなと思ったけど、ペットボトルをじっと見てる?

「あの?」
「ああ…すまない。知り合いから聞いた事のある形状だったのでね。まあ、細かい事は後だ。まず…」

 質問は後にして欲しいとそう言って、自己紹介をされた。その人はキルギスさんというらしい。キルギスさんは、この世界ではよく異界から迷い込むのか、落ちて来るのか、人や物が来るらしい。物も問題だけど、人の場合、生活習慣や考えが違ったり、知識が違う為にトラブルやそれこそ争いになる事もあるという。なので、その人を保護する機関があって、その機関の人なのだという。

「名前と話からすると…以前保護した人間と同郷の可能性があるな」

 可能性として、という前置きと共にそう言われてびっくりした。日本という国に住んでいて、名前は高梨由香だと言ったらそう返って来たのよ。

「あと、そいつの言葉を借りると、異世界転移という事象らしい」
「異世界転移…」
「日本人ならそう言えば大体通じるとも言っていたが」

 …うわぁ…考えないようにしてたやつだった。いや、ほら、流石に物語とは違うと思うじゃない。自分の身に降りかかるとは思わないじゃない!?痛い人になりたくないし!?

「もしその日本に戻りたいというのならば、時間はかかるが可能だから安心するといい」
「え、帰れるんですか?」

 しかもちゃんと帰れるらしい。なんという親切設計。

「ああ。その辺りもまた後で。ただ…その荷物はまずいかもしれん」
「え?」
「衣服なんかはいいんだが…今まで、携帯していた武器や、持っていたカバン、ポケットに入れていた物すらこちらには来ていない。…荷物の中身は全て入っているのか?」

 そう言われて、リュックの中身をあけてみるけど…きちんと入ってる。寝袋に簡易なテント、キッチン用品なんかも。薪はないけど…小さなガスコンロは入れてあるし。バーベキューみたいには出来ないけど、お湯沸かすくらいは出来る。

「…そのカバンが特殊なのかもしれんが、異界の物を自由に持ち込めるとなると…知られると危険だな。隠した方がいい」
「隠すといっても…」
「信用してもらえるならば、私が預かってもいいか?」
「え?それは構いませんが…」

 でも、結局誰かの目につくのでは。と思ったのだけれど。

「私はマジックバックというスキル持ちでね。こう…」

 そう言って、手のひらを上にして前に差し出す。と、その手の上に何か赤くて細長い物が出る。

「これはそっちの世界でいうと、皮の色が違うがバナナだそうだ」
しおりを挟む
新作はじめました。過去作の主人公の男二人がなんかいちゃいちゃするやつです。片方女として転生してますけども。↓↓↓
TS転生∞:何度も生まれ変わり、能力を求められるのは

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【コミカライズ発売中】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。

櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。 才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。 敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。 新たな婚約者候補も…。 ざまぁは少しだけです。 短編 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 一迅社様より、アンソロジーコミック「婚約破棄されましたが、幸せに暮らしておりますわ!」第8巻が2/28に発売されました。 かしい葵先生にコミカライズしていただきましたので、よろしくお願いいたします。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...