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家へ引っ越してから

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 演劇が始まる少し前に、ラクシュ様もキンバリー家のグスタフ様も戻って来たわ。それと同時位に、軽食やワインを用意されたけれど…樽、運び込まれましたよ。一応、デキャンタ、といったかしらね。蓋が付いている瓶に移し替えた物がテーブルへと用意されて、そこから…キンバリー家の執事がグスタフ様のグラスへ注いでいるけれど…

「ネルア。あれは見ない方がいいですよ」
「何をおっしゃるのやら。当主も同じ勢いで飲めるでしょうに」
「否定はしませんが、しませんよ」

 えぇ…ラクシュ様もこんな、手品みたいにするすると飲めるの…いや、ね。あっという間になくなるのよ。執事がグラスへと注いでいるけれどその背後ではデキャンタに移し替えるメイドがいる…

「そのうち速度は落ちるので、放っておけばいいです。それより、ネルア。はい、あーん」

 うぐ…一口サイズのサンドイッチを、目の前に出されたわよ。軽食が運び込まれて、かわいらしいロールサンドや、クレープ生地の様な物で包まれた物もあって、この見た目から嫌な予感はしたのだけれど。
 嫌だと言っても引いてくれないのは分かり切っているから、諦めて口を開く。そっと押し込まれたサンドイッチを食べれば、レタスと卵が挟まれたサンドイッチだったわ。

「お味はいかがです?」
「美味しいですわ」
「それはよかったです。では、ネルア。私にも」

 やっぱりそう来ますよね…適当に摘まみ上げたのは…ベーコンが挟まれた、肉肉しい物だったわ。わたくしの場合は、ラクシュ様がこう…食べに顔を寄せてくれるから助かるわ。

「ん…結構ジューシーですね…我が君が好きそうです」

 ごくりと飲み下すと、そんな感想を言われたわ。そういえば、ルーヴェリア様とジョセフィーヌ様のデートに使う、という事だったわね。

「こういうお食事も、確認の必要がございますの?」
「そうですね。もし口に合わないようでしたら、うちのを入れるつもりでした」

 そう言って、今度は生地で包まれた物を差し出されて、口を開く。包まれて、といっても、封筒型といえばいいかしら。中は、お肉と…食感がしゃきしゃきするからこれもレタスかしら。キャベツ?それらが口の中でいい塩梅で混じって美味しいし楽しい。
 中身が見えないから、好き嫌いがある人だと困るかもしれないわね。それをラクシュ様へと伝えれば、なるほどと言いつつ、ご自身の手で摘まんで食べる。

「ネルアは中身、魚でしたか?」
「いえ、お肉と葉物野菜でしたわ。ラクシュ様は、お魚でしたの?」
「ええ。これはこれで楽しめますが…無しにしましょう」

 そうね。他の物を食べてみたいと思っても、中身が見えないから…延々と同じものを口にしてしまう、という事もあるかもしれないものね。
 そうやって、いろんな物を口にして楽しんだのだけれど…

「いいなあ、あれ。俺にもしてくれないか?」
「おととい来やがれですわ」

 と、グスタフ様とサラン様がそんな会話をしているだなんて全く気が付かなかったわよ。
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