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序章

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「湯冷めしてしまっては事です。さぁ」

 ふわり、と…今もつけていた、青いマントで肩を覆われて、身体が強張ってしまう。だって、このマント…ラクシュ様が第二王子様から賜った、ラクシュ様の身分を示す物で。第二王子様…ルーヴェリア様の紋はもちろん、王家の紋も入った物で。そんな物を気軽に使うものじゃないわよ。

「…仕方ありませんね」
「っ、あ、お、降ろしてください」

 マントを掛けられて、固まった私を、ラクシュ様はひょいと横抱き…いわゆるお姫様抱っこというやつをする。軽々持ち上げられたけれど、そんな軽い物ではないわよ!?

「降ろすのは、ベッドの上で、ですよ」

 そう言われて、思わずラクシュ様の顔を見てしまったけれど…あれ。面白がっているような顔はしているけれど…至って普通というか…こう、今からヤるぞ!っていう雰囲気でもない、ような?
 寝室は隣の部屋だから、あっという間にベッドへと運ばれてしまった。掛け布団、ないのだけれど。厚手の…リネンは掛けられていたけれど。それで身体を覆われて、ほっとした。いつもレイが用意してくれるお茶も用意されていて、ラクシュ様に手渡された。それを口にすれば、いつもと同じ味でおいしい。

「これからは」
「?」

 ラクシュ様もお茶を口にしたけれど…これからは?

「なんでも口にする前に、レイに確認しなさい」
「え?」
「毒が入っていたらどうするのです」
「ど、毒!?」

 急に何を言い出すのかと思うけれど…毒殺も、確かに人を亡き者にする手だわ…急に心配になって、カップを見てしまうけれど、もう口にしてしまったし…

「私がいるので問題ありません。レイが淹れた物も」
「それは、その、お仕事…」
「そうです。今では落ち着きましたが、子供の頃は毎回でしたね」

 毎回!?それは、よく無事だったわね…

「お茶はまだいい方です。給湯室で準備する段階で分かりますから。食事は料理人が作りますのでね…流石にすべての料理にという事はございませんでしたが、食事量減ってしまいますので私共がそれを補う料理や菓子を作って食べていただくのです」
「あ…それで…」

 もし戦争が起きた時、野営で質素な食事を食べさせられないとか言っていたけれど…本当の理由が、これだったのね。

「そうそう、今更ですが、こういった話は秘密ですよ?対策を取られてしまっては手間ですし」
「は、はい」
「今の話位でしたら問題はございませんが…変にねじ曲がって伝わるのも困りますしね」
「そう、ですわね」

 守秘義務というヤツよね、分かってるわ。

「ちなみに」
「はい?」

 守秘義務に関して日本では厳しかったわ~と思い出していると、ラクシュ様が楽しそうにそう言ってくる。何だろうと思ってその顔を見れば、す…と、目を細める。その顔が、少し怖くてびくりとしてしまった。

「初めて顔合わせをした時、お茶に睡眠薬を盛られていたのですが、身に覚えは?」

 え…睡眠薬?なぜ?そういえば、あの時動くなと言われたし…すぐ、庭園を案内して欲しいと言われたわ。それが、あのお茶を飲まない様にする為だったという事?
 ラクシュ様と初めてきちんと会ったのは、ラクシュ様から婚約の打診を頂いたから。その顔合わせの為に、うちのタウンハウスの東屋で顔合わせをした。私がお気に入りの、領地で取れるハーブティーをメイドに用意して貰ったのだ。あの時は、なんで、どうしてという疑問と、飲めなくて残念だという気持ちばかりだったけれど。

「すみません、メイドにお願いしたっきりで…」
「貴女を疑っている訳ではありませんよ。おそらくポットに入っていたのでしょうから、貴女も眠ってしまいますし」
「わたくしも、ですか?」
「ええ。三女…ケニア嬢をお勧めされましたので、もしかしたら起きたらケニア嬢と二人でベッドの中という事態に仕立てたかったのかもしれませんが…相手が悪かったですね」

 相手が悪かった、で、済ませられる問題なのかしら…犯人は誰なのかしら。父?まさかケニアがそこまでするとは思えないし。

「犯人はメイドの独断ですね。ケニア嬢に頼まれたからという事でしたが…公爵付きのメイドが、娘とはいえ公爵に伺いもせずにそのような事をするとは、嫌ですねぇ」

 くすくすと笑いながら言う、嫌という言葉。けれど…その言葉ににじみ出るのは…憤りかしら…

「もし、貴方様が部下にそうされたらどうしますの?」

 聞くのが怖い気もする。けれど、聞いておいた方がいいとも思う。だから聞けば。

「そもそも、私、そう言う事しようと思ったら自分でしますし」

 ん?

「私が用意出来ないのであれば、一方的とはいえ声届けられますので、命令すればいいですし」

 んんん???

「そもそも私の意図を汲めない様な傍付はいないと思いますし。もし独断で私の意図しない事をされたとしても、薬の類は分かりますので、後程絞めて首にする、でしょうか」
「えぇと…あの、毒の扱いも、可能なのですか」
「毒と言いますか、薬の類はすべて問題ありませんよ」
「そ、そうなのですね」

 そう言って、にこりと笑うその顔が、話している内容と乖離して、ものすごく可愛らしいモノとか…どういう神経しているのかと思う。
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