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序章

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 ちゃぷり。と、音を立てる。
 今は、お風呂に浸かっている。先ほど…夜8時位に、にぎやかなパーティーから、宮殿…ここ王都へ移動してきて生活している場所へと帰って来た。そこで、もう私の許容量がオーバーしてしまったから、一人でゆっくりとお風呂に浸からせてもらった。傍には冷たいお茶も用意されていて、本当に長湯しても良い様になってる。

「これからやっていけるのかしら」

 ぽつり、とそう呟く。本当ならば、幸せの絶頂であるはずなのに。何故わたくしがこんな不安に駆られているのかというと、結婚した相手が色々と…ええ、色々と。
 ちなみに、私は前世日本人で、魔術があるこの世界へと転生した。ただ、魔術を使うべき魔力がない、魔力なしで。上位貴族の娘として生まれたけれど、魔力なしの貴族の娘なんて何人もいる妻の一人とか、ひどいと中高年のお妾さんという末路しかなくて。それが嫌で、修道院生活を夢見て活動していたのに、なんの因果か騎士様に見染められて…先ほど結婚したばかりだ。今はまだ書類だけで、結婚式やパーティーはまだだけど。

 では、その結婚した相手の説明と行きますか。
 髪は黒で、襟足を刈り上げた感じ。顔は中性的で、目が金色で日本人顔に近い。だからある意味とっつきやすい顔ともいえるのだけれど…顔がね…笑顔は可愛いのだけれど、名前を呼ぶと…というか、こう、溶けた顔をされると、腰砕けになってしまうのよ…なによあれ。

 それに、仕事がまだ不透明である、という事。いえ、一応は、王族の第二王子様の筆頭護衛騎士官という普通で考えると玉の輿に近いモノであるけれど…普通の騎士とは違う様で、ナイフとか小刀とか、尋常じゃない位隠し持っているし。投げるとも言っていたから、剣で戦うよりそっちの方が多そう。…忍者か?

 あと、疑惑は…解消されたとは言えないけれど、なんとなく解消された、実は第二王子様と恋仲なのでは、という問題。ただこれは、背中にある【羽】と呼ばれる模様を第二王子様が見たがった事から、そういう関係であればいつでも見られるのでは。と思い至ったから、そういう関係ではないのかも。と思っただけで。
 実際、二人と接していると、イチャついていると取れる事するのよね。乳母兄弟だから気安いと言えばそうなんだろうけども。

 嫌いではないのよ。笑顔は可愛いし。対応は紳士的で優しいし。手の甲にキスしてきたりするから、それはそれで恥ずかしいから困るけれど。

「ここ、男子禁制でよかったわ…」

 そう、今いる宮殿は、王様のお后様が住んでいる宮殿で、女性のみ立ち入れる場所だ。だから、安心していたのだけれど。



「ふふ。こんばんは、ネルア嬢。随分長湯していたようですが、大丈夫ですか?」

 ちょっと、ソファで本を読みながらくつろぐこの人が、どうして男子禁制のここにいるのよ!?

「な、なぜ…」
「嫌ですねぇ…一応、今日は初夜ってやつですよ?」

 ちょっと!確かにそうかもしれないけれど、それ以前の問題として!

「ここ、男性は、入れないのでは」
「裏道がございまして。私共専用の」

 そんなモノあってたまるか!

「油断してましたかね。王太子様もおっしゃっていたでしょう?関係ない、と」

 確かにそう言ってましたが…それなら、不義も出来てしまうのではと言えば。

「私共一族は、王族への裏切り行為が出来ない性格でして。もし恋慕してしまったとしても、打ち明ける事もなくその問題を処理してしまいますので、問題ございません」

 ぱたり、と…本を閉じたラクシュ様…そう、今日結婚した相手よ。ラクシュ様は、お風呂へと続くドアから出てきて、固まってしまったわたくしの方へとゆっくり歩いてくる。

「それ、用意したのはレイですか?可愛らしくてイイですが、長話するには適していませんね」
「あ…き、着替え、」
「駄目ですよ。堪能させていただきます」

 ベッドへ行きましょうか。と言われて、いやいや、ちょっとまって、意外と手が早いのね!?

「ま、まってください、まだ、心の準備が」
「そんな恰好で誘っておいて?」
「だ、だってこれはレイが」

 そう、恰好。レイ、と言うのはわたくしへついている、ラクシュ様の血縁者でもあるメイド。そのレイが用意した物は流石にスケスケではないけれど、丈が短いネグリジェで。いつも、お風呂から上がるとこういうものが用意されているから、それを着るしかない。いつもは寝るだけだし、ベッドへと潜り込んでしまえば分からないから気にしてなかったけど…

「ふふ…いきなり取って喰いはしませんから、安心してください」

 そんな事言われて安心できる訳ないでしょう!?
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