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第三章:そんなこんなで生活がはじまりましたが

怖い男

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「うるっせぇ…」

 と、懇願した私の声を、そんな風に一刀両断されて、思わず身体が竦んだ。そういえば、この人、私を絶対服従できるんだった。

「ごめ…なさい」

 思わず腕を掴んでいた手を放して俯けば、ため息をつかれた。

「叫ばなくても聞こえる。…で、なんだって。買い物?」

 と、怒ってないのか聞き返されて、おずおずと顔を上げた。あれ。なんだろう、なんでこんなしおらしいの私?
 そんな疑問はさておき、話を聞いてくれるならと口にする。

「食事、作ろうとしたら、何もないので…」
「ああ…ソレ、あるなら問題ない。味も悪くなかっただろう」
「そんっ、でも、っ…」

 と、私が開けた保存食を見たのだろう。そう言ってくるけど、確かに食べられるけど、だからって毎食…それを言いたくても、なかなか言えなくて、口ごもってしまう。

「言いたいことがあるなら言え。俺はこれからまた研究を続けるからな」
「あ…温かい、料理を作ろうと思ったんだけど、食材がなくて…道具も、ないし」

 意外と話は聞いてくれるらしい。最初のイメージが強くて、怖い人って思ったから。要望を言えば、またため息をつかれた。

「俺は王宮にいたんだ。一流のシェフが作った料理を毎日食べていたんだぞ。今更そんな家庭料理なんか…」
「そんな、ひどい!」

 そうかもしれないけど、家庭料理なんかって!だからそう思わず叫んでしまえば---

「あーだからうるっせぇ。なんだってこう女はすぐ叫ぶんだ。ちょっと黙ってろ」
「いぎっ…」

 強制的に、物理的に、口をふさがれた。その男の手で。そして、その一瞬後には…魔力線で、封じられていた。男の手で口をふさがれた時の、力強さに…逆らえないと、なぜか本能的に分かった。

「で?なんだって?…ああ、今更怯えてるのか。最初からそうしてればいいものを」

 身体が勝手にかたかたと震えていた。思考は、なんで、どうしてと大忙しだ。

「…暇なら庭のハーブでも加工しておけ」

 それだけ言って、男はその保存食を箱ごと持って行った。持ったというより…魔法で浮かせて、だけど。

 そうして、男がキッチンから出てしばらくすると、魔力線が解除されるなり、へたり込んだ。

「こわ、かったぁ…」

 今更、涙が出てくる。なんでだろう。暴力を振るわれたわけでもないし、すこし…そう、口をふさがれただけだ。でも…どこかできっと、理解してるんだろう。あの男が主人で、絶対的な支配者だと。この身体はあの男が創ったし、調整したとも言っていた。だから…

 私はしばらくの間、そこから動けないでいた。
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