9 / 21
1章
路地裏の戦い
しおりを挟む
俺とテッサ、そしてチビのブタ男とノッポのサメ男の四人は、ランナーズストアを出て人気のない路地裏へとやって来た。
「ここなら邪魔は入らねえな」とブタ男。
「ああ、思う存分にやれるぜ」とサメ男。
二人は懐から銃を取り出し、俺たちに狙いを定めた。
「ひいっ!」と俺は身を縮ませる。
一般的な日本人として当たり前だと思うが、銃口を向けられるのは人生で初めてだ。俺は反射的にテッサの後ろに隠れた。
「いちおう確認するけど、私たちを殺してしまったらお金は回収できないんじゃない?」俺と違ってテッサは堂々とした態度で言った。
「安心しろ。スタンモードだから気絶するだけだ。ただし、目が覚めたらどんな状態になっているか分からないけどな」
「少なくともお前たちが後悔することは確かだ。あの時金を払えばよかったとね」
「今ならまだ間に合うぜ? 金さえ払えば何の問題もないんだ」
「これは最後通告だ。さあ、どうする?」
二人のセリフが終わったところで、俺はテッサに耳打ちをした。
「おい、どうするんだよこれ。さっさと金を払ったほうがよくないか? だいたい滞納していたのはテッサなんだろう?」
「バカ言わないで。あいつらは闇金融でものすごい返済額なのよ? そんなの払っていたらお金がなくなっちゃうわよ」
「バカを言っているのはお前だよなあ?」
「うるさいわね。とにかくここを切り抜ければいいんでしょう? 見ていなさい」
そう言ってテッサは数歩前に出た。
無一文かつ交渉能力も戦闘能力もない俺は、言われなくても見ていることしかできない。俺は固唾を呑んで見守った。
「話し合いは済んだか?」とブタ男が言った。
「それで、返事は?」とサメ男が続けた。
「お金は払わないわ」
「それがお前らの答えか」
「ええ。お望み通り相手をしてあげる。この聖剣エリュシオンでね!」
そう言ってテッサが引き抜いたのは、背中に装備していた例の剣だった。
起業プランナーに騙されて買った4億エンスのおもちゃの剣。
チャンバラごっこをするために作られたその剣先を、テッサは相手に向けた。
まさかこいつ、それで戦うつもりなのか!?
「まさかお前、それで戦うつもりなのか!?」
ブタ男が俺の気持ちを代弁してくれた。
どうやら彼らもまったく同じことを思ったらしい。
意見が一致して俺はとても嬉しいよ。
ただ一人、テッサだけは俺たちと意見が違うらしかった。
「そうよ。これは魔王を討伐せし聖剣。あなたたちチンピラなんて一瞬にして葬り去れるんだから」
それを聞いたブタ男とサメ男はしばらく顔を見合わせてから、いきなり慌てた様子になって言った。
「ナ、ナンダッテー! 魔王ヲ倒ス剣ダトー!?」
「ソンナ剣ヲ持ッテイルナンテ聞イテナイゾー!? ヤベエ、ヤベエヨー!」
どう考えたってそれは演技だった。
だがテッサは真面目に言う。
「今さら喚いても遅いわよ。聖剣エリュシオンの切れ味、とくと味わうがいいわ!」
そうやってテッサが大見得を切った、その時だった。
ブタ男が銃を撃ち、エリュシオンを粉砕した。
どうやら彼らの持っていた銃はレーザー銃だったらしい。チャンバラ目的のやわらか素材がその光弾に耐えられるわけもなく、エリュシオンは柄だけを残して消滅してしまった。
ああ、哀しきエリュシオン。
こうして4億エンスは散りになった。
「ぷっ……」
ブタ男とサメ男はその惨状を見て噴き出した。
「ぷはははは、なーにが聖剣だよ! ただのおもちゃの剣じゃねえか!」とブタ男。
「え? なんだって? それで魔王を倒すって? さすがに子どもは想像力がゆたかだねえ」とサメ男。
「おいおい、夢を壊すようなことを言うなよ。本気で信じていたらかわいそうだろう?」
「おまえが物理的に壊したんじゃねえか。まったく、面白いことをしてくれるぜ」
やめたげてよお!
彼らがあまりに笑うので俺のほうが赤面してしまった。
俺だったら黒歴史確定だよお。大人になってから何度も思い出して、悶絶すること間違いなしだよお。
それから俺は、テッサのことが気になって彼女に目をやった。
テッサは柄だけになってしまったエリュシオンを見つめ続けていた。
放心状態?
いや、違う。
テッサの全身からは、怒りが噴き出していた。
「よくも……、よくもやってくれたわね……」
テッサはエリュシオンの柄を捨て、ゆっくりと二人に近づいていった。
「おー、こわこわ。今度はどんな武器で戦うつもりなのかなー?」
「水鉄砲じゃねえか? なあ、そうだろう? 嫌だなー、怖いなー」
実際のところテッサがどうするつもりなのか、俺にも分からなかった。
まさか素手で戦おうっていうんじゃないだろうな?
俺がそう心配したその時だった。
テッサがコートの下、腰の辺りから何かを取り出した。その仕草からして銃かと思ったが、違うことはすぐに分かる。
テッサがそれを起動すると、独特な音とともに光の刃が出現した。
光の剣。
ぶっちゃけて言ってしまおう。
テッサの手にあったのは、どう見てもライトなセーバーだった。
「あなたたちの相手は、これでするわ」
テッサがその剣先を向けると、さっきまで笑いこけていた二人組の顔が、青ざめた。
「その光剣……。お前まさか、オドの使い手……?」とブタ男。
「だ、騙されるな。そんなわけねえ!」とサメ男。
「試してみればいいじゃない」
その瞬間、二人組がレーザー銃を連射した。
「ええい撃て撃て! 近づけさせなければどうということはない!」
降り注ぐ光弾。しかしテッサは光の剣を信じられない速さで振るい、鮮やかにそれらを弾いていく。剣は美しい光の軌跡を描き、光弾を弾く度に激しい音を鳴らした。
「クソッ、当たらねえ!」
「どうなってんだ、こいつ!」
やがてその攻防はあっけなく決着がついた。
テッサが弾き返した光弾を、ブタ男がおでこに受けてしまったのである。
「あばあ!」と妙な声を上げて倒れるブタ男。
「相棒!」とそれに駆け寄るサメ男。
その後のサメ男は迅速だった。倒れたブタ男を肩に担ぐと俺たちを一瞥して「覚えていろよ、この野郎!」の捨て台詞。颯爽と走り出したかと思うと、あっという間に姿を消してしまった。
思わず見とれてしまう見事な逃げ様だ。
これだけのものを見せられたら追撃の手もつい緩めてしまうだろう。
それが本当かは置いておいて、実際のところテッサは深追いをしなかった。
光の剣をしまい、軽く身なりを整えているテッサに俺は言った。
「こ、殺しちゃったのか?」
「さあ? スタンモードって言っていたし、気絶しただけじゃないの?」
「ああ。そうか、そうだよな」
テッサがあまりに鬼気迫る感じだったから、てっきりやっちまったのかと思ったぜ。
ここまでギャグ展開で来たのにこんな形で死人を出すとか、勘弁してくれよな。
俺はホッと一安心してからテッサを見た。
そしてギョッとした。
テッサが目に涙を浮かべていたからである。
「どうしようタツルぅ」テッサが情けない声で俺に泣きついて来た。
「ど、どうした? どこか撃たれたのか?」
「聖剣エリュシオンが壊れちゃったよお! これじゃあ魔王討伐できないよお!」
「……」
「お金を稼ぐどころか借金も返せないよお! 聖剣を使えば簡単に大金持ちになれるって聞いたから、スペースランナーになったのにい!」
「…………」
いや、その聖剣、おもちゃだから。
どっちにしても魔王は、倒せないから。
そんな話をここで蒸し返しても話がこじれそうなので、俺はとりあえずテッサを慰めることにした。
「もう泣くな、テッサ。こうなったらコツコツ依頼をこなして地道に借金を返していこう。大丈夫、テッサならなんとかなるよ。だってあんなに強いんだから」
実際、さっきの戦闘には驚かされた。目にもとまらぬ剣さばきで光弾を次々と弾いていく様は、まさに神がかっていた。あとはその傲慢な野望と捻曲がった認識さえなんとかすれば、スペースランナーとして普通にやって行けるのでは? そんな予感が俺にはした。まあ10億エンスもの借金の完済は、遠き道のりになるのだろうが……。
なんてことを考えている時だった。
「タツルも……、タツルも手伝ってくれる?」
涙目のテッサが上目遣いで言った。
この時の気持ちを正直に申し上げる。
弱っている女の子(美少女!)の上目遣い。その仕草と言い方。はっきり言ってドキッとしてしまった。一瞬息が止まってしまった。えっ、何これ。破壊力が半端ないんですけど? 庇護欲がドバドバと溢れてくるんですけど? いや、落ち着け。まあ、落ち着け。そして、落ち着け。こんなことで流されていたら女性陣に「これだから男は」と思われてしまうぞ。あくまで理性的に考えるんだ。
やがて俺はため息をついた。
まあ、なんだ。
よく考えたら無一文のホームレスの俺には、元々選択肢がなかったわ。
「しょうがねえなあ。手伝ってやるよ」
「ほ、本当?」
「ああ。その代わり衣食住保証の件、ちゃんと守ってくれよ」
俺がそう言うとテッサは、涙を拭って微笑んだ。
「ありがとう、タツル。あなたをクランに入れてよかったわ」
その表情がまた可愛いので、俺は惑わされないように目を逸らす。
可愛いは正義と言うが、正義が暴走することもままあるのだ。
しかし、あれだな。
結果的に魔王討伐なんていう無茶な依頼をしなくてよくなったのだから、エリュシオンを壊してくれたローンアニムズの二人組には感謝しなくちゃいけないな。
俺は心の中で彼らに対し健闘を称えた。
ありがとう! そして、ありがとう!
「あー、ところでこれからどうするんだ?」俺はテッサをチラッと見て言った。「正直この一週間の疲れがあるから俺はもう休みたいんだけど……」
「そうね。私もなんだか疲れちゃったし」そう言うとテッサは歩き始めた。「私たちの宇宙船に行きましょう。タツルもそこに泊まったらいいわ」
その頃には日が暮れ始めていた。
俺は言われるがままにテッサのあとに続いた。
「ここなら邪魔は入らねえな」とブタ男。
「ああ、思う存分にやれるぜ」とサメ男。
二人は懐から銃を取り出し、俺たちに狙いを定めた。
「ひいっ!」と俺は身を縮ませる。
一般的な日本人として当たり前だと思うが、銃口を向けられるのは人生で初めてだ。俺は反射的にテッサの後ろに隠れた。
「いちおう確認するけど、私たちを殺してしまったらお金は回収できないんじゃない?」俺と違ってテッサは堂々とした態度で言った。
「安心しろ。スタンモードだから気絶するだけだ。ただし、目が覚めたらどんな状態になっているか分からないけどな」
「少なくともお前たちが後悔することは確かだ。あの時金を払えばよかったとね」
「今ならまだ間に合うぜ? 金さえ払えば何の問題もないんだ」
「これは最後通告だ。さあ、どうする?」
二人のセリフが終わったところで、俺はテッサに耳打ちをした。
「おい、どうするんだよこれ。さっさと金を払ったほうがよくないか? だいたい滞納していたのはテッサなんだろう?」
「バカ言わないで。あいつらは闇金融でものすごい返済額なのよ? そんなの払っていたらお金がなくなっちゃうわよ」
「バカを言っているのはお前だよなあ?」
「うるさいわね。とにかくここを切り抜ければいいんでしょう? 見ていなさい」
そう言ってテッサは数歩前に出た。
無一文かつ交渉能力も戦闘能力もない俺は、言われなくても見ていることしかできない。俺は固唾を呑んで見守った。
「話し合いは済んだか?」とブタ男が言った。
「それで、返事は?」とサメ男が続けた。
「お金は払わないわ」
「それがお前らの答えか」
「ええ。お望み通り相手をしてあげる。この聖剣エリュシオンでね!」
そう言ってテッサが引き抜いたのは、背中に装備していた例の剣だった。
起業プランナーに騙されて買った4億エンスのおもちゃの剣。
チャンバラごっこをするために作られたその剣先を、テッサは相手に向けた。
まさかこいつ、それで戦うつもりなのか!?
「まさかお前、それで戦うつもりなのか!?」
ブタ男が俺の気持ちを代弁してくれた。
どうやら彼らもまったく同じことを思ったらしい。
意見が一致して俺はとても嬉しいよ。
ただ一人、テッサだけは俺たちと意見が違うらしかった。
「そうよ。これは魔王を討伐せし聖剣。あなたたちチンピラなんて一瞬にして葬り去れるんだから」
それを聞いたブタ男とサメ男はしばらく顔を見合わせてから、いきなり慌てた様子になって言った。
「ナ、ナンダッテー! 魔王ヲ倒ス剣ダトー!?」
「ソンナ剣ヲ持ッテイルナンテ聞イテナイゾー!? ヤベエ、ヤベエヨー!」
どう考えたってそれは演技だった。
だがテッサは真面目に言う。
「今さら喚いても遅いわよ。聖剣エリュシオンの切れ味、とくと味わうがいいわ!」
そうやってテッサが大見得を切った、その時だった。
ブタ男が銃を撃ち、エリュシオンを粉砕した。
どうやら彼らの持っていた銃はレーザー銃だったらしい。チャンバラ目的のやわらか素材がその光弾に耐えられるわけもなく、エリュシオンは柄だけを残して消滅してしまった。
ああ、哀しきエリュシオン。
こうして4億エンスは散りになった。
「ぷっ……」
ブタ男とサメ男はその惨状を見て噴き出した。
「ぷはははは、なーにが聖剣だよ! ただのおもちゃの剣じゃねえか!」とブタ男。
「え? なんだって? それで魔王を倒すって? さすがに子どもは想像力がゆたかだねえ」とサメ男。
「おいおい、夢を壊すようなことを言うなよ。本気で信じていたらかわいそうだろう?」
「おまえが物理的に壊したんじゃねえか。まったく、面白いことをしてくれるぜ」
やめたげてよお!
彼らがあまりに笑うので俺のほうが赤面してしまった。
俺だったら黒歴史確定だよお。大人になってから何度も思い出して、悶絶すること間違いなしだよお。
それから俺は、テッサのことが気になって彼女に目をやった。
テッサは柄だけになってしまったエリュシオンを見つめ続けていた。
放心状態?
いや、違う。
テッサの全身からは、怒りが噴き出していた。
「よくも……、よくもやってくれたわね……」
テッサはエリュシオンの柄を捨て、ゆっくりと二人に近づいていった。
「おー、こわこわ。今度はどんな武器で戦うつもりなのかなー?」
「水鉄砲じゃねえか? なあ、そうだろう? 嫌だなー、怖いなー」
実際のところテッサがどうするつもりなのか、俺にも分からなかった。
まさか素手で戦おうっていうんじゃないだろうな?
俺がそう心配したその時だった。
テッサがコートの下、腰の辺りから何かを取り出した。その仕草からして銃かと思ったが、違うことはすぐに分かる。
テッサがそれを起動すると、独特な音とともに光の刃が出現した。
光の剣。
ぶっちゃけて言ってしまおう。
テッサの手にあったのは、どう見てもライトなセーバーだった。
「あなたたちの相手は、これでするわ」
テッサがその剣先を向けると、さっきまで笑いこけていた二人組の顔が、青ざめた。
「その光剣……。お前まさか、オドの使い手……?」とブタ男。
「だ、騙されるな。そんなわけねえ!」とサメ男。
「試してみればいいじゃない」
その瞬間、二人組がレーザー銃を連射した。
「ええい撃て撃て! 近づけさせなければどうということはない!」
降り注ぐ光弾。しかしテッサは光の剣を信じられない速さで振るい、鮮やかにそれらを弾いていく。剣は美しい光の軌跡を描き、光弾を弾く度に激しい音を鳴らした。
「クソッ、当たらねえ!」
「どうなってんだ、こいつ!」
やがてその攻防はあっけなく決着がついた。
テッサが弾き返した光弾を、ブタ男がおでこに受けてしまったのである。
「あばあ!」と妙な声を上げて倒れるブタ男。
「相棒!」とそれに駆け寄るサメ男。
その後のサメ男は迅速だった。倒れたブタ男を肩に担ぐと俺たちを一瞥して「覚えていろよ、この野郎!」の捨て台詞。颯爽と走り出したかと思うと、あっという間に姿を消してしまった。
思わず見とれてしまう見事な逃げ様だ。
これだけのものを見せられたら追撃の手もつい緩めてしまうだろう。
それが本当かは置いておいて、実際のところテッサは深追いをしなかった。
光の剣をしまい、軽く身なりを整えているテッサに俺は言った。
「こ、殺しちゃったのか?」
「さあ? スタンモードって言っていたし、気絶しただけじゃないの?」
「ああ。そうか、そうだよな」
テッサがあまりに鬼気迫る感じだったから、てっきりやっちまったのかと思ったぜ。
ここまでギャグ展開で来たのにこんな形で死人を出すとか、勘弁してくれよな。
俺はホッと一安心してからテッサを見た。
そしてギョッとした。
テッサが目に涙を浮かべていたからである。
「どうしようタツルぅ」テッサが情けない声で俺に泣きついて来た。
「ど、どうした? どこか撃たれたのか?」
「聖剣エリュシオンが壊れちゃったよお! これじゃあ魔王討伐できないよお!」
「……」
「お金を稼ぐどころか借金も返せないよお! 聖剣を使えば簡単に大金持ちになれるって聞いたから、スペースランナーになったのにい!」
「…………」
いや、その聖剣、おもちゃだから。
どっちにしても魔王は、倒せないから。
そんな話をここで蒸し返しても話がこじれそうなので、俺はとりあえずテッサを慰めることにした。
「もう泣くな、テッサ。こうなったらコツコツ依頼をこなして地道に借金を返していこう。大丈夫、テッサならなんとかなるよ。だってあんなに強いんだから」
実際、さっきの戦闘には驚かされた。目にもとまらぬ剣さばきで光弾を次々と弾いていく様は、まさに神がかっていた。あとはその傲慢な野望と捻曲がった認識さえなんとかすれば、スペースランナーとして普通にやって行けるのでは? そんな予感が俺にはした。まあ10億エンスもの借金の完済は、遠き道のりになるのだろうが……。
なんてことを考えている時だった。
「タツルも……、タツルも手伝ってくれる?」
涙目のテッサが上目遣いで言った。
この時の気持ちを正直に申し上げる。
弱っている女の子(美少女!)の上目遣い。その仕草と言い方。はっきり言ってドキッとしてしまった。一瞬息が止まってしまった。えっ、何これ。破壊力が半端ないんですけど? 庇護欲がドバドバと溢れてくるんですけど? いや、落ち着け。まあ、落ち着け。そして、落ち着け。こんなことで流されていたら女性陣に「これだから男は」と思われてしまうぞ。あくまで理性的に考えるんだ。
やがて俺はため息をついた。
まあ、なんだ。
よく考えたら無一文のホームレスの俺には、元々選択肢がなかったわ。
「しょうがねえなあ。手伝ってやるよ」
「ほ、本当?」
「ああ。その代わり衣食住保証の件、ちゃんと守ってくれよ」
俺がそう言うとテッサは、涙を拭って微笑んだ。
「ありがとう、タツル。あなたをクランに入れてよかったわ」
その表情がまた可愛いので、俺は惑わされないように目を逸らす。
可愛いは正義と言うが、正義が暴走することもままあるのだ。
しかし、あれだな。
結果的に魔王討伐なんていう無茶な依頼をしなくてよくなったのだから、エリュシオンを壊してくれたローンアニムズの二人組には感謝しなくちゃいけないな。
俺は心の中で彼らに対し健闘を称えた。
ありがとう! そして、ありがとう!
「あー、ところでこれからどうするんだ?」俺はテッサをチラッと見て言った。「正直この一週間の疲れがあるから俺はもう休みたいんだけど……」
「そうね。私もなんだか疲れちゃったし」そう言うとテッサは歩き始めた。「私たちの宇宙船に行きましょう。タツルもそこに泊まったらいいわ」
その頃には日が暮れ始めていた。
俺は言われるがままにテッサのあとに続いた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
よあけまえのキミへ
三咲ゆま
歴史・時代
時は幕末。二月前に父を亡くした少女、天野美湖(あまのみこ)は、ある日川辺で一枚の写真を拾った。
落とし主を探すべく奔走するうちに、拾い物が次々と縁をつなぎ、彼女の前にはやがて導かれるように六人の志士が集う。
広がる人脈に胸を弾ませていた美湖だったが、そんな日常は、やがてゆるやかに崩れ始めるのだった。
京の町を揺るがす不穏な連続放火事件を軸に、幕末に生きる人々の日常と非日常を描いた物語。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる