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1章
SF世界の冒険者的職業
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俺は道端に座り途方に暮れた。
これからどうしてくれようか。
俺の妄想では、①ギルドに行って冒険者の登録、②そのうちになんやかんやあって美少女と出会いパーティーを結成、③依頼を受けて夢の異世界冒険生活、というような流れを考えていたのに……。
「ははは……。何で世界が自分の思い通りに動くと思ったんだろう……」
この物語は俺の知っている異世界ものじゃない。
ファンタジーではなくSF。
まさかジャンルレベルで違うとは思わなかった。
これじゃあ俺が培ってきた異世界ものの知識がまったく役に立たない。
しかも家なし金なし仲間なしの最悪な状況。
もしかしてこのまま、SFホームレス生活が始まってしまうのか?
「そんなのは嫌だ!」
俺は立ち上がった。
このまま座っていてもホームレスになるだけ。だったら、なんでもいいから足掻いてやる。当たって砕けろだ。
この時、俺にはある考えが浮かんだ。
そうだよ、ここがSF世界だからって冒険者ギルドがないとは言っていない。異世界もの=ファンタジーがただの固定観念だったように、SF世界=冒険者ギルドがないというのもただの固定観念だ。それにバウディハンターや宇宙人ハンターみたいな、冒険者に近い職業があるかもしれない。だったら冒険者ギルド的なものを探してみる価値はあるはずだ。
よーし!
俺は決意を胸に道を歩く人に声をかけた。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「冒険者ギルドみたいな場所って、この街にないですかね?」
「冒険者ギルド?」
その人は怪訝な顔をした。「何を言っているんだこの人」という顔だ。やっぱりSF世界にそんなものはないのか。不安が胸に染み込んで来る。と、その時だった。
「ああ、もしかしてランナーズストアのことですか? だったらそこの建物がそうですよ」
「え……?」
その人が指差した建物は、目の前にあった。
冒険者ギルド的なもの、あるのかよ!
しかも目の前に!
俺は喜ぶのと同時にツッコミを入れた。
それから俺は教えてくれた人に「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言って別れると、その建物を見上げた。
ランナーズストア。
聞き慣れない言葉だが、冒険者ギルド的な役割を持っていることは間違いないらしい。
俺はドアをくぐってランナーズストアに入った。
店内は予想よりも人が少なく、客だと思われる人はテーブルで談笑をしている三人組と、離れたところに一人でぽつんと座っている女の子しかいなかった。あとはカウンターに店員が二人、暇そうに座っている。
俺はカウンターに近づいて女性店員に声をかけた。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「ここが冒険者ギルド的な場所だと聞いて来たんですけど……」
「冒険者ギルド?」その店員さんは笑って言った。「たしかに、ここはファンタジーで言ったら冒険者ギルドですね! だとしたらあなたは冒険者になりに来たのかしら?」
「あ、はい。まあ、その通りです」
バカにされている感じがして俺はムッとした。
だけどこんなところで怒っている場合じゃない。
ここまで来たらもうバカになりきれ。
プライドなんか捨てて生き延びるための情報を聞き出すんだ。
俺はへらへらと笑って言った。
「いやあ、じつは田舎から来たばかりでこの世界の仕組みとか用語とか全然分かっていないんですよー。それで何でしたっけ? そうそう、ランナーズストア。ここでは冒険者の仕事がもらえるんですか?」
「冒険者じゃなくてスペースランナーですよ。冒険的な依頼もたくさんあるので、そういう側面ももちろんありますけどね。そして弊社ランナーズではそんなスペースランナーのみなさんに依頼の仲介などのサービスを提供しています。ですので、登録していただけたら仕事を受けられますよ」
「なるほどー、そういうわけですか」
つまり、異世界ファンタジーで言う冒険者=スペースランナーで、冒険者ギルド=ランナーズというわけだ。ジャンルがSFだったから慌てたけれど、異世界ものの要素がちゃんとあるじゃないか。しかも今のところ俺の妄想通りにことが進んでいる。もしかして登場するガジェットが違うだけで、異世界もののテンプレ通りなのでは?
そうだ。きっとそうに違いない。
どうやら希望の光が見えてきたぞ。
「じゃあさっそくだけど冒険者、もといスペースランナーの登録をさせてください!」俺は身を乗り出して言った。
「かしこまりました。では、この端末にお名前をご入力ください」
「はい!」
俺は渡されたタブレット型端末に名前を打ち込もうとした。しかしそこに並んでいたのは見たことのない文字。俺は打ち込むのを断念した。
「あの、じつは読み書きができないんですけど……」
「これは失礼いたしました。では口頭で教えてください」
別に珍しくもないのか、店員さんは何事もなかったかのように言った。
俺はちょっとホッとして言う。
「俺の名前は、鷺沼樹です」
「サギヌマタツル? それ全部でファーストネームですか?」
ファーストネームってたしか下の名前のことだよな。
俺は一瞬考えてから答えた。
「いえ、ファーストネームは樹。鷺沼が名字です」
「なるほど。ではタツル・サギヌマで登録しておきますね」
店員さんがタブレットを操作した。すると、それと連動するようにカウンターの上に置いてあった機械からカードが出てきた。店員さんはそれを俺に差し出して言う。
「はい、これで登録は完了です。こちらはタツルさんの登録カードになります。各種サービスを利用するのに必要なので大切に扱って下さいね」
「えっ、もうできたの?」
「はい」
「登録料金とかもなし?」
「登録は無料になっております」
「マジか!」
俺は舞い上がった。
超順調じゃん!
この調子で依頼を受けてお金もゲットしよう!
そう思っていると店員さんのほうから声をかけてくれた。
「さっそく依頼をお受けになりますか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「では、タツルさんの能力に応じた依頼をご紹介しますので、少し質問をさせて下さい。クリーチャーは何等級まで対処できますか?」
俺は固まった。
「くりーちゃー? 等級?」
「ああ、クリーチャーの討伐は未経験なんですね。ではブラスターライフルの扱いはどうですか?」
「ぶらすたーらいふる?」
「えっと……、ではラウンダーの運転は?」
「らうんだー?」
「アプリロイドについての知識は……」
「あぷりろいど?」
「じつはオドの使い手だとか……」
「おどぉ?」
「アッと驚き、なんとディザイアスについてお詳しいとか!?」
「でぃざいあす? 何それおいしいの?」
「何もできないじゃないですか!」店員さんが怒ったように言った。「こんなんじゃ紹介できる依頼なんてないですよ!」
「そ、そんな!」
「だいたいなんですか、その言葉自体知らないみたいな反応は! あなた異世界転移でもして来たんですか?」
「じつはその通りなんです!」
「そんなわけないじゃない! バカにしているの!?」
正直に言ったのにひどい……。
でもたしかに、俺が甘かったのかもしれない。
俺はこの世界の知識もなければ、役に立つ能力も持っていないのだ。紹介できる依頼がないと言われても当然かもしれない。
俺は意気消沈し、口をつぐんでうつむいた。
そんな俺の姿に店員さんは言い過ぎたと思ったのか、咳払いをして言う。
「ま、まあ、能力がなくてもスペースランナーとしてやっていく方法はあります」
「本当ですか?」俺は顔を上げた。「それってどんな……」
「クランに入ればいいんですよ。あっ、クランって言うのはスペースランナーをしている会社のことなんですけどね、未経験でも採用してくれるクランも中にはありますし、そういうところで経験を積んでから独立して活躍されているスペースランナーも実際にいます。ですので、タツルさんさえよければ採用してくれそうなクランをご紹介いたしますが?」
「おお!」俺は感動のあまり店員さんの手を取った。「何から何までありがとうございます! ぜひ紹介してください!」
「あはは……。分かりました」店員はさりげなく俺の手を振り払いながら言った。「では、今から探してみますね」
「はい!」
と、俺が返事をしたその時だった。
「その必要はないわ!」
突然女の子の声が響いた。
振り向くとそこには、美少女が立っていた。
これからどうしてくれようか。
俺の妄想では、①ギルドに行って冒険者の登録、②そのうちになんやかんやあって美少女と出会いパーティーを結成、③依頼を受けて夢の異世界冒険生活、というような流れを考えていたのに……。
「ははは……。何で世界が自分の思い通りに動くと思ったんだろう……」
この物語は俺の知っている異世界ものじゃない。
ファンタジーではなくSF。
まさかジャンルレベルで違うとは思わなかった。
これじゃあ俺が培ってきた異世界ものの知識がまったく役に立たない。
しかも家なし金なし仲間なしの最悪な状況。
もしかしてこのまま、SFホームレス生活が始まってしまうのか?
「そんなのは嫌だ!」
俺は立ち上がった。
このまま座っていてもホームレスになるだけ。だったら、なんでもいいから足掻いてやる。当たって砕けろだ。
この時、俺にはある考えが浮かんだ。
そうだよ、ここがSF世界だからって冒険者ギルドがないとは言っていない。異世界もの=ファンタジーがただの固定観念だったように、SF世界=冒険者ギルドがないというのもただの固定観念だ。それにバウディハンターや宇宙人ハンターみたいな、冒険者に近い職業があるかもしれない。だったら冒険者ギルド的なものを探してみる価値はあるはずだ。
よーし!
俺は決意を胸に道を歩く人に声をかけた。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「冒険者ギルドみたいな場所って、この街にないですかね?」
「冒険者ギルド?」
その人は怪訝な顔をした。「何を言っているんだこの人」という顔だ。やっぱりSF世界にそんなものはないのか。不安が胸に染み込んで来る。と、その時だった。
「ああ、もしかしてランナーズストアのことですか? だったらそこの建物がそうですよ」
「え……?」
その人が指差した建物は、目の前にあった。
冒険者ギルド的なもの、あるのかよ!
しかも目の前に!
俺は喜ぶのと同時にツッコミを入れた。
それから俺は教えてくれた人に「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言って別れると、その建物を見上げた。
ランナーズストア。
聞き慣れない言葉だが、冒険者ギルド的な役割を持っていることは間違いないらしい。
俺はドアをくぐってランナーズストアに入った。
店内は予想よりも人が少なく、客だと思われる人はテーブルで談笑をしている三人組と、離れたところに一人でぽつんと座っている女の子しかいなかった。あとはカウンターに店員が二人、暇そうに座っている。
俺はカウンターに近づいて女性店員に声をかけた。
「あのー、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「ここが冒険者ギルド的な場所だと聞いて来たんですけど……」
「冒険者ギルド?」その店員さんは笑って言った。「たしかに、ここはファンタジーで言ったら冒険者ギルドですね! だとしたらあなたは冒険者になりに来たのかしら?」
「あ、はい。まあ、その通りです」
バカにされている感じがして俺はムッとした。
だけどこんなところで怒っている場合じゃない。
ここまで来たらもうバカになりきれ。
プライドなんか捨てて生き延びるための情報を聞き出すんだ。
俺はへらへらと笑って言った。
「いやあ、じつは田舎から来たばかりでこの世界の仕組みとか用語とか全然分かっていないんですよー。それで何でしたっけ? そうそう、ランナーズストア。ここでは冒険者の仕事がもらえるんですか?」
「冒険者じゃなくてスペースランナーですよ。冒険的な依頼もたくさんあるので、そういう側面ももちろんありますけどね。そして弊社ランナーズではそんなスペースランナーのみなさんに依頼の仲介などのサービスを提供しています。ですので、登録していただけたら仕事を受けられますよ」
「なるほどー、そういうわけですか」
つまり、異世界ファンタジーで言う冒険者=スペースランナーで、冒険者ギルド=ランナーズというわけだ。ジャンルがSFだったから慌てたけれど、異世界ものの要素がちゃんとあるじゃないか。しかも今のところ俺の妄想通りにことが進んでいる。もしかして登場するガジェットが違うだけで、異世界もののテンプレ通りなのでは?
そうだ。きっとそうに違いない。
どうやら希望の光が見えてきたぞ。
「じゃあさっそくだけど冒険者、もといスペースランナーの登録をさせてください!」俺は身を乗り出して言った。
「かしこまりました。では、この端末にお名前をご入力ください」
「はい!」
俺は渡されたタブレット型端末に名前を打ち込もうとした。しかしそこに並んでいたのは見たことのない文字。俺は打ち込むのを断念した。
「あの、じつは読み書きができないんですけど……」
「これは失礼いたしました。では口頭で教えてください」
別に珍しくもないのか、店員さんは何事もなかったかのように言った。
俺はちょっとホッとして言う。
「俺の名前は、鷺沼樹です」
「サギヌマタツル? それ全部でファーストネームですか?」
ファーストネームってたしか下の名前のことだよな。
俺は一瞬考えてから答えた。
「いえ、ファーストネームは樹。鷺沼が名字です」
「なるほど。ではタツル・サギヌマで登録しておきますね」
店員さんがタブレットを操作した。すると、それと連動するようにカウンターの上に置いてあった機械からカードが出てきた。店員さんはそれを俺に差し出して言う。
「はい、これで登録は完了です。こちらはタツルさんの登録カードになります。各種サービスを利用するのに必要なので大切に扱って下さいね」
「えっ、もうできたの?」
「はい」
「登録料金とかもなし?」
「登録は無料になっております」
「マジか!」
俺は舞い上がった。
超順調じゃん!
この調子で依頼を受けてお金もゲットしよう!
そう思っていると店員さんのほうから声をかけてくれた。
「さっそく依頼をお受けになりますか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「では、タツルさんの能力に応じた依頼をご紹介しますので、少し質問をさせて下さい。クリーチャーは何等級まで対処できますか?」
俺は固まった。
「くりーちゃー? 等級?」
「ああ、クリーチャーの討伐は未経験なんですね。ではブラスターライフルの扱いはどうですか?」
「ぶらすたーらいふる?」
「えっと……、ではラウンダーの運転は?」
「らうんだー?」
「アプリロイドについての知識は……」
「あぷりろいど?」
「じつはオドの使い手だとか……」
「おどぉ?」
「アッと驚き、なんとディザイアスについてお詳しいとか!?」
「でぃざいあす? 何それおいしいの?」
「何もできないじゃないですか!」店員さんが怒ったように言った。「こんなんじゃ紹介できる依頼なんてないですよ!」
「そ、そんな!」
「だいたいなんですか、その言葉自体知らないみたいな反応は! あなた異世界転移でもして来たんですか?」
「じつはその通りなんです!」
「そんなわけないじゃない! バカにしているの!?」
正直に言ったのにひどい……。
でもたしかに、俺が甘かったのかもしれない。
俺はこの世界の知識もなければ、役に立つ能力も持っていないのだ。紹介できる依頼がないと言われても当然かもしれない。
俺は意気消沈し、口をつぐんでうつむいた。
そんな俺の姿に店員さんは言い過ぎたと思ったのか、咳払いをして言う。
「ま、まあ、能力がなくてもスペースランナーとしてやっていく方法はあります」
「本当ですか?」俺は顔を上げた。「それってどんな……」
「クランに入ればいいんですよ。あっ、クランって言うのはスペースランナーをしている会社のことなんですけどね、未経験でも採用してくれるクランも中にはありますし、そういうところで経験を積んでから独立して活躍されているスペースランナーも実際にいます。ですので、タツルさんさえよければ採用してくれそうなクランをご紹介いたしますが?」
「おお!」俺は感動のあまり店員さんの手を取った。「何から何までありがとうございます! ぜひ紹介してください!」
「あはは……。分かりました」店員はさりげなく俺の手を振り払いながら言った。「では、今から探してみますね」
「はい!」
と、俺が返事をしたその時だった。
「その必要はないわ!」
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