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巨大ロボット、集合!
しおりを挟むそこは大きな広間になっていて、壁側には大理石のようなものでできた大きな彫像が並んでいた。そしてその奥に巨大な漆黒の扉が、まるで何かを封じるように固く閉ざされそびえ立っているのが見えた。
「どうやらあそこらしいね、神殿の入り口は」
ぼくの言葉にみな無言で答える。緊張しているのだ。
「それにしてもこの広間は明るいね。どうやって明かりがついているんだろう?」
ミローネの精霊の火を使わなくても広間は隅々まで見渡せる。天井にも壁にも松明や照明は一切見られないのに。
「魔力だわね。なんかの魔法で明るいのよ」
「魔法って…」
ぼくはミローネの顔を見ながら、つくづくこの世界がいやになった。精霊の力だの魔法だの神の御業だの、そういう能力があればだれも何の苦労もなく生きていける。しかしそれはつまるところ、能力は利己的な力に他ならない。誰も人の幸せのために使おうとはしていない。それが魔王という悪魔をはびこらせている根本原因なのではないのか?
ぼくにも神の力はある。だがそれもぼく自身のために使って来た。もっともそれは、その能力が抽象的な望みを一切受け付けないというぶっ壊れたもので、人々の幸せ、とか病人がいない世界、とかは叶わない。神は何のためにぼくにこんなおかしな能力を与えたんだ?ラフレシアひとり救えない能力なんて、そんなもん欲しくない。
「なに悩んでんのよ、あんたらしくない」
「ミローネ、ぼくはさ…」
「ふん、あんたのちっぽけな悩みなんてどうでもいいわ。この際言っておくけど、あたしたちはあんたの願いのためにこうしてここにいるのよ。あんたがラフレシアを救い、あんたが頑張ってニートになるためにね。だからごちゃごちゃ余計なこと考えず、まっすぐ前見てなさいよ!」
「いやニートって頑張ってなるもんじゃないし」
「とにかく前へ!それがあんたの希望!ハイおしまい!」
強引なやつだな。でもまあ納得はできないけど踏ん切りはつけられるかな。これはぼくの利己的な願いだ。だがけっして自分自身だけの幸せのためじゃない。ぼくの願いがかなうことによって、みんなが幸せになる、そのためなんだ!
「デリア!なんかおかしい。空気、っていうか…なんかヒリヒリしない?」
ラフレシアが剣を抜き身構えている。ラフレシアは騎士だ。ただよってくる殺気に本能的に反応できるんだ。
「見て!彫像が動き出しているわ!」
シチリアが叫び声をあげた。どうやら壁際に立っていた彫像はみなあの巨大人形、いやロボットらしい。それは何十体も動き出し、みなこっちに向かってくる。
「どうしようデリア。あんなにいたんじゃ勝ち目はないわ。ここは逃げるしかないよ」
「だめだラフレシア。ぼくらは逃げちゃいけないんだ。逃げたらそこでおしまい。負けなんだ」
「でもどうやってあいつらを倒すの?一体だってかなわないわ。それがあんなにたくさん」
ゆっくりだがそのロボットたちは確実にぼくらを狙って歩いてくる。しかもみなこん棒や槍、石斧を持っているのだ。
「デリア、さっきのなんとか爆薬は?」
ひらめいた風にミローネが言った。けっこうドヤ顔だな。
「上にみんな置いてきちゃったろ!」
「なんでよ!あんたって本当にバカね」
ラフレシアがぼくを睨んでそういう。まったくバカバカと失礼なやつだな。
「きみが邪魔だっていうから脱ぎ捨ててきたんじゃないか!」
「まあ!あたしのせいだっていうの?信じられない!自分の判断ミス棚に上げて、まったく本当に大バカね!」
またバカって言いやがった。しかも大バカだと?もう怒った。今度ぼくにバカって言ったら地面に大穴が開く呪いでもかけられろ!こんちくしょう。
「あんたたち!いま痴話げんかしている場合じゃないでしょ!」
「ち、痴話げんかってなんだよミローネ!変なこと言うな!」
「そうよ!あたしはこのバカに説教してんのよ?」
「ああっ!」
みんなが驚いたのは無理もない。目の前の床に大きな穴が開いたからだ。二体の巨大ロボットが落ちていく。
「なんだ?どうなってんだ?」
「またあんたがバカなことしたんでしょ!」
「やめろ!ラフレシア、それって!」
また大穴が床に開いた。今度は一気に五体のロボットが落ちて行った。
「いったいぜんたいどうなってんの?こんなバカなことある?」
「ああまた!」
ボコッとまた大穴が開いた。どんどんロボットたちは吸い込まれていく。穴はそうとう深いようで、どこからも何も這い出して来なかった。
「いったいこれどうなっているのよ?」
「ラフレシア、落ち着いて。これはきっときみがバカって言うたび大穴が開く、そう…呪いみたいなものなんだ」
「あたしが?呪い?なんでよ!なんでそんなバカなことに!」
「ああ!また言っちゃった!」
今度はかなり大きな穴だった。広間にいたほとんどの巨大ロボットが穴に落ちてしまった。残りは扉の前の一体だけになってしまった。しかも床は穴だらけで、身動きが取れないらしい。キョロキョロして、困っているようだ。
「ちょ、ちょっとやめてよー。なんなのよー。わけがわからないわよ」
「ごめんラフレシア。これにはちょっとわけ、というより事故があってね…」
「やっぱりあんたがなんかしたのね!ほんと冗談じゃないわよ!なによ事故って!まるっきりあんたに責任ないみたいな言い方して、マジふざけんな!元に戻せ!」
「怒らないで。事故だって言ってんだから。悪気なんかじゃないよ」
「悪気じゃなけりゃなんなのよ!なんであたしがバカって言うたび床に大穴が開くのよ!?」
「あっまた言っちゃった!」
ボコンと大きな音がして、最後の一体が大穴に落ちて行った。そしてあの大きな扉もついでのように穴に崩れ落ちた。
「ありゃりゃ、やっちゃったな…」
「ひいい、どうしようデリア!」
ラフレシアが慌ててぼくにひっついてきた。彼女の胸があたるけど、それは鎧に覆われてるので嬉しさは半分だった。
「そこ、イチャイチャしない!デリア、スケベなこと考えない!」
「はいはい」
ミローネに怒られた。
「とにかくこれで邪魔なものはいなくなったわ。経緯はどうあれ、お手柄だわねラフレシア」
「よくわかんないけど、どういたしましてね」
そう言ってラフレシアはぼくを横目でにらんだ。
「と、とにかくラフレシアはバカって言わないこと。そいつは地面に大穴を開ける呪いの言葉なんだから」
「どうしてそうなったかは、あとでゆーっくりと聞いてあげる。でもいまは神殿に向かうのが先ね」
恐い目でぼくを睨んだラフレシアは、ぼくの肘を思いっきりつねりながら歩きだす。大穴を避けながら、恐る恐るみんな進んだ。
「こいつはすっごく深いな…どこまでだろ?」
「かすかにあのマグマの匂いがするわね…」
ミローネちゃん、恐いこと言わない!それって地殻通り越してマントルまで行っちゃってるってことですよ?
「扉を開ける手間が省けたけど、これで神殿にたどり着けそうな気がしないんだけどね…」
ぼくがそう言うと、みんなもそう思っていたみたいで、全員がぼくにしがみついてきた。そうしてぼくらは入り口の前に立ち、そこで見た光景が、一生忘れられないものになると確信した。
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