無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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この世界で巨大ロボかよ!

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あれが何であれ、ぼくの想像したものに近いだろう。つまり誰かが操っている巨大なロボット…いや巨大人形だね。身の丈はざっと十メートル。ご丁寧に二足歩行し、でかいこん棒まで背中に装備している。まあ武器はそれだけで、ビームライフルとかロケットランチャー、それにメガ粒子砲とかはないようだ。あったらたまらんが。

「ねえデリア!あれなんなの?まさかゴーレムってやつ?」
「落ち着いてラフレシア。大きな声出さないで。たしかにゴーレムっぽいけど少し違うようだよ」
「なんでそんなことあんたにわかんのよ?」
「ゴーレムはあくまで自由意思で動くんだ。あいつは動きに不自然さがある。だれかが操っているんだよ」
「操っていようと自由意志だろうと巨大な怖い石人形に変わりないんだけど!」

そりゃまあそうだ。ぼくのステルスゴーレムくんに相手させようか…いやいまはまだ駄目だ。こっちの手の内を見せたくないし、まだぼくらの存在を悟られたくはない。

「いいからぼくについてきて。あいつはゼリー人間たちを一か所に追い込んでいるようだ。このまま一緒について行って…」
「あの空洞に集めてるみたいだけど、あそこまで?」
「いやきっとあそこで生命エネルギーを吸い取らせているんだろうね。あんなとこに入ったらえらいことだ」
「じゃあどうすんのよ!」
「静かに。スキをみてあの巨大人形の足元をくぐる。動きは遅いから簡単だ」
「簡単ねえ…」

呆れた声だ。ゼリーの中じゃ顔はよく見えない。

「みんなもいい?遅れずについてきて」
「わかった」
「頑張ります」
「パパ眠い」

たしかに巨大人形は動きは遅かったが、その力は強いようで、たくさんのゼリー人間たちは一度に多くがその空洞に放り込まれていった。

「いまだ!こっちへ」

ぼくの合図で、みなが巨大人形の足元から後ろの壁伝いに走り抜けた。

「リヴァちゃんはぼくのとこに入って」
「はいパパ」

リヴァちゃんが自分のゼリーを脱ぎ捨て、ぼくのゼリーの中にくるまった。巨大人形の足元にリヴァちゃんの抜け殻のゼリーが残っている。

「みんな柱の陰に隠れて」
「デリア、どうすんの?」
「あいつを爆破するんだ。そうすりゃきっと地下への道があらわれるはずさ」
「それってたしかなの?」
「さっきアクセルさんに聞いたんだ。礼拝施設のどこかに地下への道があるって。でもそれは巧妙に隠蔽されてるから見つけるのは難しいだろうって」
「それで一気にぶっ壊すってわけね」
「その通り」
「やれやれ、おバカの考えることって恐ろしいわね」

そうだけど、いまはこれしか手はない。時間をかけて探すなんて、リスクが大きすぎるんだ。

「じゃあみんな伏せてね」
「なにをするのよ」
「じゃーん。これは導火線です」
「導火線?なにそれ」
「文字通り火を導くのです。このゼリーと同じ物質を布にしみこませてこよりにしたものです。火をつけると勢いよく燃え出すんだ」
「へー」

だから何って顔をラフレシアとミローネはしている。シスチアはうんうんとちゃんと聞いている。

「じゃいきまーす」

ぼくが火打石で導火線に火をつけると、それは勢いよく燃え出し、残してきたゼリー物質に向かって行った。

「みんな耳ふさいで!」

導火線の先には雷管がある。ゼリー物質に差し込んでいるんだ。錬金術で作ったその雷管に火が移った瞬間、閃光とともにそれは轟音をあげ爆発を起こした。硝酸アンモニウムに水を含ませスライムに見せたこいつは、ぼくのいた世界じゃスラリー爆薬といって、とんでもない威力で爆発する。ただし、火をつけただけじゃゆるゆると燃えるだけだが、雷管を使えばその威力を発揮するのだ。

ドーン、とものすごい爆発音とともに礼拝施設全体が揺れた。天井から無数の石材やしっくいのかけらが落ちてくる。ぼくらはゼリー状の物質でうまく守られた。スラリー爆薬は衝撃では爆発しない。

「うわー、頭がくらくらする」
「みんな大丈夫?」
「ねえあれ見て!あいつの足元に大穴が開いてるわ!」

ミローネがいち早くそれを見つけた。巨大人形は半身を吹き飛ばされてもうピクリとも動かない。

「あそこの穴に行こう!」

ぼくらは急いでその穴に向かった。

「デリアさま、あれ!」
「え?」

シスチアが何か見つけた。巨大人形を指さしている。

「こりゃあ…」

壊れた巨大人形の中に明らかにコックピットだとわかる空洞があった。半壊しているが、見たことのない装置が並んでいる。そしておそらく操縦席だと思われる壊れた椅子には、半分の姿になった人の姿が…。

「こいつは…魔族…なのか?」

緑色の血を流し、姿も人というよりは鬼に近かった。

「正真正銘魔族ね。まさかほんとにいるとは思わなかったわ」

ミローネがため息交じりにそう言った。そりゃ精霊がいるんだから魔族だっているだろう。勝手なやつだな。

「魔族ははるかむかし勇者によって退治されたと聞いたわ。まあ、魔王が復活したなら魔族だっているわよね」

などと恐ろしげなことを平気で言うあたり、やっぱり精霊って言うのは人間とは考え方が違うのだろうね。

「と、とにかく先に進もう。まだ魔族がいるかもしれないけど」
「おどかさないでよデリア」
「可能性の問題なんです」
「じゃあ一匹いたら何百匹もいるの?」

ゴキブリじゃねえよ!っていうかまあ似たようなもんかな?

「大丈夫。こっちには強い味方がいるんです」
「どこにいるのよ」
「さ、さあどこでしょう?」
「バーカ」

んもう、ステルスゴーレムくんのことラフレシアは知らないから。

「お気の毒ね、デリア」
「パパ頑張って」

ミローネとエヴァちゃんがなぐさめてくれた。あいつらはぼくの頭の中がわかるからな。

「あの、なんだかわからないけど、頑張ってください」
「シスチアちゃんありがとう」
「気を強く持って生きてください。そういう人、いっぱいいますから」
「なぐさめになってないぞ、それ」

もういいこんちくしょう。ぼくはぶつぶつとぼやきながらその穴に向かった。なるほど、地下に向かって階段がそこにある。この巨大人形はこれを隠し、守っていたんだ。

「じゃあみんな行くぞ」
「ねえデリア。これもう邪魔なんだけど」
「あ、ああそうだね。もうこれはいらないね」

ラフレシアにそう言われてぼくはみんなとゼリー状のカムフラージュから出た。足元にそれとそっくりのゼリー人間たちが集まってきた。

「真っ暗だな…」
「任せて」

ミローネが精霊の火をともした。アイドルのコンサートで使うケミカルライトのような色だ。まあ同じようにそれは熱が出ない。空洞内は地下に続く長い階段があり、それは黄緑色の光に浮かび上がっていた。

「これってどこまで続いているの?」
「アクセルさんはとにかく長いって言っていた。やがて大広間にたどり着くと、そこにはどでかい扉があって、神殿はその扉の向こうにあるんだって」
「なんか嫌な予感がするわね。っていうか嫌な予感しかしないし」
「奇遇だね。ぼくもさ」

ぼくらは気が遠くなるようなその長い地下階段を、一歩一歩、慎重に降りていくのだった。



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