無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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ニート、ゴミをあさる

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物陰から物陰へ。ときおり頭上をパタパタとコウモリらしきものが飛んでいく。きっと使い魔だ。見つからないようにしなくちゃ。ぼくは慎重に歩いていく。

「もう町はずれみたいだから、だいたいこのあたりかな…」

そこここにあのゼリー人間たちがいる。まあ当てなくさまよっているようだけど、不思議なことによけていく場所がある。きっとそこだね。

「うーん、臭い…。やったね、あったよ」

ぼくは喜び勇んでその場所に行く。木の柵に囲まれた大きな穴がそこにあった。そこにうずたかく積まれていたのは、ゴミだった。そう、町のゴミ集積所なのだ。町中からここにゴミが集められる。ゴミと言っても生ゴミなどは家畜のえさになる。ここにはもっぱら利用できない陶器のかけら、木くず、灰や落ち葉、それに糞尿などだ。これらはやがてゆっくりと肥料になるのだ。

「さすが大きい町だね。底のほうに大量にあるみたいだ」

ぼくは錬金術でそれを取り出していく。もちろん肥料を、だ。ステルスゴーレムくんに持たせた袋にそれを詰めさせていく。かなりの量がとれた。

「こんなもんかな…」

匂いは少し気になるが、まあしょうがない。ぼくは急いで教会に戻る。途中、ゼリー人間たちを踏まないようにするのに骨がおれた。

教会に戻ると、心配そうな顔をしたラフレシアが駆け寄ってくる。が、すぐ立ち止まってぼくをにらんだ。

「くさい」
「え?」
「あんた臭い!」
「そんな…しかたないんだよ」
「意味わかんない。あんた考えがあるって出かけて行ったけど、その考えって臭くなることだったの?」
「いや、そうじゃなく、これを取りに行っていたんだ」

ぼくは大きな袋をみんなに見せた。

「なにが入ってるの?」

ミローネが興味津々といったようすでのぞき込んでくる。

「肥料だよ」
「肥料?なにそれ」
「農作物を栽培するとき与えると、成長がよくなるんだ」
「農作物?あんたまさかそれ…」

ラフレシアが顔をさらにしかめた。どうやら知っているらしい。

「そう。あの、畑にまくやつさ。それを粉末にしたもの」
「げええっ、それって肥しじゃない!っていうかウンコ?」
「まあそういうのも含まれているけど、ほとんどは植物さ」

そう、植物に含まれる硝酸塩がその主成分。それが糞尿と化合され、硝酸アンモニウムとしてぼくが地中から取り出した。

「そんなものどうすんのよ!まさかここで畑でも耕そうってわけじゃないわよね?」

そう言ってラフレシアが袋を蹴飛ばそうとした。ぼくは慌ててそれを止めなければならなかった。

「ちょ、落ち着いて!蹴飛ばさないで。ちゃんと考えがあるんだから」

まったく危ないやつだ。こいつを蹴飛ばしたらえらいことになるだろうに!

「どんな考えよ。こんなくっさい粉で何しようって言うの?まさかこいつを撒いて嫌がらせ?」
「そうじゃないよ。こいつを水と混ぜてゼリー状にするんだ」
「ゼリー状って…あんたまさか…」
「その通り!これでゼリー人間に化けて神殿に入り込むんだ」
「いやよ」
「なんで!」
「臭いから」
「あのねえ…」

仕方ない。鼻に栓でもしてもらうしかないか。とにかくぼくはその肥料でゼリーのようなものを人数分作った。

「デリアさま、お連れしました」

シスチアが小柄な男を連れてきた。見るからに職人、という感じだ。

「はじめまして。ぼくはデリア。職業はニートです」
「ニート?」
「あ、いやなんでもないです」
「わたしはアクセル。穀物酢を作っています」
「早速ですが、墓地の場所を教えてくれませんか?」
「いいですが、兵たちがいて見つかれば危険ですよ?」
「大丈夫です。考えがありますから」

そう言ってぼくはゼリーでできたそれを見せた。

「これは…町の人たちと同じみたいですね?」

アクセルさんは不思議そうにそれを眺めている。ラフレシアもそれをつつきながら、気味悪そうにしている。

「ぶよぶよしてるわね」
「これをまとえばゼリー人間たちと見分けがつかないよ」
「どうしてもゼリー人間に化けなきゃなんないの?」
「はいそうです」
「あーあ…いやだなあ」
「しかたないです。見つからずに神殿に忍び込むためなんだから」

そうしてぼくらは朝の来るのを待った。そのあいだにアクセルさんから多くの情報を得ることができた。やがて空が明るくなりだすと、そこらじゅうを飛んでいた使い魔のコウモリたちはどこかに消え、代わりに兵たちが巡回を始めた。みなどいつも生気のない顔をしている。操られているんだね。

「デリアさん、ゼリーたちが外に」

シスチアがそう教えてくれた。さあいよいよだ。

「みんなゼリーをかぶって。なるべく足を見せないようにね」
「それって四つん這いになれってこと?こんな歩き方できないわ!」
「いいから我慢して。とにかくゆっくりとね」
「いやだなあ」
「がまんがまん。じゃあアクセルさん、ありがとうございました」

ぼくは教会の戸口でぼくらを見送ってくれているアクセルさんにお礼を言った。

「たいしてお役に立てませんでしたが、よかったらこれを持っていってください」
「これは?」

アクセルさんが渡してくれたのは何か液体が入った陶器の壺だった。

「魔族はお酢の匂いが苦手だと聞いています。これはうちで作った特別の酢です。何かの役に立つかもしれません。どうかお持ちください」
「ご親切、忘れません」
「魔族を倒してみんなを助けてください。お願いします」
「できる限りやってみます」

みなゼリー状になった肥料の衣をかぶった。ぬらぬらした感じはゼリー人間と同じに見え、よっぽどじゃないとバレないと思えるほど見事に似ている。

「絶対火のそばには近づかないようにね。肥料と言ったって原料は硝酸アンモニウムという火薬だからね」
「火薬って何よ?」
「あー、そこからか」

火薬はまだこの世界には存在しない。とうぜん鉄砲や大砲はまだ発明されていないのだ。

ぼくらはゼリー人間たちに合わせてゆっくりと動いた。どうやら町のはずれの小高い丘に向かっているようだった。何度か兵士とすれ違ったが、まったくといっていいほど気づかれなかった。なるほど操られているからか、注意力は衰えているみたいだね。しめしめ。

「デリア、あそこにみんな向かってるみたいよ?」

ラフレシアがそう言った先には、大きな礼拝施設があった。墓地の入り口らしい。ゼリー人間たちはその礼拝施設の中にどんどん入っていく。おそらくそこで生命エネルギーを吸い取られるんだろう。

「中にきっと地下への入り口があると思う。ほかのゼリー人間と一緒に入って行こう」

ぼくらはゆっくりと、ゼリー人間たちと一緒に、その暗い礼拝施設のなかに入って行く。

「何あれ!あれって何なの!」

そうラフレシアが叫んだ。それは見るからに恐ろしい顔をした巨大な魔人像だった。しかもそれはゆっくりと動いている。

「まるで巨大ロボだな」
「なにそれ?」

そんなのあるわけない。い、いやしかし現実にあそこで動いている。ぼくは言い知れぬ不安に頭のなかがいっぱいになった。


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