無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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ただしい戦争の仕方

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近代戦争において、兵員、装備、兵站、そして戦術を含めすべての整合性を見出し、勝利に導くのが戦略といわれるものだ。そしてそれはその時代最先端なものでなければならない。一歩も二歩も敵に先んじることが重要だが、だがそれはすぐ敵に追いつかれる。その差を広げるのが、つまり思考であり科学なのだ。

「で、お前の言う科学とやらがその弓、なのか?兵は狩人ではないし、討ち取るのは甲冑の騎士であって鹿じゃないんだぞ?」
「鎧甲冑の騎士に弓矢なんか効果ないですよ。効果があるのは乗っている馬にです」
「馬を射殺すというのか?ひどいやつだな。かわいそうだろ」

まあなんにも罪のない動物を殺すのはかわいそうなことだ。この王さま、ヒャッハーななりしてるくせに優しいんだな。

「それでも敵の足を止めるには仕方ありません」
「止めてどうする?それでも徒歩で向かって来るぞ?」
「機動力を削ぐのが目的ですから。重いプレートアーマーを着こんで前進してくる敵など、敵じゃありませんよ」
「まさか」

王は信じられないという顔をしている。ぼくが転生して来る前の世界じゃ、鎧なんて着て戦っている軍隊はない。せいぜい防弾ベストくらいだ。あとは戦車や装甲車がそのかわりだし、実際には歩兵がライフル持って銃撃戦が主流だ。そう考えると、戦争における個々の戦場ってあんまり進歩していない気がする。進歩しているのは戦術装備だけで、戦略そのものはあんまり進歩していないな。

「油をしみ込ませた大きな丸太を用意しました」
「何に使うか聞こうと思っていたやつだな」
「こいつを徒歩で向かってくる軍に転がします」
「まあ歩く速度が遅くはなるな。嫌がらせにはちょうどいいが」
「それだけじゃありません。こいつに火矢を放ちます。するとそれは勢いよく燃えます」
「それって…」

重い甲冑のせいで逃げられない。その場で焼け死ぬだろう。まあ敵の軍の目前でやれば、進軍はしてこない。殺すのが目的ではないからだ。勝つことだけ考えればいい。

「足止めしたうえで今度は死霊を相手にしてもらいます」
「死霊だと?そんなもんがどうやって」
「この娘はネクロ。死霊使いネクロマンサーです。まあ死霊ですが肉体のあるアンデッドは今回使いません。幽霊のみを使います」
「そんなもん敵にダメージを与えられるとは思えないが…」
「そうですか?幽霊のなかに自分のおじいさんやおばあさん、死に別れた妹がいたとしても?あるいは早くに亡くなった母親がいても?」
「お前えぐいな、考えることが。まあ確かに戦意はなくなるな。しかし軍とは厳格なる戦闘集団に育て上げるものだ。そんな身内の亡霊などに惑わされてもいないだろう…」
「でも時間は稼げますよ」
「時間?何の時間だ」

それこそ戦争を勝利に導くための作戦だ。敵とはいえ魔王に操られた人間だ。解放しなけりゃならない。だからいたずらに人間の命を奪う作戦は無しだ。

「敵の本拠に行き、きっとそこにいる魔王の手下を倒します。そうすればみなわれにかえるでしょう」
「やつらの呪縛を解く、ということか?そんなことできるのか?」
「やってみなければわかりません。ですが、やらなくちゃならないんです。ここで殺し合いをしていては、それこそ魔王の思うつぼなんですから」
「それをきみらがやってくれると?」
「そのためにここに送り込まれたんでしょうから。あのクソったれに」
「何に対して憤ってるかはわからんが、とにかくみなのため頼む」

そういってヒャッハー王は深々とぼくに頭を下げた。世紀末姿が凄すぎて感謝の念が伝わってこないぞ?かえって怖すぎだ。

「とにかく殺し合いは避けて、敵の足を止めることだけ専念してください」
「つまりあの見え見えの落とし穴とかもそういうことだったのか?」
「いたるところに仕掛けた罠も造りは本物ですが」
「看板に罠、と書いてあるし」
「字が読めるといいんですけどね。一応絵も添えてますけど」
「親切すぎないか?敵だぞ」
「同じ人間ですよ?」
「そうだったな…。もとは仲の良い隣国同士だった。それが…」

ああそうさ。悪いのはみんな魔王のせいだ。人々を互いに憎しみあわせて、争わせ、やがてみなを滅ぼすつもりだ。そんなこと絶対許さない。ラフレシアの病気のためだけど、それ以上にぼくは魔王を倒す決心をしているんだ。

「セントファーメルン王国の兵たちが戻ってきます!」

報せが届いたのはそれからすぐだった。まあ準備はすでに整っている。充分に嫌がらせ…いや、足止めはできるだろう。

「じゃあ手はず通りお願いします。障害を突破されたら次の拠点に後退し、また妨害と足止めをお願いします」
「わかった。なんだか勝敗さえ曖昧で格好悪く忸怩たる思いだが、本来いくさとはそうしたものなんだろうな」

そう…それが本当のいくさだ。誰も死ぬことなく戦争に勝つことが、ぼくにとって、いや人類にとって最高にクールで、それこそが最高の戦略なのさ。

「じゃあ行ってきます。ネクロをよろしく。食いしん坊なので食料に注意してください」
「成功を祈っている。わがゴーガイルの民すべてにかわって」
「その名前変えませんか?」
「え?なんで」
「いやいいです」

ぼくらは秘密裏に陣を抜け、セントファーメルン王国の王府に向かった。道案内はニャンコがしてくれる。こいつ、何でも知っているんだなあ。

「そういえばデリア、お前さっき何をしていた?」
「ふふーん、秘密です」
「秘密でーす」
「こらミローネ、お前が言うな」

ニャンコは変な顔をしている。もともと猫面だからよくわからんが。それにしてもミローネのやつ、ぼくのアレを見破ったのか。

「マスター、やっと吹っ切れたのね」
「ああ…二代目を作る気になかなかなれなかったけれど、魔王を倒すためには、やっぱぼくには必要だって」
「あたしもあいつは好きだったよ。寡黙だったけどあんたのために一生懸命で」
「やめて。思い出しちゃうよ」
「ごめん」
「何の話?」
「い、いやなんでもない。ただの昔ばなし」
「ふうん?」

ラフレシアには教えてもいいんだけど、いまはまだ秘密にしておこう。彼女にはぼくの能力とか知られるのは困る。恐がられるだけだし、あの『一日一願』も教えなきゃならなくなったら困るからね。

「と、とりあえず急ごう!」

ぼくらの前にはまたステルスゴーレムくんがいる。ただし、性能を前よりもアップグレードさせたもので、防御を飛躍的に強化させている。あの火山でのことは忘れない。二度とあんなことはごめんだ。

「ねえ、なんかいきなり道がやけに平坦になってない?そういえば前にもこんなことなかったっけ?森が勝手に切り開かれたり…」
「き、気のせいだよ」
「そうかなー?そういうもんかしらねえ…。ねえ、ビスケスある?おなか減っちゃった」

あー、ラフレシアがアホで助かった。とにかくぼくらは進軍しているセントファーメルン王国軍をしり目に、コソコソとその王府に向かった。途中警備兵や警戒する哨戒部隊は見当たらず、拍子抜けするほど早く王府の城壁にたどり着けた。

「どうするの?城門は閉じちゃってるし、どこからも中に入れそうにないわよ」

ラフレシアがあちこちを眺めながらそう言った。これはとんでもない大きさの壁だ。ひとつの都市をぐるりと囲んだとんでもないやつだ。戦争中とはいえこれはやり過ぎなんじゃないか?いやこれは防御のためなんかじゃない。これは中の人たちを表に出さない、言うなれば檻なんだ。


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