無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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さよならラフレシア

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ぼくらは北に向かっていた。目指すはアストレア火山。

「なあニャンコ、この仕事っていつまで続ければいいんだよ。そもそもケイオスの印っていくつあんの?」
「わたしはニャンコではないと言っているだろ。わが名はクロス!」
「あーわかったわかった。で、いくつあんのかなー?」
「ふん、知ってどうする?」
「そりゃ、あといくつかなーって励みになるだろ」
「それは残念だ」
「どういう意味だよ」

ニャンコは悲しそうな顔をしてこっちを向いた。

「欲深き、そして罪深き人間がいる限り…その数だけあるのだ」
「ちょっと待てよ!それじゃ永遠終わらない気がすんですけど!だいいちラフレシアの病気が治る前に寿命で死んじゃうんじゃないですかね!」
「そうならないよう急げばいいだけだ」

ダメだこいつ。計算できないようだ。さすがニャンコだ。

「ちょっとデリア、どういうこと?」
「ラフレシア聞いて。どうやらこれは不毛なゲームに突入したみたいだ」
「不毛なゲーム?どういう意味よ」
「だから、欲深くって悪魔にコロッと騙される人間が、この世界にどれだけいるかってこと。恐らく膨大な数だよ。その膨大な数のところにケイオスの印があるとしたら、きみはどうする?」

ラフレシアは考え込んでしまった。自らの命を守るため戦わなくてはならないが、それが永遠に近いものだとなると、それはまさしく地獄だ。業、なんかですまされない。

「それでもあたしはやらなくちゃダメなのね…」

そうだ。命を長らえることこそ重要だ。そのために神に遣わされたと言ってもいい。それって無慈悲じゃねえのか?

「ねえ、どこか町についたら…あたしをひとりにして」

まあきみならそう言うと思った。ぼくらにまで重荷を背負わさせたくない。当然そう考える。ぼくだってきみの立場なら同じだ。でもきっと違う答えはあるはずだ…。いまはなくても。

「町の匂いがするよパパ、ママ」

リヴァちゃんが嬉しそうに叫んだ。ああでもね、ぼくはあんまりうれしくないんだよ、リヴァちゃん。

ふたたびニャンコと鎧の行列を森に隠して、ぼくらだけで町に向かった。

「大きそうな町だわね」

町を囲む壁が高い。高いほど町が大きいということになる。ミローネが背伸びをして壁の向こうを見ようとしている。そんなもんで見えるかバカ。

「あんたに言われたくないな」
「ないな」
「にゃ?」

心読むな。ネクロはわかんないで言うな。リヴァちゃんにゃって何?

「ボンサンルフェっていう町らしいわ」
「ふうん、なんかヨーロッパの観光地みたいな名前だね」
「ヨーロッパってどこよ?そんな国あったっけ」
「いつか連れてってあげるよ」
「ふん、生きてたらね」

うわあ、とげとげしい。こいつ本当にここでさよならする気なんだ。

「あそこでいいわ。降ろして」
「もうちょっと行ってからでいいかい?なにか食事でもして…」
「いいから降ろして!」
「あ、ああ…」

ラフレシアは無言だった。少ない荷物を肩に背負い、振り向こうともしないで馬車から降り、そして歩き出した。

「ねえ、ママが行っちゃうよ?どこかに行っちゃうよ!」
「いいんだ。彼女がそう望んでいるんだ。静かに見送ってあげよう」
「あんたそれでいいの?」
「ミローネ…どうにもならないってことが、たくさんあるんだ。世の中にはね。その一つが、これさ」
「あんたバカなの?どうして…」
「ああ、ぼくはバカさ…」

ラフレシアを助けてやれないぼくは、馬鹿さ。

荷馬車を宿の裏手につなぎ、ぼくらは宿に入った。わりと小綺麗な宿で、亭主がカウンターの向こうでもみ手をしていた。

「これはこれは旅のお方。ボンサンルフェにようこそお越しくださいました!」
「部屋を頼む。一晩、いや二晩」
「お部屋はおいくつ?」
「ひとつでいい。ベッドはふたつ。食事は夜と朝。もちろん上等なやつだ。ふろの湯はたっぷりと。朝は勝手に起きる。それから、誰か尋ねてきたら、夜中でも構わない、取り次いでくれ」
「かしこまりました。宿賃は四人さま、九百ピクセルでございます」
「千五百、払う。いいな、こいつらをけっして粗略に扱うな」
「か、かしこまりました!最上級のお客さまとして対応させていただきます!」

亭主は冷や汗をかきながら従業員を呼んだ。

「いいな?粗相のないように、だぞ!」
「はい」

若い女のようだ。ぼくらの荷物をカートに乗せ、運んでくれる。

「こちらです」
「ふうん、いい部屋だね。清潔で、そして眺めもいい」
「お褒めいただきありがとうございます。この部屋はわが宿の最高級に入る部類ですが…」
「と、いうことはまだ他に豪華な部屋があるの?」

別に豪華な部屋がいいってわけじゃない。だが何か気になる言い方をこの娘がしたから聞いたのだ。

「言いにくいことですが、このすぐ上の最上階の部屋が、当宿の一番の部屋です。あいにく先にお客さまがお泊りになっていて…」
「別に気にしてないよ。こんなきれいな部屋、みんな満足さ。きみも気にしないで。ごめんね、変なこと聞いちゃって」

ぼくはチップにしては多額の、しかも金貨を女に渡した。

「こ、こんなにいただけません!」
「これはぼくのお詫びと、そしてお礼。受け取って。だから逗留中はきみにお任せ。いいだろ?」
「は、はい!精いっぱい勤めさせていただきます!」

いっしっしっし。これで情報源はひとつ確保した。あの宿の亭主は胡散臭くてとても使えないが、あの女の子は使える。何しろ胸がでかい。これこそ信頼を寄せてもいいということだ。もちろん裏切られても許せるけど。

「さいてー」
「クズね」
「パパ馬鹿なの?」

リヴァちゃんまでなんですか!

その夕食のとき、それは効果を表した。

「お食事はいかがですか?」

あの従業員の女の子だ。メイド服がよく似合っている。

「満足しているよ。とくに塩味がいい。何か特別な塩を使っているのかな?」
「はい。近くにソルトレイクというところがございます。湖とは名ばかりで、そこは岩塩の産地なんです。なんでも昔は塩の湖があったとかで」
「そうか。そこの岩塩なのか。ずいぶんおいしいね」
「むかしは海藻がずいぶん生い茂っていたといいます。そのエキスを充分にしみ込ませた岩塩なのだそうです」

つまりグルタミン酸を多く含んだ塩…なんだ、味塩じゃねえか。

「ふうん、そうなんだ。いやあ美味しいなあ」
「喜んでいただけて幸いです…」

と言いつつ彼女は水の壺からぼくのコップに水を注いでくれた。その壺を置くとき、そっと底を支えた手に紙片があった。

ぼくらは食事を済ますと、立ち上がりぎわ、さりげなくその壺の底にあった紙片をぼくの手の中に滑らせた。

「なんて書いてあるの?」

ミローネが覗きこんでくる。風呂上がりのいい匂いがした。妖精のくせに風呂が好きなんて変なやつだ。いや、妖精って水浴び好きだよね。そういう絵っていっぱいなかったっけ?

「スケベ」
「うっほん!えーとなになに…逃げてください急いで、だと」
「はあ?」
「まだ続きがある。この町は鬼に支配されています。そしてその鬼は、食人鬼なのです」

なんだこりゃ!こりゃえらいところに泊まっちまったようだ。人食い鬼のいる宿か。いやあ、こいつはうかつだったな。なんて言ってる場合じゃないな。これはなんとかしないと駄目なやつじゃん。しかしラフレシアは大丈夫かな?


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