無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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溶岩獣ジラーフ

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まずこのぼくの置かれた状況を自分なりに確認してみる。目の前にいるラフレシア。うん。縛られて座っている。さっき馬頭の兄貴に縛られた。あいつ、蹄じゃなくちゃんと手だったっけ。そしてぼく。うん。やっぱ縛られている。当たり前だね。

総合すると、ぼくらは縛られている。だが、身動きが取れないってほどじゃない。あいつら足は縛らなかった。これは、ぼくらを歩かせて連れて行こうとしているからだ。対して牛頭馬頭の兄貴たちはどうか?いやー、牛あたまのアニキは背中にでかい牛刀を、馬あたまのアニキは背中にこれまたでかい両斧アックスを背負っている。まあ危機的状況にはかわりないってことだね。

「にしても暑いわねー」

縛られている不満じゃなく暑さに不満…ラフレシア、きみってとことんわかりづらいよ。

「マグマの熱床帯が近いせいだ。それにしても不思議だね」
「なにがよ」
「これだけマグマ溜まりに近いのに、有毒ガスはどうなってるのかってさ」
「有毒ガス?なにそれ」
「火山性の有毒ガス、つまり亜硫酸ガスや硫化水素、それに一酸化炭素や塩化水素なんかがそうだね。まあ名前はともかく、吸い込んだらヤバいやつだよ」

あーあ、ガスマスクは馬車のなかだ。こんな岩石ばかりのところじゃ錬金術で錬成もできない。あれは樹液と炭がいる。炭は何とかなっても、生木がない。みんなどうしてるんだろう?

「わかんないわよ、そんなの。だいいち見えないでしょ」
「へんな匂いがしたら近寄らないこと。それとくぼんだとこには入らないこと」
「よけいわかんないわよ」

まあみんな平気で息してるってことは、どこかに空調設備があるんだろうね。それらしいのは見当たらないんだけど…。よく考えろ…。空調ったら空気の入れ替えだろ?つまり吸気と排気。それらしい穴は壁に沿っていくつも開いている。小さい沢山の穴だ。あれがガスを吸うところ。なら新鮮な空気が出てくるところは…ああ、見つけた。あのクヌムっていう親分の頭上かよ。てめえだけ安全なとこか。なるほどね。

「待って!なんか地面が動いてる。何これデリア」
「地震…なのかな」

地鳴りだ。もしかして火山性の地震?とにかくこんなとこにいたらヤバいんじゃないか?いやどっちみちヤバいけどね。

「なによこれ!天井とか崩れてこないわよね?」
「静かに!なんかおかしい。さっきのやつらが慌ててる」

牛頭と馬頭のふたりがえらく慌てて走って行った。ぼくらは置いて行かれる形になった。

「しめた、逃げられるかも」
「どうやってよ?あのへんなゴンドラの動かし方わかるの?」
「まあね、原理は一緒だと思うし」
「原理?」
「いいからさっきのゴンドラのところへ行こう」
「わかったわ」

いきなりすごい振動と音響が地下空間を襲った。こりゃあ地震なんかじゃない!

「ちょっとデリアっ!あれなんなのっ!」

ラフレシアが叫んだ。振り返ると、なんか炎の姿した何か…いや、あれは魔獣だ、きっと。まるで溶岩でできたような身体だ。真っ赤に燃えながらそこここから炎を噴き出し、しかも俊敏に動いている。

「ジラーフだ!溶岩獣が出てきた!ゴブリンども、隊形を組め!食われるぞっ!」

牛頭の兄貴が叫んでいる。どう見ても非常事態みたいだ。でもジラーフってなんだ?あのへんな魔獣のことかな?

「だめだ!防ぎきれん!」
「弱音言うな!親分が見てっぞ!」

牛頭と馬頭の兄貴たちはもうどうしようもないって感じだね。いやあ、あれは凄い。よくみるとあれって姿は『麒麟』じゃないか?中国の伝説上の聖獣だったかな?でもなんでこんな地の底にいるんだ?

「ね、ねえ、あいつ、こっち見てるよ?」
「うわ、マジヤバいかも!」
「来るし。こっち来るし」
「急いであの昇降機まで!走ろうっ」

そう言い終わらないうちにジラーフという炎の塊のような魔獣はぼくらを軽く追い抜き、そして昇降機の前で向きを変えた。明らかにぼくらの行く手を阻んだんだ。身体からはドロドロになった溶岩が滴り落ちて、それがまた地面で炎になる。マジこわい!

「ヤバい!回り込まれた。早いな」
「なに冷静に言ってんのよ!逃げないと食べられちゃうわよっ!」

その前にローストか焼き肉だろ。でも逃げるのはラフレシアに賛成!て、どこに…?

「あそこだ!あの親分のところに!走ってっ」

空調の配管があるはずだ。そこに潜り込めたら…。

「縛られてうまく走れないわよっ!」
「それでも走る!死にたくなけりゃね」
「足もつれる!ちょっと、バランス取れないっ!」

一瞬、炎が通り過ぎたような気がした。でもすぐに、それは気のせいじゃないってことがわかりすぎるくらい、ハッキリと目の前に現れたものに思い知らされた。炎の魔獣はぼくらをあっという間に追い抜いたのだ。

「きゃー、万事休すってやつだ。てか、なんでぼくらを追い抜いた?そのまま殺せたはずなのにね?」
「わかんないわよ!魔獣の気持ちなんて」

そう。わからない…あいつは何を考えてるか、なんて。ただ、やみくもに暴れているのではないとは思ったけどね。そうして魔獣と向き合う形になったぼくらに、その魔獣は鼻先を突き出すような仕草をした。鼻息も炎じゃん!熱いんですけど。

「おぬしたちは何者だ?なぜここにいる?」

たしかに炎の魔獣は、そう言った。

「ぎゃあああしゃべったああ」
「おちついてラフレシア!」

そう、ぼくだって叫び出したいところなんだもん。真っ赤な炎を噴き出しながら、その麒麟のすがたの魔獣はぼくたちを不思議そうに…見ていたんだ。溶岩を…滴らせてね。


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