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魔素病
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ミローネは知っていた。ラフレシアが魔素病で余命いくばくもないことを。
「なんで黙ってた!」
「怒んないでよ。こんなことあんたに言えるわけないじゃん。恋人が余命いくばくもない。もうすぐ死んじゃう、なーんて、聞いて楽しい?」
「う、それは…」
「あたしも悩んだわ。でも言わずにそっと見守ることにした。あたしにも誰にもどうすることもできないんだもん。大好きなラフレシアが死んじゃうなんて…あたしどうしていいか…わかんないんだもん…」
「ミローネ…」
「ごめん、みんな…」
なんできみが謝る?ラフレシア、なんできみが謝るんだ?
「魔素病はね、仕方ないの。遺伝っていうヤツらしいから。母さんはあたしを生んで後悔したそうよ。あたしがその血を濃く受け継いだから。あたしの成長とともにその魔素は増大する。魔法に耐性のないあたしの身体は徐々にその魔素に毒され、壊れていく…。死を悟ったわ。死を覚悟した。でも待つのはいや…いいえ、戦いの中で死にたかった。そんなときデリアと会った。何ものにもとらわれない生き方に憧れたわ。そして好きになった。だから最後にあたしが尽きるそのときまで、デリアといたかった。でももう、充分一緒にいられた…」
やめろ…やめてくれ…もうぼくは…なにもできないぼくは…。
「どうにかできないのかミローネ!」
「無理よ。あたしも色々やったけど、魔素自体は消せないの」
そういう落ちか。なんだ…この世界に転生して、やれニートがどうとか言って来たけど、最後はそういう落ちですか。情けない。あ、でもぼくのスキルなら?そうだよ。ぼくのスキルがあるじゃないか!要は魔素ってやつを消せばいいんだろ?簡単だ。
えーと?
魔素ってなんだ?わからん。わかんないもんは消しようがない。それに病気を治すっていったって、風邪や結核や癌とかいろいろある。治し方はみんな違う。ましてぼくが未知の病気ならなおさらだ。これって絶望、だよね?
つくづくいやになった。こんなわけわかんない世界に転生させられ、ようやく仲のよくなった女の子はもうすぐ死んじゃう?あり得ない。こんな世界、あり得ない!
「そこでご相談です。わがあるじ、大賢者さまがこう申されております。ケイオスの印を破壊すれば、賢者の石を進呈しよう、と」
「賢者の石?なにそれ」
「賢者の石とは不老不死の秘薬。だがそれは完ぺきなもの。この地上にそれは存在しません」
「ないなら勿体つけるなよ!」
「落ち着いてください。不完全ではあるがないこともない。これを用いれば寿命を何十日か伸ばすことができます」
「たったそれだけ?」
「落ち着いて。最後まで聞いてください」
「はい」
「大賢者さまはこう申されました。もしすべてのケイオスの印を破壊できたら、大賢者さまのもとに、と。さすれば大賢者さまの大魔法、生体転生の秘術をもって、そのお嬢さまの遺伝なる悪しき血を取り除くことを約束すると」
「ならはやくやってくれよ!すぐにその秘術を」
ぼくはどんな光明でもいいと思った。ラフレシアが助かるなら、悪魔にだって魂を差し出そう。
「それはできません。なぜならその秘術を行うのに何日も準備せねばならぬのです。それは今の状況ではできません。あなたがケイオスの印をすべて破壊したとき、その時は生まれるのです」
「汚ったねえな!また人質かよ?本当にこの世界のやつら、ろくでもないやつばかりだな!」
兄さんといいラフレシアといい、どうしてみんなぼくにいうこと聞かせるために大好きな人を人質にする?まあそれはぼくが一番知っている。ぼくは無気力な最低ニートだ。たとえ自分が死ぬと言われたって何もしないだろう。だから大切な人をってか?
「ここにその賢者の石があります。どうしますか?」
「どうって…やるよ。やればいいんだろ!」
「デリア!無理しないで。あたしなんかのために」
「ラフレシア…無理は承知さ。でもこれはきみのためだけじゃないんだ。ぼくやみんなのためだ。みんなの願いだ。それにきみという存在を失う悲しさに比べたら、こんなのは無理といわないんだ」
「デリア…」
ラフレシアは泣いていた。なんだか知らないが、ラフレシアを泣かせるすべてのものを破壊したくなった。
「さあ、受け取るがいい…賢者の石だ。これであと二十日はその娘は生きる。まったく運命とは面白いものだな。わたしが来るのが一日遅れていたら…、そう考えると不思議ななにかがはたらいている、とも言えるのだろうな」
「え?」
ラフレシアの寿命は尽きるところだったと?ありえない。でも…。
賢者の石は光となって消えた。ラフレシアにとくに変化はなかったが、その顔に美しい笑みが戻ってきた。
「えへ、なんだかスッキリした。身体が軽くなったよ」
「そうか。だがまだまだだ。きみを完全に治すまで、ぼくは…」
「無理すんな、デリア」
「言ってろ。ラフレシア」
ぼくらはお互いの手を握った。それは誓いだ。きっときみを救う、その誓いだ。
「よろしい、ではご案内しよう。おぞましき死の紋章…憎悪と恐怖の印にして諸悪の根源たる…ケイオスの印の場所に」
ニャンコはそう言った。それは絶望の響きを持っていた。
「案内って、どこへ?」
「これより西の果て、腐れ沼に棲む魔女のもとへ」
「え?それって…」
「さよう。最悪の魔女グレダーナ。やつが力をつけた。やがて人類はその魔力と毒でもがき苦しむ。猶予はできん」
そんなもん誰が相手するんだ?魔力ってなによ?毒ってなによ?
「そいつがケイオスの印?」
ラフレシア、やる気なの?
「そうだ。そいつを倒せば現れる。それは契約の印…魔王アラキスの契約陣だ。それを壊すのだ」
いや、サラッと言うなよ。なんだ魔王って!
「では用意はいいな。みな行くぞ」
待って、魔王アラキスって、誰!
「なんで黙ってた!」
「怒んないでよ。こんなことあんたに言えるわけないじゃん。恋人が余命いくばくもない。もうすぐ死んじゃう、なーんて、聞いて楽しい?」
「う、それは…」
「あたしも悩んだわ。でも言わずにそっと見守ることにした。あたしにも誰にもどうすることもできないんだもん。大好きなラフレシアが死んじゃうなんて…あたしどうしていいか…わかんないんだもん…」
「ミローネ…」
「ごめん、みんな…」
なんできみが謝る?ラフレシア、なんできみが謝るんだ?
「魔素病はね、仕方ないの。遺伝っていうヤツらしいから。母さんはあたしを生んで後悔したそうよ。あたしがその血を濃く受け継いだから。あたしの成長とともにその魔素は増大する。魔法に耐性のないあたしの身体は徐々にその魔素に毒され、壊れていく…。死を悟ったわ。死を覚悟した。でも待つのはいや…いいえ、戦いの中で死にたかった。そんなときデリアと会った。何ものにもとらわれない生き方に憧れたわ。そして好きになった。だから最後にあたしが尽きるそのときまで、デリアといたかった。でももう、充分一緒にいられた…」
やめろ…やめてくれ…もうぼくは…なにもできないぼくは…。
「どうにかできないのかミローネ!」
「無理よ。あたしも色々やったけど、魔素自体は消せないの」
そういう落ちか。なんだ…この世界に転生して、やれニートがどうとか言って来たけど、最後はそういう落ちですか。情けない。あ、でもぼくのスキルなら?そうだよ。ぼくのスキルがあるじゃないか!要は魔素ってやつを消せばいいんだろ?簡単だ。
えーと?
魔素ってなんだ?わからん。わかんないもんは消しようがない。それに病気を治すっていったって、風邪や結核や癌とかいろいろある。治し方はみんな違う。ましてぼくが未知の病気ならなおさらだ。これって絶望、だよね?
つくづくいやになった。こんなわけわかんない世界に転生させられ、ようやく仲のよくなった女の子はもうすぐ死んじゃう?あり得ない。こんな世界、あり得ない!
「そこでご相談です。わがあるじ、大賢者さまがこう申されております。ケイオスの印を破壊すれば、賢者の石を進呈しよう、と」
「賢者の石?なにそれ」
「賢者の石とは不老不死の秘薬。だがそれは完ぺきなもの。この地上にそれは存在しません」
「ないなら勿体つけるなよ!」
「落ち着いてください。不完全ではあるがないこともない。これを用いれば寿命を何十日か伸ばすことができます」
「たったそれだけ?」
「落ち着いて。最後まで聞いてください」
「はい」
「大賢者さまはこう申されました。もしすべてのケイオスの印を破壊できたら、大賢者さまのもとに、と。さすれば大賢者さまの大魔法、生体転生の秘術をもって、そのお嬢さまの遺伝なる悪しき血を取り除くことを約束すると」
「ならはやくやってくれよ!すぐにその秘術を」
ぼくはどんな光明でもいいと思った。ラフレシアが助かるなら、悪魔にだって魂を差し出そう。
「それはできません。なぜならその秘術を行うのに何日も準備せねばならぬのです。それは今の状況ではできません。あなたがケイオスの印をすべて破壊したとき、その時は生まれるのです」
「汚ったねえな!また人質かよ?本当にこの世界のやつら、ろくでもないやつばかりだな!」
兄さんといいラフレシアといい、どうしてみんなぼくにいうこと聞かせるために大好きな人を人質にする?まあそれはぼくが一番知っている。ぼくは無気力な最低ニートだ。たとえ自分が死ぬと言われたって何もしないだろう。だから大切な人をってか?
「ここにその賢者の石があります。どうしますか?」
「どうって…やるよ。やればいいんだろ!」
「デリア!無理しないで。あたしなんかのために」
「ラフレシア…無理は承知さ。でもこれはきみのためだけじゃないんだ。ぼくやみんなのためだ。みんなの願いだ。それにきみという存在を失う悲しさに比べたら、こんなのは無理といわないんだ」
「デリア…」
ラフレシアは泣いていた。なんだか知らないが、ラフレシアを泣かせるすべてのものを破壊したくなった。
「さあ、受け取るがいい…賢者の石だ。これであと二十日はその娘は生きる。まったく運命とは面白いものだな。わたしが来るのが一日遅れていたら…、そう考えると不思議ななにかがはたらいている、とも言えるのだろうな」
「え?」
ラフレシアの寿命は尽きるところだったと?ありえない。でも…。
賢者の石は光となって消えた。ラフレシアにとくに変化はなかったが、その顔に美しい笑みが戻ってきた。
「えへ、なんだかスッキリした。身体が軽くなったよ」
「そうか。だがまだまだだ。きみを完全に治すまで、ぼくは…」
「無理すんな、デリア」
「言ってろ。ラフレシア」
ぼくらはお互いの手を握った。それは誓いだ。きっときみを救う、その誓いだ。
「よろしい、ではご案内しよう。おぞましき死の紋章…憎悪と恐怖の印にして諸悪の根源たる…ケイオスの印の場所に」
ニャンコはそう言った。それは絶望の響きを持っていた。
「案内って、どこへ?」
「これより西の果て、腐れ沼に棲む魔女のもとへ」
「え?それって…」
「さよう。最悪の魔女グレダーナ。やつが力をつけた。やがて人類はその魔力と毒でもがき苦しむ。猶予はできん」
そんなもん誰が相手するんだ?魔力ってなによ?毒ってなによ?
「そいつがケイオスの印?」
ラフレシア、やる気なの?
「そうだ。そいつを倒せば現れる。それは契約の印…魔王アラキスの契約陣だ。それを壊すのだ」
いや、サラッと言うなよ。なんだ魔王って!
「では用意はいいな。みな行くぞ」
待って、魔王アラキスって、誰!
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