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あてのない旅…それって放浪じゃん
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というわけでハロルドに皇帝の座を押し付けて、ぼくらはとっとと帝国領から逃げ出した。帝国再建の手伝いなんかさせられるのはごめんだからね。
「しっかしあのふたり、幸せそうだったわねー」
「そうか?」
まあハロルド王子は降ってわいた災難みたいな顔してたけど、メリアン姫がテキパキといろいろとやってたから、意外にうまくいくんじゃないかな。ガザン王国がこれからどうなるかとか、リスタリアがどうなるかとかはぼくのあずかり知らぬことだ。とにかくお幸せにと祈るしかない。
「じゃあこれからも頑張ってね、デリア」
「なんでそうなる?なんでぼくが頑張るんだ?」
「だってあんたは皇帝の座を蹴ったのよ?それに見合ったことはしないと」
皇帝に見合うったって…どんな事ぼくにさせようとしてるんだ?この子…。
「とりあえず町を探しましょう。そこで服を買わなくっちゃ」
「この前買ったばかりだろう!それに帝都でもしこたま買ったんじゃないか。荷台が狭いってミローネたちが怒ってんぞ」
そういうやつらは荷台でいびきをかいて寝ている。腹いっぱい食ったんで眠いのだ。こんにゃろ。
「馬車なんか買い足せばいいでしょ?お金あるんだし」
「そうだけど、これ以上おかしな行列は増やしたくないな」
そう言ってぼくは後ろを見た。荷馬車の後ろには甲冑を着た兵が連なっている…。
夕べ泊まった帝都の高級宿で今後の身の振り方をみんなで話し合った。ハロルドとメリアンは帝国の皇帝と皇后になるしかなかった。もちろんハロルドはいまだに事情を呑み込めていない。まあいいけど。財宝はもう身代金が要らなくなったのでみんなで分けた。
ジークのオッサンとポーリンはあのダンジョンの町で暮らすという。雑貨屋を大きくするんだそうだ。きっと大きな庭と出窓とキッチンを作るだろう。
兄さんたちはリスタリアに帰る。報告があるのだし、兄さんはあの国の貴族だからね。ぼくも帰ろうと誘われたが、なんか窮屈そうなんで断った。今朝、みんなとサヨナラしたんだ。そうしてぼくとラフレシアと、精霊のミローネ、死霊使いのネクロ、ベビードラゴンのリヴァちゃんがこうしてまたぼくの愛馬『馬』に牽かれた荷馬車で旅をしているってわけだ。
「きみはリスタリアに帰らなくていいのか?」
ぼくは馭者台のとなりでお菓子を食べているラフレシアにそう聞いた。
「なんで?帰ってほしいの?いやよ。絶対いや。なんであたしが帰んなくちゃなんないの?」
「いやそう頑なに否定とかしないで。べつに帰ってほしいって言ってんじゃなくて、お父さんとか心配しないかと思って」
ぼくがそう言うと、お菓子を食べてる手を止めてラフレシアはまっすぐにぼくを見た。
「お父さんには申し訳ないと思ってる。でもこれはわたしが決めたこと。それは誰よりも理解してくれているわ。要はあたしが幸せになることが大事だってこと」
「幸せ…かあ…」
ラフレシアをぼくが幸せにしなくちゃならないの?それこそ気が重い。ニートは孤独で生きるのが幸せなのに。
「それにあたし…」
「それに何?」
「ねえ、魔素病って知ってる?」
「魔素病?なにそれ」
「ううん、いいの」
「え?なんで」
「なんでもない。忘れて」
「そうは言っても…」
一瞬、ラフレシアは思いつめた顔をした。なんなんだ?
「あーあ、幸せかあ」
「はあ」
ラフレシアはまた笑ってぼくを見た。
「だから服はいっぱい買わなくちゃね」
「あっそう…」
こいつもポンコツだった。忘れてた。でも肝心な時にぼくを助けてくれる。なんなんだろう?
「しっかしガチャガチャうるさいわねー」
ラフレシアがまたお菓子を食べながら後ろの行列に振り向いた。死霊や魔物たちに帝都で買った甲冑を無理やり着せているのだ。あんな姿の者たちをぞろぞろ引き連れているわけにはいかない。それこそいたるところで戦争を引き起こしてしまう。それこそ人間と魔物の戦争になる。またあの大天使が降臨して来るかもしれない。冗談じゃない。
「さすがにしょうがないよ。まだ荷馬車に積めないぐらい金銀財宝があるんだからね。それにあの格好させたらもう盗賊に絡まれたりしないでしょ?」
「死霊の方が絡まれないと思うけど」
そうしたら人間族からも絡まれなくなりますよ!町に入って服も買えませんよ!
「それより今度はどこへ行くの?やっぱこうなると魔物退治よね、冒険者としては。兵も沢山いるし」
誰が冒険者だ?そんなものになるつもりはないぞ。過酷な旅や戦いしなきゃならないような特殊労働者なんかになりたくないし、だいいち魔物に魔物退治やらせんのか?なんていう鬼畜な考え方してんだ、こいつ。
「どこか魔窟とかないかなー?魔物の森でも沼でもいいけど」
「それならいいとこがあるわよ」
ミローネが起き出し、目をこすりながらそう言った。ラフレシアからお菓子をもらっている。まだ食うんか、この子。
「どんなとこ?何がいるの?」
「やめてラフレシア。何が悲しくて魔物退治なんかしなくちゃなんないのさ。ぼくらは平和に仲良く暮らしたいのです」
「ずっと西のはずれに腐れ沼というところがあって、そこに悪い魔女が棲んでいるわ」
ツッコミどころの多い話だな。腐れ沼?悪い魔女?魔女って悪いって決まってんですけど。ていうかミローネぼくの話聞いてないよね。
「じゃあ退治しに行く?」
「行きません。却下です!頼まれもしないのにそんなとこに行くおバカさんはいません」
「それがいいわ。なんたってあいつは最悪の魔女よ。強力な魔法を使うし性格も悪い。おまけにすごいブス」
はい決定!進路は東!
「んねえデリア、なんか来るよ?」
ネクロが起きてきておかしなことを言う。
「え?何が来るって?」
辺りを見回したがそれらしいものはいない。
「パパ…変なもの、来るよ」
「リヴァちゃんまで…なんだろうな」
それはすぐわかった。空から何かが降りてきたのだ。また大天使?いや違う…あれって…?
「ニャンコだー!」
リヴァちゃんが嬉しそうに叫んだけど、それ違うような気がする。どう見てもトラだ。でかいトラだ。すんごい太長い牙が二本、うわ顎から生えている。もといた世界の本で見たことがある。マンモスのいる時代のあいつだ。サーベルタイガーそっくりだ。しかも翼がある?なんだあいつは。魔物、なのか?
「リヴァちゃん落ち着いて。あれはニャンコではありません。きっと魔物です」
「あれ魔物じゃないわね」
「知ってるの、ミローネ」
「剣歯虎って精霊界じゃ呼ばれてるわ。精霊の一種で、もっぱらお使い用ね」
どんなお使いなんだ。あんなので大根買いに来たら店主たまげるぞ。
「そこの人間、とまれ」
しゃべった。ぼくがたまげた。
「しっかしあのふたり、幸せそうだったわねー」
「そうか?」
まあハロルド王子は降ってわいた災難みたいな顔してたけど、メリアン姫がテキパキといろいろとやってたから、意外にうまくいくんじゃないかな。ガザン王国がこれからどうなるかとか、リスタリアがどうなるかとかはぼくのあずかり知らぬことだ。とにかくお幸せにと祈るしかない。
「じゃあこれからも頑張ってね、デリア」
「なんでそうなる?なんでぼくが頑張るんだ?」
「だってあんたは皇帝の座を蹴ったのよ?それに見合ったことはしないと」
皇帝に見合うったって…どんな事ぼくにさせようとしてるんだ?この子…。
「とりあえず町を探しましょう。そこで服を買わなくっちゃ」
「この前買ったばかりだろう!それに帝都でもしこたま買ったんじゃないか。荷台が狭いってミローネたちが怒ってんぞ」
そういうやつらは荷台でいびきをかいて寝ている。腹いっぱい食ったんで眠いのだ。こんにゃろ。
「馬車なんか買い足せばいいでしょ?お金あるんだし」
「そうだけど、これ以上おかしな行列は増やしたくないな」
そう言ってぼくは後ろを見た。荷馬車の後ろには甲冑を着た兵が連なっている…。
夕べ泊まった帝都の高級宿で今後の身の振り方をみんなで話し合った。ハロルドとメリアンは帝国の皇帝と皇后になるしかなかった。もちろんハロルドはいまだに事情を呑み込めていない。まあいいけど。財宝はもう身代金が要らなくなったのでみんなで分けた。
ジークのオッサンとポーリンはあのダンジョンの町で暮らすという。雑貨屋を大きくするんだそうだ。きっと大きな庭と出窓とキッチンを作るだろう。
兄さんたちはリスタリアに帰る。報告があるのだし、兄さんはあの国の貴族だからね。ぼくも帰ろうと誘われたが、なんか窮屈そうなんで断った。今朝、みんなとサヨナラしたんだ。そうしてぼくとラフレシアと、精霊のミローネ、死霊使いのネクロ、ベビードラゴンのリヴァちゃんがこうしてまたぼくの愛馬『馬』に牽かれた荷馬車で旅をしているってわけだ。
「きみはリスタリアに帰らなくていいのか?」
ぼくは馭者台のとなりでお菓子を食べているラフレシアにそう聞いた。
「なんで?帰ってほしいの?いやよ。絶対いや。なんであたしが帰んなくちゃなんないの?」
「いやそう頑なに否定とかしないで。べつに帰ってほしいって言ってんじゃなくて、お父さんとか心配しないかと思って」
ぼくがそう言うと、お菓子を食べてる手を止めてラフレシアはまっすぐにぼくを見た。
「お父さんには申し訳ないと思ってる。でもこれはわたしが決めたこと。それは誰よりも理解してくれているわ。要はあたしが幸せになることが大事だってこと」
「幸せ…かあ…」
ラフレシアをぼくが幸せにしなくちゃならないの?それこそ気が重い。ニートは孤独で生きるのが幸せなのに。
「それにあたし…」
「それに何?」
「ねえ、魔素病って知ってる?」
「魔素病?なにそれ」
「ううん、いいの」
「え?なんで」
「なんでもない。忘れて」
「そうは言っても…」
一瞬、ラフレシアは思いつめた顔をした。なんなんだ?
「あーあ、幸せかあ」
「はあ」
ラフレシアはまた笑ってぼくを見た。
「だから服はいっぱい買わなくちゃね」
「あっそう…」
こいつもポンコツだった。忘れてた。でも肝心な時にぼくを助けてくれる。なんなんだろう?
「しっかしガチャガチャうるさいわねー」
ラフレシアがまたお菓子を食べながら後ろの行列に振り向いた。死霊や魔物たちに帝都で買った甲冑を無理やり着せているのだ。あんな姿の者たちをぞろぞろ引き連れているわけにはいかない。それこそいたるところで戦争を引き起こしてしまう。それこそ人間と魔物の戦争になる。またあの大天使が降臨して来るかもしれない。冗談じゃない。
「さすがにしょうがないよ。まだ荷馬車に積めないぐらい金銀財宝があるんだからね。それにあの格好させたらもう盗賊に絡まれたりしないでしょ?」
「死霊の方が絡まれないと思うけど」
そうしたら人間族からも絡まれなくなりますよ!町に入って服も買えませんよ!
「それより今度はどこへ行くの?やっぱこうなると魔物退治よね、冒険者としては。兵も沢山いるし」
誰が冒険者だ?そんなものになるつもりはないぞ。過酷な旅や戦いしなきゃならないような特殊労働者なんかになりたくないし、だいいち魔物に魔物退治やらせんのか?なんていう鬼畜な考え方してんだ、こいつ。
「どこか魔窟とかないかなー?魔物の森でも沼でもいいけど」
「それならいいとこがあるわよ」
ミローネが起き出し、目をこすりながらそう言った。ラフレシアからお菓子をもらっている。まだ食うんか、この子。
「どんなとこ?何がいるの?」
「やめてラフレシア。何が悲しくて魔物退治なんかしなくちゃなんないのさ。ぼくらは平和に仲良く暮らしたいのです」
「ずっと西のはずれに腐れ沼というところがあって、そこに悪い魔女が棲んでいるわ」
ツッコミどころの多い話だな。腐れ沼?悪い魔女?魔女って悪いって決まってんですけど。ていうかミローネぼくの話聞いてないよね。
「じゃあ退治しに行く?」
「行きません。却下です!頼まれもしないのにそんなとこに行くおバカさんはいません」
「それがいいわ。なんたってあいつは最悪の魔女よ。強力な魔法を使うし性格も悪い。おまけにすごいブス」
はい決定!進路は東!
「んねえデリア、なんか来るよ?」
ネクロが起きてきておかしなことを言う。
「え?何が来るって?」
辺りを見回したがそれらしいものはいない。
「パパ…変なもの、来るよ」
「リヴァちゃんまで…なんだろうな」
それはすぐわかった。空から何かが降りてきたのだ。また大天使?いや違う…あれって…?
「ニャンコだー!」
リヴァちゃんが嬉しそうに叫んだけど、それ違うような気がする。どう見てもトラだ。でかいトラだ。すんごい太長い牙が二本、うわ顎から生えている。もといた世界の本で見たことがある。マンモスのいる時代のあいつだ。サーベルタイガーそっくりだ。しかも翼がある?なんだあいつは。魔物、なのか?
「リヴァちゃん落ち着いて。あれはニャンコではありません。きっと魔物です」
「あれ魔物じゃないわね」
「知ってるの、ミローネ」
「剣歯虎って精霊界じゃ呼ばれてるわ。精霊の一種で、もっぱらお使い用ね」
どんなお使いなんだ。あんなので大根買いに来たら店主たまげるぞ。
「そこの人間、とまれ」
しゃべった。ぼくがたまげた。
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