無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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ニート、断る

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「どうすんですか、これっ!」

さすがにニートのぼくでも怒った。いくらなんでも問答無用で宮殿を破壊していいわけがない。やっていいことと悪いことがある。これは悪いことの方に入る。

「神の怒りだ」
「神の怒りったって道理が通りませんよ!」
「道理?何を言っている。これはまあ言ってみれば自然災害と同じだ。天変地異の典型的なモデルケースだな。人がこれをすれば明らかに人災と呼ばれるが、天が行えばそういうことになる」

なに言っても無駄なことに今さら気が付いた。なんでも天のせいにすればすべて免責特権があるんだ、こいつらには。

「なかにいる人たちはどうなったんですか?」
「心配するな。今回は特例ということで、みな天国に送った。多少罪深きやつもいたが、そこは大天使のごり押しでなんとかなるからな」
「おい、それってみんな殺しちゃったってこと?」
「嫌な言い方するな。天に召された、と言え」

同じやん!なんてことするんだぼくのスキルから出てきたやつ!そんなことしたら天国契約が…あー、こいつ天国のやつだからいいのか…。

「問題はむしろこの後だが、さて、どうするかな…」

大天使さまが悩んでいる。こいつ、考えなしにやったに違いない。まあそれ突っ込んで問い質したって、偉大な神の御心だとかなんとか言って誤魔化されるだけだけどね。

「皇帝の跡継ぎを決めないといけないんじゃないかな。そうしないとこの国が崩壊しちゃうよ」
「そうだな。だが、皇帝一族もろとも吹き飛ばしちゃったし、いまこの国で一番偉いやつはそこのウジ虫だけだからな…困ったなあ」

大天使が困った言ってる!やっぱり考えなしだったんだ。

「そうだ、お前やれ。うん、なかなかいい案だ。お前がこの国の皇帝やれ」

大天使がとんでもないことをぼくに言った。しかも絶対思いつきのいい加減な案だぞ、それ。

「い、いやですよ!なんでぼくがそんなもんに!」
「いいじゃないか。ラッキー、てな感じで、やれ!」
「バカですか!できるわけないじゃないですか!どこの馬の骨なんですよ、ぼくは。そんなの誰も認めるわけないじゃないですか」
「大天使のわたしがそう言ってんだ。反対するやつはまた天変地異で粛清する」
「汚ったねえっ!信じられないくらい横暴だ」
「信じる者は救われる。これマジよ」

いやいやいくら何でもあり得ない。ニートが皇帝やってどうする。国を潰すどころの騒ぎじゃない。世界の終末まっしぐらだ。そんなの考えなくったってわかる。これはまずい。

「じ、じつはぼくは蛇口教と言ってあなたの神とは違う者なのです。いわば異教徒ってやつです。無理です」
「改宗しろ。じゃなきゃおまえに天変地異」
「やめて。そ、それにぼくはまだ子供だし」
「皇帝に年齢制限などないと思うけど」
「もっといい人がいます!もううってつけの」
「ほう、誰だ?」
「あの人です!ハロルド王子です。親切で優しくてバカがつくほど正直者でイケメンです」
「皇帝の選考基準にしてはお粗末だな」

いかん、これはなにがなんでも押し付けないと。

「ねえ大天使さま、皇帝ってやっぱみんなの尊敬を集めなきゃなんないわけよね?」

ラフレシアがなんか言ってる。もう余計な口を挟むなよ。ややこしくなるから。

「まあそういうことだな。確かにこの小僧じゃそこはちょっと弱いところだが、なんとかなるんじゃないか?」
「そこでここは多数決ということにしては?」
「多数決?なんだそれは」
「みんなが選ぶみんなの皇帝ってことです。そうすりゃどこからも文句も出ない。神様万歳ってやつです」
「ほう。で、みんなって誰だ?どこにいる」
「ここにいるみんなです」
「おまえたちが?んー…まあいいだろう。あまり時間もかけたくないしな。お昼ご飯に間に合わなくなるからな」

なんだそれ?しかも帝国の人と関係ないじゃないかぼくたち。

「なあラフレシア。それってまずくないか?」
「いいから黙って。これが一番いいのよ。はい、ハロルド王子がいいと思う人、手をあげて。こら、そこの将軍さん、あんたも参加すんのよ!」
「え?わしも?」
「当たり前でしょ!あんたんとこの皇帝よ」
「しかしわしは二人を知らんし」
「なに言ってんのよ。そんなこと言ってるとあんた死刑よ」

そんな権限どこにある!なんでそんな恐いこと言ってんだラフレシアは?

「さあ、じゃハロルドがいいと思う人…手をあげなさい。さあ!」

こわい。マジこわいこいつ。みんなラフレシアに睨まれてびびったみたいだ。恐る恐る手をあげた。もちろんぼくは喜んで手をあげさせてもらったけど。

「どうやら全員一致ですね。ではハロルド王子が皇帝に決まりました。みんな拍手!パチパチパチ」

みんなわけがわからずまばらに拍手した。

「よし、じゃそういうことで。後始末はあんたたちがやって頂戴ね。わたしは天に帰ります。みなに祝福を。さらば!」

大天使は意気揚々と天に昇って行った。まったく迷惑なやつだった!

「あ、あのー」

ハロルド王子がポカーンとしている。そりゃそうだ。いきなり帝国の皇帝にさせられたんだからな。だがこれでいいんだ。メリアン姫だって国を取り戻せるわけだしね。あとのことなんかぼくは知らない。勝手にやってくれ、だ。

「それにしてもラフレシア、ありがとう」

てっきりぼくを皇帝にして、ちゃっかり皇后の地位を獲得するのかと思った。

「ふふ、いいの。あんたが皇帝になったらなんか遠い人になっちゃう気がして。あんたはどこか田舎の伯爵家ぐらいでちょうどいいのよ」
「ふーん、そういうものかな。どっちもめんどくさそうだけど」
「のんびりできるわよー。毎日窓辺で鼻くそほじっていられるわ」

そいつは理想だ!ニートの本懐だ!

「その前に死ぬほどあんたにははたらいてもらわなくっちゃ。まずはどこか王国に就職ね。それでバンバン手柄をたてて、大きなお城を建てて、領地もどんどん広げて―、お金をがばがば稼いでね、あ、金の馬車かなんか走らせちゃったり」

助けて大天使さま!ここに悪魔がいます!


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