無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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大天使、降臨!

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「なあデリア…。お前はこれまでにすごい働きをしてきた。兄としても誇らしいよ。それにおまえのおかげで爵位ももらえた。あの万年貧乏準男爵家の次男として生まれて、先行きなんの光も見えない人生に、お前は俺に光を与えてくれた。もうこれ以上ないってくらいお前には感謝してるんだ」

馬車の横でジョアン兄さんがそう言った。ぼくの馬車には荷台にメリアン姫とミローネ、そしてネクロとリヴァが。馭者台のぼくの横にラフレシアがいる。みなのんきに町で買ったお菓子を食べている。

「やめてよ。兄さんが爵位をもらったのは兄さんの実力なんだから」
「小さいころから俺はお前が心配だった。何を考えてるかわからなかったし、どこか人と違うところがあった。だがそれは俺の杞憂だったみたいだ。お前が人と違うのは、お前が誰よりも賢く、そして強いからだと。俺はおまえが弟だってことを誇りに思う」
「それは…」
「あら、いまごろ気がついたの?お兄さま」

ラフレシアが口を挟んできた。まあ、得意そうなそのドヤ顔って…。

「そういやあなたが最初にこいつを…えらく見込んでいたようでした」
「ふふ、女の感ってやつね。正直言って先行投資先が格安物件…だいぶギャンブルだったけどね」

勝手なこと言ってるな!ぼくは駅前不動産じゃないぞ!

「言いえて妙、ですね」
「でもそれだけじゃ、ないもん…」

そう言ってラフレシアは黙ってしまった。なんなんだ。

「おい、先行投資ってなんだ、ミローネ」

ネクロが不思議そうに聞いている。

「人が見向きもしないものを先駆けて手に入れたように見せかけて、じつは高く取引できる相手を探しながらその付加価値をさらに上げていくことだ」
「めんどくさいのだな、人間というものは」
「パパはパパよ」
「まあそうだったな」

後ろでおかしなことを言っている気がする。

「ところであんた、交渉する当てはあんの?」

ポンコツ姫がえらくまともなことを言っている。

「交渉するのはきみの王子さまでしょ?ぼくはその相手を見つけるだけですよ」
「それって帝国の誰かを知ってるってこと?」
「知り合いなんかいませんけど」
「あんたバカ?知り合いもいないくせにどうやって交渉すんのよ!いきなりじゃ誰も相手にしてなんかくれないわよ」

馬車の後ろを馬でついてくる王子がオロオロしている。

「そりゃまあ普通だったらそうでしょうけど、まあ後ろを見ればそのとっかかりはつかめますよ」
「とっかかりったって…」

メリアン姫が後ろを見ると王子がにっこり微笑んだ。お前じゃないよ。

「ハロルドがどうにかしてくれるの?言っちゃ悪いけどあいつは無能よ?」

言っちゃ悪いよ、それ。

「そ、そうでもないみたいですけどね。いや、そうじゃなくてその後ろ」

王子の後ろを金銀財宝を抱えた死霊や魔獣が連なって歩いている。

「バケモノたちじゃない。あんなのどうすんのよ?帝国のやつらびっくりさせちゃうの?下手したら激怒するわよ」
「だから最初に出てくるのは帝国の軍隊です。それも大軍でしょう」
「そんなもんが出てきちゃったら終わりじゃないのよ!皆殺しにされるわ」

ポンコツのくせにぼくの襟首をつかんでいる。耳元で怒鳴られるのはちょっと嫌だ。

「落ち着いて。軍隊なら皇帝と直結してます。遠回しに官僚とか大臣とか通すと時間がかかるしめんどくさいんです。だから王子がどこかの魔王を倒して、その戦利品を運ぶ途中あなたと知り合い、窮状を知った王子があなたの国を救うためここに来た、という筋書きを伝えればいいんです。うまくすれば直接皇帝と交渉できます」
「なあるほど…でもそんなにうまくいくかしら?」

まあいきなり攻撃されるかもね。そうしたらスタコラ逃げるだけだけど。あとは知らん。

「もしあたしが…さ」

ラフレシアが何か思いついたみたいだ。

「軍隊の将軍だったらさ、この金銀財宝ひとり占めにしちゃおうって考えるわね」

そんなこと考えるのかきみは!恐ろしい子。

「まあこのご時世、そういうこともあるかな」
「ダメじゃん」

まあ、もとからうまくいくとは思ってないからね。奇跡でも起きない限りこれはムリゲーなんですよ。ああ、奇跡かなんか起きないかなあ…。

はい、スキル発動されちゃった気がしました。ぼくの身体から何か抜けてった感じがするからです。目の前に何かまぶしい光が降りてきました。

「ねえ、前になんかいるわよ?」

ラフレシアが前方の光の中に何かを見つけたようだ。

「人、かしらねえ?」

ポンコツ姫、ふつうただの人間がそういう登場の仕方はしないもんですよ。

「おまえたち、ちょっと待て」

なんかしゃべった。こ、この姿は…。

「あ、あなたは誰ですか?」
「見てわからんか?」
「いえ、な、なんとなく」

真っ白な服、背中の真っ白な翼、そして頭の上に光る輪っか…天使ってやつ?

「わたしは大天使カラーラさまよ。恐れ敬え人間ども!」
「その大天使カラーラさまがなに用で?」
「おまえらどういう態度してんだよ。何そこの後ろ、くつろいでんだよ」

荷馬車の後ろでミローネたちが町で買ったお菓子を貪っている。リヴァちゃんは居眠りしているようだ。

「あ、こいつらは人間じゃないのでお気になさらず」
「天使のわたしに、人間じゃないもんがいるって言って、気にするなと言われてもそいつは無理だろ!」
「あなただって人間じゃないんだからおあいこです」
「おかしな理屈を言うやつだな」
「だから何の用ですか?忙しいんですよぼくら」
「おまえ、天使にそういう口きいたの天地創造以来初めてのやつだぞ!悪魔だってもうちょっと丁寧な言葉使うぞ!」

なんか本当にめんどくさくなってきた。

「あーすいません。ではあらためて…。えと、あなたさまはなにゆえこの下賤のわたしたちのところへ降臨されたのでしょう?で、いいですか?」
「何か気に入らんが…まあいい。話は簡単だ。そこな魔物を率いて何をしようとしておる?まさか人間界と魔族界と戦争を…」
「違いますよ。かれらは運送業者みたいなもので、財宝を運搬してもらっているだけです」
「えらいものをえらいように使っておるな。とにかくだ、そんなものを連れて人間界を行進されては神の名が穢される」
「つまり、神の縄張りを荒らすな、と」
「まあぶっちゃけそうよ」

これは奇跡なんだろうな、大天使というからは。だけどなんてめんどくさいものを呼び出したんだぼくのぶっ壊れスキル。もういい加減にしてほしいわ。


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