無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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不帰のダンジョン

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ぼくたちは町を出て道なき道を進んで行った。

もっとも、道はステルスゴーレムくんが作ってくれる。ぼくらは平坦なそこをトコトコ進むだけでいい。

「ねえオッサン、ダンジョンのこと知ってるの?」
「オッサン言うな。ジークと呼べ。何度も言わせんじゃねえ。ダンジョンだろ?それなりに情報はもっている」

宰相のガイリアスさんがオッサンに情報を渡したのは想像できる。それがいままでオッサンがなにひとつその情報をぼくに伝えなかったのか…。それはかなり厳しい内容だからだ。直前まで知らせない。それはぼくが怖気づくことを恐れていたからだろう。

「それってどんな?やっぱり魔物とかうじゃうじゃいるんだろ?」
「魔物のいないダンジョンなんざ、ダンジョンと言わねえよ」
「じゃ何?迷宮でしょ?入ったら出られないってやつ」
「だからダンジョンなんだろ。当たり前のこと聞くな」

ここじゃ当たり前かもしんないけれど、ぼくの前世じゃゲームかアニメか物語だけなのっ。非現実的なこと言われたってピンと来ないんだよ!
「そんなとこに入り込んだ姫さまを見つけ出して助け出すなんて不可能じゃないのかな?」
「おいおいおい、今さらそういうこと言うなよ」
「でもどう考えても…」

ふう、とオッサンはため息をついた。

「あのな、ぼうず」
「ぼうずじゃありません」
「あー悪い、なあデリア。俺にはよ、こうして目の前で勝手に道がこさえられていく、その光景が信じられんのだ。魔法でもなさそうだし、そこの精霊とか死霊使いの姉ちゃん、ましてそのちびっ子の仕業にも見えねえ。いったい何隠してるか知らねえが、それこそ人間には不可能なことなんだよ。それをケロっとやっちまうおまえしか、この任は務まらねえと俺は思う」

オッサンはぼくが何かすごい力を持っていると誤解している。それこそオッサンの想像力を超えたなにかを、だ。確かにすごいかもしてないけれど、でもそれはぼくの想像力を超えられない半端なスキルなんだ。

「買いかぶりすぎだよ。ぼくは何も奇跡を起こしているわけじゃない。たまたまの偶然の幸運がラッキーだけだったんだ」
「意味わかんねえよ、それ」
「とにかくまぐれだったということさ。全部ね」
「ああ、まぐれかも知れねえ。だがそのまぐれは立派なお前の力なんだ」

まぐれが力なんてさびしすぎるだろう。だがまあオッサンはオッサンでぼくに期待してくれているということだ。迷惑だけど。

「見てみろ」
「え?」

オッサンが指さす方を見た。看板が掲げてあった。

[危険、ダンジョンあり]

「ええ?」

まだある。

[引き返すなら今]
[命を粗末にするな]

「なんだ、これ?」

[立ち入り禁止]
[地獄の入り口]
[親は泣いている]
[選択は正しい、だが道は違う]
[本日休業]
[閉店セール実施中]

「ここのダンジョンの危険を知らせる立て看板だ。ここは不帰かえらずのダンジョン、っていう厄介で絶望的な死の迷宮なのさ」
「入ったものは出られないってこと?」
「そうだ。いままで入ったもので出て来れたものはいない。一説には冥界や異界への入り口だとか、桃源郷に続いていて、みな帰りたがらないとか言われている。そうしてもうひとつ。それを手にすればどんなこともかなうという秘宝の存在だ。そいつを手に入れたいとダンジョンに挑むバカどもが後を絶たないのさ」

信じられない。しかし信じるしかないようだ。目の前に広がるこの光景を見たら誰だって…。

「町?まさか?」

目の前に町のようなものがあった。いちようにボロかったが人々が行き交い、店には多くの品物が並んでいた。

「デリア、なんかおいしそうなもの売ってるよ!」
「見てデリア、おかしなアイテムが並んでるわ。なにかしら!」
「永代供養整理券?何かな、あれ」
「ねえパパ、カメムシつかまえた。食べていい?」

みな荷馬車から身を乗り出していた。リヴァちゃんカメムシをぼくに近づけるな。

「みな一攫千金を狙うやつらと、そいつらを相手に商売しているやつらだ。いいか、店で売っている物を買うんじゃねえぞ。まともなものなんてひとつもねえからな。なんせ帰らないやつらだ。何売ったってクレームなんか来ないからな」

オッサンはやけに詳しかった。来たことがあるのか?

「ジークさんは…」
「ああ?何が言いたいかわかる。なんで知ってるかって?情報をもらったからって、信じねえだろ。そうだよ、ここは冒険者じゃ知らぬ者はいない。そして俺はその、冒険者だったんだ」

へえ、オッサンが冒険者?まあ、ふつうの人間にしてはと思っていたけどね。

「そっちに馬車を回せ。知り合いがいる。そこに馬車を預けよう」

ぼくらは雑踏の中を、馬車を進めていった。その中心部には、真っ白くとてつもなくでかい岩山のようなものが見えていた。

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