無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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勇者オルフェス

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マジうざい。ジークのオッサン、マジうざい。なんでせっかくニートの楽園を見つけたって喜びにうちふるえているときに、そういうめんどくさそうなことを持ち込むかなあ。

「お?なんだその迷惑そうな眼は?これはおまえが頼んだことだろ?おかしかないか?」
「おかしかないかも医科歯科内科もないよ。ごくろうさまって言いたかっただけ」
「医科歯科ってなに?い、いや、そういう眼じゃなかったぜ、いまの」
「眼つきの悪いのは生まれつきです。いいから、その人はどこに?」
「町はずれの小さな家に引きこもってるらしい」

勇者が引きこもり?おかしいだろ?何があった…。

「ねえ、誰を探してたの?」

ラフレシアがフォークの先でお肉を振り回しながら聞いてきた。

「勇者オルフェス。きっとこの人がなにか知っているか、あるいは鍵を握っていると思う」
「じゃあ食事が終わったら早速行きましょう」

食事優先なんですね。その場合、早速とは言わないんですけどね。

「あ、その前に服買わないと」
「この町ではそれはやめた方がいいと思うよ」
「なんでよ?いまになってお金が惜しくなった?けち臭い男ねー」
「けち臭いわねー」
「ケチね」
「しみったれともいう」

そこの三匹、うるさい。

「あのねラフレシアちゃん。この町でなんか買っても、明日にはすぐにそれは店に戻っちゃうんだよ?きみはまたその服を買いに行かないとならない。いや、服に限らず、靴や下着まで」
「なんですって?じゃあ、明日違う服買ってもいいってわけ?毎日服買って靴買ってもいいって言うの?なんてパラダイスなのかしら!」

どうやらラフレシアもぼくと同じ結論に達したみたいだ。でもきみは甘い。ニートはそうでも普通の人には辛い現実がある。

「いや、そんなの二、三年で飽きると思うよ。なんせこの町の中でしか生活圏がないんだから、服なんかそんだけの期間でぜんぶ着尽くしちゃうよ。流行だってないに等しいんだ。誰かがいいデザインの服作ったって、次の日にはまたもとの服地に戻っちゃうからね」
「ちょっとそれ嫌だわ。なんか牢屋に入れられてるみたいじゃないの!もしかして一生ここから出られないのかしら」

ようやくわかったみたいだね。この凍結された空間こそじつは巨大な牢獄だってこと。しかも一生出られない。いやいや、それも違う。死なないんだから一生じゃない。永遠、と言うべきなのだ。

「一生じゃなくて永遠に、だね」
「と、とにかくその人に会いましょう!」

ラフレシアは残っていたお肉を口いっぱいに頬張ると、ごっくんと飲み込んで立ち上がった。




「どうやらここみたいだな…」

オッサンがぼくたちを引き連れてきたのは、ほんとうに町はずれの小さな一軒家だった。

「とりあえず尋ねてみようっか」

ぼくが家のドアをノックすると、女の声がした。

「どなた、ですか?」

ドアを少し開けただけで、その声のひとはそう言った。

「ぼくらは怪しいものではありません」

充分怪しいけどね。人間のぼくらはいいけど、正体が精霊に死霊使い、おまけにベビードラゴンなんてどう見ても怪しすぎる。

「どんな御用でしょうか?」
「オルフェスさんという勇者がここにいらっしゃると聞いて。ちょっとお話をうかがいたいと思いまして」
「確かにオルフェスはここにおります。しかし彼が話をするとは思えません。もう何年も人に会わないからです」
「失礼ですがあなたはオルフェスさんの…?」
「妻、です…」

勇者結婚してたー!い、いやそこは別に驚くとこじゃない。

「じつはぼくらは旅の途中で、それもじつに大事な用があり、そして運悪くこの町に囚われてしまいました。どうにか出られないものかと思案していたところ、偶然勇者さまのお名前を知り、もしよければお知恵をお借りできないかと思いまして…」
「それはお気の毒としか…しかし、果たしてそんな知恵をあの人が…」
「ヒントだけでもと、どうかお取次ぎくださいませんか?お願いします」

ぼくらが全員頭を下げると、深いため息ののち、ドアが開かれた。

「あの人がみなさまの前に出る保証はありませんが、取次ぎだけはいたします。ここではなんですから、どうかお入りになってください」

長く美しい赤毛の女のひとだった。服装は地味だがすごく清楚な感じがした。

「いまお茶をお入れします」
「あ、いえ、おかまいなく。お話を聞くだけなので」
「あの人、お茶に目がないんです。もしかしたら出て来てくれるかも、と…」

いい人やん。めっちゃいい人じゃないですか。女の人はそう言って台所に行ってしまった。見回すとこの部屋は、なんだか勇者というより学者…それも博物学者のような、珍しい文物が所狭しと置いてあり、何枚かの地図も額に入れられていた。

「へえ、これがこの世界の地図か…」
「こいつはすげえな。手描き、だぜ、これ」

ぼくとオッサンが目にとめたのは、額に入れられた中で一番小さいものだったが、小さい字でいろいろ書き込まれている言葉がとくに目を引いた。

「こびとの国に獣人の村だって。あれ!エルフの里って言うのもあるよ」
「なんだって!そいつはすげえ。もうなん百年も伝説だけ残ってるそいつは、実在するのかも怪しいんだぞ」
「これって勇者がみんな見つけて…」
「ああ、これに描き込んだんだろうな。もし本当なら凄い価値だ」

きっとすごい人なんだ、オルフェスっていう勇者は。世界中を冒険してまわって、悪魔やドラゴン、そして魔王を倒しまくったんだろうな。

「そいつに触るなっ!」

鋭い声がした。オッサンが伸ばそうとした手を止めた。振り向くと、若くハンサムな男が立っていた。チッ、またイケメンか。イケメンはニートの敵!

「失礼しました。ぼくはデリア。リスタリアの一応騎士です。このオッサンはジーク、そっちの女の子は同じく騎士でラフレシア。他はぼくの仲間のこいつらです」

ぞんざいな紹介にミローネが睨んでいる。

「いったい何の用だね!わたしは何も話すことはない。わかったらさっさと出て行ってくれ!」
「この町の秘密が知りたいんですよ。どうやらあなたはそれを知っていそうだ。よかったら教えてくれませんか?」
「なぜわたしがそんなことを知っていると思うのだ?お門違いだ。さあ、出て行ってくれ!」
「でしたら、力ずく、というのはどうです?ぼくらも切羽詰まっているんです。何が何でもこの町から出なきゃならない事情がありましてね」
「勝手なことをぬかすな!きみたちの事情なんて知らない。いいからそこの見えないデカブツごと出てってくれ!」

ほほう、ステルスゴーレムくんを見破りましたか。さすが勇者。その資格保有者だけのことはある、といったとこですね。

「な、なんだ、見えないデカブツって?」
「オッサンはいいの。黙ってて」

てことは精霊と死霊使いもバレてるってことかな?こりゃ無理やり話を聞こうとしたけど、こちが叩き出される線の方が濃厚だ。勇者って人間界最大の力を持っているんだし、神をも凌ぐ魔法や能力があるんだよね。じゃあこちも最大の力を出さざるを得ませんね!

ぼくの心が伝わるミローネとネクロはゴクンとつばを飲み込んだ。ふふ、ぼくの覚悟にビビっているんだな。

さあ、これがぼくの、ニートの最大奥義だ!


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