無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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囚われの町

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あんたたちも囚われたのか、と宿屋の主人はぼくたちに言った。どういう意味なんだ?

「どういうことですか?囚われったって何ですか?」
「どうやらあんたたちはこの町に来たばかりのようだ。やれやれ、外に知らせてやりたいのだが、あいにく誰も町の外に出られんでな…」

はあ?意味わかんない!誰も町の外に出られないなんて…。

「それどういうことですか?町から出られないんですか?そんな決まりがあるんですか?」

きっと法律か何かがあるんだ。それか街を牛耳る悪い町長かなんかがいて、悪者を雇って有り金とか身代金をとっているとか…。でも門は開いていたな?誰でも出入り自由に見えたけど。

「きみらもすぐにわかるだろう。この町からは誰も出られないってことをな…。泊まるなら好きなだけ泊まっていくといい。なあに宿代も食事代も要らない」
「そ、それはうれしいんですけど、でも食事って…いったいみんなどうやって生活してるんです?たくさんの人たちがいるようですけれど、物資とか食料とか…」

消費すればなくなる。あたりまえだ。とくに食料や燃料はどこからくる?こんな一方通行出口なしで消費経済は成り立つはずはない。

「朝になるとな…」
「はあ?」
「みな元通り、なんだ」
「どういうことですか?」
「つまり、使ったもの、食べたもの、燃やしてなくなったものまで、朝が来ればまた元に戻っているんだ」
「まさか!」

そんなのありえない!なくなったものが朝にはまた現れるなんて!

「信じられないんだね。無理もない。みなそうだった。だがそれがわかったとき、みなは失望し、絶望した。これは呪いなんだ。この町の呪いなのだ」
「いやそれは違います。みんな生きてるじゃないですか!生きてさえいれば希望はあります。何か方法がきっとあるはずです!」
「生きてさえいれば、か…。ずいぶん昔にこの町に囚われたオルフェスという勇者が言っていたな。そういや彼はここんとこずっと見かけないが…。まあ何にしろ、生きていれば、というのはここでは禁句だ。まあ、罰せられはしないが、いい顔はされないな」

生きて、というのが禁句?なんだそれ?それが一番重要なことじゃないか。そんな人を馬鹿にしたようなことがあっていいわけがない!

「おや?怒ったかい。まあいいさ…いずれわかる。いずれ…ね」

それきり宿屋の主人は黙ってしまった。だが、どうやら食事は出してもらえるようだ。主人は奥の空いている大きなテーブルを指さした。あそこに座れ、ということらしい。

「ちょっと、さっきからこのおじさん何言ってんの?まったくわかんないわ」
「ああ、そうだね…。ねえ、ちょっとぼくは確かめたいことがある。料理が出てくるあいだ、出かけてくる」
「なにかわかんないけどあたしも行くわ」

ラフレシアは何か感じたみたいだ。だがもしなにか危険なことがあるなら、それは最低限避けなければならない。

「きみはみんなとここに。いま頼れるのはきみしかいない。このおかしな町にはきっとなにかがある。それを見つけ出さない限りなんにも解決はできないんだ」
「だからあたしも一緒に…」
「ねえ聞いて。ぼくがいないあいだ、あの三人を止められるのはきみだけだ。あいつらが出口を求めて暴走して町の中で暴れられたりしたらみんなが迷惑する。お願いだよラフレシア」

ラフレシアはしばらく考えたようだ。

「わかったわデリア。あんたの言う通りにする。あんたに託すわ。あたしは弱い人間なんだし」

ラフレシアはぼくの真意をわかってしまったようだ。あいつらは並のものじゃない。たとえ危険が迫っても難なく跳ね返すだろう。ラフレシアがあいつらといたら、ぼくは安心して動き回れる。

「ごめん、ラフレシア。ぼくは…」
「いいの、デリア。あんたの気持ちは痛いほどわかる。あたしを…危険にさらしたくない…そうでしょ?まったく…口がうまいナイトさんね。でも嬉しいよ…」

そうじゃないよ!はっきり言って足手まといだから、っていう意味なんだけどな!どうして女の子ってそう自分に都合のいいようにしか聞こえないんだろうな!

宿を出るとオッサンもついてきた。どうやらぼくと一緒に確かめるつもりらしい。

「最初あの門を入ったときいやーな気分になったんだが、どうやらそいつが鍵になりそうだな」
「そうですね。とにかく門へ行ってみましょう。見たとこ出られない気はしないんですが…」
「見た目は、な…」

門はあいかわらず開きっぱなしだった。それより、もうずっと門が閉められたりした形跡がないことに驚かされた。門は開いているのではなかった。支柱や門扉が朽ちて、なにも動かせないのだ。

「これは…」
「ああ。もはや門とは呼べんな。こうなるまで何で放っておいたかなあ」
「門が…必要なかったんですよ」
「なんだそれ」
「それはこういうことです…」

ぼくは歩いて門を出ようとした。門を出ると、ぼくは町に入っていた。オッサンが驚いた顔をしている。

「お、おい!おまえ、いま何した?出ようとしたら入って来たぞ!」

やっぱり。

「オッサン、どうやらこれはただごとじゃないかも知れませんよ」
「ジークだ、オッサンじゃねえ。ただごとでないのはわかった。なにか魔法の力なんだろ?それとも呪いか?そいつがそこから出れなくしているんだろ?」

魔法…呪い…まあその類だけれど、これはもっと何か根が深いような気がする。入って来た時に感じたあの嫌な気持ち…あれに何かヒントがあるのかもしれない。

「もっと情報が必要です。オッサン、じゃなかったジークさん、協力してくれますか?」
「あたりめーだろ。そのために俺が一緒に来てんだ」

いい人だがいちいちセリフが暑苦しい。

「じゃあジークさんは人を探してください」
「人?誰を探しゃーいいんだ?」
「オルフェス、という人です。勇者、という職業のひとです」
「わかったが、あのよ、勇者ってのは職業じゃねえぞ。ありゃあ資格だ。まあ、万に一つも成れねえ特別な称号だ。木こりとか鍛冶屋と一緒にすんな」

その資格で仕事するんだろ?弁護士や医者や看護師と一緒だ。それって職業じゃないか。それが生業ならしっかりとした経済活動の能動的な生産者じゃないか。魔物や魔王倒そうが、それは揺るぎない社会基盤の中で行われる戦略経済の下でのシビリゼーション文明セレクション淘汰にすぎない。

とにかくその人がきっと鍵を持っている。この閉ざされた世界の…。



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