無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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とにかくベビードラゴンは眠っている。いまはいいが、こいつが目を覚ましたらどうなるのか、ぼくにはわからない。まあ、いちおう危険がなくなったのは、ミローネとネクロが戻って来たのでわかったが、オッサンまで戻って来なくてもよかったのにとぼくは思った。

「でもこいつどうしよう?町に連れてなんていけないだろ。見つかりゃひと騒ぎどころかパニックになっちゃうんじゃないか?」
「そうねえ…でも隠しようがないわね。ねえ、あたしとこの子だけ森に隠れてようか?」

なんかラフレシアの発言がお母さんっぽくなった?

「そんなことさせるわけにはいかないよ。まだこいつが安全だってわかってないんだし、それにきみを森の中に置いてもいけない」
「デリアったら…」

いや、変な誤解してる。風邪でもひかれて旅が遅れたら国が滅んじゃうんだ。そういう意味なんだけど。

「ガウウウ」

あれ?起きたようだ。困ったな。もうビスケスないし、今度こそぼくら食われちゃうかもです。

「パパ…ママ…」
「あ?ええーと…」
「何を困っている…」

ちょっとー、お話ししてるー!会話してるよこいつ!

「おチビちゃん、あんたのこと話してたの。って言うか、会話できるの?」
「ふたりの思念波をずっと感じていた。そこで言葉を覚えた」

また思念波か。こりゃあまりエッチなこととか考えちゃヤバいな…。

「エッチ?ヤバい?なんだそれ」
「い、いやいやいやいや、気にしないで!」
「それよりわたしのこの姿がよろしくないと、ふたりはそう言っている」
「ん、まあ他の人間が驚いちゃうかなって…」
「皆殺しにすればいいだろう」
「どこでそんな言葉覚えたんですか!いけません、そんなことしちゃ」
「そうか…ママが怒るとそういう言葉が見えるんだけど」
「なに言ってんの!そんなこと思ってません!」

ラフレシア…いかにもきみだね…。

「とにかく殺しちゃダメ。人間も魔獣も」
「不可能に近いな、この世界で」

竜とはいえ赤ちゃんにそんなこと言われるのはショックですよ。

「とにかくダメなの!」
「ふん、何か神の匂いがするな、お前から…。まあいい。従う。わたしは親の言いつけを守るいい子」

こいつ、ぼくから神の存在を嗅ぎとった。さすが生物界の頂点たるあらゆる力を持った至高生物だけある。赤ちゃんだろうが侮れないんだ。

「じゃあひとりで森にでも隠れていてくれないか?」
「それは断る」
「ですよね」
「だが心配するな。わたしは魔法で何とかできる」

こいつ魔法まで使えるのか?そんなの反則やないですか!魔法使いは国家で管理されてんやぞ!こんな野放しで魔法の使えるやついたらまずいんじゃないか!

「魔法を使える竜種は少ない。案ずるな」
「ああそう」
「目を閉じていろ」
「は?」
「見るなというのだ」

ベビードラゴンはなにか魔法を使おうとしている。それをぼくらには見られたくないのだ。

「見ると都合悪いのか?」
「ああ…悪い。何しろ肉体形状を再構築させるのだから、それは一時、大変おぞましい姿になると認識する。パパやママに嫌な感情を抱かれたくない」

うわあ、それはなんかすごいんじゃないのかな?肉体形成過程でクリーチャー化するってことかな?

「わかった。終わるまで目をつぶってる」
「うん。見ちゃダメだよ」

そう言った言葉はなんかかわいらしかった。

「終った」
「早いな」

ぼくは恐る恐る目を開けた。そこには小さな女の子が立っていた。ネクロより小さい。

「何か質量が…」
「おまえの偏狭な物理法則を持ちだすな。ウザい」
「はいすいません」

ここは逆らわない方がいいに決まってる。

「ねえ、この子名前は?」

また余計なことをラフレシアは言った。最強のドラゴンさんに名前なんて失礼じゃないですか!

「そうだ。名をつけてくれ、じゃない、つけてください」

そう言ってベビードラゴンは笑った。ううむ、なんかかわいい。

「つけろって急に言われても…字画とか姓名判断とか…」
「何わけわかんないこと言ってんのよ。チャチャってつけちゃいなさい」

んな勝手な…。でも仕方ない…えーと。

「じゃあリヴァ」
「リヴァイアサンから?安易じゃね?」
「じゃあきみ考えてよ!」
「うーん」
「リヴァ…良い名。あたし気に入ったよ」

ベビードラゴンの女の子は嬉しそうに笑った。まあいいか。

「じゃあ町に。そして食事だ!」

ミローネが叫んだ。まあそういうことね。けどそれはみんな思いは一緒らしい。

「なに食べるかなー」
「その前にミローネ、魔獣おいてきなさい!」
「えー」
「えーじゃない。そんなもん連れて町に入れないでしょ!」
「だってかわいそうよ」
「じゃああたしが」

ベビードラゴンの女の子はその手を光らせた。魔法だ。みるみる魔獣は小さくなった。

にゃーん

「これって、ネコ?」
「へえ、ネコっていうの?パパの頭んなかにいたやつよ?」
「なんでも人の頭んなかから引っ張り出さないで!」
「はーい」
「じゃあ、そういうことでご飯ー!」

ネクロが嬉しそうに言った。死霊もナシですよ!げ、という顔をネクロがした。

ヒヒン

『馬』…おまえもか。だけどお前、藁とかニンジンとかしか食えないだろう!



町の門は大きく開いていた。なんか不用心だな。盗賊でも攻めてきたらどうすんだ。恐る恐る門をくぐる。門には不思議なものを感じた。なにか透明な膜のようだとぼくは思った。

「デリア…人はたくさんいる…けど、ちょっと変ね…」

ラフレシアが敏感に何か感じたらしい。ミローネもネクロも黙っていたが、何かおかしいと思っているらしかった。

「これって何だろう…」

人々の顔に精気がない。なにか、ただ生きてるって感じだ。ま、まあいい。そんなのは後で調べりゃいい。いまはお食事だ!

「見て、あそこに綺麗な宿屋があるよ!」

ラフレシアが目ざとく見つけた。なるほど綺麗で立派な宿屋だ。食堂も併設されているみたいだね。

『馬』をセルフで厩につないだ。誰も出てこなかったので勝手にやった。そういうサービスは悪いんだね。大丈夫かな?ぼくらはぞろぞろと宿屋に入っていった。宿屋のフロントは酒場のようなラウンジになっていて、何人か客がいた。みなうつむいて、黙りこくっている。なんか暗い雰囲気。

「あのーすいません。食事と宿を…」
「あんたたちも、囚われたのかい…」

そう言って奥から宿の主人らしいのが出てきた。え?囚われたって?何?



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