無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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大魔導師ガブリエル

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いくらぼくに魔法が効かないからって、核爆発となると話は違ってくる。王都そのものが消失するのだ。何万という人たちが死んでしまう。そんなのいいわけない。

暗黒炎はますますその勢いを増している。ときどき見えるのは電離スペクトル光だろう。なんとおぞましいものをこの世に湧現させてしまったのか…あの女盗賊は理解しているのであろうか。

王宮で平然とあの女は王都を見降ろしている。そばにいるのは王と教皇だろう。人々はこれから地獄の業火で焼かれるのを、なにも知らずただ待っているだけだ。

「どうするのよデミル、ありゃあヤバいって!」

ミローネがぼくにすがりつきながら言った。ネクロは死なないから余裕だ。ワクワクしてやがる。きっと死霊がいっぱい増えるので喜んでいるのだろう。

「ぼくの力じゃどうにもならないよ。方法はあるけど、それを稼働させる力がないんだ」

そう。方法はある。あの核分裂を、今まさに超臨界に達しようとしているアレを止める方法が。ああ、こんなことなら今朝、あの『一日一回』を使ってそんなパワーを持っとけばよかった。だがまあ、魔法使いでもないぼくに、そんな力をとどめておくことはできないけどね。


〈おい小僧!〉

「あ?」

誰かがなんか言ってる。


〈おい、お前だ!そこの小僧!〉

「誰?」

〈やっと話が通じたか。まったくとろいやつじゃ〉

なんかどこかで悪口言われてる。

〈おい、聞こえるか?こいつは思念波だ〉
「思念波?」
〈人には思念というものがあり、それで考えたり記憶したりする。それは個人個人波長の違うもので、うまく同期シンクロすれば離れていても会話が可能なのだ〉
「いや、知らない人とそういうのはお断りしてます」
〈いやいや、そうじゃないだろ!おまえ今ピンチなんじゃろ!〉
「だから早く逃げようと」
〈逃げられるわけないだろ!やつの魔法はもうすぐ発動する。そうなってからでは遅いんじゃ!〉

あー誰だろう?こんなときにややこしい。思念波とかいうめんどくさいものを人の脳内に送り付けてきて、なんだというんだ。

「あんた誰よ?ぼくに何の用?」
〈わしは魔導師ガブリエルじゃ〉

なにそれ?魔導師ってなに?なんか国家資格っぽいけど。

「その魔導師が何の用ですか?」
〈お前にはその女魔法使いの魔法は止められん〉
「そんなことわかってますよ。だから逃げるんです!」

ぼくはもう門のほうに向きを変えていた。もう帰るんだ。こんなとこおさらばだ。

〈ちょっと待てよ!何しに来たんだよ〉
「そんなことをあなたに説明する義務はありません」
〈い、言い方が悪かった。あやまる。お前が来た理由はあの女盗賊、いや女魔法使いを倒しに来たんじゃろ?〉
「たった今あきらめました」
〈いやいやいや、そうじゃなくて、ちゃんと最後までやり遂げようよ。そうじゃないと物語成立しないでしょ?〉
「最後はぼくの死で終わる、そういう物語は成立してほしくないんです」
〈めんどくさいやつだな〉

どこの誰だかわからないあんたに言われたくない!

「あんたこそ何なんだ!どこからかおかしな電波飛ばしてきてぼくをどうしたいんだ?」
〈どうもせん。ただ、お前が死ぬのを黙って見てられん、と、そう言っておる〉
「じゃああんたが何とかできるの?」
〈まあね〉
「じゅあさっさとやってよ」
〈ムリ〉
「…」

相手にしたぼくがバカだった。まさかこんな場面でからかわれるとは思わなかった。ぼくはまた門の方に歩きだした。死霊たちが楽しそうに踊っている。まさに盆踊りだ。

〈コラコラコラ!どこ行く!戻れ!〉
「何わけわかんないこと言ってんですか!バカにするのもいい加減にしてください!ぼくは急いでどこか安全な死に場所を探さなきゃならないんですから!」
〈安全な死に場所ってなんだ?わけわからんこと言ってないでちょっと聞け!時間がもうあまりない〉

しつこい。きっとかまってちゃんなんだ。なんでこんなのと関わりあいになっちゃったんだ?

「何か言いたいならお早く。もうそろそろ臨界点みたいですから」
〈お前はあれが何だか知っておるのじゃな〉
「まあ一応知識はあります」
〈ではここへ来て手伝え〉
「ここってどこですか?」
〈地下牢じゃ〉

地下牢?そんなところに入っているのは犯罪者だろう。強盗殺人犯とか猟奇連続殺人者サイコマスターとか。とにかくろくなもんじゃないな。

「何やってそんなとこ入ってるのか知りませんが、そんなところに行くのは嫌です」
〈いや普通そういう場合、きっと解決方法を知っている人がいるんだ!とか言ってすぐに来るもんだけど〉
「知っているんですか?解決方法。あんたさっき無理って言ったじゃないですか」
〈いやだから、わしひとりじゃムリって言ったの。お前が協力してくれたら必ず止められるのだ〉
「ぼくが?サイコマスターのあんたを?」
〈サイコマスターって何?い、いや今は急ぐ。わしを信じてくれ〉

信じろと言われてもその根拠たるものがない。犯罪者に協力してバカを見るのはごめんだ。

「信じるに足る担保とかないんですか?」
〈めんどくさいやつだな。誰かこの国の者に聞くがよかろう。大魔導師ガブリエルが何者なのかを〉

めんどくさいのはおまえだっつーの。仕方がない。これ以上しつこくぼくの脳内をかき回されてはたまらない。気持ちよくあの世に行かれないからね。

「ミローネ、ちょっとあの王子に大魔導師ガブリエルって何者か聞いて来てくんない?」
「いいわ。すぐに行ってくるね」

ミローネは瞬時に消えた。おお素直じゃん。よしよしいい子だ。あとでなんかおごってやろう。

「聞いてきたわ」
「早いな」
「ガブリエルって魔法使いだって。王の怒りを買って地下牢に閉じ込められてるんだと。まあ、洗脳された王さまに、だろうって。彼を助けて欲しいってさ」

めんどくさいことになっちゃったな。聞かなきゃよかった。


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