無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

文字の大きさ
上 下
24 / 88

ニート、進軍する

しおりを挟む
「…………」

 車内は、無言に包まれていた。
 
 シーは後ろの席で、寝ているかのように目を閉じている。

 支配者クラスは車なんて使わなくても移動に困らない。むしろ、シュウのように、狭い車内にいる方が煩わしいと感じる方が普通だ。

 ただ、シーは車が好きなのか、これまでも何度もシーは、俺に運転を命じて、移動に使っている。

 今日もコウの住居からの帰りも車を選んだ。

 (それにしても、何故シー様は、コウ様、シュウ様と今日お会いになったのだろうか……)

 シーは、中央政治局常務委員会ティータイムの後、シュウと共にコウに会った。

 それはよく考えると、大きなリスクだ。
 
 もし、コウとシュウが力を合わせれば、シーは負けていたのではないか。
 
 コウもシュウも、シーが総書記になったときに、影響力を残したいと考えている。
 
 だから、コウとシュウが、共謀してシーを襲い、思力で支配しようとした可能性は大いにあったはずだ。

 俺は再度ミラー越しにシーの表情を見た。シーは目を閉じ、休んでいるように見えた。

「何故、自分を重要な場に連れ出すのだとでも聞きたそうだな」
 
 突然シーは俺にそう話しかけてきた。まだ目は閉じたままであったが。

「あ、い、いえ……。それもあるのですが、何故今日コウ様にお会いになったのでしょうか。危険ではなかったのですか?」

 俺は、今ある疑問を率直に聞いた。
 
 シーからこのような形で話しかけてることなんて殆どない。シーが何を考えているのか聞ける滅多にないチャンスであった。

「そうだな。コウ様とシュウ様も虎視眈々と私の隙を狙っていたよ」

「え!? ということは、先程のコウ様との面会、思闘になってもおかしくなかったということですか?」

「ああ……。ただ、コウ様、いや、中央政治局常務委員フラワーナインになるような者は、リスクは絶対に侵さない。今日、私が、コウ様、シュウ様と闘えば十中八九負けていただろう。ただ、十中八九ではコウ様は動かない。絶対に勝てるという確証がなけれな」
 
「……そうなのですか」
 
「それに、コウ様もシュウ様も私の力を測りかねている。七光りで力の無い私が、あの絶大な思力を誇るボアに勝ったのだからな」
 
「そ、そんなことは……」
 
「いや、私は、私の力を知っている。それが私の強みだからな。それに、ルーも役に立っていたのだぞ」
 
「え、私が……!?、ですか?」
 
「ああ、何故私が、ボアに勝てたのか、コウ様もフー様も調べはしてるだろう。ただ、あれは密室で起こった。だから、私達以外本当の事は分からない。ただ、そんな中、私とボア以外、唯一あの部屋にいた者がいて、その者を私が側近にして、しかも重要な会議に連れ回しているのだ。ルー、貴様は自分が想像出来ないほど、周りからは異様な存在として見られているぞ」
 
「え、え!? そんな風に?」
 
「ただの男が、私とボアの対決の場にいた。そして、他の場面でも支配者クラスのプレッシャーに平然としている。何かあの男には裏があるのでは? それが私が、ボアに勝った理由なのでは?と皆、疑心暗鬼なのだ。中央政治局常務委員フラワーナインは、計算できないリスクを最も嫌う。そして、他から見たらルーはその計算できないリスクなのだよ」
 
「い、いや、平然としていた訳では……」

「ㇵㇵッ、そうだな。今日は醜態だったな。私としてはもっとしっかりできると期待していたぞ。コウ様の色気に当てられて、前後不覚だったな」

「い、いや、その。それは本当に至らず申し訳ありませんでした……。」

「ま、及第点だな。確かに、コウ様の色気に耐えられる男はそうはいない」

「しっかり修練に励みます……」

「そうだな。名実共にルーは私の切り札だ。半分はブラフだが。シュウ様は、私が、ルーをコウ様の所に連れて行くと言ったとき嬉しそうにしていただろ?」

「そ、そうでしたでしょうか。むしろ、反対していたような」

「私が、連れて行かなければ理由を付けてルーをコウ様の前に連れていっただろうよ。コウ様もシュウ様も今日の一番の目的はルー、貴様が私の手札なのかの確認だったのだよ」

「え、ええ!? ボア様の事や、新中央政治局常務委員フラワーセブンのことなど、重要なお話がたくさんあったではないですか」

「ボアの件は、私が、ボアに勝った時点で結論は決まってたさ。難くせつけてるのは、フー様に主導権を握られないため。新中央政治局常務委員フラワーセブンも、もし本気で反対するなら、私が、フー様と面談した直後にはシュウ様が飛んできたさ」

「そ、そういうものなのですか……?」

「ああ、オウキが暴れん坊で手に負えないなんてコウ様、シュウ様が知らないはずないだろう。ただ、自分たちからフラワーセブンにする案は提案しにくい。私に提案させたかったのだ」

「では、すべて、コウ様の思い通りにシー様は動いたということですか……」

「もちろん、私にもメリットはあるからな。そんなことはコウ様もシュウ様も分かっている。それよりも、ルーだったのだ。しかも、コウ様の思力に耐えてみせた。ますます、ルーに対する疑念が深まっただろうよ。だから、コウ様は、今日はリスクを侵さなかった」

「……そうだったのですか。自分がコウ様の思力に耐えられなかったらと思うとゾッとします。あの時、助けていただきありがとうございました」

 俺の礼にシーは特に応えなかったが、微かな笑みを浮かべて、これで会話は終わりだとでも言うように、また目を閉じた。

 (これが、この国の上層にいる支配者クラスのの駆け引きか……。シー様も相当なプレッシャーだったのだろうな。)

 そんなプレッシャーに解放されたからなのか、いつものシーと違い口数が多かった。
 
 そして、普段、何も考えていないようなシーはやはり見せかけで、支配者クラスのトップにいるに相応しい神算鬼謀を謀っているということがわかった。

 俺は、再度、ミラー越しにシーを見た。

 目を閉じ休むシーは、年齢に見合わず、まだ成熟していない少女のようであった。

 ただ、その少女の中身には、闇よりも濃い、支配欲を潜んでいる。

 俺は、そのことを改めて、心に刻んだ。


 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...