無気力最低ニートが、スキル『一日一回何でも願いがかなう』を取得しても、世界を思いのままにするとか、考えないからニートなんです!

さかなで/夏之ペンギン

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ゴーストとお金は腐らない

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さて、もうぼくは何もしない。つまり、もうこれ以上何かをする、という必要性を感じないからだ。だってニートだもん。めんどくさいしね。盗賊?まあ何とかなるさ。

「というわけで、これは事態を静観する、という作戦なのです」
「んなこと言って、あんたもうお手上げなんじゃないの?それに静観つったってあんた寝てるだけだし」

ラフレシアがぼくにずけずけとそう言った。まったく遠慮ってものを知らない子だ。

「あのね、いま何かしたって盗賊やライネントルフ教団の手のひらの上だよ。たとえ守りを固めようとしても中から崩される。それにもしかしたらダルメシア王国の軍もグルかもしれないし」
「盗賊はともかく、あのクソったれ教団とダルメシア軍がグル?なんでそんなことあんたにわかるのよ?」

ラフレシアは不思議そう、というかなんかイライラしてそう言っている。理由はもちろん、ぼくが要を得ないからだ。だってこれはあくまでぼくの想像なんだから…。

「わかるというか、ただそうじゃないかなーと思っただけ」
「そうじゃないかなー、って、なによ?」

んもう、しつこいなー。

「だからね、盗賊のところにあいさつに行ったろ?」
「あれ、あいさつって言うの?」
「まあね。そこにいたやつの顔を見た?」
「さあ、女盗賊の他に男が三人いたけど…」

女豹ミランダの横にふたり男が立っていた。もうひとりはゴーレムくんに押さえられていた小者だ。

「ミランダがガルシムって呼んでいたやつさ、あいつこの前、この町のライネントルフ教会にいた黒衣の修道僧だぜ」
「あ、あんたと一緒のあのときの?」


そういえば古めかしい教会の入り口に黒い僧衣をまとった男たちが何人かいた。その中のひとりだって言うの?

「あのとき黒衣の僧衣の男は何人かいた。だけど修道服スカプラリオを着たのはひとりだけだったんで覚えてたんだ」
「へ、へえっ、あんたすごいわね。やるじゃん」

あのね、ニートはバカではないんです。というよりニートはバカではなれないんです!

「それに女盗賊のそばにもう一人いた男は、あいつは騎士だ。剣の太刀筋からね」
「そういえばちゃんとした型で剣を振るったわね」
「つまりダルメシア王国の騎士、それも元騎士じゃなく現役のさ」
「なんでわかんのよ、そんなこと」
「身なりは確かに盗賊に偽装していたが、持っていた剣は騎士の剣だぜ?まえにきみと武器屋に行ったときいろいろ見たんだよ。それに剣についてた紋章が、あいつの首にかかってたペンダントと同じってことは、そいつはそういう身分ってことさ」
「あきれた…」

あの短時間にそんなことまで見ている。あたしはただドキドキして剣を構えていただけなのに…。こいつはあいさつをしに行くと言った。あたしはなんてバカだろうと思った。でもこいつはちゃんと目的があったんだ。情報を直接得るため。やつらは意表を突かれたからまるでそれに関して無防備だった。計算していたんだ。じゃああのときあたしたちが無事に戻れたのも…奇跡なんかじゃなくて…?

「それともうひとり」
「まだいるの?」
「ドアのところで金縛りにあったやつ」

ゴーレムくんに押さえてもらってたって言えないので、精霊術で金縛りにしたと言ってあるんだ。

「ああ、あの雑魚ね?」
「まあ、雑魚は雑魚だけど、あいつはこの町の商館の回し者さ」
「なんですって!」
「指にペンだこができていた。盗賊がおかしいだろ?事務仕事なんて盗賊はしないからね。てか字を書けんのかな?」

つまりこの町の盗賊の協力者だ。それも大きな商館だろう。ペンだこの大きさは、つまり仕事量の多さだ。仕事量が多いってことはつまり、大きな商館ってことだ。

「つまりこの町を狙っているのは盗賊だけじゃないってこと?」
「そういうこと。だからここでむやみに動いたってムダなの。ああ、話してたらおなかすいた。ねえ、ミートパイでも食べないか?きみのおごりで」
「な、なんであたしがおごらなきゃなんないんのよ!」
「情報料さ。まさかただと思ってたの?」
「お金とるの?あたしから」
「情報の対価として正当な要求をきみにしてるんだけど」
「あんたとあたしの中で?」
「え?」
「え?」

そう言った方も言われた方も顔を赤らめた。そういうことはあくまでうぶなふたりなのだ。

「ただいまー。あれ?何やってんのよ二人とも。顔真っ赤にしちゃって?ははーん、さては…」

ちがーう!!と、二人同時に叫んだ。

「まだ何も言ってないわよ」
「ご、誤解はしないでね、ミローネちゃん。そ、それで首尾は?」

ぼくはしどろもどろになりつつも、ミローネに結果を聞いた。それがこの作戦の要なのだから。

「うまくいったわよ。お金の袋はすべてあの蛇口入りの袋とすり替えてきた。まったく大変な思いしたわ。あんな重量あるもの何往復もさせやがって」
「誰にも見られてないね?」
「もちろんよ。最強精霊この氷の精霊フローズン・ミローネさまに失敗の文字はないのよ」

おまえ自体が失敗だっつーの!

「まあ、ありがとうな。一緒にミートパイ食いに行くか?」

こいつにも感謝しなきゃな。

「もちろんよ!精霊の供物として当然要求するわ」

いました感謝返して。

「そういえばあのオッサンは?」
「ジークさんは出かけてる。ちょっと頼みごとがあってね」
「ふうん」

いまごろジークさんは町中を駆けずり回っているころだ。いやあ、なんだか悪いなあ。




「フィクショーン!」
「おや?風邪ですか?ジークさま」
「いや、そうじゃねえ。それより首尾はどうだ、ゴッピス」
「まずまずです。町の市に来ている蛇口教信者全員に声をかけてあります。教祖さまのひと声があればすぐにでも」
「助かるぜ」
「何ごとも教祖さまのお導きです」

シシリア村のゴッピスはそう言って胸の前で手を組んだ。この町で最初にあった信者だ。意外に有能で顔も広く、なかなか使える男だとジークが言っていた。ぼくは一般人を巻き込むことは避けたかったのだが、ジークは――


この国の生活を自ら決めるのは、これからはおまえたちだ。いやきっとそうなる。そのための宗教であり、そのための蛇口教なのだ。蛇口から出る水は、あれはおまえたちの祈りだ。それは生きるということだ。そして幸せになるためにそれがあるのだ。自ら生を決めるように、おまえたちも生き方を決めろ。搾取から畑を守り、権力から命を守れ。どうするかは、それはおまえたち次第だ


――そう信者たちに言って回った。この時代の、民衆の本質は奴隷だ。しかし自主を勧め、自助をもたらし、自立を促す…これはもう革命だ。大いなる社会変革…となればいいんだけどね。ぼくは関係ないけど。



ぼくたちがミートパイを食べ始めるころ、ジークは戻ってきた。

「オッサン、相変わらず鼻が利くね」
「誰がオッサンだ。まあいい。それより首尾だが、万事手はず通りだ。まったくお前はとんでもねえことを考えるなあ…。あ、おねえちゃん、俺にもミートパイ、ああ、ダブルでな」

なんだそのダブルって?給仕の女の子も変な顔してっぞ。

「じゃあ今日から三日間、みんな慎重にね。盗賊や協力者はこの町に入り込んでいる。みんなこの宿からもう出ないように」
「出ないでどうやって情報集めんのよ?」
「大丈夫。ちゃーんと考えてある」
「ふうん?」

もちろんハッタリじゃない。今回はちゃんと考えているんだ。めんどくさいけど、これも無茶振りされた任務のせいだ。ああ、早く解放されてちゃんとニートに成りたいものだ。

というわけでまたあの使えそうで使えないぶっ壊れスキルを使う。まったく、町を守るんならそう願えばいいはずなのに、守るっていうイメージがないんで苦労している。盗賊が押しよせてくるイメージはできても、守るイメージがわかない。どうしても暴力的になってしまう。たとえ何かに守らせても、ゴーレムくんのようにしっかり管理できないから誰か死んでしまうかもしれない。それはアウトだ。

ということでやはりぼくが何かになるしかないが、働くのはいやだ。そこだけはハッキリさせておく。動かないで出来ることしか興味がない。ということでぼくの願いはいまのところひとつだけだ。

「えーと、ゴースト使いにしてください!」

「一日一回願いがかなうスキル」にぼくは祈った。ぼくは光に包まれた。でもそれっきり何も起こらなかった。えーと…。

「えっとー、ここはどこですか?」

部屋の隅に誰かいた。小さな女の子だ。なんでここにこんな子が?

「きみ誰?」
「あたしはネクロ」
「なんでここに?」
「あたしはあんたのしもべ、っていきなりそう言われた」
「誰に?」
「世界のことわりに決まっている」

なんじゃそりゃ?まあとにかくぼくの召使らしい。だが必要ない帰ってもらおう。

「話はわかった。じゃ帰って」
「はい?」
「おうちに帰って。お母さん、心配しているよ?」
「いやいやいや、あんたおかしいよ。あんたに仕えろって言われてんのよ、世界のことわりに」
「ことわれば?」
「アホなこと言ってんじゃないわよ!意味わかんない」

ふうむ、ちょっと困った問題だな。あれ?こいつもしかしてゴーストなのか?

「ねえ、ちょっと聞くけどきみ、ゴースト?」
「ちがうわよ」

そうじゃないって?じゃなんだこいつは?

「じゃあ迷子かな?もういい加減帰らないと児童相談所呼びますよ」
「児童相談所って何よ?」

めんどくせえなあ。

「もういいから帰って。こんなとこ誰かに見られたらヤバいんだよ。誘拐してきたわけじゃないと言えなくもないが、基本的にこれは「未成年者略取」だ。刑法だ。三か月以上七年以内の懲役だ」
「意味わかんないっていってるでしょ」
「じゃあきみは何なの!」

女の子はすっくと立ちあがった。まだ八歳ぐらいか?

「さっきから言ってるでしょ?あたしはネクロ。ネクロマンサーよ。霊界の王、屍者を統べる者よ!」

なんかとんでもないの来ちゃった。こんなやつ召喚した覚えないぞ?

「き、きみ何しに来たの?ぼくは呼んだ覚えないんだけど」
「何言ってるの!あんたがゴースト使いになったんでしょ?まったく迷惑な話よね!なんなのよ」

勝手に怒っている。

「それときみとどういう関係があるんだよ」
「はあ、これだから素人は」

素人で悪かったな。

「いい?ゴースト使いはそもそも黒魔術に該当するの。天上界では禁忌の技」

あ、そうなんだ。ダメじゃん、天国契約違反なのか。

「まあそうガッカリすることもないわ。何事も裏がある」

八歳のガキにものごとの裏って言われる違和感。

「ゴーストを統べるあたし、ネクロマンサーを従えさせれば禁忌に触れない。何しろあたしは神なのだからね。あたしを使ってゴーストに命令すれば禁忌には触れないってことよ」
「それって悪魔じゃないのか?黒魔術って悪魔の信仰なんだろ?」
「ちがうわよ!黒魔術信者はあたしの力を欲し、さまざまな契約を結ぶだけ。そもそもあたしと黒魔術は関係ないわ。信仰の対象でもないし。あいつらはあくまで崇めるのは悪魔。あれ?あくまで悪魔?おかしくない、これ?ギャハハハハハハ」

またおバカを呼び出しちまった…。

「まあいいや。禁忌に触れないんっだったらね。でも何ができるんだよ?」

少女はその大げさなマントをたくし上げた。こいつ、マントの下に細長い銀色の板を何枚もくくりつけている。

「これ?これはゴーストを呼び出し一時的に疑似魂を与える術符、これで自由にゴーストを使役できる。使役できるゴーストは『オブビリオン』っていうのよ。ってか、あんたこれでなにする気?疫病ばらまくならうってつけね。あと恐怖や絶望で混乱に導くことも…幽霊なんだから得意だわ。呪うのもありかも。全部でもいいわね。そう、カオスよ!なんならゾンビ化させて終末盆踊りでもさせる?

えらいもん呼び出しちゃった気がする。

「疫病や終末盆踊りは必要ない。ぼくが欲しいのは情報だ」
「情報?なにそれおいしいの?」
「情報は食べ物じゃない。事象のデータだ。万物の動き、そして思い、さ」
「難しそうね。それよりみんなゾンビにしちゃった方が楽しくない?」
「楽しくねえよ。アンデッドが跋扈する世界ってもう終わってるからな」

あぶねえやつだな。こいつは気をつけよう。

「じゃあ何やれってわけ?」
「やってほしいことは、ゴーストに人間たちの動きを探らせる。見えないゴーストならうってつけだろ?
「何かつまんないわね。地味で」
「出来るの?」
「出来るけど、そんな情報とかいうの集めてどうすんのさ」

ネクロと名乗る女の子は今は椅子に座って鼻くそをほじっている。ずいぶんくつろいでいる様子だ。

「お金の流れを追うのさ」
「金の流れ?」
「この町にやがて盗賊が来る。金を狙ってね。お金の場所がわかってればわなを仕掛けられるからさ」
「やれやれ、何を言うかと思ったら、そんな食べられないもののためにあたしの大事な『オブビリオン』たちを使うの?まったく人間って…」

なんか超生意気。

「いいか?農産物は運ぶのにかさばる。そして保存が大変だ。盗賊や軍が狙うのは金だ。どこにでも持って行ける。どこにでも、ね」
「つまりゴーストと一緒…」
「ああ、ゴーストと金は腐らないってこと」

そうして三日が過ぎていった…。




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