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家を追い出されました
しおりを挟む順風満帆だったぼくのニート生活に終わりが来ました。実家に呼び戻されたのです。
うまくやりすぎたんです。税を文句も言わず出してくる。しかもその税となる作物はみな出来がいい。まあここでおかしいと思わなきゃただのバカです。だからその農作物もかなり質の悪いものを出しました。しかしそれでもこの世界では高品質であったのが、ぼくの誤算と言えば誤算でした。
父はただよろこんでいましたが、長男のアダムスがどうやら人をよこし調べたようです。
ぼくの村は取り上げられました。強欲な兄はさらにぼくの知識を奪おうとしましたが、こればっかりはどうにもならないのです。だれがおしえてやるもんですか、です。
だもんでぼくは家を追い出されました。昨日まで優雅なニートライフを送っていたぼくは、本当にニート、いやホームレスになってしまいました。まあそれでもいいけど、でもこれからどうしよう?
ということで一日一回何でも願いが叶う『一日一願』のスキルを使います。まず、そうだな…馬、かな。
なんでも願いが叶うスキルだから、いっそのこと王さまにでもなればいいって気がするけど、そうなりゃ知らない苦労があるのは確実です。村の経営だってあんなに大変だったんだから、国なんかもっと大変でしょう?そんなのはぼくの安心安全なニートライフには必要ありません。
ただ働かないで暮らしていく。それが望みなんですから。
そういえば、みなさんも不思議に思っていませんか?ぼくが何でその『一日一願』のスキルでそう願わないか、を。いやマジあるんですよ。そう願ったことが。どうなったと思いますか?願った途端、ぼくは監獄にいました。そりゃ囚人だったら何もしなくていいでしょうけど、それはあんまりです。ニートとは労働や勉強をしないことであって、自由を奪われることじゃないのですから。自由こそニートの証なんですからね。
まあ丸一日囚人やって、次の日取り消しを願いました。いやあ、いい経験させてもらいました。しかし死刑囚じゃあなくてよかった。またあの女神さまと再会するところでした。そうなりゃまたあのめんどくさいやり取りをしなくちゃならない。ニートやるのも楽じゃないです。
ということで馬。この世界で一般的な移動手段。ぼくは全財産をそいつにくくりつけ、引っ張って歩きます。え?なぜ乗らないかって?馬になんか乗れませんからね、ぼくは。だいいち落っこちたら痛いじゃないですか。まあ、骨を折っても治せますけどね。
「さあ行こう、馬」
馬に馬という名をつけました。そういえば動物虐めたら天国には行けないんだった。かわいがらなくっちゃね。
さあこれからどうしよう。当面は何とかなるけれど、生きていくにはちょっと厳しい。やっぱり働かなきゃあならないのかな?それだけはいやだなあ。どこかの貴族の婿養子にでもなるか?叶わない願いじゃないけど、なんだかそれもいやだなあ。
とぼとぼと歩いていると、な、なにやら生臭いにおいと焦げ臭いにおい。なんだこれ?
小さなその丘に登ってみると、初めて見ました!戦争です!いえ、戦場です。なんでこんなところでって思いましたが、それはいろいろな事情があるってことですからね。とにかく逃げないと、とぼくのニート能力がぼくにそう囁きました。が、それはちょっと遅かったようです。探知能力低すぎです。
「おやあ、こんなところに残党がいたぜ?」
数人の兵士のようです。どこの兵かは知りませんが、ぼくは関係ないです。
「あの、勘違いしているようなので言いますけど、ぼくは兵士じゃないんですよ。通りがかりの旅人ですから」
「なにかガキが言ってるぜ?」
ひゃっひゃっひゃ、とバカそうな笑いをみんなした。これだから農民兵は。ちゃんとした判断は知識と教養なくしてあり得ないってことをこんなところで証明しやがって。
「ぼくはオルデリス準男爵家の三男でデリアズナル・ローゲン・オルデリスといいます。わけあって今は旅の途中なんですけど、見逃しては貰えませんか?」
「見逃してくれってよ?バカかこいつ。見れば身なりもまあまあじゃねえか。なあ、俺たちは貧乏なんだ。ちょいと恵んでくれても、バチはあたらねえぜ?」
それって盗賊のセリフだけど、兵士転じて盗賊?いかした設定だなー。きみたちに軍規ってものはないのかね?
「そういうことすると罰せられますよ?」
「まあ確かにそうだ。バレればね」
つまりバレなきゃ何やってもいいと?それは強く同意する。
「じゃあバレないように、ゴーレムくん、お願いします」
ステルスゴーレムはまだぼくのそばにいる。なんかいつまでも消えないのだ。まあもとから見えないんだけどね。
まああっという間だ。そりゃ見えない相手にどう戦えばいいって話だけどね。とにかく悪い兵隊は片付けた。殺してはいないけどね。気がつく前にそっと離脱だ。なんか悪いことしているみたいだけど、ぼくは間違っちゃいないよね。
「なにしてんの、あんた!」
もういや。もう見つかってんじゃない。これならぼくをステルスにすりゃよかった。あ、馬で使っちゃったから今日はもう願いは無しか。
「えーとこれはいろいろと事情が…」
「あんたがやっつけたの?そいつら」
「え?まあそうだと言えばそうで、違うと言えば違うと…」
「意味わかんない」
「いやー、何と言いましょうか…」
「怪しいやつね」
「いえいえぼくはそんな怪しいものでは」
「否定するところが怪しい」
アホか!否定しなきゃまんま怪しい人決定じゃないか!なんなんだこいつ。
「うーん…ひっ!」
兵のひとりが目を覚ましたようだ。いきなりぼくの顔を見て恐怖に引きつった顔しやがった。ぼ、ぼくは何もしてないじゃないか!やったのはゴーレムくんでしょ!
「やっぱりあんたがやったんじゃない」
「あー何と言いますか…」
「とにかくお礼を言わせてもらうわ」
「はい?」
「あたしはラフレシア。リスタリア王国王宮騎士団の正騎士よ」
「はあ…」
どこかで聞いたな、王宮騎士団って…。まあぼくには関係ない。早くこんなところ退散しなくちゃね。そう思っているところにこいつの仲間らしいのがあつまってきちゃった。つまり逃げ遅れた。何やってんだ、ぼくのニート能力!
「ラフレシアさま、ご無事で?」
「ああ、大丈夫よ、みんな」
「はてこいつは?」
「ダルメシアの兵をやっつけてくれた。たった一人でね」
「ほう」
いやいやちがうから。ぼくじゃないから。
「ここらにはまだやつらが多く残っているようです。お戻りを」
「そうね。まああらかたは片付いたし、砦に戻ろうかな」
「それがよいかと。残党は王国騎士団の兵に任せるがいいでしょう」
「そうね。彼らにも活躍の場を与えないと、また無駄飯食いって非難されちゃうからね」
「いかにも」
あちゃー、話聞いてるだけで鼻につくまさに上級貴族って感じだ。こりゃ今期最大の関わっちゃなんない人たちベストワンだ。
「そうですかではさようなら」
さあおいとまおいとま。
「まちなさいよ、あんた」
ギク。
「どこ行こうってのよ」
「い、いや旅の途中ですので…」
「あんた名前は?あたしが名乗ったんだからあんたも名乗りなさいよ」
いやそれはあんたが勝手に名乗っただけだし、そりゃ礼儀上そうかもしれないけれど、ここは戦場のど真ん中で、そういう平時の常識っていかがなもんかなと…
「なにブツブツ言ってんのよ?」
「デリア…」
「はあ?聞こえない!」
「デリアです」
「デリア?あっそう。じゃあデリア、ついてらっしゃい」
「なんで?」
「なんでって、あたしがそう決めたからよ」
「か、勝手に決めるなよ」
そう言ったらほかの騎士が色めきだった。どうやら失礼なことらしい。まいったなあ。
「はあ?何口ごたえすんの?」
「い、いやそうじゃなく、ぼくにも都合が」
「どんな都合よ」
「だからこれから旅をしなきゃならない都合です」
「意味わかんない。いいから来なさいって!」
「どこへですか?」
「決まってるでしょ?砦よ。ルームスタン砦。あたしたち王宮騎士団が駐屯しているところよ」
そんなとこ行きたくねえ!
「お断りすると言ったら?」
「殺すわ。敵のスパイってことで。あんたが誰だかわかんない以上、このまま帰せるわけはない。それは理解できるわよね?」
「しっかり理解できました」
戦うか?どうせ破れかぶれだ。だがそれはなんか違う気がした。仮にもぼくはこのリスタリアの貴族の息子だ。勘当されちゃったけどね。あいてはぼくに一応礼はつくしてる。そう見えないけど。だからぼくが戦う理由はない。まあ戦うのはゴーレムくんだけどね。
「じゃあついてきなさい」
「はい」
仕方ない。ここは争いを避けなければ。ニート人生をこんなところで終わらせてはならないのだ。
「ちょっと、あんた歩く気?」
「え、ええ。馬に乗れないんで」
「呆れた。それでよく旅なんかできるわね。ますます怪しいわ」
「ぼくいま十三なんですよ?そういうの習いませんでした」
「あたしも十三よ。なんてヘタレなのかしら、あんた」
うわああ、十三って、同い年かあー。そんな若いのに戦争かー。大変な世界なんだな、ここって。貧乏弱小貴族だったうちは、そういう世界とは無縁だったんだね。あーそういえばジョアン兄さんは王立騎士団に入ったんだよな。元気かな、兄さん。
「乗んなさい」
「え?」
「いいから乗れって言ってんの!」
「どこに?」
「あたしの馬に乗んなさいって言ってんじゃないの!いやなの?」
「ぼくがですか?」
「あんたの他に誰がいるのよ」
「あー」
「もう、ホント愚図ね!ほら、手を出しなさいよ」
腕をつかまれ無理やり馬の背に乗せられた。なんかいい匂いがした。甲冑で気がつかなかったが、こいつ女の子だっていま気がついた。
話し方でわかるだろ、とみんなそう思うかもしれないが、あいにくぼくはこの世界の女の子と面と向かって話したことがない。前世では「超かったるいし―」とか「ちょっとマジムカつくんですけど」とか「なにそれウケる―」とかしかボキャブラリーを知らない子とばかり付き合っていたからね。仕方ない。
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「はい!」
こういう子ははじめてで、そして超苦手だって思いました。
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「ルームスタン砦にようこそ。あんたのことはデリアって呼ぶけど、いい?」
「どうぞ」
さっきからそう呼んでんじゃないか。
「じゃあこれからたっぷりと尋問させてもらうわね」
「マジっすか…」
ああ、やっぱ来るんじゃなかった。逃げっかな…。
「デリア!デリアじゃないか!おいっデリアズナル!」
はあ?ぼくの本名を呼ぶって…?
ジョアン兄さんがそこにいた。かっこいい騎士の姿で…。
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