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19 最強の用心棒

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「ねえジェノス、無理しなくていいんだよ?戦争してるなら部隊に帰らなくっちゃ」
「お気遣いは無用。いくさより恩義が重要です」

まったくおかしなことになった。魔族の戦士っていうヤツがぼくについてくる。

「もうその恩義っていいから。もうめんどくさいし」
「その…マティムさまはわたしがお嫌いで?」

そういういい方は卑怯だと思う。少なくてもあんたは魔族、ぼく人間族。お互い忌避すべき関係なんだろ!

「嫌いとかそういうことじゃなくて」
「嫌われてはいないのですね?」
「ま、まあそういう…」
「なら結構」

何が結構なんだ!結構じゃないよまったく。

「なあマティム、ヤバそうだぞ」

リエガがそう言った。もういったい何なんだ…あれ?ヤバそうな男たちが、いっぱいいた。しかも大勢。これって盗賊?だよね。

「これはこれはまたおかしなやつらだぜ」

そう言われても仕方ないけど、でもあんたたちに言われたくない。

「さあ、命置いてくか、金目のもんを…」

言い終わる前にそいつの首が落ちた。ジェノスだ。早い。そして強い。

「な、なんだこいつっ!」
「ひゃああああ」

ああ、そうだよねー。魔族の戦士だもんねー。そうなるよねー。あっという間にみな死体になった。どうすんのよ、これ!

「ふん、たわいない。これでよく戦いの場に…」
「あのね、ジェノスちゃん、こいつら盗賊って言って、ほとんど一般人なんだよ?兵士じゃないし、その…」
「ですがマティムさまに危害を加えようとしておりました」
「あのね、さまはいらない。マティムでいいから」
「はあ」

もうめんどくさいなあ。こういうのとはお早くお引き取りを願うしかないか…。

「いやー、助かった!超命拾いしたよ!もうほんと、恩に着るよー。って、ことできみの恩は返したってことで」

そうそう、さよなーら、ですよ。

「ほう?わたしの命がこいつら程度、だと?」
「きみがどれだけの魔族の戦士だかは知らない。でも命の重さは等しく重い。それは人間でも魔族でも、だ。そもそも命に重さなんてない。それは貴重でかけがえのないもの…切なく苦しい、そして愛おしいものなんだ」
「では戦場で散らす命は?」
「それこそ愛さ。誰かを守るため、人は自らを犠牲にする。そういう心を持っている」

ジェノスはわからない、と言った顔をしている。

「あなたはいったい何が言いたいのだ?戦場で散る命が愛?犠牲?魔族にそれがないと?」
「あるんですか?」
「あるに決まってるだろ!」

あるのか。ぼくはてっきり、魔族とは非常に徹し無慈悲で残虐なことも厭わない、超野蛮な生き物だと思ってた。

「それは…ぼくが悪かった。じつはぼくは何も知らないんです。許してください」
「はい?」

ジェノスは逆に目を見開きたじろいでしまった。

「きみを傷つけず、なんとかうまい具合に別れようと思ったぼくの間違いでした。正直言ってぼくは弱い。あんたに暴れられたら敵わない。だから怖いんです。わかったらここで別れてくれませんか?」
「ふうむ…」

伝わったかな?伝わったはずだ。リエガだってシュンとなってる。命の恩人って言われたってやっぱり魔族は魔族なんだ。

「わかってくれました?」
「わかった」

やったー!話せばわかるのね、魔族でも。

「よくわかった。お前が弱いということはな。だが腑に落ちんこともあるが、まあいいだろう。ではこれより俺、いやわたしジェノシウシスコルサイムは貴殿の従者となり貴殿をお守りしよう」
「はい?」

話通じてない。い、いや、通じてないどころかおかしなことに?従者ってなに?

「つまりそれって用心棒ってこと?すっげー、魔族の戦士の用心棒か、無敵ってやつだな」

何をおっしゃってるんですかリエガちゃん!なに認めちゃってんですか!

「い、いやそういうのは…」
「では参りましょう。行き先はどこへ?」
「ちょっと、マジで?」
「いいじゃん、マティム。ねえおじさんいくつ?」

ちょっとなに馴染んでんの!

「おじさん言うな。これでも二十二だ」
「おじさんじゃないか」
「おまえからしたらそうかもしれんが、世間的には若者で通る」

そう言って魔族の若者は胸を張った。



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